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立ち退き要求の進め方|正当事由と立ち退き料の目安を解説

賃貸オーナー向けに、入居者への立ち退き要求が認められる正当事由の条件、通知書の書き方、交渉の流れ、立ち退き料の目安と注意点を、借地借家法をふまえて体系的に解説します。

最終更新: 約11分で読めます

入居者への立ち退き要求は、建物の老朽化や建て替え、家賃の未払いなど、さまざまな理由で発生します。しかし、日本では借地借家法によって入居者の居住権が手厚く保護されており、オーナーの一方的な都合だけで退去を求めることはできません。正当な事由と適切な手続き、そして誠実な交渉があってはじめて、円満な立ち退きが実現します。本記事では、立ち退き要求が認められる条件、通知書の書き方、交渉の進め方、立ち退き料の目安までを、賃貸オーナーの視点で体系的に解説します。

立ち退き要求の前提となる法律の考え方

立ち退きの実務を理解する出発点は、借地借家法の存在です。この法律は、生活や事業の基盤である住まいを守るため、賃貸借契約において立場の弱くなりがちな入居者を保護する目的で設けられています。そのため、オーナーが更新を拒絶したり解約を申し入れたりする場合には、後述する「正当な事由」が求められます。

普通借家契約では、契約期間が満了しても入居者が住み続けたい意思を示せば、原則として契約は法定更新されます。オーナーが更新を拒む、あるいは契約途中で解約を申し入れるには、通知の期限を守り、かつ正当事由を備える必要があるのです。この基本構造を理解しないまま強引に退去を迫ると、かえって交渉が長期化します。

普通借家契約と定期借家契約の違い

立ち退きの難易度は契約形態によって大きく変わります。定期借家契約は更新の概念がなく、期間満了で確定的に契約が終了するため、正当事由を問われません。一方、普通借家契約では正当事由と立ち退き料が論点になります。ご自身の物件がどちらの契約かを、まず契約書で確認してください。

立ち退きのお願いが発生するケースとは?

立ち退きには、大きく分けてオーナー都合によるものと、入居者の契約違反によるものの2パターンがあります。それぞれで法的な取り扱いや立ち退き料の要否が異なるため、最初に自分のケースがどちらに当たるかを整理することが重要です。

オーナー都合の場合

老朽化による建て替え、耐震性不足への対応、オーナー自身やその家族の居住利用(自己使用)などが典型です。これらはオーナー側の事情による退去要請であるため、正当な事由が必要となり、さらに立ち退き料の支払いが一般的です。契約期間満了に伴う更新拒絶の場合は、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知を行う必要があります。

入居者の契約違反の場合

おおむね3ヶ月以上にわたる家賃滞納、ペット不可物件でのペット飼育、無断転貸、近隣への著しい迷惑行為などが該当します。入居者側に落ち度がある場合は、信頼関係が破壊されたと評価されやすく、立ち退き料の支払いは原則として不要です。ただし、契約解除には催告など一定の手順が求められる点に注意が必要です。

立ち退きに必要な「正当な事由」とは?

借地借家法では、オーナー都合の立ち退きには正当な事由が必要と定められています。正当事由は一つの要素だけで判断されるのではなく、複数の事情を総合的に比較衡量して評価されます。

正当事由の判断に影響する要素

判断にあたっては、オーナーと入居者それぞれが建物を必要とする事情、これまでの賃貸借の経緯、建物の利用状況や現況、そして立ち退き料の提供の有無や金額などが考慮されます。オーナーの必要性が高く、入居者の不利益が金銭で埋め合わせられるほど、正当事由は認められやすくなります。

正当事由として認められやすいケース

建物の耐震性が現行基準を満たさない場合、老朽化により居住の安全性が確保できない場合、建て替えによって耐震化やバリアフリー化など公益的な改善を行う場合などは、正当事由として評価されやすい傾向にあります。客観的な資料、たとえば耐震診断の結果などを備えておくと説得力が増します。

正当事由が弱い場合の補完

正当事由が単独では十分でない場合でも、相当額の立ち退き料を提供することで補完できる場合があります。立ち退き料には、引っ越し費用、転居先の敷金・礼金などの初期費用、家賃差額の補填などが含まれるのが一般的です。お金で解決するという発想ではなく、入居者の生活再建を支える姿勢が交渉を前に進めます。

立ち退き交渉の流れは?

立ち退きは、段階を踏んで進めることが何より重要です。法的に有効であることはもちろん、入居者との信頼関係を損なわない円満な解決を目指しましょう。順序を飛ばすと、後の交渉や法的手続きで不利になりかねません。

ステップ1:文書での事前通知

立ち退きの理由と時期を明記した文書を、入居者に送付します。契約期間満了に伴う更新拒絶の場合は満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知するのが原則で、期間の定めのない契約での解約申し入れの場合は、申し入れから6ヶ月の経過により契約が終了します。後日の証拠となるよう、内容証明郵便を用いる方法が確実です。

ステップ2:対面での交渉

文書送付後、入居者と直接面談して条件を交渉します。立ち退き料の金額や退去の時期について、双方が納得できる着地点を模索します。一方的に条件を押し付けるのではなく、相手の生活事情に耳を傾ける姿勢が、結果的に早期の合意につながります。

ステップ3:合意書の締結

条件がまとまったら合意書を作成し、双方が署名・捺印します。退去期限、立ち退き料の金額と支払時期、原状回復の取り扱い、明け渡し後の残置物の扱いなどを明確に記載してください。口頭の約束だけで進めると、後日の「言った・言わない」の紛争を招きます。

ステップ4:交渉難航時の対応

交渉がまとまらない場合は、弁護士に相談のうえ、民事調停や建物明け渡し訴訟の手続きに進むことも検討します。訴訟には時間と費用がかかるため、まずは任意交渉での解決を尽くすことが、双方にとって望ましい選択です。

立ち退き通知書の書き方と記載事項

立ち退き通知書は、交渉の起点となる重要な書面です。内容が曖昧だと、通知の効力そのものが争われかねません。誠実さと明確さを両立させることを意識してください。

通知書に盛り込むべき基本項目

宛先と差出人、物件の表示、契約の特定、立ち退きを求める理由、退去を希望する期限、立ち退き料や協議に応じる旨などを記載します。理由の欄では、老朽化や建て替えといった事実を具体的に示すと、正当事由の主張が明確になります。

通知書作成時の注意点

威圧的・断定的な表現は避け、協議の意思があることを丁寧に伝えます。証拠力を確保するため、内容証明郵便で送付し、控えを保管しておきましょう。記載内容に不安がある場合は、送付前に専門家に確認してもらうことをおすすめします。

立ち退き料の相場はどのくらい?

立ち退き料に法律で定められた基準額はありません。しかし、一般的な目安を把握しておくことで、交渉の指標になります。金額は物件の用途や個別事情によって大きく変動するため、あくまで目安として捉えてください。

用途別の立ち退き料の目安

居住用と事業用では、立ち退きによる損失の性質が異なるため、目安も変わります。とくに店舗や事務所の場合は、移転に伴う営業上の損失(営業補償)が加わる点が特徴です。下表は一般的な考え方を整理したものであり、確定額を保証するものではありません。

物件の用途立ち退き料の目安主な構成要素
居住用(住宅)家賃の6ヶ月〜1年分程度が一つの目安引っ越し費用、転居先の初期費用、家賃差額の補填
事業用(店舗・事務所)ケースにより大きく変動移転費用、内装・設備の再構築費用、営業補償、顧客喪失分

立ち退き料を左右する要素

入居期間の長さ、入居者の年齢や健康状態、周辺の賃料相場、代替物件の見つけやすさ、そしてオーナー側の事情の緊急性などが金額に影響します。長く住んでいる高齢の入居者ほど、生活への影響が大きいと評価されやすく、金額が上振れする傾向があります。

立ち退きを円滑に進めるための注意点

立ち退き交渉は、法的な正しさだけでは前に進みません。相手も生活を営む一人の人間であるという前提に立つことが、円満解決の近道です。ここでは実務上つまずきやすい点を整理します。

自力救済は行わない

家賃滞納があっても、鍵を交換して締め出す、荷物を勝手に運び出すといった実力行使は法律上認められておらず、かえってオーナー側が損害賠償責任を負うリスクがあります。退去を実現するには、正規の手続きを踏むことが唯一の道です。焦りから手順を省くと、状況を悪化させます。

早めの着手と余裕あるスケジュール

建て替えや売却の予定がある場合、逆算して十分な期間を確保することが肝心です。通知の期限が6ヶ月前と定められている以上、直前に動き始めても間に合いません。むしろ、早い段階から誠実に協議を始めるほうが、入居者の理解も得やすくなります。

INA&Associatesの視点:立ち退きは「関わる全員の幸せ」を測る場面

私たちINA&Associates株式会社は、不動産をめぐる意思決定において、オーナーだけでなく入居者を含む関わるすべての人の幸せを重視しています。立ち退きは、その姿勢が最も問われる場面だと考えています。法的に退去を求められる状況であっても、相手の生活再建にどこまで配慮できるかが、その後の評判や信頼を左右します。

だからこそ私たちは、オーナーの権利を守ると同時に、デメリットやリスクも正直にお伝えすることを大切にしています。立ち退き交渉は短期的なコストに見えるかもしれません。しかし、誠実な対応は長期的な資産価値と信頼の蓄積につながります。不動産という長い時間軸の事業だからこそ、目先の損得ではなく、誠実さを選ぶことが最善の投資になります。個別の判断に迷われた際は、専門家への相談とあわせて、私たちのような管理のパートナーを活用することもご検討ください。

よくある質問

正当な事由がなくても立ち退きを求められますか?

正当な事由がない場合、オーナー都合での立ち退きは基本的に認められません。ただし、十分な立ち退き料の提供により入居者との合意が成立すれば、任意の退去が実現するケースはあります。あくまで協議による解決が前提とお考えください。

入居者が立ち退きを拒否した場合はどうなりますか?

任意交渉で解決できない場合は、裁判所の民事調停や建物明け渡し訴訟を通じて解決を図ります。最終的に判決が確定すれば強制執行も可能ですが、時間と費用がかかるため、まずは話し合いによる合意を尽くすことが現実的です。

家賃滞納者への立ち退きにも立ち退き料は必要ですか?

入居者の契約違反が原因の場合、立ち退き料の支払いは原則として不要です。ただし、訴訟の手間や時間を避けて早期に解決するため、あえて少額の移転費用を提示して合意退去を促すケースもあります。

立ち退きの通知はどのくらい前に出せばよいですか?

普通借家契約では、契約期間満了に伴う更新拒絶は満了の1年前から6ヶ月前までの間に通知するのが原則です。期間の定めのない契約での解約申し入れは、申し入れから6ヶ月の経過で契約が終了します。証拠を残すため内容証明郵便での送付をおすすめします。制度の詳細は賃貸オーナー向けコラムもあわせてご覧ください。

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEO — INA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者