虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズ、六本木エリアの変貌を目の当たりにしてきた不動産オーナーや投資家の方々から、「次はどこが変わるのか」という問いをいただく機会が増えています。港区での再開発が不動産価値と賃貸市況をどう変えたかを学び、その「次の波」に備えることが、これからの賃貸経営における重要な視点です。2026年は品川・新宿・中央区・豊洲という4つのエリアで、それぞれ異なる形の変化が同時に動き始めた年です。
港区が変わった5年間——虎ノ門・麻布台・六本木から学ぶ再開発の波及効果とは?
2019年から2026年にかけて、港区は日本の都市開発史に残るほどの変貌を遂げました。虎ノ門ヒルズ森タワーの竣工(2014年)を皮切りに、ステーションタワー(2023年)、麻布台ヒルズ(2023年)が相次いで開業し、エリア全体の賃料水準・地価・賃貸需要が構造的に変化しています。この変化は「再開発=単なる建物の建て替え」ではなく、そのエリアに住む・働く人の層を入れ替え、消費・居住の両面から需要の質と量を変えるものです。
港区での経験から読み取れる最も重要なポイントは、変化は竣工の2〜3年前から既に周辺賃貸市況に影響を与え始めるという事実です。工事が始まった段階で「まだ先の話」と思っていたオーナーが、竣工後に慌てて対応しても遅い——そういった事例を私は何度も見てきました。このメカニズムは、今まさに港区以外の4エリアで動き始めています。
なお、港区内の白金高輪・三田エリアにおける再開発と不動産価値の関係については、東京の再開発計画:「100年に1度」の大規模都市更新も参考にしてください。
2026年、「次の変化」が始まったエリアはどこか?
① 品川・大井町——「広域品川圏」の誕生と賃貸需要の構造変化
2026年3月28日、東京の不動産市場に大きなニュースが届きました。高輪ゲートウェイシティのグランドオープンと、大井町駅直結の複合施設「OIMACHI TRACKS」のまちびらきが、同日に実現したのです。
高輪ゲートウェイシティは、品川車両基地跡地約9.5ヘクタールを再整備した大規模開発で、延べ床面積は約84.5万㎡に達します(出典:東京都都市整備局「品川駅北周辺地区第一種市街地再開発事業」)。同エリアには総847戸の分譲・賃貸レジデンス「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」が2026年4月から入居開始となり、賃貸住宅の供給も始まっています。
一方のOIMACHI TRACKSは、JR大井町駅に直結した商業・オフィス複合施設です。オフィス部分は約9万㎡で、開業時点でほぼ満床という高い需要を誇り、81の店舗も同時にまちびらきを迎えました(出典:JR東日本「広域品川圏の共創まちづくり 2026年3月28日 本格始動!」PR TIMES)。
JR東日本はこれらを「広域品川圏」という概念の下に位置づけており、浜松町から高輪、大井町に至るエリアを一体的な新都市軸として整備する方針を打ち出しています。総床面積150万㎡、2030年代半ばに営業収益1,000億円を目標とする壮大なプロジェクトです。リニア中央新幹線の品川駅起点、羽田空港の国際線拡充という交通インフラの強化も重なることで、品川・大井町エリアの賃貸需要は今後5〜10年にわたって上昇圧力を受け続けると私は見ています。ただし、同時期に大量供給も予定されているため、近隣のオーナーは供給増加リスクも同時に頭に入れておく必要があります。
品川エリアの全体像については、(仮称)品川駅街区地区 再開発プロジェクトの最新動向でより詳しく解説しています。
② 新宿——「258m超高層」と2030年代に向けた西口再生
新宿は長年、再開発の「遅れたエリア」として語られてきましたが、ここにきて一気に動きが加速しています。小田急百貨店の跡地に計画されている「新宿駅西口地区開発計画」では、地上48階・高さ258.15メートルという新宿最高層のビルが2030年3月の竣工を目指しており、総事業費は2,000億円以上にのぼります(出典:東急不動産「新宿駅西口地区開発計画」)。
さらに、新宿三丁目西地区では「西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発事業」として、総延べ面積約383,600㎡・住宅約3,200戸の大規模再開発が2035年の竣工に向けて進んでいます(出典:新宿区「西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発事業」)。
新宿の再開発が渋谷・港区と異なるのは、「都市型居住者向け」という色合いの強さです。約3,200戸という大規模な住宅供給は、新宿西口を「職住近接エリア」として再定義する可能性があります。このエリアに保有物件をお持ちのオーナーにとっては、2030年前後の需要変化を先読みした戦略が求められます。
③ 中央区——日本橋〜築地に集中する「国際化投資」
中央区は東京の中でも、インバウンド・外資系企業・国際資本が最も集中するエリアへの変貌を遂げつつあります。2026年2月に竣工した「TOFROM YAESU TOWER」(地上51階・高さ約250m)は、東京駅の東側に新たな超高層ランドマークを加えました。日本橋エリアでは大規模オフィス供給が相次ぎ、グローバル企業の日本法人移転・新設の動きも続いています。
そして最大の注目は、築地市場跡地の再開発「ONE PARK × ONE TOWN」です。事業費9,000億円、5万7,000人収容スタジアム、三井不動産を中心とした11社コンソーシアムが手がけるこのプロジェクトは、2029年の暫定開業・2030年代前半の本格開業が見込まれています。東京駅を起点に東西への回遊動線が大きく変わることで、日本橋・築地・浜離宮周辺の賃貸需要は構造的に変化すると私は考えています。築地再開発の詳細については、ONE PARK×ONE TOWN — 都市と自然が共生する未来の築地の再開発構想をご参照ください。
④ 豊洲・湾岸ベイエリア——インバウンドと国際資本が注目するポテンシャル
豊洲・有明エリアは、2025年以降に東京ガスが推進する「新豊洲・循環型未来都市構想」が本格始動し、持続可能な都市開発の先進モデルとして国際的な注目を集めています。臨海地下鉄計画(東京都が推進する新路線構想)が実現すれば、湾岸エリアのアクセスは劇的に改善され、投資・居住の双方の需要が底上げされる可能性があります。
ただし、豊洲・湾岸エリアは新築マンションの供給過多リスクを常に孕んでいます。インバウンド需要や外資系企業の増加は期待できますが、賃貸需要の担保には慎重な見極めが必要です。竣工後の入居率データを継続的に追うことが、このエリアでの投資判断に不可欠です。
賃貸オーナーが押さえるべき「エリア判断軸」——再開発は必ずしも吉とは限らない理由
再開発エリア近隣の賃貸需要は上昇しやすい——これは確かです。しかし、同時に供給も急増するリスクがあります。高輪ゲートウェイシティに847戸の新規賃貸住宅が供給されることは、周辺の既存賃貸物件にとって競合増加を意味します。大井町トラックスのオフィス充足も、周辺のサービスオフィス・小規模賃貸への影響を生む可能性があります。
私が重要だと考えるのは、「竣工後3〜5年」の入居需要の動き方を見極める視点です。再開発エリアでは、開業直後の1〜2年は注目度が高く入居率が高まります。しかし3〜5年後、新規入居者が落ち着いた段階で、需要が本当にそのエリアに根付いているかどうかが試されます。港区での事例を見ると、虎ノ門エリアは外資系企業の集積と富裕層居住の定着によって持続的な需要増を実現していますが、すべての再開発エリアがこの軌跡をたどるわけではありません。
オーナーの方々に私がお伝えしたいのは次の3点です。
- 再開発の公式発表から逆算して動く:行政や事業者の公式発表を確認したうえで、着工前のタイミングから周辺物件のリノベーション・ポジショニング変更を検討する。
- 競合物件の動向を定期的にチェックする:再開発エリアでは競合が増えるため、自物件の差別化ポイントを明確にしておく必要がある。
- 客付け力のある管理会社と連携する:再開発エリア周辺は仲介会社の情報収集力が問われます。エリアの変化を先読みして動ける管理会社との連携が、空室リスクを最小化する鍵となります。
INAの見解——港区以外の「次の波」に備えるために
私たちINA&Associates株式会社は、2026年を「次の10年を決める分岐点」と位置づけています。虎ノ門・麻布台・六本木が不動産市場を変えたように、品川・新宿・中央区・豊洲はそれぞれ異なるメカニズムで周辺エリアの不動産需要を変えていきます。
大型プロジェクトの公式発表後に動き始めるのでは、残念ながら遅いことが多いです。市場が「波が来ている」と認識した段階では、すでに価格・賃料への織り込みが進んでいるからです。だからこそ、行政の都市計画決定、事業者のプレスリリース、市街地再開発事業の申請段階という「波が来る前のシグナル」を早期にキャッチする情報収集体制が必要です。
信頼と正直さを経営の基本に据えている私たちとしては、「再開発エリア近辺だから必ず上がる」という断定はしません。むしろ、エリアごとの特性と供給リスクを透明に説明したうえで、お客様の保有物件の状況に合わせた戦略をともに考えることが私たちの役割だと考えています。
まとめ
2026年以降に「次の波」として注目すべき4エリアのポイントを整理します。
- 品川・大井町:高輪ゲートウェイシティ・OIMACHI TRACKSが同日開業。広域品川圏(総床面積150万㎡)が本格始動し、リニア・羽田国際化で交通インフラが強化される。賃貸需要の上昇と同時に供給増リスクを考慮。
- 新宿:西口258m超高層ビル(2030年竣工)と三丁目西の約3,200戸大規模住宅供給(2035年竣工)。「職住近接エリア」への変貌が進む。
- 中央区(日本橋・築地):TOFROM YAESU TOWERの竣工と、9,000億円規模の築地再開発が2029〜2030年代に向けて進行中。グローバル企業・インバウンドの集積で国際化が加速。
- 豊洲・湾岸ベイエリア:循環型未来都市構想と臨海地下鉄計画が後押し。供給過多リスクへの注意が必要で、慎重な需要見極めが求められる。
港区の成功モデルから学べることは、「波が来る前に準備した人が利益を得る」という普遍的な原則です。いずれのエリアも、竣工・まちびらきよりも数年前から動き始めることが、長期的な不動産経営を守る鉄則です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 再開発エリアのタワーマンション・賃貸物件は今買うべきですか?
A. エリアと個別物件の状況によって異なります。品川・大井町エリアのように需要の裏付けが複数存在する場合は検討の余地がありますが、豊洲・湾岸エリアのように供給増リスクが高い場合は慎重な判断が必要です。「再開発エリアだから安心」という一律の判断は危険です。現在の保有資産状況や投資目的とあわせて、長期的な視野で検討されることをお勧めします。
Q2. 大井町・高輪エリアの賃貸需要はすでに上がっていますか?
A. 2026年3月のまちびらきを機に、オフィス需要(大井町トラックス)と住宅需要(高輪ゲートウェイシティレジデンス)はいずれも高水準でスタートしています。ただし、周辺の既存賃貸物件への影響は今後数年で出てくるものも多く、現時点では一概に「上がっている」とは言えない状況です。継続的な市況のフォローが重要です。
Q3. 新宿西口の再開発は、いつごろ賃貸市況に影響が出ますか?
A. 新宿駅西口地区開発計画(高さ258m)は2030年3月竣工予定です。その影響が賃貸市況に本格反映されるのは、竣工後1〜2年の2031〜2032年ごろとなる見込みです。西新宿三丁目西地区(約3,200戸)は2035年竣工予定で、需要への影響はその前後に集中すると考えられます。今から5〜8年後を見据えたタイミングで準備を始めることが現実的です。
Q4. 築地再開発(ONE PARK×ONE TOWN)は中央区全体の不動産市況にどう影響しますか?
A. 9,000億円規模のプロジェクトと5万7,000人収容スタジアムは、日本橋・銀座・浜離宮周辺の回遊動線と賃貸需要を変える可能性があります。特にスタジアム近辺の短期賃貸・サービスアパートメント需要、そして東京駅周辺のオフィス需要への波及が期待されます。ただし2029年暫定開業、本格開業は2030年代前半とまだ先があるため、引き続き公式情報のモニタリングが重要です。