相続した実家が空き家のまま残っている。直せば貸せるのか、いくらかかるのか、そもそも直す価値があるのか。この記事は、そう迷っている空き家の所有者と、地方や郊外の古い戸建を投資対象として検討している方に向けて、費用の実額と判断の順番を公的データだけで組み立てたものです。国土交通省の調査では、リフォーム実施世帯の資金は平均170万円、中央値は70万円でした。数千万円の全面改修は例外であり、多くの人が実際に使っている金額はこの水準です。まず自分の家がどちらに近いのかを見極めるところから始めます。
この記事のポイント
- 空き家のリフォーム費用は、公的統計では平均170万円・中央値70万円。戸建に限ると平均172万円・中央値85万円です。
- 耐震・断熱工事は国が告示で単価を定めており、延床面積を掛けるだけで工事費の目安を自分で概算できます。
- 2026年は「住宅省エネ2026キャンペーン」の4事業とリフォーム促進税制が使えますが、所得税の控除は自分が住む家に限られます。
- 2025年4月1日の改正建築基準法により、木造2階建ての大規模な改修には建築確認手続きが必要になりました。
- 直す・貸す・売る・壊すは、税制の効き方がまったく違います。売却なら3,000万円特別控除、解体なら住宅用地特例の消滅が判断を左右します。
空き家のリフォーム費用は、まず「平均170万円・中央値70万円」から考える
空き家のリフォーム費用を知りたいとき、最初に見るべきは業者の相場表ではなく、国の統計です。国土交通省が令和8年7月に公表した「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」によると、リフォーム実施世帯のリフォーム資金は平均170万円、中央値70万円でした。平均と中央値がこれだけ離れているのは、一部の大規模改修が平均を押し上げているためです。半数の世帯は70万円以下で工事を終えています。
国交省調査に表れた実際のリフォーム資金
資金の内訳を見ると、自己資金が143万円で自己資金比率は84.2%です。つまり、多くの世帯はローンを組まずに手元資金で工事をしています。年度別の推移も、この工事が「借りてまでやる工事」ではないことを示しています。
| 年度 | リフォーム資金 総額 | うち自己資金 | 自己資金比率 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 201万円 | 161万円 | 80.3% |
| 令和4年度 | 206万円 | 153万円 | 74.1% |
| 令和5年度 | 137万円 | 112万円 | 81.9% |
| 令和6年度 | 154万円 | 132万円 | 85.5% |
| 令和7年度 | 170万円 | 143万円 | 84.2% |
出典:国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」(令和8年7月公表)。分譲住宅・既存(中古)住宅・リフォーム住宅の調査対象は三大都市圏です。
住宅の建て方別に見ると、一戸建ての令和7年度のリフォーム資金は平均172万円、中央値85万円です。集合住宅は平均166万円、中央値40万円でした。戸建の空き家を直す場合、まず100万円台後半を基準線として置くのが実態に近い出発点になります。
取得費とセットで見ると、費用の全体像が変わります
同じ調査で、既存(中古)戸建住宅を取得した世帯の購入資金は平均2,966万円、中央値2,650万円、自己資金比率38.1%でした。そして、中古戸建を取得した世帯の71.8%が購入前後にリフォームを実施しています。中古戸建の取得は、購入して終わりではなく、工事とセットで資金計画を立てるのが標準的だということです。
| 項目 | 平均値 | 中央値 | 自己資金比率 |
|---|---|---|---|
| 既存(中古)戸建住宅の購入資金 | 2,966万円 | 2,650万円 | 38.1% |
| 既存(中古)集合住宅の購入資金 | 3,321万円 | 2,750万円 | 40.0% |
| リフォーム資金(全体) | 170万円 | 70万円 | 84.2% |
| リフォーム資金(一戸建て) | 172万円 | 85万円 | 83.2% |
実際に行われている工事は、水回り・内装・屋根に集中しています
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月公表)によると、最近5年間にリフォームを行った空き家所有世帯は21.5%にとどまります。そして実施した工事の内容は、次のように偏っています。
| 工事内容 | 実施割合(複数回答) |
|---|---|
| 台所、トイレ、風呂、洗面所の改修工事 | 43.6% |
| 天井・壁・床などの内装工事 | 39.4% |
| 屋根の葺き替え工事、防水改修工事 | 32.6% |
| 外壁改修工事 | 31.1% |
| 給湯設備等の改修、更新工事 | 29.5% |
| バリアフリー化工事 | 8.0% |
| 増築や居室等の間取り変更工事 | 7.6% |
| 窓などの断熱改修工事 | 6.8% |
| 耐震改修工事 | 3.4% |
断熱6.8%、耐震3.4%という数字は、実態として性能に手を入れている空き家がほとんどないことを意味します。裏を返せば、耐震と断熱まで踏み込むかどうかが、費用が100万円台で収まるか500万円を超えるかの分岐点になります。浴室とトイレを分けるような水回りの工事について、工法の選び方と費用の考え方は風呂とトイレを分ける工事の方法と費用の目安で整理しています。
部位別の単価表で概算する|国が告示で定める「標準的な工事費用相当額」
見積りを取る前に自分で概算したいなら、国が税制上の計算に使うために告示で定めている「標準的な工事費用相当額」が使えます。これは実際にかかった額ではなく、国が定めた単価に面積や台数を掛けて算出する金額です。減税額の計算に使う数字ですが、工事規模の当たりをつける物差しとしても有効です。
耐震改修の単価(平成21年国土交通省告示第383号)
| 改修工事の内容 | 単位あたりの金額 | 単位 |
|---|---|---|
| 木造住宅の基礎に係る耐震改修 | 15,400円 | 家屋の建築面積(㎡) |
| 木造住宅の壁に係る耐震改修 | 22,500円 | 家屋の床面積(㎡) |
| 木造住宅の屋根に係る耐震改修 | 19,300円 | 施工面積(㎡) |
| 木造住宅の基礎・壁・屋根以外の耐震改修 | 33,000円 | 家屋の床面積(㎡) |
| 木造以外の住宅の壁に係る耐震改修 | 75,500円 | 家屋の床面積(㎡) |
| 木造以外の住宅の柱巻補強工事 | 1,434,500円 | 箇所数 |
| 木造以外の住宅の免震工事 | 591,500円 | 箇所数 |
出典:国土交通省「耐震改修に係る所得税額の特例控除」(適用期限:令和10年12月31日)。
断熱・省エネ改修の単価(平成21年経産省・国交省告示第4号)
| 改修工事の内容 | 単位あたりの金額 | 単位 |
|---|---|---|
| ガラスの交換(1〜8地域) | 6,300円 | 床面積(㎡)×窓の改修割合 |
| 内窓の新設(4・5・6・7地域) | 8,100円 | 床面積(㎡)×窓の改修割合 |
| 内窓の新設又は交換(1・2・3地域) | 11,300円 | 床面積(㎡)×窓の改修割合 |
| サッシ及びガラスの交換(5・6・7地域) | 15,000円 | 床面積(㎡)×窓の改修割合 |
| 壁の断熱性を高める工事 | 19,400円 | 当該部分の床面積(㎡) |
| 天井等の断熱性を高める工事 | 2,700円 | 当該部分の床面積(㎡) |
| 床等の断熱性を高める工事(4〜7地域) | 4,600円 | 当該部分の床面積(㎡) |
| 潜熱回収型給湯器の設置工事 | 49,700円 | 台 |
| ヒートポンプ式電気給湯器の設置工事 | 412,200円 | 台 |
| エアコンディショナーの設置工事 | 134,400円 | 台 |
| 太陽光発電設備の設置工事 | 425,500円 | kW |
出典:国土交通省「省エネ改修に係る所得税額の特例控除」(令和7年1月1日以降に工事を完了し居住する場合)。地域区分は平成28年国土交通省告示第265号別表第10によります。
延床100㎡の家で概算を組み立てる手順
木造2階建て、延床100㎡(建築面積50㎡)の家を想定して、告示単価を積み上げてみます。断熱の単価に掛けるのは「当該部分の床面積」なので、ここでは家全体に手を入れた場合の上限側の数字として、いずれも100㎡で計算します。天井や床だけを1階分に絞れば、その分だけ金額は下がります。
- 壁の耐震改修:22,500円 × 床面積100㎡ = 225万円
- 内窓の新設(全ての窓を改修=割合1.0):8,100円 × 100㎡ = 81万円
- 壁の断熱:19,400円 × 100㎡ = 194万円
- 天井の断熱:2,700円 × 100㎡ = 27万円
- 床の断熱:4,600円 × 100㎡ = 46万円
- 断熱小計 = 348万円
耐震と断熱を家全体に施すと、告示単価ベースで約573万円という水準になります。国土交通省の「住まいの耐震化」では、築50年・2階建て・延べ面積約100㎡の木造住宅の耐震改修で224万円ほどかかるというモデルケースが示されており、上記の耐震225万円とほぼ一致します。告示単価は現実からかけ離れた数字ではない、という確認ができます。
ただし、この573万円には水回りと内装が含まれていません。告示単価が定めているのは耐震と省エネの部位だけです。実際の工事では、ここに台所・浴室・トイレ・洗面と内装が乗ります。性能に手を入れると100万円台の工事が一気に500万円超へ跳ね上がるのは、この構造によるものです。
【計算例】築50年・木造2階建て100㎡を再生した場合の利回り
収入側にも公的な数字を置きます。総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、民営借家(木造)の1か月当たり家賃は54,409円です(民営借家・非木造は68,548円、借家全体では59,656円)。年間では652,908円になります。
総投資額と表面利回り・実質利回りの関係
家賃を54,409円/月で固定し、総投資額(取得費+工事費+諸費用)を動かすと、利回りは次のように変わります。実質利回りは、管理費・修繕・固定資産税・保険などの年間経費を家賃収入の20%と仮定して算出した参考値です。
| 総投資額 | 年間家賃収入 | 表面利回り | 実質利回り(経費20%と仮定) |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 652,908円 | 13.1% | 10.4% |
| 800万円 | 652,908円 | 8.2% | 6.5% |
| 1,000万円 | 652,908円 | 6.5% | 5.2% |
| 1,500万円 | 652,908円 | 4.4% | 3.5% |
| 2,000万円 | 652,908円 | 3.3% | 2.6% |
| 3,000万円 | 652,908円 | 2.2% | 1.7% |
通しのシミュレーション
取得費300万円(空き家バンク等での低廉な取得を想定)、工事費570万円(前章の告示単価ベースの耐震+断熱)、諸費用60万円(仲介手数料・登記費用・不動産取得税等の仮置き)とすると、総投資額は930万円です。
- 年間家賃収入:54,409円 × 12か月 = 652,908円
- 表面利回り:652,908円 ÷ 930万円 = 7.0%
- 年間経費(家賃の20%と仮定):130,582円
- 実質利回り:522,326円 ÷ 930万円 = 5.6%
- 投資回収年数:930万円 ÷ 522,326円 = 約17.8年
ここから逆算すると、工事費の上限が見えてきます。仮に表面利回り8%を確保したいなら、総投資額は652,908円 ÷ 0.08 = 約816万円が上限です。取得費300万円と諸費用60万円を差し引くと、かけられる工事費は約456万円になります。前章で積み上げた573万円は、この線を超えています。耐震と断熱をフルに施すか、部位を絞るかの判断は、ここで決まります。
なお、家賃54,409円は全国の民営借家(木造)の平均値です。実際の想定家賃は、現地の募集事例に置き換えたうえで計算してください。地方では3万円台、都市部の近郊では7万円を超えることもあり、この1つの変数で結論が反転します。
2026年に使える補助金と減税|住宅省エネ2026キャンペーンとリフォーム促進税制
2026年時点で個人が直接メリットを受けられる制度は、大きく補助金(住宅省エネ2026キャンペーン)と減税(リフォーム促進税制)の2つです。まず補助金から見ます。
住宅省エネ2026キャンペーンの4事業
国土交通省・経済産業省・環境省は令和7年11月28日に、住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案の閣議決定を発表しました。リフォーム向けの補助上限は次のとおりです。
| 事業名 | 対象・条件 | 補助上限 |
|---|---|---|
| みらいエコ住宅2026事業 | 平成4年基準未満 → 平成28年基準相当に改修 | 100万円/戸 |
| 平成11年基準未満 → 平成28年基準相当に改修 | 80万円/戸 | |
| 平成4年基準未満 → 平成11年基準相当に改修 | 50万円/戸 | |
| 平成11年基準未満 → 平成11年基準相当に改修 | 40万円/戸 | |
| 先進的窓リノベ2026事業 | 高性能な窓の断熱改修(環境省・予算1,125億円) | 100万円/戸 |
| 給湯省エネ2026事業 | 高効率給湯器の導入(経済産業省・予算570億円) | 戸建は2台分、共同住宅は1台分 |
| 賃貸集合給湯省エネ2026事業 | 賃貸集合住宅の小型省エネ型給湯器(予算35億円) | 5万円/台(追焚きなし)・7万円/台(追焚きあり) |
出典:国土交通省「住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定」(令和7年11月28日)、住宅省エネ2026キャンペーン。
申請にあたって押さえておきたい点が3つあります。第一に、申請は所有者本人ではなく、登録された住宅省エネ支援事業者が代行します。工事を依頼する会社が登録事業者でなければ、そもそも補助を受けられません。第二に、交付申請の受付は遅くとも2026年12月31日までとされていますが、予算上限に達した時点で終了します。公式サイトでは事業ごとの予算執行状況が日次で公表されており、2026年8月6日時点では、みらいエコ住宅2026(リフォーム)が2%、先進的窓リノベ2026が16%、給湯省エネ2026が35%でした。第三に、工事契約の前に事業者に登録の有無と申請可否を確認しておくことです。
「空き家再生等推進事業」は個人が直接申請する制度ではありません
空き家の補助金を調べると、国土交通省の「空き家再生等推進事業」や空き家対策総合支援事業がよく紹介されます。ただしこれらは、市区町村などが事業主体となる社会資本整備総合交付金等の枠組みで、所有者が国に直接申請するものではありません。除却事業タイプでは除却工事費と損失補償費の8/10が交付対象限度額とされ、負担割合は国費2/5・地方公共団体2/5・事業主体1/5です。活用事業タイプで民間・個人に補助する場合は、地域コミュニティの維持再生に資する用途で10年以上活用することが条件になります。使えるかどうかは、その市区町村が制度を設けているかで決まります。まずは物件所在地の自治体窓口に確認するのが先です。
リフォーム促進税制(所得税・固定資産税)
減税側は、令和8年度税制改正で延長と要件緩和が行われました。国土交通省の「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)によると、所得税の特例措置は令和8年1月1日から令和10年12月31日まで3年間延長、固定資産税の特例措置は令和8年4月1日から令和13年3月31日まで5年間延長され、対象となる住宅の床面積要件の下限が50㎡から40㎡へ緩和されました。空き家に多い小規模な戸建が対象に入りやすくなった、という意味を持ちます。
| 対象工事 | 対象工事限度額 | 最大控除額(所得税) | 固定資産税の軽減 |
|---|---|---|---|
| 耐震 | 250万円 | 25万円 | 1/2 |
| バリアフリー | 200万円 | 20万円 | 2/3 |
| 省エネ | 250万円(太陽光併設350万円) | 25万円(35万円) | 2/3 |
| 三世代同居 | 250万円 | 25万円 | 対象外 |
| 長期優良住宅化(耐震+省エネ+耐久性) | 500万円(600万円) | 50万円(60万円) | 1/3 |
| 長期優良住宅化(耐震or省エネ+耐久性) | 250万円(350万円) | 25万円(35万円) | 1/3 |
| 子育て | 250万円 | 25万円 | 対象外 |
投資目的では所得税の控除が使えません
ここが最も誤解されやすい点です。耐震改修に係る所得税額の特例控除は「減税申請者が主として居住の用に供する家屋」、省エネ改修に係る特例控除は「減税申請者が所有し、かつ主として居住の用に供する家屋」であることが要件です。賃貸に出す目的で改修した空き家は、いずれの控除の対象にもなりません。省エネ改修ではさらに、標準的な工事費用相当額から補助金等を差し引いた額が50万円を超えること、床面積が登記簿表示上40㎡を超えること、合計所得金額が2,000万円以下であることなども求められます。
また、補助金の交付を受けた場合は、標準的な工事費用相当額から補助金の額を差し引いた後の金額が控除の対象です。補助金と減税は「併用できるが、二重取りにはならない」という関係になります。控除額の早見表と申告手順はリフォーム減税の控除額早見表と申告手順で整理していますので、確定申告の準備段階で確認してください。
2025年4月の改正建築基準法で、フルリノベの手続きが変わりました
空き家の全面改修を検討している方が、2026年時点で最も見落としやすいのがこの変更です。令和7年(2025年)4月1日施行の改正建築基準法により、審査省略制度(いわゆる4号特例)の対象が「平屋かつ延べ面積200㎡以下」に縮小されました。これにより、木造2階建ての一戸建て住宅は「旧4号建築物」から「新2号建築物」へ移り、大規模の修繕・大規模の模様替を行う場合に建築確認手続きが必要になりました。
「大規模の修繕・模様替」とは何を指すのか
建築基準法でいう大規模の修繕・模様替とは、主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)の1種以上について行う過半の修繕・模様替を指します。過半の判断は主要構造部ごとに行い、壁は総面積に占める割合、柱と梁は総本数に占める割合、床と屋根は総水平投影面積に占める割合、階段はその階ごとの総数に占める割合で判断します。
建築確認が必要な工事/必要でない工事
国土交通省住宅局は「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」で、具体的な線引きを示しています。判断の要点をまとめました。
| 改修箇所 | 建築確認が必要になる例 | 建築確認が不要な例 |
|---|---|---|
| 屋根 | 改修範囲が垂木にまで及び、改修面積が総水平投影面積の過半となる場合 | 屋根ふき材のみの改修/既存屋根に新しい屋根をかぶせるカバー工法 |
| 外壁 | 改修範囲が壁を構成する主要な材にまで及び、改修面積が総面積の過半となる場合 | 既存外壁に新しい仕上材をかぶせる工法による改修 |
| 床(最下階の床を除く) | 改修範囲が根太にまで及び、改修面積が総水平投影面積の過半となる場合 | 既存の床の上に新しい仕上げ材を被せる改修 |
| 階段 | 階段の過半を架け替える場合 | 過半に至らない段数の改修/既存階段の上に新しい仕上げ材を被せる改修 |
| 水回り・バリアフリー | 該当なし | キッチン・トイレ・浴室等の水回りのみのリフォーム、手すりやスロープの設置 |
出典:国土交通省住宅局「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」(令和7年2月21日時点)。実際の計画で判断がつかない場合は特定行政庁への相談が必要です。
見積りを取る前に確認しておくこと
この線引きは、費用と工期の両方に効いてきます。スケルトンに近い改修を想定していた場合、確認申請の図書作成費用と審査期間が別途必要になります。逆に、カバー工法や仕上げ材の上張りで性能を確保できるなら、手続きを回避しながら住宅の状態を改善できます。設計者に「この工事は大規模の修繕・模様替に該当するか」を最初に確認することが、費用のブレを抑える一番の近道です。なお、建築確認手続きが不要な場合でも、改修後の建築物は建築基準法の規定に適合している必要があります。
直す・貸す・売る・壊すを同じ表で比べる
空き家の判断は、工事費だけでは決まりません。選択肢ごとに効く税制がまったく違うためです。同じ物件でも、貸すなら減価償却、売るなら3,000万円特別控除、壊すなら住宅用地特例の消滅というように、金額を左右する要素が入れ替わります。
| 選択肢 | 初期費用 | 想定収入 | 効く税制 | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| 直して貸す | 工事費(告示単価ベースで耐震+断熱なら約573万円、水回り中心なら100万円台) | 民営借家(木造)平均で月54,409円 | 減価償却費・修繕費の必要経費算入。所得税のリフォーム減税は適用外 | 借り手が付かない(賃貸・売却の課題2位が「借り手・買い手の少なさ」40.3%) |
| 直さず貸す | 最小限の清掃・残置物処分 | 相場より低い家賃 | 同上 | 入居後の設備故障・修繕負担、賃借人との紛争 |
| 売る | 解体費・測量費・仲介手数料 | 売却代金(一時) | 空き家3,000万円特別控除/低未利用土地100万円控除 | 適用要件を1つでも外すと課税額が大きく変わる |
| 壊して更地にする | 解体費 | 駐車場等への転用収入、または売却 | 住宅用地特例(課税標準1/6)が外れる | 固定資産税の負担増、再建築不可なら建て直せない |
解体を選ぶ場合の費用感は、家屋の解体費用の相場と坪単価で構造別に整理しています。
売る場合|空き家3,000万円特別控除の要件と期限
国税庁のタックスアンサーNo.3306によると、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象です。主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続から譲渡まで事業・貸付・居住の用に供されていないこと
- 譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに、一定の耐震基準を満たすこととなったこと、または家屋の全部の取壊し等を行ったこと
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、相続人が3人以上の場合は控除額が2,000万円になること
「相続から譲渡まで貸付けの用に供されていないこと」という要件は特に重要です。いったん賃貸に出すと、この控除は使えなくなります。直して貸すか、売るかの判断は、この一点で不可逆になる可能性があります。
【計算例】売却の手残り比較
長期譲渡所得の税率は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)です。取得費が不明な場合は譲渡価額の5%を概算取得費として計算できます。
ケース1:空き家3,000万円特別控除を使う場合(譲渡価額2,000万円、概算取得費100万円、譲渡費用70万円)
- 譲渡益:2,000万円 - 100万円 - 70万円 = 1,830万円
- 控除なし:1,830万円 × 20.315% = 約371.8万円の税負担
- 控除あり:3,000万円控除により課税譲渡所得0円 → 税額0円
- 差額:約371.8万円
ケース2:低未利用土地100万円控除を使う場合(譲渡価額500万円、概算取得費25万円、解体費等の譲渡費用80万円)
- 譲渡益:500万円 - 25万円 - 80万円 = 395万円
- 控除なし:395万円 × 20.315% = 約80.2万円
- 控除あり:(395万円 - 100万円)× 20.315% = 約59.9万円
- 差額:約20.3万円
低未利用土地等の100万円控除は、譲渡価額が市街化区域や用途地域設定区域内等で800万円以下、それ以外の都市計画区域内で500万円以下、所有期間5年超という条件があり、譲渡前の低未利用と譲渡後の利用について市区町村の確認が必要です。適用期限は令和8年度税制改正で令和10年12月31日まで3年間延長されました。
壊す場合|住宅用地特例が外れると何が起きるか
土地の固定資産税は、住宅用地特例により小規模住宅用地(200㎡以下の部分)で課税標準が1/6、一般住宅用地(200㎡を超える部分)で1/3に減額されています。建物を解体して更地にすると、この特例が適用されなくなり、土地の固定資産税負担は大きく増えます。
注意したいのは、解体しなくても特例を失う場合があることです。市区町村長から勧告を受けた特定空家等および管理不全空家等の敷地は、住宅用地特例の適用対象から除外されます。国土交通省の資料によると、特定空家等に対する措置の累計(平成27年5月〜令和5年3月)は勧告3,078件、命令382件、行政代執行180件です。空家等対策の推進に関する特別措置法は令和5年12月13日に改正法が施行され、管理不全空家等という区分が加わりました。「放置しておく」という選択肢のコストは、以前より確実に高くなっています。
空き家の実態を知らないまま、費用は読めません
なぜ空き家の費用は読みにくいのか。答えは、空き家という母集団そのものの偏りにあります。令和6年空き家所有者実態調査(N=1,381千戸)の数字を見ると、その理由がはっきりします。
1980年以前が約6割、腐朽・破損ありが約66%、相続取得が約58%
| 項目 | 内訳 |
|---|---|
| 取得方法 | 相続 約58%/新築・建て替え 約17%/既存住宅を購入 約14% |
| 建築時期 | 1950年以前 15.1%/1951〜1970年 21.7%/1971〜1980年 26.4%(1980年以前で約63%) |
| 構造 | 木造 85.4%/鉄筋コンクリート造 7.5%/鉄骨造 6.0% |
| 腐朽・破損の状態 | 構造上の不具合が生じていた 約20%/部分的に腐朽・破損 約43%/腐朽・破損なし 約34% |
| 最近5年間のリフォーム | 行った 21.5%/行っていない 約77% |
建築時期が1980年以前ということは、その多くが昭和56年(1981年)6月1日の新耐震基準より前に建てられているということです。耐震改修に係る所得税の特例控除が「昭和56年5月31日以前に建築されたもの」を対象にしているのは、まさにこの層を想定しているからです。国土交通省の令和8年度税制改正概要によれば、住宅ストック総戸数約5,360万戸のうち、耐震性なしが約700万戸(約13%)と推計されています。
賃貸・売却の課題1位は「住宅の傷み」43.3%
今後5年間程度のうちに賃貸または売却する意向を持つ世帯(N=251千世帯)が挙げた課題は、次のとおりです。
| 課題(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 住宅の傷み | 43.3% |
| 借り手・買い手の少なさ | 40.3% |
| 家財などの処理 | 37.4% |
| 設備や建具の古さ | 34.0% |
| リフォーム費用 | 21.4% |
| 地域の高齢化や人口減少 | 21.4% |
| 住宅の耐震性 | 16.0% |
| 住宅の断熱性 | 10.5% |
| 再建築不可(道路付けの悪さなど) | 7.6% |
1位の「住宅の傷み」は工事で解けます。しかし2位の「借り手・買い手の少なさ」と、7.6%の「再建築不可」は、いくら費用をかけても解けません。お金で解ける課題と、お金で解けない課題を分けること。これが空き家の判断で最初にやるべき作業です。「家財などの処理」が37.4%と3位に入っている点も見落とせません。残置物の処分は工事費とは別に発生し、量によっては数十万円規模になります。
現地で確認しておきたい項目
- 接道:建築基準法上の道路に2m以上接しているか。再建築不可なら出口は限定されます
- 基礎:ひび割れ、鉄筋の有無、無筋コンクリートかどうか
- 雨漏り:小屋裏の染み、天井のたわみ、屋根材のずれ
- シロアリ:土台・柱の食害、蟻道の有無
- 給排水:本管への接続、浄化槽か下水道か、配管の材質と経年
- 残置物:家財の量と処分費用の見積り
- 越境・境界:塀や樹木の越境、境界標の有無
物件情報の入手先としては、国土交通省が運営を支援する全国版空き家・空き地バンクがあります。令和8年6月末時点で参画自治体は1,146団体、市区町村ベースの参画率は全国平均65.0%、物件掲載件数は19,288件です。ただし掲載情報の更新頻度と詳細度は自治体によって差があるため、現地確認は欠かせません。
節税を目的にしない|中古木造の減価償却を計算してみる
空き家投資の説明で「節税になる」と語られることがありますが、数字を置いてみると効果の範囲がはっきりします。国税庁のタックスアンサーNo.5404によると、法定耐用年数の全部を経過した中古資産の耐用年数は法定耐用年数×20%で計算し、1年未満の端数は切り捨て、2年に満たない場合は2年とします。
簡便法での耐用年数と年間償却額
- 木造住宅の法定耐用年数:22年
- 築22年超の場合:22年 × 20% = 4.4年 → 端数切捨てで4年
- 建物価格を400万円とすると、定額法(耐用年数4年の償却率0.250)で年間100万円を4年間計上
年間100万円の償却費が計上できれば、所得税・住民税の課税所得はその分圧縮されます。しかし4年で償却は終わり、5年目以降は償却費がゼロになって課税所得が跳ね上がります。短期間に集中する費用計上であって、恒久的な節税ではありません。構造別の償却率や耐用年数の使い方は、マンションの減価償却の計算方法と償却率一覧でも整理しています。
フルリノベすると簡便法が使えなくなる場合があります
ここが実務上の落とし穴です。国税庁は、中古資産を取得して事業の用に供するために支出した資本的支出の額がその中古資産の取得価額の50%を超える場合には、簡便法による見積りができないとしています。さらに、資本的支出の額が再取得価額(同じ資産を新品で取得する場合の価額)の50%を超える場合は、法定耐用年数によることになります。
先ほどの例で言えば、建物400万円に対して工事費570万円をかけると、資本的支出は取得価額の50%を大きく超えます。「安く買って大きく直す」ほど、4年償却という前提は崩れます。節税を軸に組み立てた計画ほど、この点で見込みが外れやすくなります。判断の順番としては、まず賃料と工事費で事業として成立するかを確認し、税効果は後から確認する。この順序を逆にしないことが大切です。
まとめ|費用の根拠を一次情報に戻すと、判断は速くなります
空き家の再生は、社会課題への貢献と資産の活用が重なる領域です。だからこそ、感情や善意ではなく、数字で判断できる状態をつくることが最初の仕事になります。この記事で確認したことを、判断の順番として整理します。
- 実額を知る:リフォーム資金は平均170万円・中央値70万円、戸建では平均172万円・中央値85万円。数千万円は例外です
- 自分で概算する:告示の標準的な工事費用相当額に延床面積を掛ければ、耐震・断熱の工事規模はすぐに見積もれます
- 手続きを先に確認する:木造2階建ての大規模の修繕・模様替は、2025年4月以降、建築確認手続きの対象です
- 制度の対象者を確認する:補助金は登録事業者が申請し、所得税のリフォーム減税は自分が住む家に限られます
- お金で解けない課題を先に見る:借り手の少なさと再建築不可は、工事費では解決できません
- 選択肢を横並びで比べる:貸すと空き家3,000万円控除が使えなくなり、壊すと住宅用地特例が外れます
私たちINA&Associates株式会社は、不動産を「扱う商品」ではなく、所有者の時間と信用が積み重なった資産として捉えています。空き家についても、直すことを前提にした提案はしません。数字を並べたうえで、直す・貸す・売る・壊すのどれが所有者にとって最も納得できるかを一緒に確認する。それが私たちの仕事だと考えています。
よくある質問
空き家のリフォーム費用は結局いくら見ておけばよいですか
水回りと内装が中心なら100万円台後半、耐震と断熱まで踏み込むなら500万円超が目安です。国土交通省「令和7年度住宅市場動向調査」では、リフォーム実施世帯の資金は平均170万円・中央値70万円、一戸建てでは平均172万円・中央値85万円でした。一方、告示の標準的な工事費用相当額で延床100㎡の耐震(壁)と断熱(窓・壁・天井・床)をすべて行うと約573万円になります。この2つの間のどこに着地させるかが、判断の中身です。
補助金は個人でも申請できますか
いいえ、住宅省エネ2026キャンペーンの4事業は、登録された住宅省エネ支援事業者が所有者に代わって申請する仕組みです。所有者が自分で交付申請を行うことはできません。工事を依頼する会社が登録事業者かどうかを、契約前に確認してください。交付申請の受付は遅くとも2026年12月31日までですが、予算上限に達した時点で終了します。
全面リノベーションに建築確認は必要ですか
木造2階建ての戸建で、壁・柱・床・はり・屋根・階段のいずれか1種以上を過半にわたって修繕・模様替する場合は必要です。2025年4月1日施行の改正建築基準法により、木造2階建ては新2号建築物となりました。ただし、屋根ふき材のみの改修、外壁のカバー工法、床仕上げ材の上張り、キッチン・トイレ・浴室のみのリフォームは該当しません。判断がつかない場合は特定行政庁に相談してください。
直すより売ったほうがよい空き家はどんな空き家ですか
再建築不可の物件、想定家賃が地域相場で3万円台にとどまる物件、構造上の不具合が生じている物件です。再建築不可は工事費では解決できず、出口が限定されます。また、相続した空き家を売る場合は3,000万円特別控除が使える可能性がありますが、いったん賃貸に出すとこの控除は使えなくなります。貸す判断をする前に、売却時の手残りを一度計算しておくことをお勧めします。
空き家バンクの物件は投資対象として使えますか
情報源としては有効ですが、そのまま投資判断の材料にはなりません。全国版空き家・空き地バンクは令和8年6月末時点で参画自治体1,146団体、掲載件数19,288件と一定の規模がありますが、掲載情報の更新頻度や詳細度は自治体によって差があります。特に腐朽・破損の状態と接道条件は掲載情報だけでは判断できないため、現地調査と専門家の同行が前提になります。
引用・参考資料
- 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」(令和8年7月公表)
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月公表)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」
- 国土交通省「耐震改修に係る所得税額の特例控除」(平成21年国土交通省告示第383号)
- 国土交通省「省エネ改修に係る所得税額の特例控除」(平成21年経産省・国交省告示第4号)
- 国土交通省「令和8年度 国土交通省税制改正概要」(令和7年12月)
- 国土交通省・経済産業省・環境省「住宅の省エネ化への支援強化に関する予算案を閣議決定」(令和7年11月28日)
- 住宅省エネ2026キャンペーン(みらいエコ住宅2026事業・先進的窓リノベ2026事業・給湯省エネ2026事業・賃貸集合給湯省エネ2026事業)
- 国土交通省住宅局「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」(令和7年2月21日時点)
- 国土交通省「建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し」(令和7年4月1日施行)
- 国土交通省「固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置」
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(令和5年12月13日改正法施行)
- 国土交通省「住まいの耐震化 補助金・支援制度について」
- 国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」(令和8年6月末時点の実績)
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁タックスアンサー No.3226「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」
- 国税庁タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」
- 国土交通省「空き家再生等推進事業【除却事業タイプ】【活用事業タイプ】」
個別の物件について、直す・貸す・売る・壊すのどれが最も納得できる選択かを整理したい方は、INA&Associates株式会社までお気軽にご相談ください。取得から工事、賃貸運営、出口までを通して数字で確認するお手伝いをいたします。

