
東武曳舟駅周辺が、行政計画と民間事業の両輪によって大きく変わろうとしています。令和7年9月に墨田区が策定した「東武曳舟駅周辺地区まちづくり方針」と、UR都市機構が推進する第一種市街地再開発事業が連動することで、2032年末には駅前の景色は一変する見通しです。このエリアに土地や建物を持つオーナーにとっては、今がまさに情報収集と判断のタイミングです。
曳舟駅周辺、いま何が起きているのか?
東武曳舟駅と京成曳舟駅——二つの鉄道路線の駅が徒歩圏内に隣接するこのエリアは、東京の東側において特異な位置を占めています。押上(スカイツリー前)や錦糸町といった近隣の主要駅へのアクセスも良く、「下町の交通ジャンクション」とも言える立地です。
しかし、これまで曳舟エリアは大規模な再開発とは無縁でした。駅前には駐車場や空き地が点在し、老朽化した木造建物も残っています。行事やイベントで地域の活気は感じられるものの、駅前空間としてのポテンシャルが十分に引き出されていない状態が続いていました。
その状況が、いよいよ変わり始めています。東京都は平成29年の「都市づくりのグランドデザイン」において、東武曳舟駅周辺を「東墨・足立・葛飾エリア」の広域拠点の一つとして位置付けました。令和3年3月には東京都市計画マスタープランが「再開発等促進区」に指定し、区としてのまちづくりの機運が高まっていました。
そして令和7年9月、墨田区都市整備部が「東武曳舟駅周辺地区まちづくり方針」を正式に策定・公表しました(出典:墨田区都市整備部立体化・まちづくり推進担当拠点整備課、令和7年9月)。対象は曳舟川通りより西側の約8.2haです。行政計画が策定されたことで、再開発事業の法的・計画的な基盤が整いました。
まちづくり方針が描く将来像とは?
今回の方針が掲げる将来ビジョンは、「居心地の良い、安心して住み続けられるすべての人にとって優しいまち」です。抽象的に聞こえるかもしれませんが、この方針には具体的な3つの目標柱と4つのゾーン別整備方針が示されており、エリアの将来像は相当に明確です。
3つの目標柱は次の通りです。第一に「好きな住環境でにぎわいが創出されるまち」——複合的な機能を持つ施設整備と、多様な世代が住み続けられる住環境の実現。第二に「災害に強く、快適に暮らせるまち」——老朽建物の更新・不燃化と防災力の向上。第三に「誰もが安全に移動できるまち」——バリアフリー対応の交通ネットワーク整備です。
4ゾーン別の整備方針も重要です。駅周辺ゾーンでは商業施設・駐輪場の誘導とバリアフリー化が図られます。にぎわい交流ゾーン(曳舟川通り沿い・駅西側)では再開発事業を核とした複合的な土地利用が、住商共生ゾーン(西側住宅地)では良好な住環境の保全と商業地との連続性確保が、沿道にぎわいゾーン(水戸街道沿い)では建物の不燃化・共同化による防災性向上が方針として定められています。
自分の土地や建物がどのゾーンに属するかによって、今後の活用方針や共同建て替えへの参加可否も変わってきます。区の窓口(拠点整備課:03-5608-6262)に確認することをお勧めします。
駅前再開発事業の全容とは?
まちづくり方針と並行して、「東武曳舟駅前地区第一種市街地再開発事業」が急速に具体化しています(施行者:UR都市機構)。計画地は東武曳舟駅東口の約1.7ha、規模は地上14階建て・延べ床面積約22,154㎡・高さ約45mです。1〜2階に店舗・オフィス、3〜14階には住宅約240戸が整備されます。
この再開発で特に注目すべきは、「広場型再開発」という手法を採用している点です。建物の大型化だけでなく、約2,250㎡の交通広場(バリアフリー対応)と約4,000㎡の都市計画公園を整備することが計画の核心に据えられています。公園は平常時は憩いの場として、災害時には避難拠点として機能します。建物を高密度に積み上げるだけでなく、オープンスペースと公共性を重視した設計思想は、近年の再開発事業のトレンドともいえます。
2026年3月25日にはUR都市機構が事業パートナーとして阪急阪神不動産・ユーデーコンサルタンツGを決定し、協定を締結しました。阪急阪神不動産は関西を拠点とする大手ディベロッパーで、東東京への本格参入という点でも注目に値します(出典:UR都市機構プレスリリース、2025年12月19日)。
スケジュールを整理すると次の通りです。
- 2025年度内:墨田区が都市計画決定
- 2026年度:(仮称)東武曳舟駅前地区地区計画の都市計画決定予定
- 2027年度:国から事業認可取得予定
- 2028年度:権利変換計画認可予定
- 2029年度:既存建物解体・着工
- 2032年度末:完成
2027〜2028年度に権利変換が行われることを考えると、2026〜2027年が地権者・オーナーにとっての重要な意思決定の窓口です。このタイムラインを前提に準備を進めることが必要です。
なお、墨田区は令和7年度(2026年度)予算として、曳舟エリア関連に32億8,300万円を計上しています。建物調査・施設の基本設計・道路整備等が含まれており、行政の本気度が数字にも表れています。
東京全体の再開発の動向については、2025年、東京を変貌させる主要再開発プロジェクトも合わせてご参照ください。
周辺エリアで同時進行するまちづくりとは?
東武曳舟駅前の再開発が注目を集める一方で、周辺エリアでも複数のプロジェクトが同時進行しています。
Brillia曳舟(東向島二丁目22番地区防災街区整備事業)は、東京建物と首都圏不燃建築公社が推進するプロジェクトです。地上10階建て・99戸のマンションと町会会館からなる複合建築が2024年11月に着工し、2027年の竣工を目指しています(出典:東京建物株式会社プレスリリース、2024年11月20日)。木造密集市街地の解消と街路整備を同時に進めるこの事業は、エリアの防災性向上に直結します。
京成曳舟駅周辺でも、連続立体交差事業を契機とした地区計画や市街地再開発が先行して進んでいます。京成曳舟駅周辺の事例は、東武曳舟駅前の再開発がどのような姿に仕上がっていくかを示す先行事例として参考になります。
公共インフラの面でも整備計画が明示されています。曳舟川通りの無電柱化、曳舟たから通りの拡幅、駅の東西を結ぶ区道の歩行者専用道路化、そして北側改札の整備——これらの公共投資が再開発事業と連動して進みます。エリア全体の回遊性と利便性が大幅に向上し、沿道の土地・建物の価値を押し上げる効果が期待されます。
データで見る曳舟エリアの地価動向とは?
再開発計画が具体化するにつれて、地価も上昇基調を示しています。令和7年公示地価(出典:墨田区「地価公示」)によれば、墨田区全体では住宅地が平均540,272円/㎡(前年比+9.84%)、商業地が平均1,038,384円/㎡(同+11.27%)と顕著な上昇を記録しています。
曳舟駅周辺に絞ると、基準地価(東向島周辺)は657,000円/㎡(2024年)です。曳舟駅の公示地価は平均608,000円/㎡で前年比+8.74%(2024年時点)と、区の平均をやや下回るものの着実な上昇が続いています。5年スパンで見ると、墨田区全体では住宅地+17.7%・商業地+21%という実績値があります。
ここで冷静に考えておきたいことがあります。現在の地価上昇は、再開発事業の「織り込み」を部分的に反映しています。だからこそ、事業認可(2027年度予定)や着工(2029年度予定)を経るにつれてさらなる価格変動が生じる可能性があります。現時点での「まちづくり方針段階」という情報を持っているかどうかが、判断の精度を大きく左右するのです。
東京全体の投資文脈での分析については、東京再開発エリア主要プロジェクト調査レポート|投資・居住適性と将来性もご覧ください。
地主・物件オーナーが今取るべきアクションとは?
曳舟エリアに土地や建物をお持ちの方は、2026〜2027年が重要な情報収集・意思決定の時期です。具体的に何を確認し、何を準備すべきかをまとめます。
1. 自分の土地・建物がどのゾーンに属するかの確認
まちづくり方針の4ゾーン(駅周辺・にぎわい交流・住商共生・沿道にぎわい)によって、今後の開発方向性や参加できる事業スキームが異なります。墨田区拠点整備課(03-5608-6262)に問い合わせて、自分の土地の位置付けを把握することが第一歩です。
2. 再開発参加・共同建て替えの検討
「にぎわい交流ゾーン」に属する土地・建物は、第一種市街地再開発事業への参加対象となる可能性があります。権利変換計画認可(2028年度予定)の前に、参加意向の意思表示や権利調整が必要になります。早い段階から施行者(UR都市機構)や区の担当窓口と情報交換を始めることをお勧めします。
3. 老朽建物の更新・不燃化補助制度の活用
「沿道にぎわいゾーン」や「住商共生ゾーン」の建物については、墨田区の不燃化支援制度を活用した建て替えが選択肢の一つです。まちづくり方針の策定により、区の補助制度がさらに拡充される可能性もあります。現行の補助内容を確認し、建て替えのタイミングを検討することが有効です。
4. 売却・賃貸の判断材料
賃貸市場を見ると、曳舟周辺のワンルーム〜1Kは月額7〜9万円、ファミリータイプは11〜14万円が主流です。2032年に再開発が完成し、240戸の新規住宅と大規模な商業・公共施設が誕生した後には、周辺の賃貸市場にも需要の変化が生じることが見込まれます。売り時・貸し時の判断は、このスケジュールを見据えた長期的な視点で行うことが大切です。
INAとしての見解
私が注目しているのは、「まちづくり方針段階」という今の局面です。事業認可を取得し、権利変換計画が動き出してからでは、情報の非対称性が縮まり、地価への織り込みも進みます。しかし今の段階では、行政計画の内容を丁寧に読み込んでいる人と、そうでない人の間には、エリアの将来像に対する理解に大きな差があります。
もう一点、東東京エリアへの再開発の広がりという文脈でも、この動きは注目に値します。これまで渋谷・品川・新宿・八重洲といった都心・副都心エリアが再開発の主役でしたが、錦糸町・小岩・曳舟といった東東京エリアにも確実に波が来ています。小岩駅再開発で賃貸需要はどう変わる?でも詳しく解説していますが、東東京の再開発は東京の不動産投資地図を書き換えつつあります。
INAでは、曳舟・東向島・八広・京島エリアでの物件オーナー様からのご相談も承っています。「自分の土地がどのゾーンに属するか」「再開発への参加をどう判断すればよいか」「売却・賃貸活用のどちらが有利か」——こうした具体的な疑問をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
まとめ
- 墨田区は令和7年9月に「東武曳舟駅周辺地区まちづくり方針」を策定。対象約8.2haに4ゾーンの整備方針を示した
- UR都市機構施行の第一種市街地再開発事業が具体化。阪急阪神不動産が事業パートナーとして2026年3月に参画
- 再開発は交通広場約2,250㎡・都市計画公園約4,000㎡を含む「広場型再開発」という先進的なアプローチを採用
- スケジュールは2027年度事業認可・2029年度着工・2032年度末完成を予定
- 墨田区の公示地価は前年比+9〜11%と上昇基調。曳舟駅周辺も+8.74%(2024年)で堅調
- 2026〜2027年が地権者・オーナーの情報収集・意思決定の重要な窓口
- 「どのゾーンに属するか」の確認と、共同建て替え・不燃化補助制度の検討を早期に始めることが重要
よくある質問(FAQ)
Q1. 東武曳舟駅前の再開発に「参加」するとはどういうことですか?
A. 第一種市街地再開発事業における「参加」とは、主に権利変換によって事業エリア内の土地・建物の権利を、再開発後の建物の床(権利床)に換えることを指します。現金による「売り渡し」ではなく、新しく建った建物の区分所有権や賃借権を取得する形です。参加するかどうかは地権者の意向によりますが、権利変換計画の認可(2028年度予定)に向けて、早い段階からUR都市機構や区担当課と協議を進めることが重要です。
Q2. 再開発エリア外の土地・建物には影響がありますか?
A. 直接的な権利変換の対象にはなりませんが、間接的な影響は大きいです。再開発完成後にエリアの人流や商業需要が高まることで、周辺の賃貸需要や地価が上昇する可能性があります。また、「にぎわい交流ゾーン」や「沿道にぎわいゾーン」に位置する建物については、共同建て替えや不燃化補助制度を活用した任意の更新も区として推進していますので、積極的に情報収集することをお勧めします。
Q3. 今の時点で売却を検討すべきでしょうか、それとも待つべきでしょうか?
A. 一概には言えませんが、判断のポイントは「再開発の恩恵が地価にどの程度織り込まれているか」と「売却後の資金をどう活用するか」の二点です。現状では、まちづくり方針策定の段階であり、事業認可(2027年度)・着工(2029年度)・完成(2032年度)に向けてさらなる価格変動が予想されます。一般的に、着工から完成にかけてのフェーズで市場の期待値が高まりやすいとされていますが、個別の物件状況によって判断は異なります。ご自身の状況に合わせた具体的なシミュレーションについては、INAまでご相談ください。
Q4. 「広場型再開発」は従来の再開発と何が違うのですか?
A. 従来の市街地再開発事業は、建物の高層化・大型化による容積率の最大活用を主眼とするケースが多い傾向があります。一方「広場型再開発」は、約2,250㎡の交通広場と約4,000㎡の都市計画公園というオープンスペースを事業の核に据える点が特徴です。防災拠点としての公園整備、バリアフリー対応の広場整備、駅前の人々が自然に集まれる空間づくりを重視しており、居住・商業・公共空間をバランス良く整備する手法です。下町エリアにおいて「住み続けたいまち」を実現するための設計思想が反映されているといえます。





