
西麻布三丁目北東地区第一種市街地再開発事業は、東京都港区西麻布三丁目・六本木六丁目周辺、六本木ヒルズの西側で進む第一種市街地再開発事業です。施行者は西麻布三丁目北東地区市街地再開発組合で、参加組合員として野村不動産株式会社とケン・コーポレーションが参画しています。計画区域は約1.6ヘクタールで、六本木側の高密度な都市機能と西麻布側の既成市街地が接する場所にあり、建物更新だけでなく道路、歩行者通路、広場状空間、緑地などを含めて街区を再編する構成です。
事業の中心となるA街区では、地上54階・地下4階、高さ199.98メートル、最高高さ201.20メートル、延べ面積96,832平方メートルの複合タワーが計画されています。総戸数は498戸で、住宅は6階から45階、ホテルは46階から52階に配置され、低層部には店舗と事務所が入る計画です。A街区は2025年3月下旬に着工し、2029年12月下旬の竣工が予定されています。
これに先行して、B2・B3街区では長幸寺と櫻田神社の仮移転を含む整備が進められており、2024年12月着工、2026年7月竣工予定と公表されています。2019年4月時点では2020年度着工・2025年度竣工の工程が示されていましたが、その後の権利変換計画認可などを経て現在のスケジュールに更新されました。現時点では、超高層棟の建設と寺社を含む周辺街区の再編が段階的に具体化している段階といえます。
計画概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名称 | 西麻布三丁目北東地区第一種市街地再開発事業 |
| 所在地 | 東京都港区西麻布三丁目・六本木六丁目周辺 |
| 施行者 | 西麻布三丁目北東地区市街地再開発組合 |
| 参加組合員 | 野村不動産株式会社、ケン・コーポレーション |
| 区域面積 | 約1.6ha |
| 敷地面積 | 約7,690平方メートル |
| 延べ面積 | 96,832平方メートル(A街区) |
| 高さ | 199.98m、最高高さ201.20m(A街区) |
| 階数 | 地上54階・地下4階(A街区) |
| 主要用途 | 住宅、ホテル、店舗、事務所、寺社、緑地、歩行者通路、区画道路 |
| 住宅戸数 | 498戸(地権者住戸を含む) |
| 施工者 | 大成建設株式会社(A街区) |
| 認可等 | 権利変換計画認可済み |
| 着工 | A街区は2025年3月下旬、B2・B3街区は2024年12月 |
| 竣工予定 | A街区は2029年12月下旬、B2・B3街区は2026年7月 |
計画の特徴
最大の特徴は、A街区の約200メートル級タワーに住宅、ホテル、店舗、事務所を垂直的に積層する複合用途の構成です。住宅を6階から45階、ホテルを46階から52階に配置する計画は公表されていますが、住戸面積構成、事務所や店舗の詳細な床配分は公表資料で確認できる範囲では未公表ですが、ホテルブランド名は2026年6月30日に野村不動産が公式発表しており、シンガポール発の高級ブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」による「カペラ東京」(2030年開業予定)が高層部に入る計画です(詳細は後述)。用途の積層は、六本木ヒルズ隣接エリアで居住、滞在、就業、来街機能を一体化させる計画として位置づけられます。
事業は超高層棟1棟を建てるだけでなく、段階的な街区再編を含む点にも特徴があります。B2・B3街区では長幸寺と櫻田神社の仮移転を伴う工事が先行しており、既存の宗教施設と周辺権利関係を調整しながら整備を進める枠組みです。再開発組合方式により、A街区とB2・B3街区で工程を分けつつ、最終的には一体の都市基盤として再構成する計画になっています。
都市基盤の更新では、補助10号線の拡幅、区画道路の整備、歩行者動線の改善、歩行者デッキの整備が示されています。計画地は六本木通り背後の高密度市街地と西麻布側の細街路が接する位置にあり、車両動線と歩行者動線の整理、防災性の向上、災害時の避難性確保が再開発の重要な目的です。低層部の店舗や広場状空間、緑地、歩行者通路は、建物内部の用途構成と同様に街区再編の中核要素として位置づけられています。

「権利変換計画認可済み」とは何を意味するのか
本文の表にある「権利変換計画認可済み」は、第一種市街地再開発事業に特有の仕組みを指します。事業前に土地・建物を所有していた権利者の権利を、新しく建てるビルの床(権利床)に置き換える手続きを「権利変換」と呼び、西麻布三丁目北東地区では2023年2月15日付で東京都知事の認可を受けています。権利者が取得しない残りの床は「保留床」と呼ばれ、これを参加組合員が取得・販売することで事業資金の一部を確保する仕組みです。
実際の建築工事を担う施工者は大成建設株式会社です。西麻布三丁目北東地区市街地再開発組合が事業主体、野村不動産株式会社とケン・コーポレーションが参加組合員として計画・資金面を担い、大成建設がA街区の施工を担当する体制のもと、権利変換計画認可を経た2025年3月下旬に着工しています。
周辺プロジェクト・エリアとの関係
計画地は六本木ヒルズ西側に位置し、六本木駅周辺の大規模業務・商業集積に近接しながら、西麻布側では住宅地、寺社、既存街路が残る境界部にあります。そのため本事業は、六本木側の高層・高密な都市空間を単純に延長するのではなく、テレビ朝日通りや補助10号線、区画道路、歩行者通路を介して西麻布側と接続し直す役割を持ちます。立地条件そのものが、建物単体ではなく街区接続の質を問う再開発にしています。
周辺との関係で特に重要なのが、六本木ヒルズ方面との回遊性向上です。公表資料では歩行者デッキや歩行者ネットワークの整備が示されており、完成後は六本木側から西麻布方面へ抜ける人の流れに変化を与える可能性があります。低層部の店舗、広場状空間、歩行者通路が機能すれば、再開発棟自体が新たな目的地になるだけでなく、既存街区間の移動経路や滞留地点も再編されることになります。
また、この計画は周辺の大規模更新が続く港区都心部の中でも、六本木隣接の西麻布エリアで進む点に特徴があります。B2・B3街区で寺社移転を伴う整備を先行させていることからも分かる通り、既存資源との調整を前提にした再編であり、単純な更地化型の再開発ではありません。A街区の超高層化、B2・B3街区の先行整備、道路と歩行者基盤の更新が組み合わさることで、六本木側の都市機能と西麻布側の街並みの間に新しい接続面をつくる事業として読む必要があります。
高層部のホテルは「カペラ東京」に決定
野村不動産株式会社は2026年6月30日、A街区の高層部に入るホテルについて、シンガポール発の高級ホテルブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」(運営:カペラホテルグループ、本社シンガポール)が日本初進出し、「カペラ東京」として2030年に開業する予定であることを発表しました。カペラは2026年3月開業の「カペラ京都」に続く、日本国内2拠点目の展開です。
発表では、カペラ東京がタワー内の住宅(約500戸のレジデンス)に対して、カペラのコンシェルジュスタッフによるホテル連携サービスを提供する計画も示されています。報道では客室数は全86室と伝えられていますが、この数字は野村不動産の公式発表そのものには明記されておらず、報道機関による報道である点には留意してください。
取引価格は実際にどう動いているか
再開発への期待が実際の取引価格にどこまで表れているかを、国土交通省が公表している不動産取引価格データで確認しました。地区名に「西麻布」を含む中古マンションの取引を、港区全体と並べたものが次の表です。
| 年 | 取引件数 | 当エリアの㎡単価(中央値) | 港区全体の㎡単価(中央値) |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 62件 | 168.4万円 | 146.7万円 |
| 2024年 | 72件 | 173.8万円 | 166.7万円 |
| 2025年 | 85件 | 180.0万円 | 189.5万円 |
| 2026年(第1四半期のみ) | 12件 | 179.0万円 | 200.0万円 |
2023年から2025年にかけての上昇率は、西麻布が+6.9%、港区全体が+29.2%です。2023年には港区全体を15%上回っていた西麻布が、2025年には区平均に追い抜かれました。2026年第1四半期でも、この関係は逆転したままです。
実額でみると、2025年以降の西麻布の中古マンション取引は中央値8,500万円・専有面積45㎡で、取引のおおむね半数が3,950万円から1億3,500万円の範囲に収まっています。
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)「不動産取引価格情報」(国土交通省)をもとにINA&Associates株式会社作成。2026年9月時点で取得できたデータによります。直近の四半期は後から取引が追加されるため暫定値です。
INA短評
西麻布三丁目北東地区再開発の核心は、約200メートルの複合タワー建設そのものより、六本木ヒルズ西側の境界街区を寺社移転、道路整備、歩行者動線更新と合わせて組み替える点にあります。A街区は2025年3月下旬着工、B2・B3街区は2024年12月着工と工程が具体化しており、今後は低層部空間と歩行者ネットワークが六本木側と西麻布側をどう接続するかが完成後の評価を左右します。
数字から見た補足(2026年9月時点)
ここからは公表資料ではなく、当社の見立てです。
権利変換計画が認可され、カペラ東京の進出も決まっているにもかかわらず、西麻布の取引価格は港区平均に追い抜かれています。これは注目すべき数字です。
理由は港区内の競合にあると考えています。この3年間の港区は、麻布台ヒルズや虎ノ門・高輪といった駅直結・大規模・複合という条件を備えた開発に資金が集中しました。西麻布は駅からの距離があり、街区の規模も大きくありません。港区全体が押し上げられるなかで、相対的に置いていかれた形です。
裏を返せば、ホテルの進出が具体化した現在の水準は、港区平均を下回ったまま据え置かれているということでもあります。
投資家としての判断軸
- 港区平均との差が縮まるかを見る。竣工が近づいて差が縮まれば、いまの水準は入り口だったことになります。開いたままなら、立地の評価が構造的に変わったと考えるべきです。
- 2026年第1四半期は12件と少なく、この数字だけで判断はできません。取引価格データは四半期ごとに更新されるため、同じ手順で追えます。
- 西麻布は駅距離がある立地です。賃貸に回す場合、駅直結の物件とは異なる訴求が必要になります。




