木造密集地と急傾斜地が広がっていた東京都港区赤坂九丁目北エリアが、高さ約166mの超高層タワーへと生まれ変わりました。赤坂九丁目北地区第一種市街地再開発事業は、2013年の都市計画決定から2018年の竣工まで5年をかけて、地域の防災性と居住環境を抜本的に改善した事業です。本稿では、この再開発が港区赤坂エリアに何をもたらしたか、そして現在も続く連続再開発の文脈の中でどう読み解くべきかを整理します。
赤坂九丁目北地区——三重の課題を抱えた「再開発困難地」
崖地・木造密集・狭小敷地の三重苦
赤坂九丁目北地区は、再開発以前から深刻な都市問題を抱えていたエリアでした。狭い道路沿いや崖下に木造住宅が密集し、接道条件が悪く敷地も狭小であったため、個別での建て替えがほとんど進まない状況が続いていました。急傾斜地という地形的なリスクも重なり、防災上の脆弱性はきわめて高かったと言えます。
こうした地区では、所有者が建て替えを望んでいても法的・物理的な制約によって身動きが取れないケースが多く見られます。老朽化した木造住宅が密集したまま放置されることで、火災や地震時の被害が広域に及ぶリスクも高まります。「個人では解決できない都市の課題を、行政と民間が連携して解決する」という市街地再開発の本質が、まさにこの地区には凝縮されていました。
なぜこの地が市街地再開発の対象になったか
港区は都市計画の観点からこの地区を早くから注視していました。東京ミッドタウンが2007年に開業し、隣接するこのエリアの土地利用の非効率さと安全上の問題がより鮮明になっていたからです。施行区域面積は約0.8ヘクタールと決して広くはありませんが、地形的な困難さと地権者の権利関係の複雑さを考えれば、第一種市街地再開発事業という手法の選択は自然なものでした。
2013年6月の都市計画決定を経て、同年12月には組合が設立されました。この迅速な組合設立は、地権者間の合意形成が比較的スムーズに進んだことを示しており、それだけ地域の課題が切実であったことの証左でもあります。
再開発事業の概要と実施プロセス
施行区域0.8haに込められた都市計画の意図
赤坂九丁目北地区第一種市街地再開発事業の施行者は「赤坂九丁目北地区市街地再開発組合」であり、事業協力者として三井不動産レジデンシャル株式会社が参画しました。約0.8ヘクタールという敷地に対して、地上44階・地下1階・搭屋2階、延床面積約44,440㎡という規模の建物を実現するためには、容積率約630%という高度利用を前提とした綿密な都市計画が必要でした。
事業の成果として特筆すべきは、住宅機能だけでなく子育て支援施設・小規模多機能型居宅介護施設を内包した複合開発を実現したことです。単なる高層マンション建設ではなく、地域コミュニティの持続可能性に配慮した複合的な機能を組み込んだ点に、この再開発の公益性の高さが表れています。
都市計画決定から竣工まで——5年間の軌跡
| マイルストーン | 時期 |
|---|---|
| 都市計画決定 | 2013年6月 |
| 組合設立認可 | 2013年12月 |
| 権利変換計画認可 | 2014年11月 |
| 建築工事着工 | 2015年2月 |
| 建築工事完了 | 2018年2月 |
| 組合解散認可(事業完了) | 2019年3月 |
2013年から2019年にかけての約6年間で、都市計画決定から組合解散まで一貫した推進が実現しました。権利変換計画の認可(2014年11月)から着工(2015年2月)までわずか3ヶ月というスピードは、地権者の合意形成と行政手続きが整然と進んだことを物語っています。市街地再開発事業において合意形成の遅延がしばしば問題になる中で、この案件は手本となる進捗管理の事例と言えるでしょう。
三井不動産レジデンシャル・大成建設・隈研吾が集結した理由
設計は日建設計が担い、意匠設計として隈研吾建築都市設計事務所が参画しました。施工は大成建設、事業協力者には三井不動産レジデンシャルという布陣です。東京ミッドタウン直隣という立地と、崖地・木造密集地という難条件を抱えるプロジェクトには、それぞれのフィールドにおける高い専門性が求められました。三井不動産レジデンシャルが事業協力者として加わることで、分譲マンションとしての商品企画力と販売力が補完された形になっています。
パークコート赤坂檜町ザタワーが体現した再開発の付加価値
「一本のヒノキ」をモチーフにした設計思想と2018年グッドデザイン賞
パークコート赤坂檜町ザタワーは、隈研吾建築都市設計事務所が「一本のヒノキ」をコンセプトに意匠設計を手がけた作品です。竣工翌年の2018年にはグッドデザイン賞を受賞しており、建築的評価の高さが対外的にも認められました。地名にある「檜町」という言葉をそのままコンセプトに昇華させた設計は、場所の記憶と都市の更新を巧みに融合させた事例と言えます。
高さ166.23m(最高高さ)・地上44階という規模を持ちながらも、東京ミッドタウンと一体となった景観・緑・水の連続性を意識した外観は、エリアの都市空間の質を大きく向上させました。不動産の「資産価値」を語る際、建築デザインの優位性はしばしば軽視されますが、この事例はデザインが地域全体の評価を底上げすることを示す好例です。
子育て支援施設・介護施設を内包した地域貢献型複合開発
総戸数322戸(地権者住戸125戸・事業協力者住戸34戸・一般販売163戸)の住宅に加え、建物内には子育て支援施設と小規模多機能型居宅介護施設が設置されています。これは再開発組合と港区との協議の中で定まったものであり、住宅供給だけでなく地域の福祉・育児インフラの充実を同時に達成するという複合的な目的を持っています。
桑田記念児童遊園の再整備や、公共空地の確保、バリアフリー動線の整備なども合わせて実施されました。こうした「地域への還元」が組み込まれることで、再開発の社会的正当性が高まり、行政との合意形成も円滑になるという好循環が生まれます。市街地再開発は単なる建て替えではなく、地域の公益的機能を刷新する都市政策であるという視点が重要です。
免震×ハイブリッド制振構造が示した防災性
本建物は免震構造とハイブリッド制振構造を組み合わせた先進的な耐震技術を採用しています。旧来の木造密集地では、大規模地震が発生した場合に建物倒壊と火災の連鎖によって甚大な被害が想定されていました。その脆弱なエリアが、最先端の免震・制振技術を持つ堅牢な建物に更新されたことの防災的意義は計り知れません。
急傾斜地・崖地の再整備も行われ、地形的なリスクも同時に軽減されました。崖地崩壊のリスクが解消され、周辺道路の安全性も向上しています。この「複合的な防災リスクを一括解消した」という点が、赤坂九丁目北地区再開発が防災まちづくりの成功モデルとして評価される理由のひとつです。
再開発完成が港区赤坂エリアの不動産価値に与えた影響
港区マンション価格の推移(2016年→2025年:+106%)
港区赤坂エリアのマンション価格は、2016年に約101万円/㎡であったものが、2025年には約209万円/㎡へと約2倍(+106%)に上昇しています。この上昇幅は東京23区全体の平均を大きく上回るものであり、赤坂エリアの資産性の高さを端的に示しています。
もちろん、価格上昇の要因は再開発単独ではありません。金融緩和による投資資金の流入、インバウンド需要の回復、富裕層による都心高額物件への資産集中など、複合的な要因が重なっています。しかし、こうした価格上昇の「基盤」を作ったのは、東京ミッドタウン開業(2007年)や本再開発(2018年竣工)をはじめとするエリアの都市インフラの質的向上であると考えます。再開発が地域の「格」を底上げし、その格がプレミアムな資産評価を持続的に支えるという構造は、赤坂エリアにおいて明確に機能しています。
東京ミッドタウン隣接という立地プレミアムの形成
パークコート赤坂檜町ザタワーの立地は、東京ミッドタウンに隣接するという類まれな優位性を持っています。ミッドタウンガーデンとの緑の連続性が確保され、六本木・赤坂という二大商業・文化集積エリアへの徒歩圏アクセスも魅力的です。港区という希少性の高いアドレスと、こうした立地の優位性が組み合わさることで、「東京の中でも特別な場所」としての立地プレミアムが形成されています。
こうした「場所の希少性」は、不動産投資の長期的な資産保全という観点から見ても重要な要素です。再開発が完成することで、エリア全体の希少性と認知度が上がり、周辺の既存物件の評価も連動して高まる——この「正のスピルオーバー効果」は、赤坂エリアでは特に顕著に機能していると言えます。
連鎖再開発——赤坂一丁目・七丁目・二六丁目への波及
赤坂エリアでは、九丁目北地区の完成後も再開発の波が続いています。赤坂一丁目地区(赤坂インターシティAIR、2017年8月竣工)と合わせて、エリア全体の都市機能が段階的に更新されてきました。さらに現在、赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業が進行中(2025年6月着工、2028年度竣工予定)であり、赤坂二・六丁目地区(TBS再開発)も2028年の竣工を目指して動いています。
| 事業名 | 状態 | 竣工 |
|---|---|---|
| 赤坂九丁目北地区 | 完了 | 2018年2月 |
| 赤坂一丁目地区(赤坂インターシティAIR) | 完了 | 2017年8月 |
| 赤坂七丁目2番地区 | 進行中(2025年6月着工) | 2028年度予定 |
| 赤坂二・六丁目地区(TBS再開発) | 進行中 | 2028年予定 |
この連鎖的な再開発は、単に個々の事業の積み重ねではなく、「赤坂」というエリアブランドの継続的な強化を意味します。過去の再開発事業の成功が、次の再開発事業の合意形成を容易にし、エリア全体の価値が螺旋状に上昇するという構造が生まれているのです。
「困難地の再開発」が切り開いた可能性
赤坂九丁目北地区の最大の意義は、崖地・木造密集・狭小敷地という「三重苦」を持つエリアでの再開発を成功させた点にあります。こうした条件は、東京のみならず全国の老朽密集市街地に広く見られるものです。「条件が悪すぎて再開発は無理だ」と諦めていた地区にとって、この事例は一つの解答を示しています。
もっとも、成功の背後には地権者間の粘り強い合意形成プロセスと、行政・事業協力者・設計者・施工者が一体となったチームワークがあることを忘れてはなりません。技術的に可能であっても、関係者間の信頼と合意なしには再開発は動きません。人財の力こそが、複雑な再開発事業を実現させる根本的な原動力だという事実は、どの事例を見ても変わりません。
市街地再開発における公民連携モデルの有効性
本事業では、組合施行という地権者主体の形態を取りながら、三井不動産レジデンシャルという民間事業者が事業協力者として参画するモデルが採用されました。このモデルは、地権者の主体性を守りつつ、民間の資金力・開発ノウハウ・販売力を活用するという意味で、公民連携の有効な形態のひとつです。
行政(港区)も都市計画の枠組みを整え、公共空地や福祉施設の確保を通じて公益性を担保する役割を果たしました。東京都市再開発の最新動向を踏まえれば、こうした公民連携モデルは今後も都市再生の主要な手法として機能し続けると見られます。行政・民間・地権者が三位一体となって動く枠組みの設計こそが、再開発事業の成否を分けると言っても過言ではありません。
オーナーが取るべきアクション
赤坂エリアを持つオーナーへのポジション評価
港区赤坂エリアに不動産を保有するオーナーにとって、今が改めてポジションを評価し直す重要な機会です。2025年時点でマンション価格が約209万円/㎡に達しており、今後も赤坂七丁目2番地区・赤坂二・六丁目地区の再開発完成に伴うエリア価値の向上が見込まれます。しかし、上昇局面だからこそ、「保有し続けるべきか」「今売却・換金すべきか」「追加投資をすべきか」という問いに対して、冷静かつ長期的な視点からの判断が必要です。
物件の築年数・建物状態・テナント動向・融資残高といった個別要因を整理したうえで、エリアの将来性と組み合わせた総合的な資産評価を行うことをお勧めします。感覚的な判断ではなく、データと専門的知見に基づいた意思決定が、長期的な資産の健全な運用につながります。
連続再開発エリアでの資産活用戦略
再開発が連続するエリアに資産を持つオーナーが取り得るアクションは複数あります。第一に、周辺再開発の進捗に合わせた賃料設定の見直しです。エリアの競争力が上がれば、既存物件であっても適切なリノベーションと価格見直しによって賃貸収益を改善できる余地があります。
第二に、再開発予定地との権利調整です。将来の再開発地区に土地・建物を所有している場合、事業協力者や組合との早期対話がオーナーにとって有利な条件を引き出す鍵になります。再開発の合意形成が始まってから動くのではなく、情報収集と関係構築を先行させることが重要です。東京都市再開発の主要プロジェクトと不動産価値への影響を継続的にウォッチしながら、エリアの変化を先読みするアプローチが求められます。
INAの見解
赤坂九丁目北地区再開発は、私が常々考えている「不動産の価値は建物単体ではなく、エリアの文脈によって決まる」という考えを体現した事例だと感じています。崖地・木造密集という最も困難な条件の土地が、行政・民間・地権者の連携によって東京有数のプレミアムレジデンスへと変貌した過程は、不動産に関わる全ての人々にとって示唆に富むものです。
私たちINA&Associates株式会社は、港区を含む都心エリアの市場動向を継続的にウォッチし、オーナーの皆さまが長期的な視野で資産戦略を描けるよう、データと現場知見を組み合わせた支援を提供しています。赤坂エリアで進む連続再開発は今後数年間でさらに進展が見込まれます。こうした変化を「自分の資産にどう活かすか」という問いに向き合うためには、エリアの歴史と都市計画の大きな流れを理解したうえで、個別の資産状況と照らし合わせた戦略立案が不可欠です。
短期的な市況の波に一喜一憂するのではなく、エリアの構造的変化を長期視点で読み解き、最適なタイミングで行動すること——それが、変化の激しい都市再生エリアにおける資産運用の本質だと私は考えています。
まとめ
赤坂九丁目北地区第一種市街地再開発事業は、崖地・木造密集・狭小敷地という三重苦を抱えた困難なエリアを、防災性と居住環境の両面から抜本的に改善した事業です。2018年に完成したパークコート赤坂檜町ザタワーは、隈研吾設計・グッドデザイン賞受賞・免震ハイブリッド制振構造という複合的な付加価値を持ち、東京ミッドタウン隣接という立地プレミアムとともに赤坂エリアの不動産価値向上に貢献しました。
この再開発の完成を起点として、赤坂エリアでは連続的な再開発が進展しており、2026年現在も赤坂七丁目2番地区・赤坂二・六丁目地区の事業が動いています。港区赤坂エリアのマンション価格は2016年から2025年にかけて約2倍に上昇しており、その背景にはこうした継続的な都市更新の積み重ねがあります。
再開発事業の成功に共通するのは、「人財」の力——地権者・行政・民間事業者・設計者・施工者が相互の信頼のもとで連携し、困難を乗り越える意志を持ち続けることです。不動産オーナーの皆さまには、この事例をひとつの参照軸として、自らの資産が位置するエリアの都市計画動向を継続的に把握し、長期的な視野で資産戦略を描いていただくことをお勧めします。
FAQ
Q1. 赤坂九丁目北地区再開発はいつ完了しましたか?
A. 建築工事は2018年2月に完了し、その後の精算・手続きを経て2019年3月に組合解散認可が下り、事業として正式に完了しています。完成建物の名称はパークコート赤坂檜町ザタワーです。
Q2. 一般分譲された住戸はどれくらいありましたか?
A. 総戸数322戸のうち、一般販売は163戸です。残りは地権者住戸125戸と事業協力者(三井不動産レジデンシャル)販売分34戸で構成されています。間取りは2LDK〜3LDKで、専有面積は57.61㎡〜203.96㎡の範囲です。
Q3. 赤坂エリアの今後の再開発予定はありますか?
A. 2026年現在、赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業(2025年6月着工・2028年度竣工予定)と赤坂二・六丁目地区の再開発(TBS再開発関連、2028年予定)が進行中です。いずれもエリアの都市機能をさらに高める大型プロジェクトであり、赤坂の不動産価値を中長期的に下支えする要因として注目されています。
Q4. 市街地再開発事業に土地や建物を持つオーナーはどう対応すればよいですか?
A. 再開発の計画段階で情報を収集し、早期に組合や事業協力者との対話を始めることが重要です。権利変換の条件交渉は早い段階での関与が有利に働くケースが多く、受動的に待つのではなく積極的に情報収集と専門家への相談を進めることをお勧めします。INA&Associates株式会社では、こうした再開発エリアでの資産戦略についてご相談を承っています。
引用・参考資料
- 港区「赤坂九丁目北地区第一種市街地再開発事業」(2019年)
- 港区「第一種市街地再開発事業一覧」
- 東京都都市整備局「市街地再開発事業について」
- 大成建設テクソル「赤坂9丁目北地区市街地再開発事業」
- 隈研吾建築都市設計事務所「Park Court Akasaka Hinokicho The Tower」
- 港区「赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業」
- PR TIMES(日鉄興和不動産)「赤坂七丁目2番地区着工のお知らせ」(2025年)