首都圏の中古マンション市場では、「売り出されている価格」と「実際に売れた価格」の差がかつてないほど広がっています。東日本不動産流通機構(レインズ)のデータによれば、成約㎡単価と在庫㎡単価の差は約18万円/㎡に達しました。この「乖離」がどのように推移し、何を意味するのかを、最新のデータとともに読み解いていきます。
「売れた値段」と「出ている値段」とは?——成約単価と募集単価の乖離を理解する
不動産市場には2つの価格が存在します。一つは、物件がポータルサイトや不動産会社で「売り出されている値段」、いわゆる募集単価(在庫㎡単価・新規登録㎡単価)です。もう一つは、実際に買い手がついて取引が成立した「売れた値段」、つまり成約単価(成約㎡単価)です。
通常、売り出し価格は売主の希望価格であり、成約価格よりもやや高めに設定されます。しかし、この差が大きくなりすぎると、市場にはある種の「ひずみ」が生まれます。売り手は「このぐらいで売れるだろう」と考えていても、買い手が出せる金額との間にギャップが広がり、結果として物件が長期間売れ残ったり、最終的に大幅な値下げを余儀なくされたりするケースが増えてくるのです。
データで見る乖離の拡大とは?——直近の市況データを読み解く
レインズの最新データ(2026年2月発表・2026年1月度)
東日本不動産流通機構が公表するマーケットウォッチによると、首都圏中古マンションの成約㎡単価は86.99万円(前年同月比+6.3%)で、70ヶ月連続の上昇を記録しています。一方で、在庫㎡単価は105.15万円(前年同月比+31.5%)と、成約単価をはるかに上回るペースで上昇しています。
両者の差は約18万円/㎡に達しており、70㎡換算にすると約1,260万円もの差が生じている計算です。2025年通年で見ても、成約㎡単価82.98万円に対し新規登録㎡単価は95.98万円と、約13万円の乖離が確認されています。
注目すべきは、成約単価の上昇率が+6.3%であるのに対し、在庫単価の上昇率が+31.5%と5倍近い伸びを示している点です。つまり、新築物件の建築費高騰などを背景に、売り手の値付けが市場の実勢を大きく上回るスピードで引き上げられていることを意味します。
東京カンテイの価格乖離率
東京カンテイの調査によれば、2024年下期の首都圏中古マンションにおける価格乖離率は−4.19%でした。売出価格の一戸平均4,871万円に対し、成約価格は4,667万円と、約200万円の差があります。
興味深いのは、この−4.19%という数値が2015年以降で最も乖離が小さい水準にあるという点です。一見すると乖離が縮小しているように見えますが、これはあくまで「成約に至った物件」に限った数字です。成約に至らなかった高値の物件は統計から外れるため、実際の市場では「売りたい価格」と「売れる価格」のギャップはさらに大きいと考えるべきでしょう。
成約件数と在庫件数の動き
成約件数は16ヶ月連続で前年同月比増加しており、取引自体は活発に行われています。しかし、在庫件数は約4.5万件で推移しており、高値で売り出された物件が滞留している構造がうかがえます。つまり、「売れる物件」と「売れない物件」の二極化が進んでいるのです。
なぜ乖離が拡大しているのか?——5つの背景要因を解説
1. 建築コストの高止まり
資材費や人件費の上昇により、新築マンションの供給価格が大幅に上昇しています。「新築がこれだけ高いのだから、中古でもこの価格で売れるはずだ」という売主心理が働き、中古物件の売出価格も引き上げられています。
2. 金利上昇による買い手の購入限度額低下
2024年秋以降、住宅ローン金利は上昇基調にあります。変動金利・固定金利ともに引き上げが進み、同じ年収でも借りられる金額が減少しています。その結果、買い手が実際に支払える上限価格が下がり、売出価格との差が広がっているのです。
3. 都心と郊外の二極化
東京都の成約坪単価は前年比+8.3%と力強い上昇が続く一方で、神奈川県は−4.9%、埼玉県は−3.3%、千葉県は−3.4%と、東京都以外はすべてマイナスに転じています。都心部では「高くても売れる」状態が続いていますが、郊外では価格調整が始まっています。この地域間の温度差も、首都圏全体で見たときの乖離を押し広げる要因となっています。
4. 海外マネーと富裕層需要の偏り
円安を背景に海外投資家や富裕層が都心の高額物件を購入するケースが増えています。しかし、この需要は特定のエリア・価格帯に集中しており、全体の在庫㎡単価を押し上げる一方で、一般的な購入層が手を出しにくい状況を生んでいます。
5. 売主の「チャレンジ価格」設定
東京カンテイは、「相場よりも高く設定した"チャレンジ価格"で売り出しても買い手が付く状態」が続いていると分析しています。成約期間が2015年以降で初めて平均5ヶ月を超えたにもかかわらず、売主が値下げに踏み切らない傾向が顕著です。建築コストの先高観や歴史的な円安に支えられ、売主と仲介会社の双方が強気の姿勢を維持しています。
オーナーが取るべきアクションとは?——乖離時代の売却・保有戦略
売却を検討しているオーナーへ
最も重要なのは、「売出価格」ではなく「成約データ」をベースに適正価格を判断することです。周辺の売出価格に合わせて高値で出しても、成約に至らなければ意味がありません。国土交通省の不動産価格指数やレインズの成約データを活用し、「実際に売れている価格帯」を把握したうえで戦略を立てることが大切です。
保有を続けるオーナーへ
賃貸に出している物件であれば、現在の賃料収入と売却した場合の手取り額を冷静に比較しましょう。金利上昇局面では、長期保有のコストが上がる可能性もあります。だからこそ、定期的に資産の棚卸しを行い、データに基づいた判断をすることが重要になります。
購入を検討している方へ
物件検索サイトに表示される「売出価格」だけを見て「高すぎる」と判断するのは早計です。実際の成約データを確認すると、売出価格から数%〜10%程度の指し値(値引き交渉)が入るケースが少なくありません。相場を正しく理解したうえで、交渉の余地を見極めることがポイントです。
INAの見解——透明な市場情報で正しい判断を
私たちINA&Associates株式会社は、データに基づいた透明な情報提供を何よりも大切にしています。不動産市場には「売り手に都合の良いデータだけを見せる」風潮がいまだに残っていますが、そうしたアプローチでは長期的な信頼関係を築くことはできません。
成約単価と募集単価の乖離が拡大する局面こそ、信頼できるパートナーの存在が重要です。売主にとっても、買主にとっても、正確なデータをもとに冷静な判断ができる環境が不可欠です。私たちは、デメリットも含めた情報をお伝えし、お客様一人ひとりに最適な選択肢を一緒に考えていきたいと考えています。
まとめ
- 首都圏中古マンションの成約㎡単価は86.99万円、在庫㎡単価は105.15万円で、約18万円/㎡の乖離が発生している
- 在庫単価の上昇率(+31.5%)が成約単価の上昇率(+6.3%)を大きく上回り、売り手の値付けが市場実勢から乖離
- 建築コスト高騰、金利上昇、都心と郊外の二極化、海外マネーの偏在、売主の強気姿勢が背景要因
- 売却・購入いずれの判断も、「売出価格」ではなく「成約データ」をベースに行うことが重要
- 乖離拡大局面だからこそ、透明で正確な市場情報の活用が不可欠
よくある質問(FAQ)
Q1. 成約単価と募集単価の乖離が大きいと、市場にはどのような影響がありますか?
A. 乖離が大きいと、売主が想定した期間内に物件が売れにくくなります。在庫の滞留が長期化し、最終的に大幅な値下げを余儀なくされるリスクが高まります。また、購入検討者が「まだ下がるのでは」と買い控えに走り、市場全体の流動性が低下する可能性もあります。
Q2. レインズの成約㎡単価と東京カンテイの価格乖離率は何が違うのですか?
A. レインズの成約㎡単価は、実際に売買が成立した全物件の㎡あたりの平均価格です。一方、東京カンテイの価格乖離率は、同一物件の「売出価格」と「成約価格」を比較して、どれだけ値引きされたかを示す指標です。それぞれ異なる角度から市場の実態を映し出しています。
Q3. 金利が上昇すると、乖離はさらに拡大しますか?
A. その可能性は高いです。金利上昇により買い手の購入限度額が下がる一方で、売り手は建築コスト上昇を理由に価格を引き下げにくい状況が続くため、両者の差がさらに開く構造的な要因があります。ただし、売れ残りの長期化が進めば、売り手が価格を下方修正する動きも出てくるでしょう。
Q4. 成約データはどこで確認できますか?
A. 国土交通省が運営する「不動産取引価格情報検索」や「レインズマーケットインフォメーション」で、実際の取引価格を無料で検索できます。また、東京カンテイの市況レポートでもエリアごとの価格動向が公開されています。正確な相場把握のために、これらの公的データを活用されることをおすすめします。