アパートやマンションなどの賃貸契約を行うときに、抵当権に関する説明を受けるケースは珍しくありません。入居する側としては「もしも抵当権が実行されたらどうなるのか」と不安に感じることもあるでしょう。
この記事では、抵当権の基本的な仕組みから、実行された場合のリスク、退去の可能性、自分で調べる方法までを詳しく解説します。
そもそも抵当権とはどのような権利か?
抵当権とは、金融機関から融資を受ける際に不動産に設定される担保権です。返済が滞った場合、金融機関は担保の不動産を競売にかけて借金の返済に充てることができます。
オフィスビルやマンションなどは建設費用が高額になるため、金融機関からの融資を受けて建物に抵当権を設定するケースは一般的です。新規事業のスタート時にも、開業資金として抵当権を設定する場合があります。
抵当権が設定されている物件は珍しくないため、過度に不安がる必要はありません。ただし、消費者金融など金融機関以外からの抵当権が設定されている場合は注意が必要です。
また、抵当権は賃貸の重要事項説明で伝えなければならない内容です。説明を怠ると、営業停止や免許取り消しなどの処分の対象となります。
賃貸物件で抵当権が実行されるとどうなるのか?
抵当権が実行されると、最終的に物件が競売にかけられ、オーナーが変わる可能性があります。ここでは、実行後の流れを順に解説します。
物件オーナーの返済が滞ってしまう
抵当権が実行されると、まず物件オーナーのローン返済が滞ります。滞納から6ヶ月程度で分割払いできる「期限の利益」が失われ、残債の一括返済を求められます。一括返済ができなかった場合は保証会社による代位弁済が行われ、最初の滞納から8〜9ヶ月後には不動産競売の申し立てがなされます。
債権者である金融機関が競売にかける
競売決定通知からおよそ2ヶ月後までに、裁判所の執行官が物件調査を行います。競売に関する情報は不動産競売物件サイトに掲載され、誰でもチェック可能です。1週間程度の入札期間を経て開札日に物件を落札した人が、新たなオーナーとなります。
任意売却という方法がとられる場合も
任意売却とは、オーナーの意思で物件を市場価格に近い価格で売却し、債務を弁済する方法です。競売と比べて手元に残る金額が多くなるため、債務をより多く減らせます。成功すれば残債の分割弁済が認められる可能性もあります。
新しいオーナーの希望に沿って退去交渉を行う
新オーナーが入居者に立ち退きを依頼する場合、退去までに6ヶ月間の猶予期間が設けられます。オーナー変更後の立ち退きは正当事由がなくても可能なため、すぐに退去を依頼される可能性があります。
ただし、2004年から「抵当権者の同意により賃借権に対抗力を与える制度」がスタートし、抵当権者全員の同意と登記があれば、新オーナーに対して賃借権を主張できるようになりました。
抵当権が実行されたら必ず退去しなければならないのか?
退去の要否は、抵当権設定と物件引き渡しのタイミングによって異なります。
物件をまだ引き渡していない場合
抵当権の設定時点で物件をまだ引き渡していない場合は、立ち退きを求められる可能性があります。立ち退きリスクを知った上で契約したとみなされるためです。
すでに物件の引き渡しが済んでいる場合
抵当権設定前にすでに引き渡しが済んでいる場合は、賃借権が優先されるため退去に応じる必要はありません。新オーナーが立ち退きを希望する場合は、正当事由に基づく交渉や裁判が必要です。
明渡猶予制度についても把握しておこう
明渡猶予制度は、競売で落札された場合に、賃借人に対して代金納付日から6ヶ月間の明け渡し猶予を認める制度です。突然の退去を避け、次の入居先を探す時間を確保するために設けられています。
抵当権が実行された場合にはどのようなリスクがあるのか?
抵当権実行時には、オーナー変更・敷金の二重支払い・強制退去といったリスクがあります。
急に大家さんが変わる可能性がある
競売・任意売却いずれの場合も、賃貸契約自体は基本的に継続できます。しかし、大家さんが変わることで管理方針が変更される可能性があります。特に賃貸オフィスでは、施工許可の範囲が大家さんの方針で大幅に変わる場合があります。
敷金を新たな大家さんに再度納めなければいけない可能性がある
大家さんが変わった場合、新たに賃貸借契約を結び直す必要があり、新しい大家さんにも敷金を納めなければならない可能性があります。以前の大家さんには敷金返還請求ができますが、支払い能力がないケースも多く、実質的に二重支払いとなるリスクがあります。
敷金を返してもらえない可能性がある
抵当権が賃借権よりも先に設定されている場合、以前の大家さんに納めた敷金は新オーナーに引き継がれません。支払い能力がない状態では返還請求に応じてもらえず、敷金が戻らないトラブルに発展するリスクがあります。
強制退去を命じられる可能性がある
意図しないタイミングで強制退去を命じられるケースがあり、居住用物件でもオフィスでもスケジュール管理が難しくなる可能性が高いです。万が一に備え、必要な対応を事前に整理しておくことが重要です。
競売による強制退去で立ち退き料はもらえるのか?
基本的に競売による強制退去では立ち退き料はもらえません。入居者は猶予期間後に退去するためです。
ただし、以下のケースでは大家さんが立ち退き料を支払う場合があります。
- 猶予期間を待たずに退去してほしい場合:新オーナーが物件を再販したいなどの事情がある場合
- 強制退去の手続きコストを避けたい場合:費用や手間を省くために立ち退き料を支払って和解するケース
競売による立ち退き料の相場は数万円程度です。
競売の強制執行は回避できるのか?
競売による強制執行を回避するには、大家さんが任意売却や個人再生を選択する必要があり、入居者側でできることはありません。大家さんの動向を見守るしかないのが実情です。
不動産管理に関して不安がある方は、ストレスフリーな賃貸管理の仕組みを参考に、リスクへの備えを検討してみてください。
抵当権が設定されているか調べるにはどうすればよいか?
抵当権の有無は、契約時の重要事項説明の確認、登記簿の取得、与信調査などで調べられます。
契約時に確認する
契約時の重要事項説明でオーナーや不動産会社から抵当権について説明を受けましょう。ただし、積極的に説明されないケースもあるため、自ら確認を求めることが重要です。
自分自身で調べる
抵当権は所有者以外でも調べることが可能です。必要なのは手続き費用と地番(法務局で不動産ごとに整理された番号)のみです。
与信情報を調べてみる
オーナー側が信用できる相手かどうかを知るために、専門業者に与信調査を依頼する方法もあります。与信情報が良好であれば、抵当権に関するトラブルが起こるリスクは低いと判断できます。
登記簿で抵当権を調べる方法とは?
登記簿(全部事項証明書)を取得すれば、所有権や抵当権などの不動産関連の権利を確認できます。
全部事項証明書
法務局で取得できる全部事項証明書には、不動産の所有権・抵当権などの権利関係が記載されています。誰でも法務局の窓口で交付申請書を提出し、印紙を付けて取得できます。管轄が異なる法務局でも取得可能です。
オンライン申請システム
法務局に出向けない場合は、オンライン申請システムから登記情報をPDFで閲覧できます。リアルタイムの情報を確認できますが、公印がないため証明書としての提出はできません。
司法書士への相談
司法書士に依頼すれば、登記簿の取り寄せだけでなく抵当権について詳しい説明を受けられます。不安が多い場合は専門家への相談も検討しましょう。
全部事項証明書の見方はどうなっているか?
全部事項証明書の「権利部(乙区)」に抵当権の有無が記載されています。
登記事項証明書は4種類ある
- 全部事項証明書:今までの登記事項全てが記載
- 現在事項証明書:現時点で効力のある登記事項のみ記載
- 一部事項証明書:指定した内容のみ記載
- 閉鎖事項証明書:閉鎖された登記記録のみ記載
全部事項証明書の項目について
土地用・建物用ともに、表題部(不動産の基本情報)、権利部甲区(所有権に関する事項)、権利部乙区(抵当権など所有権以外の権利)、共同担保目録で構成されています。抵当権については権利部(乙区)に記載され、借金をした日や利息などの情報が確認できます。
全部事項証明書でわからないこともある
売買による所有権移転登記の際には不動産の評価額が記載されません。また、都市計画法や建築基準法に関する情報も記載されないため、これらを知りたい場合は別途資料を取得する必要があります。
全部事項証明書の注意点
不動産会社から受け取った場合は取得日付を必ずチェックしましょう。登記内容は権利変動を反映するため、数ヶ月前の証明書では現在と内容が異なっている可能性があります。
抵当権のない物件はあるのか?
実際には抵当権がない物件を探す方が難しいのが現状です。賃貸物件を建てる際にも金融機関から融資を受けることがほとんどで、融資を受ければ抵当権が設定されます。抵当権がある物件が一般的であると理解しておきましょう。
なお、新オーナーに変わってもそのまま貸してくれるケースは多く、退去に至る事例は少数です。最低でも6ヶ月前までに予告が必要とされています。
登記に「差押」表記がある場合はなぜ注意が必要か?
差押表記は、所有者の金銭債務について支払いが遅れている状態を示しており、競売に進むリスクが高いことを意味します。
差押とは
差押と記載されている場合、すでに金融機関への返済や税金・保険・年金などの支払いが滞っている状態です。今後、不動産が競売にかけられる可能性があります。
差押は解消できる?
差押の解消には、借金の全額返済が基本です。買主が売買代金を全額支払い、売主が借金を完済し、債権者が差押登記を抹消するという手順が必要です。住んでいる側としては、オーナーの判断次第で今後の状況が変わることを認識しておきましょう。
同時履行で解除通知書が受け取れる
売買決済時には売主・買主・不動産会社・司法書士などが立ち会い、残代金の支払いと所有権移転を同時に行います。差押の抹消手続きも同時に進めることで、トラブルを防ぎます。
まとめ
抵当権は金融機関からの借り入れがある物件では一般的なものであり、過度に心配する必要はありません。ただし、差押表記がある場合は競売や退去のリスクが高まるため注意が必要です。契約前に重要事項説明の確認や登記簿の調査を行い、リスクに備えておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
抵当権付き物件に入居するのは危険ですか?
抵当権が設定されていること自体は一般的で、すぐに危険というわけではありません。ただし、契約時に重要事項説明で抵当権の内容を確認し、オーナーの返済状況に問題がないかを把握しておくことが重要です。
抵当権が実行された場合、引っ越し費用は誰が負担しますか?
原則として引っ越し費用は入居者の自己負担となります。ただし、新オーナーが早期退去を望む場合は、数万円程度の立ち退き料が支払われるケースもあります。
抵当権と根抵当権の違いは何ですか?
抵当権は特定の債権に対して設定されるのに対し、根抵当権は一定の範囲内で繰り返し融資を受ける際に設定される担保権です。根抵当権は事業用物件で多く見られます。
賃貸物件の登記簿を調べるのに費用はかかりますか?
法務局の窓口で全部事項証明書を取得する場合は600円程度、オンライン申請では約500円、登記情報のPDF閲覧では約330円の費用がかかります。
抵当権が実行されても住み続けられるケースはありますか?
はい、あります。抵当権設定前に引き渡しが完了している場合は賃借権が優先されるため、退去に応じる必要はありません。また、新オーナーが引き続き賃貸経営を行う場合もそのまま住み続けられます。