マンション売却の減価償却とは、売却時の取得費から差し引かれる建物の目減り分のことです。マイホームなら「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」、投資用なら毎年計上した減価償却費の累計額で計算します。RC造マンションの償却率は、マイホームが0.015、投資用が0.022です。
この記事は、これからマンションを売る方、あるいは売却後に確定申告を控えている方に向けて書いています。「自分の物件の償却率はいくつか」「取得費からいくら引かれるのか」「結局、税金はいくらになるのか」という3つの問いに、国税庁の資料を根拠として数字で答えます。投資用として保有している方に向けて、保有中の毎年の経費計上についても後半で整理しました。2026年8月時点の法令・公表資料に基づいています。
この記事のポイント
- RC造マンションの償却率は、マイホーム(非業務用)が0.015、投資用(事業用)が0.022です。同じ物件でも用途で数字が変わります。
- マイホームの算式には0.9を掛ける工程があり、投資用の算式にはありません。この違いだけで償却額は1割変わります。
- 減価償却が進むほど取得費が減り、譲渡所得が増えます。ただしマイホームなら3,000万円特別控除で課税譲渡所得が0円になるケースが多くあります。
- 購入時の契約書が見つからず概算取得費5%を使うと、記事内の条件では税額が約473万円増えました。契約書探しは最も費用対効果の高い作業です。
- 契約書に建物価格の記載がない中古マンションでも、国税庁「建物の標準的な建築価額表」を使えば建物取得価額を公的な方法で算定できます。
マンション売却で減価償却が問題になるのはどこか
マンション売却で減価償却が効いてくるのは、「取得費」を計算する場面ただ一つです。売った金額から差し引ける取得費が減価償却の分だけ小さくなり、その結果、課税される譲渡所得が大きくなります。ここを押さえておけば、減価償却の話は一気に見通しがよくなります。
もう一つ重要なのが、土地は減価償却しないという点です。土地は年月が経っても価値がすり減る資産とはみなされないため、購入時の金額がそのまま取得費に残ります。減るのは建物だけです。つまり、マンションの購入代金を土地分と建物分に分けるところから作業が始まります。
減価償却が譲渡所得税に効く仕組み
譲渡所得と取得費の関係は、次の2本の式で完結します。
- 譲渡所得=売却価格−取得費−譲渡費用(−特別控除額)
- 取得費=土地の購入代金+(建物の購入代金−減価償却費相当額)
国税庁も、建物の取得費は購入代金等の合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額であると明示しています(国税庁 No.3252 取得費となるもの)。長く持っていた物件ほど減価償却費相当額が積み上がるため、取得費は小さくなります。「買ったときより安く売ったのに税金がかかった」という相談が絶えないのは、この構造が知られていないためです。
そしてもう一つ、多くの方がつまずくのが、マイホームと投資用で計算式そのものが違うという点です。国税庁の用語では、マイホームなど事業に使っていない建物を「非業務用資産」、賃貸に出している建物を「業務用資産」と呼び分けます。次の章で、この2系統の数字を表にして並べます。
マンションの償却率一覧|マイホームと投資用で数字が違う
結論から書きます。マンション(RC造・SRC造)の償却率は、マイホームとして住んでいた場合が0.015、投資用として賃貸していた場合が0.022です。以下、構造別の一覧を2系統に分けて掲載します。
非業務用(マイホーム)の償却率表
マイホームや別荘など、事業に使っていなかった建物を売る場合に使う償却率です。非業務用の耐用年数は法定耐用年数の1.5倍(1年未満切捨て)で計算されており、RC造なら47年×1.5=70年に対応する償却率が0.015になります。
| 建物の構造 | 償却率 | 該当する建物の例 |
|---|---|---|
| 木造 | 0.031 | 木造アパート・木造戸建 |
| 木骨モルタル造 | 0.034 | 木造モルタル戸建 |
| (鉄骨)鉄筋コンクリート造 | 0.015 | 一般的な分譲マンション(RC造・SRC造) |
| 金属造①(骨格材の肉厚3mm以下) | 0.036 | 軽量鉄骨造の低層アパート |
| 金属造②(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 0.025 | 軽量鉄骨造の共同住宅 |
出典:国税庁「譲渡所得の内訳書【土地・建物用】令和7年分以降用」および国税庁「令和7年分 譲渡所得の申告のしかた」参考1
この表を使うときの注意点が3つあります。
- 算式は「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」です。0.9を掛け忘れる誤りが非常に多い箇所です(国税庁 No.3261 建物の取得費の計算)。
- 経過年数は6か月以上を1年に切り上げ、6か月未満は切り捨てます。取得から譲渡までの期間を、月単位ではなく年単位で丸めます。
- 償却費相当額は建物の取得価額の95%が限度です。築年数が非常に古くても、建物の取得費が0円になることはありません。
事業用(投資用)の法定耐用年数と定額法償却率表
賃貸に出している建物は、毎年の減価償却費を必要経費に計上します。使うのは法定耐用年数と、それに対応する定額法の償却率です。
| 建物の構造(住宅用) | 法定耐用年数 | 定額法償却率 |
|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 47年 | 0.022 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 38年 | 0.027 |
| 金属造(骨格材の肉厚4mm超) | 34年 | 0.030 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 | 0.053 |
| 木造・合成樹脂造 | 22年 | 0.046 |
| 木骨モルタル造 | 20年 | 0.050 |
建物本体とは別に、建物附属設備を区分して計上している場合は次の年数を使います。
| 建物附属設備 | 法定耐用年数 | 定額法償却率 |
|---|---|---|
| 給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 | 0.067 |
| 電気設備(その他のもの) | 15年 | 0.067 |
| 冷暖房設備(冷凍機の出力22kW以下) | 13年 | 0.077 |
| エレベーター | 17年 | 0.059 |
| エスカレーター | 15年 | 0.067 |
出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・別表第八(e-Gov法令検索)
なお、区分所有マンションを1戸単位で購入した場合、売買契約書に建物本体と設備の内訳が書かれていないことがほとんどです。その場合は建物全体を47年で償却するのが実務上の基本形になります。設備を分けて短い年数で償却したいときは、内訳の根拠資料が必要です。
償却方法についても補足します。建物は平成10年4月1日以後に取得したものから旧定額法または定額法のみとなり、定率法は使えません。建物附属設備と構築物は平成28年(2016年)4月1日以後に取得したものから定額法のみです(国税庁 No.2100 減価償却のあらまし)。「2016年4月以降は建物も定額法のみになった」という説明を見かけますが、建物についてはそれより18年早く定額法へ一本化されています。
マイホームと投資用の減価償却はここが違う
同じRC造マンションでも、用途によって扱いがここまで変わります。
| 比較軸 | 非業務用(マイホーム) | 事業用(投資用・賃貸) |
|---|---|---|
| 耐用年数(RC造) | 70年(47年×1.5、1年未満切捨て) | 47年 |
| 償却率(RC造) | 0.015 | 0.022 |
| 算式の0.9 | 掛ける | 掛けない |
| 毎年の経費計上 | できない(売却時にまとめて計算) | できる(不動産所得の必要経費) |
| 償却の限度 | 取得価額の95% | 備忘価額1円まで(平成19年4月1日以後取得) |
| 売却時の取得費への反映 | 償却費相当額を差し引く | 減価償却累計額を差し引く |
| 3,000万円特別控除 | 使える(要件を満たす場合) | 使えない |
マイホームは毎年の節税に使えない代わりに、償却のスピードが遅く、売却時に3,000万円特別控除という強力な武器があります。投資用は毎年の経費計上で所得を圧縮できる代わりに、売却時の取得費が早く目減りし、特別控除も使えません。どちらが有利かではなく、出口まで含めてどう設計するかという話です。
建物の取得価額をどう出すか|3ステップで確定させる
減価償却の出発点は建物の取得価額です。ここが決まらないと先に進めません。国税庁は次の順序で区分することを示しています。上から順に確認してください。
ステップ1:売買契約書に区分記載があるか確認する
最も確実な方法です。売買契約書や売買代金内訳書に「土地○○円、建物○○円」と書かれていれば、その金額をそのまま使います。分譲マンションの新築購入では記載されているケースが多いため、まずは購入時の書類一式を探すところから始めてください。
ステップ2:消費税額から逆算する
契約書に建物価格の記載がなくても、建物に課された消費税額が分かれば逆算できます。土地には消費税がかからないため、消費税は建物にのみ対応しているという性質を利用します。
建物の取得価額=その建物の消費税額×(1+消費税率)÷消費税率
| 購入時期 | 1+消費税率 | 消費税率 |
|---|---|---|
| 平成元年4月1日〜平成9年3月31日 | 1.03 | 0.03 |
| 平成9年4月1日〜平成26年3月31日 | 1.05 | 0.05 |
| 平成26年4月1日〜令和元年9月30日 | 1.08 | 0.08 |
| 令和元年10月1日〜 | 1.10 | 0.10 |
たとえば消費税額が120万円で購入が令和2年なら、120万円×1.10÷0.10=1,320万円が建物の取得価額です。ただし個人の売主から買った中古マンションは消費税が非課税のため、この方法は使えません。経過措置により旧税率が適用されている場合もあるため、契約書の日付と税率の整合も確認してください。
ステップ3:国税庁「建物の標準的な建築価額表」で算定する
契約書にも消費税額にも手がかりがない場合の、公的に認められた最後の方法がこれです。国土交通省「建築着工統計」の工事費予定額を床面積で割った1㎡あたり単価が、構造別・建築年別に公表されています。
| 建築年 | 木造・木骨モルタル造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 | 鉄筋コンクリート造 | 鉄骨造 |
|---|---|---|---|---|
| 平成20年 | 156.0 | 229.1 | 206.1 | 158.3 |
| 平成23年 | 156.8 | 238.4 | 197.0 | 158.9 |
| 平成25年 | 159.9 | 258.5 | 203.8 | 164.3 |
| 平成30年 | 168.5 | 304.2 | 263.1 | 214.1 |
| 令和元年 | 170.1 | 363.3 | 285.6 | 228.8 |
| 令和2年 | 172.0 | 279.2 | 276.9 | 230.2 |
| 令和3年 | 172.2 | 338.4 | 288.2 | 227.3 |
| 令和4年 | 176.2 | 434.4 | 277.5 | 241.5 |
| 令和5年 | 204.1 | 366.7 | 314.3 | 281.1 |
単位は千円/㎡。出典:国税庁「建物の標準的な建築価額表」(昭和34年から令和5年までの全年分が掲載されています)
使い方は購入形態で分かれます。
- 新築で購入した場合:建築年の建築単価×床面積=建物の取得価額
- 中古で購入した場合:建築年の建築単価×床面積−建築時から取得時までの経過年数に応じた償却費相当額=建物の取得価額
マンションの床面積は、専有部分の床面積で差し支えないとされています。登記簿や管理規約に記載された専有面積をそのまま使えます。算定した建物取得価額は、譲渡所得の内訳書の「□標準」欄にチェックを入れて申告します。
中古マンションの耐用年数早見表|築何年なら何年か
投資用として中古マンションを取得した場合、法定耐用年数47年をそのまま使うのではなく、簡便法で残りの耐用年数を計算します。算式は次のとおりです(国税庁 No.5404 中古資産の耐用年数)。
- 法定耐用年数の一部が経過:(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%
- 法定耐用年数の全部が経過:法定耐用年数×20%
- いずれも1年未満は切り捨て、算出結果が2年未満のときは2年
RC造マンション(法定耐用年数47年)を築年数別に当てはめると次のようになります。
| 取得時の築年数 | 簡便法による耐用年数 | 定額法償却率 |
|---|---|---|
| 築5年 | 43年 | 0.024 |
| 築10年 | 39年 | 0.026 |
| 築15年 | 35年 | 0.029 |
| 築20年 | 31年 | 0.033 |
| 築25年 | 27年 | 0.038 |
| 築30年 | 23年 | 0.044 |
| 築40年 | 15年 | 0.067 |
| 築47年超 | 9年 | 0.112 |
出典:国税庁 No.5404 中古資産の耐用年数および耐用年数省令 別表第八
築40年のRC造マンションが償却率0.067、つまり15年で償却しきる計算になる点は、投資判断上のポイントです。短期間で大きな減価償却費を計上できる一方、償却が終われば経費が消え、売却時の取得費も大きく目減りします。なお、取得後に取得価額の50%を超える資本的支出を行った場合は簡便法が使えず、法定耐用年数によることになります。
マンション売却の減価償却と税額シミュレーション
ここからは、実際の市場データを使って売却時の税額まで通しで計算します。前提は東日本レインズが公表した2026年6月度の首都圏中古マンション実績値です。成約価格5,208万円、専有面積63.02㎡、成約㎡単価82.64万円/㎡、成約件数4,241件、平均築年数27.48年でした(東日本レインズ 月例速報Market Watchサマリーレポート2026年6月度)。
共通の前提条件
- 平成23年(2011年)に新築RC造マンションを土地建物一括3,000万円で取得
- 専有面積63㎡、売買契約書に土地建物の内訳記載なし、消費税額も不明
- 2026年に5,208万円で売却、譲渡費用(仲介手数料・印紙代等)180万円
- 取得から譲渡までの経過年数15年
計算例1:マイホームとして住んでいた場合
ステップ1:建物と土地に分ける
契約書に内訳がないため、建物の標準的な建築価額表を使います。平成23年のRC造は197.0千円/㎡です。
- 建物の取得価額=19.70万円/㎡×63㎡=1,241.1万円
- 土地の取得価額=3,000万円−1,241.1万円=1,758.9万円
ステップ2:償却費相当額を計算する
非業務用の算式に当てはめます。RC造の償却率は0.015です。
- 償却費相当額=1,241.1万円×0.9×0.015×15年=251.3万円
建物取得価額1,241.1万円の95%は1,179.0万円ですから、限度内に収まっています。
ステップ3:取得費を確定する
- 建物の取得費=1,241.1万円−251.3万円=989.8万円
- 取得費合計=989.8万円+1,758.9万円(土地)=2,748.7万円
ステップ4:譲渡所得と税額を出す
- 譲渡所得=5,208万円−2,748.7万円−180万円=2,279.3万円
- 3,000万円特別控除を適用=2,279.3万円−3,000万円<0円 → 課税譲渡所得0円、所得税・住民税0円
減価償却で取得費が251.3万円も削られたにもかかわらず、税額は0円です。マイホーム売却では、減価償却の計算が最終的な税額に影響しないケースが相当数あります。ただし特別控除の適用を受けるには確定申告が要件で、申告しなければ2,279.3万円がそのまま課税対象になります。ここが最も見落とされやすい落とし穴です。
計算例2:投資用として賃貸していた場合
同じ物件を賃貸に出していた場合、数字は次のように変わります。事業用の算式には0.9を掛けず、償却率は0.022です。
- 減価償却累計額=1,241.1万円×0.022×15年=409.6万円
- 取得費=3,000万円−409.6万円=2,590.4万円
- 譲渡所得=5,208万円−2,590.4万円−180万円=2,437.6万円
- 所有期間は譲渡した年の1月1日時点で5年超のため長期譲渡所得
- 税額=2,437.6万円×20.315%=約495万円
計算例1と同じ物件、同じ売却価格でありながら、税額は0円と約495万円に分かれました。差を生んだのは減価償却額の違い(251.3万円と409.6万円)だけではなく、3,000万円特別控除を使えるかどうかです。投資用マンションの出口では、この控除がない前提で手残りを見積もる必要があります。10年超所有の軽減税率もマイホーム限定のため、投資用では使えません。
計算例3:購入時の契約書が見つからない場合
取得費が分からないときは、売った金額の5%を概算取得費として使えます(国税庁 No.3258 取得費が分からないとき)。計算例2と同じ投資用の前提で見てみます。
- 概算取得費=5,208万円×5%=260.4万円
- 譲渡所得=5,208万円−260.4万円−180万円=4,767.6万円
- 税額=4,767.6万円×20.315%=約968万円
計算例2の約495万円と比べ、約473万円の差が生じました。購入時の売買契約書1枚を探し出せるかどうかで、これだけの金額が動きます。契約書が見当たらない場合でも、住宅ローンの金銭消費貸借契約書、登記時の書類、通帳の振込記録、仲介会社に残る取引記録などから購入代金を立証できる可能性があります。売却のご相談をいただいた時点で、私たちがまず書類探しをお願いしているのはこのためです。
売却全体の手順や費用の内訳はマンション売却の全手順と費用・税金の解説記事で整理していますので、あわせてご確認ください。
譲渡所得の税率と特例|同じ売却益でも税額はここまで変わる
譲渡所得の税率は、所有期間と物件の用途で3段階に分かれます。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30%(+復興特別所得税0.63%) | 9% | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15%(+復興特別所得税0.315%) | 5% | 20.315% |
| 10年超軽減税率(マイホーム・6,000万円以下の部分) | 10年超 | 10%(+復興特別所得税0.21%) | 4% | 14.21% |
| 10年超軽減税率(マイホーム・6,000万円超の部分) | 10年超 | 15%(+復興特別所得税0.315%) | 5% | 20.315% |
所有期間は「売却した年の1月1日」で判定します。出典:国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算、No.3211 短期譲渡所得の税額の計算、No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
この「1月1日で判定」という点が、最も誤解の多い論点です。2021年3月に購入した物件を2026年5月に売っても、2026年1月1日時点では4年10か月しか経っておらず短期扱いになります。税率が39.63%と20.315%では倍近く違うため、年をまたぐだけで手残りが数百万円変わることがあります。売却時期のご相談を早めにいただきたい理由の一つです。
マイホームで使える主な特例
減価償却を丁寧に計算しても、特例を知らなければ税額の見積もりは大きくずれます。実務で使用頻度の高いものを整理します。
- 3,000万円特別控除:マイホームの譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、配偶者や直系血族など特別の関係がある人への売却でないこと、前年・前々年に同じ特例を受けていないことが主な要件です(国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例)。
- 10年超所有の軽減税率:3,000万円控除を差し引いた後の課税長期譲渡所得に、上表の軽減税率を適用します。3,000万円控除との併用が可能です。
- 概算取得費5%:取得費が不明なときの最後の手段です。計算例3のとおり税額が跳ね上がるため、あくまで最終手段と考えてください。
- 空き家の3,000万円特別控除:相続した被相続人の居住用家屋を売却する場合の特例です。耐震基準や譲渡価額の上限など要件が細かく、適用可否は個別確認が必要になります。
いずれの特例も確定申告が適用の条件です。譲渡所得の申告や必要書類については不動産売却の譲渡所得と確定申告の解説記事で手順を追って説明しています。
2027年からの変更点:防衛特別所得税の創設
令和8年度税制改正により防衛特別所得税(所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税は2.1%から1.1%へ引き下げられます。適用は令和9年(2027年)1月1日以後に生ずる所得からです(国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」令和8年5月)。
ここで押さえておきたいのは、内訳は変わるものの上乗せ分の合計は2.1%のままという点です。長期譲渡所得の20.315%、短期譲渡所得の39.63%という合計税率そのものは維持される見込みです。2027年以降の売却を検討している方も、税率の水準について過度に心配される必要はありません。
投資用マンションの保有中の減価償却|毎年の経費計上
ここからは、賃貸中のマンションを保有している方向けの内容です。売却時の話とは別に、毎年の確定申告で計上する減価償却費の計算を確認します。計算式は建物の取得価額×償却率とシンプルです。
新築RC造マンションの場合
建物2,000万円・設備500万円の内訳が判明している新築RC造マンションを取得した場合の年間償却費です。
- 建物:2,000万円×0.022=44万円/年(1〜47年目)
- 設備:500万円×0.067=33.5万円/年(1〜15年目)
- 1〜15年目の年間償却費:44万円+33.5万円=77.5万円
- 16年目以降:44万円(設備の償却が終わり建物分のみ)
16年目に年間33.5万円の経費が消える点は、収支計画に織り込んでおきたいところです。設備の償却終了と同時に、給湯器や空調などの更新が必要になる時期でもあります。
中古RC造マンションの場合
築10年・建物1,000万円・設備200万円のRC造マンションを取得した場合です。簡便法で耐用年数を求めます。
- 建物:(47−10)+10×0.2=39年 → 償却率0.026
- 設備:(15−10)+10×0.2=7年 → 償却率0.143
- 1〜7年目:1,000万円×0.026+200万円×0.143=26万円+28.6万円=54.6万円/年
- 8〜39年目:26万円/年(建物分のみ)
中古物件は耐用年数が短いぶん償却率が高く、保有初期の節税効果が大きくなります。ただし前半で見たとおり、償却が進むほど売却時の取得費は目減りします。減価償却と損益通算を使った節税戦略の記事で、年収別の向き不向きを整理しています。
修繕費か資本的支出かで扱いが変わる
保有中の支出は、その年の経費にできる「修繕費」と、資産計上して減価償却する「資本的支出」に分かれます。原状回復や維持管理のための支出は修繕費、建物の価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりする支出は資本的支出です。おおむね20万円未満の支出や、おおむね3年以内の周期で行われる修繕は修繕費として扱えます。
修繕費と資本的支出の線引きは、税務・法務・建築の知識が交差する典型的な論点です。不動産投資に必要な税務・法務・建築の総合力は別記事で整理していますが、判断に迷う支出は工事内容の分かる見積書を保存したうえで、税理士に確認することをおすすめします。前述のとおり、取得価額の50%を超える資本的支出は中古資産の簡便法にも影響します。
少額減価償却資産の特例|2026年に40万円未満へ拡充
青色申告者は、少額の減価償却資産を年間300万円を限度に、取得した年の必要経費として一度に計上できます。この特例は令和8年度税制改正で拡充され、対象となる取得価額の上限が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。あわせて適用期限が3年延長され、措置期間は令和10年度末(2029年3月31日)までとなっています。
| 項目 | 改正前 | 令和8年度税制改正後 |
|---|---|---|
| 対象となる取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 年間の限度額 | 300万円 | 300万円(据え置き) |
| 常時使用する従業員数 | 500人以下 | 400人以下 |
| 措置期間 | 令和8年3月31日まで | 令和10年度末(2029年3月31日)まで |
出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」三 法人課税(所得税についても同様の措置とされています)、中小企業庁「少額減価償却資産の特例を拡充しました」令和8年5月
個人事業主が適用を受けるときは、青色申告決算書の「減価償却費の計算」の摘要欄に「措法28の2」と記載します。白色申告者でも、10万円以上20万円未満の資産を3年間で均等償却する一括償却資産の制度は使えます(国税庁 No.2100 減価償却のあらまし)。
ただし、令和4年4月1日以後に取得した資産のうち、貸付け(主要な事業として行われるものを除きます)の用に供したものは、この特例と一括償却資産のいずれも対象外です。賃貸物件に設置する設備がどちらの扱いになるかは判断が分かれる場面があるため、金額の大きい設備投資では事前に税理士へご確認ください。
売却前に私たちがお客様と確認していること
マンション売却のご相談をいただいたとき、私たちが査定額の話より先にお願いしているのが購入時の書類探しです。計算例3で見たとおり、契約書があるかないかで税額が約473万円変わることがあります。査定額を50万円上げる交渉より、はるかに大きな金額です。
具体的には次の4点を確認します。
- 売買契約書と重要事項説明書:土地建物の内訳、消費税額、購入年月日を確認します。
- 登記事項証明書と管理規約:専有面積と建築年を確認します。建築価額表を使う場合の必須情報です。
- 居住実態と転居時期:3,000万円特別控除は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限があります。賃貸に出していた期間があれば、その年数も確認します。
- 取得日と売却予定時期:所有期間が売却年の1月1日で判定されるため、年内に売るか年明けに売るかで税率が変わることがあります。
そのうえで、税額が大きくなりそうな場合や、相続・共有・買換えが絡む場合は、早い段階で税理士におつなぎしています。不動産の売買と税務は切り離せませんが、税務の判断そのものは税理士の領域です。私たちの役割は、お客様が判断できる材料を先に揃えることだと考えています。税負担というお客様にとって不都合な情報も含めて透明にお伝えすることが、長期的な信頼につながると信じています。
まとめ|売却前に確認したい4つのこと
マンション売却の減価償却について、この記事の要点を4つに絞ります。
- 自分の物件がどちらの系統かを確認する。マイホームならRC造0.015で0.9を掛ける算式、投資用ならRC造0.022で0.9を掛けない算式です。
- 建物の取得価額を確定させる。契約書の区分記載、消費税額からの逆算、建物の標準的な建築価額表の順に確認します。
- 特例の適用可否を先に確認する。マイホームなら3,000万円特別控除で課税譲渡所得が0円になることも珍しくありません。
- 売却時期を1月1日基準で確認する。所有期間5年の境目、10年の境目をまたぐかどうかで税率が変わります。
減価償却の計算そのものは、償却率さえ分かれば掛け算3回で終わります。難しいのは建物取得価額の確定と特例の要件判定です。ここに時間をかけることが、結果的に手残りを最大化する近道になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. マンションの償却率はいくつですか?
RC造・SRC造のマンションは、マイホームとして住んでいた場合が0.015、投資用として賃貸していた場合が0.022です。木造は非業務用0.031・事業用0.046、軽量鉄骨造は骨格材の肉厚によって非業務用0.036または0.025となります。用途によって数字が変わる点にご注意ください。
Q2. 土地は減価償却しますか?
土地は減価償却しません。時の経過によって価値が減る資産とみなされないためです。したがって売却時の取得費でも、土地部分は購入代金がそのまま残ります。減価償却の対象は建物と建物附属設備のみです。
Q3. 売買契約書に建物価格が書かれていないときはどうしますか?
まず建物に課された消費税額が分かるか確認し、分かれば「消費税額×(1+消費税率)÷消費税率」で逆算します。消費税額も不明な場合は、国税庁「建物の標準的な建築価額表」の建築年・構造別の㎡単価に専有面積を掛けて算定します。この方法は国税庁が公式に示している区分方法です。
Q4. 減価償却を計算しても税金が0円になることはありますか?
あります。マイホームの売却では3,000万円特別控除が使えるため、譲渡所得が3,000万円以下であれば課税譲渡所得は0円になります。本記事の計算例1では譲渡所得2,279.3万円に対して税額0円でした。ただし特別控除の適用には確定申告が要件で、申告しなければ控除は受けられません。
Q5. 売却したら確定申告は必要ですか?
譲渡益が出た場合、または特例の適用を受ける場合は確定申告が必要です。売却した年の翌年2月16日から3月15日までに、確定申告書とあわせて「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」を提出します。売買契約書の写し、譲渡費用の領収書、購入時の契約書の写し、登記事項証明書などが必要書類になります。
Q6. 法定耐用年数を超えた中古マンションも減価償却できますか?
できます。法定耐用年数を全部経過した資産は「法定耐用年数×20%」で計算し、RC造なら47年×20%=9.4年、1年未満を切り捨てて9年(償却率0.112)となります。算出結果が2年未満になる場合は2年が下限です。
引用・参考資料
- 国税庁 No.3261 建物の取得費の計算(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「令和7年分 譲渡所得の申告のしかた」参考1
- 国税庁「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】令和7年分以降用」
- 国税庁「建物の標準的な建築価額表」
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・別表第八(e-Gov法令検索)
- 国税庁 No.5404 中古資産の耐用年数
- 国税庁 No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(3,000万円の特別控除)
- 国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
- 国税庁 No.3252 取得費となるもの
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱(3/9)」三 法人課税
- 中小企業庁「少額減価償却資産の特例を拡充しました」(令和8年5月作成)
- 国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」令和8年5月
- 公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート2026年6月度」(2026年7月10日発表)
本記事は2026年8月時点で公表されている法令および資料に基づいて作成しています。実際の税額計算や特例の適用可否は個別の事情によって異なりますので、具体的な申告にあたっては税務署または税理士にご確認ください。
