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COLUMN

競売物件はやめたほうがいい?居座り費用と法定期限を実額解説

競売物件はやめたほうがいい?入札下限は売却基準価額の80%、引渡命令は代金納付から6か月以内。居座り時の明渡執行費用と取得後の税金を実額で解説します。

最終更新: 約35分で読めます

競売物件を買うべきか迷っている方に、最初にお伝えしたい結論があります。競売物件の「安さ」は、法律で決められた価格の下限と、買受人が引き受ける手続き・費用・時間の対価がセットになったものです。とくに前所有者が居座った場合、退去させる手段は法律上用意されていますが、代金納付から6か月という期限があり、動き出しが遅れると使えなくなります。この記事では、競売・公売・任意売却の違い、居座り対応にかかる実際の金額と日数、落札後の税金までを、条文と裁判所・国税庁の公表資料の数字だけで整理します。

この記事のポイント

  • 入札できる下限額は「買受可能価額=売却基準価額の80%」と法律で決まっています(民事執行法60条3項)。「市場価格の2〜3割引」は法定の数値ではありません。
  • 居座り対応の切り札である引渡命令は、代金を納付した日から6か月以内(明渡猶予のある建物賃借人が相手なら9か月以内)にしか申し立てられません(同法83条2項)。
  • 明渡しの強制執行は、執行官への予納金65,000円(東京地裁の標準額)が起点で、作業員日当・遺留品運搬費・倉庫保管費は別途かかります。
  • 「裁判所は一切責任を負わない」は不正確です。免責されるのは種類・品質の不適合だけで、権利の不適合には解除・代金減額・損害賠償の余地があります(民法568条)。
  • 公売(官公庁オークション)は競売よりさらに厳しく、不動産について国は引渡しの義務を負いません。引渡命令に当たる制度がありません。

結論:競売物件はやめたほうがいいのか

初めて不動産を取得する方、手元資金に余裕がない方、落札後に半年以上のタイムラグを許容できない方には、私はお勧めしていません。逆に、現金で決済でき、明渡しに数か月と数十万円をかける前提で資金計画を組め、3点セットを自分で読める方であれば、検討する価値はあります。判断を分けるのは物件の良し悪しではなく、「手続きの時間と費用を自分で負担できるか」という一点です。

価格の下限は法律で決まっている:買受可能価額=売却基準価額の80%

競売でよく語られる「相場より2〜3割安い」という表現には、法的な裏づけがありません。法律が定めているのは、入札できる金額の下限だけです。

執行裁判所は評価人の評価に基づいて「売却基準価額」を決め、買受けの申出額は売却基準価額から10分の2を控除した「買受可能価額」以上でなければならないとされています(民事執行法60条3項)。売却基準価額が2,000万円なら、下限は1,600万円です。つまり「20%引き」は、あくまで入札を受け付ける床であって、落札額でも市場価格との差でもありません。人気物件では売却基準価額を上回る価格で落札されることも珍しくありません。

「安い」の正体は、買受人が引き受けるリスクの対価である

評価人は、占有者がいること、内部を確認できないこと、売主の協力が得られないことといった競売固有の事情を織り込んで評価します。安さの正体は、通常の売買であれば売主や仲介会社が負っていた作業とリスクが、そのまま買受人に移っているという構造です。

ですから、競売の損得を判断するときは落札額だけを見ても意味がありません。落札額+登録免許税+不動産取得税+明渡しの実費+承継する滞納金+原状回復費まで積み上げてから、近隣の売買事例と比べる必要があります。この記事の後半で、その積算を実際の税率と予納金額で行います。

競売物件の法定コストと法定期限【一覧表】

競売は、期日と金額の多くが法律と裁判所の運用で決まっています。まず全体像を数字で押さえてください。以下は東京地方裁判所民事第21部(民事執行センター)が公表している手続きの流れです。

不動産競売 売却手続の流れ 期間入札 公告から代金納付・引渡命令までのフロー図
期間入札による売却手続の流れ(出典:東京地方裁判所「競売不動産の買受手続」

図のとおり、公告から代金納付までが一本道で進み、引渡命令はその後に別の申立てとして続きます。ここが「落札したのに住めない」が起きる分岐点です。

入札から代金納付までの数値表

項目数値・期限根拠
入札できる下限額買受可能価額=売却基準価額の80%(10分の2を控除)民事執行法60条3項
買受申出の保証(保証金)通常は売却基準価額の20%。それ以上のこともあるため公告書で確認同法66条/東京地裁の運用
入札期間民事執行センターでは通常8日間東京地裁「競売不動産の買受手続」
公告書の掲示・3点セットの備置き通常、入札期間開始日の15日前同上
暴力団員等でない旨の陳述書入札書ごとに提出。未提出は入札無効(追完不可)民事執行法65条の2
代金納付期限通常、売却許可決定確定の日から約1か月以内同法78条1項/東京地裁の運用
保証金の扱い買受人が提供した保証は代金に充当される同法78条2項
期限内に代金を納付しない場合買受資格を失い、保証の返還も受けられない東京地裁「競売不動産の買受手続」

ここで実務上いちばん効いてくるのは、最後の2行です。売却基準価額2,000万円の物件なら、入札時点で400万円を用意し、落札後およそ1か月で残額を現金で納めることになります。金融機関の審査がこの日程に間に合わなければ、保証金400万円は戻りません。融資を引き出すための金融機関との関係構築を平時から進めていない方には、競売の日程は厳しいと申し上げざるを得ません。

落札後に動く期限の数値表

項目期限根拠
引渡命令の申立て(原則)代金を納付した日から6か月以内民事執行法83条2項
引渡命令の申立て(明渡猶予のある抵当建物使用者が占有していた建物)代金を納付した日から9か月以内同上
明渡猶予が認められる占有者への申立て可能時期代金納付日から6か月の猶予期間経過後(例外あり)民法395条1項/東京地裁
引渡命令に対する執行抗告の期間正本の送達を受けた翌日から起算して1週間東京地裁「引渡命令の申立てから強制執行の申立てまでの手続の流れ」
明渡執行の開始日時申立日から原則2週間以内の日を執行官と協議して決定裁判所「不動産引渡(明渡)執行」
明渡しの催告から引渡し期限まで催告があった日から1か月を経過する日民事執行法168条の2第2項

実費の数値表

費目金額出典
引渡命令の申立手数料相手方1名につき収入印紙500円東京地裁「不動産引渡命令の申立てについて」
引渡命令の予納郵便切手(110円×申立人の人数)+(1,220円×相手方の数)同上
明渡執行の予納金(基本額)不動産明渡等事件 65,000円東京地裁執行官室「予納金額標準表(令和3年4月1日改定)」
同 加算額債務者1名、物件1個増すごとに40,000円加算同上
予納金に含まれないもの作業員日当、遺留品運搬費用、倉庫保管費用等は別途同上(注記)
法人が当事者の場合申立前3か月以内の資格証明書が必要東京地裁「不動産引渡命令の申立てについて」

予納金額標準表の注記には、明渡し等事件の作業員日当、遺留品運搬費用、倉庫保管費用は予納金に含まれない旨が明記されています。65,000円は上限ではなく、入口の金額です。室内に大量の家財が残っていれば、運搬と保管の実費が積み上がります。

前所有者が居座ったらどうなるか:引渡命令から強制執行までの流れと費用

「競売物件 トラブル 居座り」で調べておられる方に、最も具体的にお答えします。占有者が任意に出ていかない場合、買受人が使えるのは引渡命令という裁判で、これを得てから執行官に明渡しの強制執行を申し立てます。話し合いや任意交渉は、この2段階の手続きの外側にある選択肢にすぎません。

不動産執行手続の流れ 開始係・売却係・配当係の全体フロー図 引渡命令申立と執行文付与を含む
不動産執行手続の流れ(出典:東京地方裁判所「不動産執行手続」

図の右下、配当係の欄に「引渡命令申立→引渡命令発令→執行文付与等」と並んでいます。代金納付で終わりではなく、そこから別の手続きが始まるという構造が見て取れます。

時系列表:代金納付から断行まで

段階何を出すかいくら払うか期限・目安
1. 代金納付保管金受入手続添付書等落札額-保証金売却許可決定確定から約1か月以内。この日が6か月・9か月の起算日
2. 引渡命令の申立て申立書・当事者目録・物件目録、(法人なら3か月以内の資格証明書)、受書印紙500円+郵券(110円×申立人+1,220円×相手方)代金納付日から6か月以内(明渡猶予の建物賃借人は9か月以内)
3. 審尋―(裁判所が相手方に審尋書を送達)通常7日以内に回答するよう送達
4. 発令・送達裁判官が記録と回答書を審査して発令
5. 確定執行抗告期間=送達の翌日から1週間の経過
6. 執行文付与・送達証明付与申立て、送達証明申請印紙代等確定後
7. 明渡執行の申立て申立書、執行文付き引渡命令正本、送達証明書、資格証明書、執行場所略図予納金65,000円(+加算40,000円/債務者・物件増)執行官室へ。印紙・切手は原則不要
8. 明渡しの催告債権者(代理人)の現場立会い申立日から原則2週間以内の日に実施
9. 引渡し期限催告があった日から1か月を経過する日
10. 断行債権者(代理人)の立会い作業員日当・運搬費・保管費(実費)引渡し期限までの適宜の日

手続き自体はよく整備されていて、順調に進めば代金納付から数か月で明渡しに至ります。問題は、どの段階でも買受人が自分で書類を作り、自分で日程を追いかける必要があることです。賃料滞納から強制執行までの手続きの全体像を経験したことのある方であれば負担の実感が湧きますが、初めての方には想像以上の作業量です。

民法395条1項の6か月明渡猶予がつくケースと、2項の催告で猶予を切る方法

占有者が誰かによって、扱いが変わります。抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使っている「抵当建物使用者」は、買受けの時から6か月を経過するまで、建物を買受人に引き渡す必要がありません(民法395条1項)。競売手続の開始前から使用している賃借人が典型です。

ただし、この猶予は無条件ではありません。買受け後の建物使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がない場合には、猶予の規定は適用されません(同条2項)。実務では、内容証明郵便と配達証明で催告した証拠を残し、その写しを引渡命令の申立てに添付します。賃料相当額の請求を怠っていると、この選択肢を自分で潰すことになります

費用を積み上げるとこうなる:居座り1件あたりの実費計算例

債務者1名が単独で占有する区分マンション1室(物件1個)を、東京地裁の標準額で試算します。

項目金額
引渡命令の申立手数料(相手方1名)500円
予納郵便切手(申立人1名・相手方1名)1,330円(110円+1,220円)
明渡執行の予納金(基本額)65,000円
小計(公表額で確定する部分)66,830円
作業員日当・遺留品運搬費・倉庫保管費実費・別途(残置物の量で変動)
弁護士に依頼する場合の報酬別途(事務所ごとに異なる)
明渡しまでの空室期間の逸失賃料想定賃料×月数

公表資料から確定できるのは66,830円までで、それ以外は物件の状態と依頼形態で変わります。ここで、金額の不確実性より重いのは逸失賃料です。月10万円で貸せる部屋なら、明渡しに8か月かかった時点で80万円の収入を失っています。競売の「20%引き」は、この時間コストを吸収できる範囲かどうかで意味が変わります。

期限を1日でも過ぎると引渡命令は使えない

買受人は、代金を納付した日から6か月(明渡猶予のある抵当建物使用者が占有していた建物は9か月)を経過したときは、引渡命令の申立てをすることができません(民事執行法83条2項)。これは動かせない期限です。

「もう少し話し合えば出ていってくれそうだから」と交渉を続けているうちに6か月が過ぎると、以後は通常の訴訟で建物明渡請求をするしかなくなります。時間も費用も一段跳ね上がります。交渉と並行して引渡命令を申し立てておくのが、実務上の基本形です

競売で消える権利・引き継ぐ権利【一覧表】

競売の権利関係は「全部きれいになる」わけではありません。消えるものと、買受人が引き継ぐものが条文で分けられています。

権利・債務売却後どうなるか根拠
先取特権、使用収益をしない旨の定めのある質権、抵当権売却により消滅する民事執行法59条1項
消滅する権利者・差押債権者・仮差押債権者に対抗できない権利の取得売却により効力を失う同条2項
差押え、仮差押えの執行、対抗できない仮処分の執行売却により効力を失う同条3項
留置権、使用収益をしない旨の定めのない質権買受人が被担保債権を弁済する責任を負う同条4項
抵当権者に対抗できない賃貸借による抵当建物使用者の占有買受けの時から6か月は引渡し不要民法395条1項
買受人に対抗できる権原による占有引渡命令の対象外(そのまま引き継ぐ)民事執行法83条1項ただし書
区分所有マンションの滞納管理費・修繕積立金特定承継人である買受人に請求できる区分所有法7条1項・8条

引き継ぐもの:留置権と、使用収益する質権の被担保債権

見落とされやすいのが民事執行法59条4項です。不動産の上に留置権が存在する場合、買受人はその留置権によって担保される債権を弁済する責めに任ずるとされています。工事代金が未払いのまま施工業者が建物を占有しているようなケースでは、落札額とは別に、その債権を支払わなければ明渡しを受けられない可能性があります。3点セットの物件明細書で、引き継ぐ権利の有無を確認する意味はここにあります

引き継ぐもの:滞納管理費は「管理規約」ではなく法律上の承継である

区分所有マンションで前所有者が管理費や修繕積立金を滞納していた場合、その債権は債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると定められています(建物の区分所有等に関する法律8条、対象債権は同法7条1項)。落札者は特定承継人にあたるため、管理組合から請求を受けます。

ここを「管理規約に定めがあるから引き継ぐ」と説明している情報を見かけますが、正確ではありません。規約の有無や内容にかかわらず、法律の効果として承継します。区分所有物件を落札するなら、代金納付後すみやかに管理組合または管理会社へ滞納額を照会し、資金計画に織り込んでください。管理費の定義と内訳を理解しておくと、照会時の会話が具体的になります。

「裁判所は一切責任を負わない」は正確ではない:民法568条の読み方

競売の説明で最も多い誤りが、「いかなる問題が起きても一切責任を追及できない」という表現です。民法568条は、そこまで広い免責を定めていません。

種類・品質の不適合(雨漏り・シロアリ等)は568条4項で適用除外

同条4項は「前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない」と定めています。つまり、物理的な欠陥については、買受人は解除も代金減額も損害賠償も求められません。雨漏り、シロアリ被害、給排水設備の劣化、耐震性能の不足は、すべてこの範囲に入ります。内部を見られないまま入札する競売において、これが最大の負担であることに変わりはありません。

だからこそ、外観と3点セットの写真から修繕費を見積もる力が要ります。中古物件の購入前デューデリジェンスで確認すべき項目を、競売では自分ひとりで、しかも室内に入れない状態で行うことになると理解してください。

権利の不適合・数量不足は1〜3項で解除・代金減額・損害賠償の余地がある

一方、権利に関する不適合は扱いが異なります。民法568条1項により、買受人は債務者に対して契約の解除または代金の減額を請求できます。2項は、債務者が無資力であるときに、代金の配当を受けた債権者に対して代金の全部または一部の返還を請求できると定めています。さらに3項は、債務者が物や権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、または債権者がこれを知りながら競売を請求したときに、買受人はこれらの者に損害賠償を請求できるとしています。

実際に権利の不適合が争点になる場面は限られますが、「全部自己責任」と「物理的欠陥は自己責任」はまったく違う話です。この線引きを知らずに諦めてしまう買受人が少なくありません。

競売・公売・任意売却・通常の仲介売買を比較する【比較表】

「不動産オークション」「官公庁オークション」と呼ばれる公売は、税金の滞納処分として国税徴収法に基づいて行われる手続きで、民事執行法に基づく競売とは別の制度です。ここを混同したまま入札すると、引渡しの段階で行き詰まります。

比較軸競売公売(官公庁オークション)任意売却通常の仲介売買
根拠法民事執行法国税徴収法民法(通常の売買)+債権者の同意民法・宅地建物取引業法
価格の下限買受可能価額=売却基準価額の80%(60条3項)見積価額(最低入札価額)以上債権者が同意する価格売主の希望価格
保証金通常は売却基準価額の20%見積価額の100分の10以上の額(国税徴収法100条1項)手付金(当事者間で決定)手付金(当事者間で決定)
公告から入札まで公告書掲示・3点セット備置きは入札開始の15日前公売公告は公売の日の少なくとも10日前まで(同法95条1項)
事前の内覧差押債権者の申立てがあれば内覧制度あり(民事執行法64条の2)制度としての内覧はなし可能(売主の協力が前提)可能
種類・品質の不適合への責任適用除外(民法568条4項)適用除外(民法568条4項)契約で定める(免責特約が付くことが多い)契約不適合責任あり
占有者を退去させる公的手段引渡命令+明渡執行(民事執行法83条)国は引渡しの義務を負わない売主が明渡して引渡すのが原則売主が明渡して引渡すのが原則
暴力団員等でない旨の陳述必要(民事執行法65条の2)。虚偽陳述は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法213条)不動産は必要(国税徴収法99条の2)。虚偽陳述は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法189条)不要不要
融資の実務納付期限が約1か月と短く、現金決済が中心納付期限は公売公告に記載。現金決済が中心通常の住宅ローン・投資用ローンを利用しやすい利用しやすい

公売はさらに厳しい:国は不動産の引渡し義務を負わない

国税庁の「公売のしおり」には、公売財産が不動産である場合について「国は引渡しの義務は負いません。なお、土地の境界については、隣接地所有者と協議してください」と明記されています。競売の引渡命令に相当する制度が、公売にはありません。占有者がいれば、買受人が自分で訴訟を起こして債務名義を取るところから始めることになります。

境界の記述も見過ごせません。国は境界について責任を負わず、隣接地所有者との協議は買受人の仕事です。加えて、買受代金の全額を納付した後に生じたき損・盗難・焼失等による損害の負担も買受人が負い、権利移転手続に必要な登録免許税や郵便切手も買受人負担とされています。「不動産オークション」という言葉の軽やかさと、制度の内容には相当な開きがあります

任意売却・通常仲介との違いは「事前確認」と「引渡しの確保」にある

任意売却は、競売になる前に債務者と債権者の合意で売却する方法です。売主が協力するため内覧ができ、引渡しの条件も契約で決められます。買主から見た最大の違いは価格ではなく、買う前に中を見られることと、引渡しを契約で確保できることの2点です。任意売却の価格水準は個別の事情で決まるため、一律に「市場価格の何割引」と言える性質のものではありません。

内覧・3点セットで事前に確認できること、できないこと

内覧制度は存在する(民事執行法64条の2)

「競売物件は内覧できない」という説明は、正確ではありません。民事執行法64条の2は、差押債権者の申立てがあるときは、執行裁判所は執行官に対し内覧の実施を命じなければならないと定めています。買受希望者を立ち入らせて見学させる制度です。

ただし、当該不動産の占有者の占有権原が差押債権者らに対抗できる場合で、その占有者が同意しないときは実施されません(同条1項ただし書)。また、申立ては差押債権者が行うもので、買受希望者が自分で請求できるものではありません。実施件数が多くないのは事実ですが、制度がないのではなく、申立てが前提だという理解が正しいところです。物件情報サイトBITの公告や物件明細書で、内覧実施の有無を確認してください。

3点セットで読むチェックリスト

3点セットは、物件明細書・現況調査報告書・評価書の3つです。入札前に確認したい項目を挙げます。

  1. 占有者は誰か(現況調査報告書に占有者の氏名が記載されます)
  2. その占有者は占有権原を有しているか(同上。ここが引渡命令の可否を分けます)
  3. 買受け後もそのまま引き継ぐ賃借権等があるか(物件明細書)
  4. 土地または建物だけを買い受けたときに、建物のために地上権が成立するか(物件明細書)
  5. 留置権や、使用収益する質権の記載がないか(民事執行法59条4項の弁済責任に直結します)
  6. 建物の種類・構造、土地の現況地目と、添付写真から読み取れる劣化の程度(現況調査報告書)
  7. 評価額の算定根拠、周囲の環境の概要、公法上の規制と添付図面(評価書)
  8. 区分所有物件なら、敷地権の表示と管理費の滞納可能性

裁判所自身が、これらの書類は「不動産の競売手続において収集された限りの限定的な参考資料」であると注意を促しています。現地に行って自分の目で確認し、登記所で権利関係を確かめることが前提です。建物の適法性が気になる場合は、検査済証がない物件のリスクと対処法もあわせて確認してください。

暴力団員等に該当しない旨の陳述書と警察への調査嘱託

2020年4月施行の改正により、不動産の買受けの申出には、買受けの申出をしようとする者が暴力団員等に該当しない旨などの陳述が必要になりました(民事執行法65条の2)。東京地裁の案内では、陳述書は入札書ごとに必要で、入札時に提出がないと入札は無効となり、追完もできないとされています。記載不備でも無効になることがあります。

さらに執行裁判所は、最高価買受申出人が暴力団員等に該当するか否かについて、所在地を管轄する都道府県警察に調査を嘱託しなければならないとされています(同法68条の4)。公売にも同趣旨の規定があり(国税徴収法99条の2、106条の2)、虚偽の陳述は競売・公売のいずれも6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(民事執行法213条、国税徴収法189条)。

落札額1,800万円の総取得コストを積算する【計算例】

モデルケースの前提

売却基準価額2,000万円、買受可能価額1,600万円、保証金400万円の区分マンション1室を、1,800万円で落札したと仮定します。固定資産課税台帳の登録価格は建物400万円・土地(敷地権)600万円とします。賃貸に出した場合の想定賃料は月10万円(年120万円)です。

登録免許税・不動産取得税

登録免許税の課税標準は落札額ではなく、原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。建物の売買または競売による所有権の移転は1,000分の20(2.0%)とされています(国税庁タックスアンサーNo.7191)。

ひとつだけ例外があります。個人が住宅用家屋を競落し、自己の居住の用に供した場合の移転登記は1,000分の3(0.3%)に軽減されます(租税特別措置法73条、適用期限は令和9年3月31日)。床面積50平方メートル以上であること、取得後1年以内に登記を受けること、市区町村長の証明書を登記申請書に添付することが要件です。賃貸に出す前提で落札する場合は、この軽減は使えません。

土地については注意が必要です。土地の売買による所有権移転登記には本則2.0%に対して1.5%の軽減措置があり、令和8年度税制改正でその適用期限は令和11年3月31日まで延長されました(租税特別措置法72条1項)。しかし国税庁の税額表では、競売による土地の所有権移転は「その他(贈与・交換・収用・競売等)」に区分され、税率は1,000分の20(2.0%)です。競売で土地を取得する場合、この軽減は前提にできません。

税目課税標準税率税額
登録免許税(建物)400万円2.0%(売買または競売による移転)8.0万円
登録免許税(土地)600万円2.0%(競売等はその他に区分)12.0万円
不動産取得税(建物・住宅)400万円3%(本則4%、適用期限 令和9年3月31日)12.0万円
不動産取得税(土地)300万円(宅地等は価格の2分の1)3%(適用期限 令和9年3月31日)9.0万円
小計41.0万円

土地の欄が建物より低いのは、二つの措置が重なっているためです。まず、令和9年3月31日までに宅地等(宅地および宅地評価された土地)を取得した場合、課税標準は価格の2分の1になります。そのうえで税率も、平成20年4月1日から令和9年3月31日までの取得については、土地と住宅が3%、非住宅の家屋だけが本則の4%です(東京都主税局)。上の表はこの前提で計算しています。

不動産取得税にはさらに、住宅を新築した場合に課税標準から1,200万円を控除する特例、中古住宅を取得した場合に新築時における控除額と同額を控除する特例があります(国土交通省)。ただし中古住宅の控除は個人が自己の居住の用に供する場合の制度で、賃貸用として落札する場合は対象になりません。税額は自治体の運用や物件の要件でも変わりますので、取得前に都道府県税事務所へご確認ください。詳しくは不動産取得税の軽減措置と還付申請の手順で整理しています。

最終コストと利回りの再計算

ここに、居座り対応と承継債務、原状回復を加えます。滞納管理費は月2.5万円×24か月=60万円、原状回復費80万円と仮定します(この2つは物件ごとに変動する仮定値です)。

項目金額性質
落札代金1,800.0万円確定(保証金400万円は代金に充当)
登録免許税20.0万円公表税率から算定
不動産取得税21.0万円公表税率から算定(宅地等の課税標準2分の1を適用)
引渡命令の印紙・郵券0.2万円公表額
明渡執行の予納金6.5万円公表額(作業員日当等は別途)
滞納管理費・修繕積立金の承継60.0万円仮定値(区分所有法8条により承継)
原状回復・修繕80.0万円仮定値
総取得コスト1,987.7万円

年間賃料120万円で計算すると、落札額基準の表面利回りは6.67%ですが、総取得コスト基準では6.04%になります。さらに明渡しに8か月かかれば初年度の賃料収入は40万円にとどまり、初年度の利回りは2.0%まで落ちます。売却基準価額の20%引きで入札できたとしても、この積算を通すと「安い買い物」に見えなくなる場面は珍しくありません。競売の損得は、落札額ではなくこの表で決まります

無剰余取消しで入札の準備が無駄になる可能性

もうひとつ、時間コストの話をしておきます。差押債権者の債権に優先する債権がない場合に買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、または優先債権がある場合に買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計に満たないときは「無剰余」とされ、執行裁判所は差押債権者に通知します(民事執行法63条1項)。

通知を受けた差押債権者が1週間以内に一定の措置をとらなければ、競売手続そのものが取り消されます(同条2項)。買受希望者が3点セットを読み込み、現地を見て、資金を用意していても、手続きが消える可能性があるということです。これは競売固有の空振りコストで、通常の仲介売買にはありません。

自宅が競売にかけられそうな方へ:売主側から見た競売と任意売却

ここまでは買受人の視点でしたが、ご自身の不動産が競売にかけられそうな状況で調べておられる方もいらっしゃいます。売主側から見ると、制度の意味はまったく変わります。

競売では、価格の下限は買受可能価額(売却基準価額の80%)であり、その水準で落札されることもあり得ます。売却基準価額は評価人の評価に基づいて執行裁判所が定めるもので、所有者が価格交渉に加わる余地はありません。売却の時期、条件、引渡しの方法も、所有者の意思とは無関係に進みます。裁判所も、競売不動産は「所有者の意思にかかわらず強制的に売却される」と説明しています。

これに対し任意売却は、債権者の同意を前提に、通常の売買として市場に出す方法です。買主は内覧でき、住宅ローンを使えるため、買主層が広がります。引渡しの時期も契約で調整できます。売主にとっての違いは、価格そのものよりも「市場で買主を選べるかどうか」にあります

ただし、任意売却は債権者との合意が必要で、検討できる期間にも限りがあります。督促や競売開始決定が届いた段階で、金融機関と早めに相談することが実務上の分かれ目になります。返済が苦しくなってきた段階での選択肢は、住宅ローンが払えない時の対処法と滞納リスクで整理しています。また、賃貸中の物件が抵当権の実行を受ける場合の流れは抵当権付き賃貸物件の実行時リスクをご覧ください。

まとめ:どういう人なら競売を検討してよいか

競売物件そのものが悪いわけではありません。制度は整っていますし、条文も裁判所の運用も公開されています。問題は、通常の売買であれば売主・仲介会社・金融機関が分担していた作業を、買受人ひとりが引き受ける点にあります。

次の項目にすべて「はい」と答えられる方であれば、検討してよいと考えます。

  • 売却許可決定確定から約1か月以内に、落札額全額を現金で納付できる
  • 落札額とは別に、明渡し・税金・滞納金・原状回復で数百万円の追加支出を織り込める
  • 物件明細書・現況調査報告書・評価書を自分で読み、引き継ぐ権利の有無を判断できる
  • 代金納付から6か月以内に引渡命令を申し立てる、という期限を自分で管理できる
  • 明渡しが完了するまでの数か月、賃料収入がゼロでも資金繰りが回る
  • 物理的な欠陥が見つかっても、誰にも請求できないことを受け入れられる

私たちINA&Associates株式会社は、デメリットを含めて先にお伝えすることが長期的な信頼につながると考えています。競売は「安く買う方法」ではなく、「手間と時間を自分で負担する代わりに、価格の下限が法律で守られている取引」です。その負担を引き受けられるかどうかで判断していただくのが、いちばん誤りが少ない方法だと考えております。

よくある質問

Q1. 競売物件はどれくらい安く買えますか

法律が定めているのは下限だけで、「相場より何割安い」という基準はありません。入札できる下限は買受可能価額=売却基準価額の80%です(民事執行法60条3項)。実際の落札額は入札状況で決まり、売却基準価額を上回ることもあります。判断には、落札額に登録免許税・不動産取得税・明渡し費用・承継する滞納金・原状回復費を加えた総取得コストで比較してください。

Q2. 前所有者が居座ったら、退去までにいくら・何か月かかりますか

公表額で確定する費用は、引渡命令の印紙500円と予納郵券1,330円、明渡執行の予納金65,000円の合計66,830円が起点です(東京地裁の標準額、債務者1名・物件1個の場合)。これに作業員日当・遺留品運搬費・倉庫保管費が別途かかります。期間は、明渡執行の申立てから原則2週間以内に催告が行われ、引渡し期限は催告日から1か月を経過する日です。引渡命令の審尋や執行抗告期間を含めると、代金納付から数か月を見ておくのが現実的です。

Q3. 競売物件は内覧できないのですか

制度としては内覧があります。差押債権者の申立てがあるときは、執行裁判所は執行官に内覧の実施を命じなければならないとされています(民事執行法64条の2)。ただし、対抗できる占有権原を持つ占有者が同意しない場合は実施されません。買受希望者が自分で申し立てることはできないため、実施の有無は公告や物件明細書で確認してください。

Q4. 雨漏りやシロアリが見つかったら、本当に何も請求できませんか

種類または品質に関する不適合については、民法568条4項により同条1〜3項が適用されず、解除・代金減額・損害賠償を請求できません。雨漏りやシロアリはここに含まれます。一方、権利に関する不適合であれば、1項で解除・代金減額、2項で債務者が無資力の場合の代金返還請求、3項で悪意の債務者や債権者に対する損害賠償の余地があります。「一切責任を負わない」という説明は正確ではありません。

Q5. 公売(官公庁オークション)は競売と何が違いますか

根拠法が国税徴収法である点と、引渡しの扱いが最も大きな違いです。国税庁「公売のしおり」は、公売財産が不動産である場合について国は引渡しの義務を負わないと明記しており、競売の引渡命令に相当する制度がありません。土地の境界も隣接地所有者と協議するよう求められています。公売保証金は見積価額の100分の10以上、公売公告は公売の日の少なくとも10日前までです。

Q6. マンションの滞納管理費は落札者が払うのですか

はい。管理規約の定めではなく、法律上の効果として承継します。区分所有法7条1項が対象となる債権を定め、8条が「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」としています。落札者は特定承継人にあたるため、管理組合から請求されます。代金納付後すみやかに管理組合または管理会社へ滞納額を照会してください。

引用・参考資料

本記事は制度の一般的な説明であり、個別の物件・税務・法務の判断は、弁護士・税理士・司法書士および所轄の都道府県税事務所にご確認ください。

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
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  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者