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不動産投資の消費税還付は可能か?仕組み・条件・注意点をプロが徹底解説

不動産投資で消費税還付を受けられる条件と仕組みを体系的に整理。原則課税と簡易課税の違い、令和2年度改正による居住用建物の制限、届出の手順、3年縛りやインボイスの注意点まで投資家目線で解説します。

最終更新: 約11分で読めます

不動産投資で消費税還付を受けられることをご存じでしょうか。居住用賃貸では原則として難しいものの、事業用物件を保有する課税事業者には還付の可能性があります。ただし近年の税制改正で要件は大きく厳格化されました。本記事では、不動産の消費税還付の仕組み・条件・手続き・注意点を、投資家の視点で体系的に解説します。

消費税還付とは何か 基本的な仕組み

消費税還付とは、事業者が仕入れ等で支払った消費税が、顧客から預かった消費税を上回った場合に、その差額の還付を受けられる制度です。これは仕入税額控除という仕組みの結果として生じます。事業者は売上に含まれる消費税を国に納める一方、経費や資産の取得で支払った消費税を差し引けます。差し引ききれない分がマイナスになれば、その分が戻ってくるという理屈です。

不動産の世界でこの状態が起きやすいのは、建物という高額な資産を取得したタイミングです。売上に対応する預かり消費税よりも、取得時に支払う消費税のほうが一時的に大きくなるためです。つまり還付は「儲かったから戻る」のではなく、支払と預かりのバランスが崩れたときに発生する精算だとご理解ください。

還付の対象になる支払消費税とは

還付計算の対象になるのは、あくまで課税取引で支払った消費税です。土地の購入代金や住宅ローンの利息、給与、保険料などは消費税の課税対象外(非課税・不課税)であり、還付計算には含まれません。建物本体・設備・仲介手数料・工事費などが主な対象になります。

なぜ不動産投資で消費税還付は難しいのか

居住用賃貸物件の家賃収入は非課税売上に分類されます。消費税還付は「課税事業者」が「原則課税(一般課税)」を採用している場合にのみ受けられるため、免税事業者である大多数の居住用賃貸オーナーは、そもそも制度の入り口に立てません。

さらに、居住用物件を取得しても、その家賃が非課税売上である以上、建物取得時の消費税は「非課税売上に対応する仕入れ」とみなされ、控除の対象から外れやすい構造になっています。この二重の壁が、住宅系の不動産投資で還付を難しくしている本質です。

かつての抜け穴 自動販売機スキームとその封鎖

平成3年の税制改正で居住用家賃が非課税化された後、敷地内に自販機を設置してわずかな課税売上をつくり、課税事業者となって居住用建物の消費税還付を受ける手法が広がりました。しかし平成22年・平成28年の改正で段階的に規制され、最終的に令和2年度の改正で居住用賃貸建物そのものへの仕入税額控除が原則封じられました。現在、この種のスキームは実質的に機能しません。

令和2年度改正で変わった居住用賃貸建物の扱い

2020年(令和2年)10月1日以後に取得した居住用賃貸建物については、その取得等に係る消費税を原則として仕入税額控除できないという制限が導入されました。これが現在の実務における最重要ポイントです。過去の解説記事の多くはこの改正前の前提で書かれているため、古い情報のまま判断すると誤ります。

一方で、事務所・店舗・倉庫といった事業用として貸し付ける建物は、この制限の対象外です。したがって現在の消費税還付は、事業用不動産を保有・取得する課税事業者に対象が絞られていると理解するのが実態に即しています。

消費税還付を受けられる主な条件

条件1 課税事業者であること

基準期間(原則として前々年・前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える事業者は、自動的に課税事業者となります。新設法人でも、資本金1,000万円以上であれば設立当初から課税事業者です。それ以外の場合でも、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者になる道があります。事務所・倉庫・店舗用物件の賃料は課税売上に該当するため、これらを保有していれば課税事業者になれる余地が生まれます。

条件2 原則課税を採用していること

後述するとおり、簡易課税を選択していると支払消費税の実額を使わないため還付は発生しません。還付を狙うなら原則課税が前提です。

条件3 建物など高額な課税仕入れがあること

建物部分(土地を除く)には消費税が課されるため、課税事業者が高額な事業用建物を取得した年度は支払消費税が大きくなり、還付を受けられる可能性が高まります。土地の取得代金は非課税であり還付計算に入らない点に注意が必要です。大規模修繕や設備更新なども課税仕入れとして計算に含まれます。

条件4 課税売上割合が一定水準を満たすこと

還付額は、全売上に占める課税売上の割合(課税売上割合)に影響されます。居住用と事業用が混在する物件では、事業用部分の割合が小さいと控除できる金額も小さくなります。個別対応方式と一括比例配分方式のいずれを採るかによっても結果が変わるため、事前のシミュレーションが欠かせません。

原則課税と簡易課税の違いが還付の可否を左右する

消費税の計算方法には大きく2種類があります。どちらを選ぶかで、還付が受けられるかどうかが根本的に変わります。

項目原則課税(一般課税)簡易課税
計算式(納付税額の目安)預かった消費税 − 支払った消費税預かった消費税 −(預かった消費税 × みなし仕入率)
還付の可否発生し得る原則発生しない
適用の目安高額な課税仕入れがある年度に有利売上規模が小さく事務負担を抑えたい場合
不動産賃貸業のみなし仕入率原則40%(第六種)

簡易課税は支払消費税の実額を使わずに納税額を計算するため、いくら高額な建物を取得しても還付は生じません。還付を受けるには原則課税の採用が必須条件です。簡易課税を選択できるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られ、いったん選択すると原則2年間は変更できない点にも注意してください。投資計画を立てる前に、まず自社がどちらを採用しているかを確認することが出発点になります。

還付を受けるための手続きと届出のタイミング

消費税還付は、確定申告(法人は課税期間終了後2か月以内が原則)で申告して初めて受けられます。免税事業者が還付を狙う場合は、その課税期間が始まる前日までに「課税事業者選択届出書」を提出しておく必要があります。建物を取得してから慌てて届出をしても、その課税期間には間に合わないケースが大半です。

手続きの大まかな流れ

  1. 自社が課税事業者か免税事業者かを確認する
  2. 免税事業者なら、取得年度の前課税期間末までに課税事業者選択届出書を提出する
  3. 簡易課税を選択している場合は不適用届出を検討し、原則課税に切り替える
  4. 建物・工事等の課税仕入れを行い、請求書・契約書等の証憑を整える
  5. 課税売上割合を踏まえて控除方式を選び、確定申告で還付を申告する

届出の期限は課税期間の区切りに紐づくため、逆算した準備が結果を大きく左右します。年度をまたぐ取得では特にスケジュール管理が重要です。

消費税還付の注意点とリスク

調整対象固定資産の3年縛り

一定金額以上の建物などを取得して還付を受けた場合、取得後3年間(第3年度)は課税売上割合の変動に応じて控除額を調整する規定が適用されます。取得直後だけ課税売上割合を高くして還付を受け、その後に居住用へ転用するといった動きは、この調整により還付分の一部または全部が取り戻される仕組みです。「一度還付を受ければ終わり」ではない点を理解しておく必要があります。

インボイス制度との関係

2023年(令和5年)10月に始まったインボイス制度により、仕入税額控除には原則として適格請求書(インボイス)の保存が求められます。取引先が免税事業者で適格請求書を発行できない場合、その支払分は控除対象から外れることがあります。還付を前提とするなら、発注先がインボイス発行事業者かどうかの確認も欠かせません。

税務調査で否認されるリスク

消費税還付は税務当局が特に注視する領域です。実態を伴わない課税売上づくりや、居住用建物を事業用と偽る処理は否認され、加算税や延滞税といったペナルティにつながります。私たちは、目先の還付額よりも、後から否認されない筋の通った処理を優先すべきだと考えています。デメリットやリスクを含めて正直にお伝えすることが、結果として投資家の長期的な利益を守るという信念に基づいています。

INA&Associatesの視点 短期の還付より長期の健全性を

私たちINA&Associates株式会社は、消費税還付を「投資判断の主目的」に据えることには慎重であるべきだと考えています。還付はあくまで税制上の精算であり、物件そのものの収益性や立地の価値を高めるものではありません。むしろ、還付を最優先にした無理な事業スキームは、3年縛りやインボイス、税務調査といった後年のリスクを抱え込みがちです。

だからこそ私たちは、税理士や会計の専門家と連携しながら、還付の可否を「投資全体の健全性」という文脈の中で位置づけます。人財こそが最大の資産であるという私たちの価値観は、こうした専門知の連携にも表れています。制度を正しく理解し、正直に、長期的視野で判断することが、関わる全員の幸せにつながると信じています。

よくある質問

居住用マンションのオーナーは消費税還付を受けられないのですか

原則として受けられません。居住用家賃は非課税売上であり、多くのオーナーが免税事業者に該当します。加えて令和2年度改正により、居住用賃貸建物の取得に係る消費税は原則として仕入税額控除できません。ほかに課税売上となる事業がある場合でも、居住用建物分は控除対象から外れる点にご注意ください。

事務所や店舗兼住居の物件でも還付は受けられますか

床面積などで合理的に按分した事務所・店舗部分の賃料は課税売上となります。課税事業者で原則課税を採用していれば、事業用部分に対応する消費税について還付を受けられる可能性があります。ただし課税売上割合や控除方式によって金額が変わるため、事前の試算が重要です。

法人化すると消費税還付を受けやすくなりますか

資本金1,000万円以上の新設法人は設立当初から課税事業者になれます。ただし、課税売上の確保、原則課税の選択、居住用建物の控除制限など複数の要件を同時に満たす必要があり、法人化そのものが還付を保証するわけではありません。目的と手段を混同しないことが大切です。

消費税還付を受ける際、税理士への相談は必要ですか

強く推奨します。課税方式の選択、仕入税額控除の計算、届出のタイミング、3年間の調整規定など、消費税の実務は非常に複雑です。判断を誤ると還付が受けられないだけでなく、後年に還付分の取り戻しやペナルティが生じることもあります。私たちも専門家と連携しながら慎重に進めることを基本方針としています。

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者