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「壊す側」か「創る側」か|超富裕層のための再開発投資戦略と地図の読み方

超富裕層が再開発という潮流でどのポジションを取るべきか。地方再開発の失敗と篠山城下町の成功を対比し、「受益者」か「設計者」か、2つの戦略とINAの哲学を連載最終回として提示します。

最終更新: 約12分で読めます

再開発という潮流は、静かに、しかし確実に、日本の都市地図を書き換えています。東京都心では100年に1度と言われる規模の再開発ラッシュが進み、地方ではシャッターが下りた商店街の向こうに、新しい試みが芽吹きつつあります。この連載「破壊と創造の地図」では6回にわたり、再開発という現象の裏側で街と資産に何が起きているかを見てきました。そして最終回となる今回、私が読者の皆さまにお伝えしたいのは一つの問いです。あなたは再開発の地図を「読む側」に留まりますか。それとも、その地図を「描く側」に回りますか。

連載を振り返る:5回で明らかになったこと

第1回では、東京都心5区で同時進行する再開発プロジェクトの全体像を俯瞰しました。総事業費が兆円単位に達するプロジェクト群は、単なる建物の更新ではなく、都市の競争力そのものを書き換える試みです。再開発ラッシュの裏側では、地価の上昇、居住者の移動、商業テナントの入替えが連鎖的に発生しており、その波紋は竣工から10年、20年にわたり広がり続けます。

この連載を通じて明らかになったことは3点です。第一に、再開発は「点」ではなく「面」で動くという事実です。一つのプロジェクトの完成が、周辺エリア全体の資産価値を引き上げる効果を生みます。第二に、再開発の恩恵を受けるためにはタイミングが決定的に重要であること。都市計画決定→工事期間→竣工という3段階のうち、最大のリターンが期待できるのは第1段階の直後です。第三に、東京の成功モデルは地方には必ずしも適用できないという構造的差異の存在です。

地方再開発の失敗から学ぶ

地方都市の再開発において、最も繰り返された失敗パターンは「規模の追求」です。中心市街地に大型商業施設を誘致し、にぎわいを取り戻そうとした事例の多くは、竣工後10年以内に空洞化という結末を迎えました。人口が減少しているエリアに巨大な消費空間を設けても、その需要を支えるだけの人口が存在しないのです。

国土交通省が取りまとめた中心市街地活性化の事例研究でも、「商業施設の集積」だけを目的とした再開発の持続可能性について懸念が示されています。シャッター商店街の問題は、外からの大規模投資によって表面的に解決しても、地域の担い手が育っていない限り、再び同じ結末を迎えます。

超富裕層の視点から地方再開発を見るとき、重要なのはこの「失敗の構造」を理解することです。失敗した地方再開発の多くは、「いま存在する需要」ではなく「かつて存在した需要」に対して設計されていました。だからこそ、逆説的ですが、人口が減少するほど「物語を持つ場所」の稀少価値は高まるのです。

成功モデルとしての「物語の創造」

地方再生の成功例として国内外から注目を集めてきたのが、丹波篠山市(旧篠山市)における篠山城下町の古民家再生事業です。城下町の景観を守りながら、空き家となっていた古民家を活用し、移住・観光・農業の三位一体のまちづくりを実現してきた取り組みは、丹波篠山市公式サイトでも継続的に発信されています。

この事例が示すのは、「物語の創造」こそが長期リターンを生むという原則です。数十棟の古民家が再生され、そこに人が住み、訪れ、食を楽しみ、宿泊する——この連鎖が「地域ブランド」を形成します。そのブランドは単一の商業施設では決して作れないものです。インバウンド需要が回復し、「本物の日本」を求める旅行者が増加するなかで、こうした「物語のある場所」への需要は今後も高まるでしょう。

超富裕層の不動産投資において、この視点は重要な示唆を持ちます。規模ではなく「物語」を持つ不動産は、景気循環に対して相対的に価値が安定します。都心のタワーマンションと地方の歴史的建造物では市場の性質が異なりますが、「物語の不動産」は利回りだけでは測れない価値を内包しています。

受益者戦略:再開発の恩恵を受けるポジショニング

再開発への関与の第一の形態は「受益者」として恩恵を受けることです。東京の大規模再開発であれば、都市計画決定の段階で周辺エリアの物件を取得し、竣工後の地価上昇を享受する戦略が基本となります。東京都心再開発が不動産価値に与える影響でも分析したとおり、虎ノ門・渋谷・品川といったエリアでは再開発の進捗に応じた段階的な地価上昇が確認されています。

重要なのは、「再開発エリアそのもの」よりも「再開発の波及エリア」を先に押さえるという発想の転換です。再開発エリアの地価はすでに計画公表時点で相当程度織り込まれています。むしろ、再開発によって利便性が向上する周辺エリア——徒歩15分圏内の住宅地、新しい商業エリアに隣接したオフィス物件——に、早期に投資することで、より大きなリターンが期待できます。

「待つ」という戦略は、超富裕層にとって最も合理的な選択肢の一つです。しかし、その「待つ」期間に何を押さえているかが、10年後のリターンに決定的な差をもたらします。

設計者戦略:街の未来に関与する投資

再開発への関与の第二の形態は「設計者」として街の未来に関わることです。これは単なる資産運用を超え、街の価値そのものを創造する試みです。

具体的な手段として、まず再開発組合への参加があります。地権者として再開発事業に参加することで、単なる資産価値の上昇だけでなく、街の設計そのものに関わる機会を得ることができます。大規模な再開発では地権者の合意形成が最も困難なプロセスですが、その困難さゆえに、合意形成に貢献できる資産家には相応の発言力が生まれます。

次に、不動産特定共同事業の活用があります。小規模な歴史的建造物の再生や地方の遊休不動産の活用といった案件に参加できる仕組みが整備されつつあります。国土交通省も不動産分野の投資環境整備を進めており、こうした仕組みへの関心は高まっています。

そして最も稀少な機会が、一から街をデザインするという選択です。地方の廃校・廃工場・古民家集落を取得し、「物語のある場所」として再生するプロジェクトは、単なる投資を超えた「地域への関与」です。これは短期的なリターンを求める投資ではありませんが、10〜20年の時間軸で見たとき、最も深い価値を生み出す可能性があります。

INAが描く「壊さない再開発」の哲学

私が長年、不動産という仕事を通じて考えてきたのは「壊さない再開発」という概念です。既存のものを壊し、更地にして新しいものを建てるのが「再開発」の一般的なイメージですが、本当に価値を生む再開発は、そこに積み重なった時間と記憶を活かすことから始まります。

篠山城下町の事例もそうですし、東京でも既存のビルをリノベーションしながら時代に合わせてアップデートを続けているエリアがあります。「壊す」ことは確かに早い。しかし「創る」ことの本質は、時間をかけて積み重ねることにあります。超富裕層の皆さまが持つ長期的視野と経済的余裕は、まさにこの「壊さない再開発」を実現できる力です。

INA&Associates株式会社は、「人財こそが最大の資産」という信念のもとに事業を展開しています。これは組織経営だけでなく、街づくりにも当てはまる原則です。地域に優れた人財が育ち、その人財が街の価値を担っていくとき、再開発は持続可能なものになります。規模を追うのではなく、物語を創り、人財を育てる——この視点が、次の10年の再開発投資の核心にあると私は考えています。

まとめ:あなたはどちらの側に立ちますか

6回にわたる「破壊と創造の地図」連載を通じて、私が伝えてきたのは一つのことです。再開発という巨大な潮流は、それを「眺める者」と「関与する者」の間に、時間とともに決定的な差をもたらします。

受益者として恩恵を享受することも重要な戦略です。しかし、それ以上に豊かな経験を生むのは、設計者として街の未来に関わることです。「東京だから」「大規模だから」が良い投資であるという固定観念を外したとき、あなたの目の前に広がる地図は、きっと変わって見えるはずです。

地方都市の失敗が教えてくれたのは、規模ではなく物語が価値を生むということ。篠山城下町の成功が示してくれたのは、時間と人財への投資が最大のリターンをもたらすということ。

最後に、あなたに問いかけさせてください。あなたはこれから、再開発の地図を「読む側」に留まりますか。それとも、その地図を「描く側」に立ちますか。その答えが、次の10年のあなたの資産と、あなたが関わる街の未来を決めます。

FAQ

Q1. 超富裕層が再開発投資を始めるタイミングとして最適なのはいつですか?

最もリターンが大きい参入タイミングは、都市計画決定の直後とされています。計画が公表され、具体的なプロジェクト内容が明らかになった段階では、まだ市場全体への価格転嫁が完全ではありません。この段階で周辺エリアの物件を取得することで、竣工後の地価上昇を取り込める可能性があります。ただし、計画変更や事業延期のリスクも考慮した分散投資が重要です。

Q2. 地方再開発は東京の再開発と何が根本的に違うのですか?

最大の違いは「需要の性質」です。東京の再開発は経済・人口が集中する都市での「更新」であり、需要は事業前から存在しています。一方、地方再開発は人口減少下での「創造」であり、需要そのものを創り出すことが求められます。そのため、地方での成功モデルは「規模の拡大」ではなく「物語の創造」に基づくものになります。この違いを理解せずに東京型の発想を地方に持ち込むことが、多くの失敗の原因となったとされています。

Q3. 「壊さない再開発」に投資家として参加するにはどうすればよいですか?

参加経路は大きく3つあります。第一は地権者として再開発組合に参加する方法、第二は不動産特定共同事業を活用したプロジェクト出資、第三は個別の歴史的建造物や遊休不動産を取得してリノベーションを行う直接参加です。いずれも長期的な視野と、地域の文脈を理解したパートナーとの連携が不可欠です。INA&Associates株式会社では、こうした投資の相談にも対応しております。

Q4. 連載「破壊と創造の地図」全体を踏まえて、今すぐできる行動は何ですか?

まず、自身の保有不動産が再開発の「波及エリア」にあるかどうかを確認することをお勧めします。次に、関心のある地域の都市計画決定状況を調べ、5〜10年以内に再開発が予定されているエリアを把握することです。そして、「受益者戦略」と「設計者戦略」のどちらが自分のポートフォリオと人生設計に合っているかを考えてみてください。この問いに向き合うことが、次の10年の資産形成の第一歩になります。

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引用・参考資料

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者