JR大崎駅から徒歩6分の品川区西品川一丁目。かつて自動車教習所と木造密集地域が広がっていたこの約3.9haのエリアが、2018年秋に「大崎ガーデンシティ」として全体完成した。地権者約300名との合意形成に約10年を費やし、総事業費1,346億円・総延床22万㎡という大崎エリア最大規模の複合再開発は、大崎副都心の不動産価値にどのような影響をもたらしたのか。本稿では事業の全容を振り返りながら、竣工から7年が経過した今日の市況データとあわせて検証します。
西品川一丁目地区再開発とは──事業の基本情報
施行者・施行区域・事業規模の概要
本事業の正式名称は「西品川一丁目地区第一種市街地再開発事業」です。施行者は西品川一丁目地区市街地再開発組合で、住友不動産株式会社が地権者・参加組合員として事業推進の中心的役割を担いました。施行面積は約3.9ha(約39,000㎡)で、東京都品川区西品川一丁目1〜3番、大崎一丁目、広町二丁目の区域が対象となっています。
事業の規模は大崎エリアで際立っています。A街区のオフィスビル「住友不動産大崎ガーデンタワー」(地下2階・地上24階、高さ114.15m、延床約178,140㎡)と、B街区の賃貸住宅「大崎ガーデンレジデンス」(地下2階・地上22階、延床約41,430㎡)の2棟で構成され、総延床面積は約22万㎡に達します。総事業費は約1,346億円です。
「大崎ガーデンシティ」という街区名の由来と開発コンセプト
「大崎ガーデンシティ(OSAKI GARDEN CITY)」という名称には、緑豊かな都市空間を創出するというコンセプトが込められています。敷地中央部には約6,000㎡の緑地広場が整備され、公開広場空間の合計は約8,000㎡に達しました。オフィスと住宅という2つの用途を一体的に整備することで、24時間にわたり活気ある街区を生み出すことを目指した事業です。
事業誕生の背景──大崎副都心と西品川エリアの課題
1982年「副都心」指定と大崎駅の交通ターミナル化
大崎エリアが東京都の「副都心」に指定されたのは1982年のことです。その後、2001〜2002年にかけて湘南新宿ライン・埼京線・りんかい線が大崎駅に延伸・停車し、山手線との乗り換えターミナルとしての機能が大幅に強化されました。この交通利便性の向上が、大崎周辺での再開発機運をさらに高めることになります。
だからこそ、2002年には大崎駅周辺地域(約60ha)が「都市再生緊急整備地域」に指定され、民間主導の再開発を国・都が後押しする体制が整いました。大崎ニューシティ(1987年)、ゲートシティ大崎(1999年)、ThinkPark(2007年)、大崎ウエストシティタワーズ(2009年)、大崎ウィズタワー(2014年)と、大崎駅周辺では断続的に大型再開発が進んできました。西品川一丁目地区はこうした大崎副都心の変遷の「最終章」とも位置づけられる事業です。
自動車教習所跡地・木密地域・崖地という複合的都市問題
西品川一丁目地区が抱えていた課題は一筋縄ではいきませんでした。住友不動産が取得した自動車教習所跡地を核に、木造密集(木密)地域と、高低差約8mという急峻な崖地が混在していたのです。この崖地は周辺住民の移動を妨げ、防災・バリアフリーの観点からも早急な解決が求められていました。
むしろ、こうした複合的な課題の存在が、事業の社会的意義を高める要因でもありました。崖地の解消と木密地域の更新を同時に実現することは、再開発組合と地権者が長期間にわたって合意形成に取り組む大義となりました。
準備組合設立から竣工まで──10年の事業経緯
約300名の地権者との合意形成プロセス
本事業の最大の難所は、約300名に及ぶ地権者との合意形成でした。住友不動産が自動車教習所跡地を取得した後、2009年頃から準備組合が設立され、地権者との協議が本格化します。その後、2012年に品川区が都市計画を決定し、2013年7月31日には東京都知事より再開発組合設立認可を取得しました。
約4年間の準備期間を経た2015年7月にA街区(オフィス棟)が着工し、翌2016年1月にはB街区(住宅棟)が着工します。そして2018年1月にA街区が竣工、同年3月20日に開業を迎えます。B街区は2018年8月末に竣工し、同年10月11日に大崎ガーデンシティ全体の竣工式が執り行われました。準備組合設立から数えると約10年、組合設立認可から竣工まで約5年という大型事業の完成でした。
A街区:大崎エリア最大のオフィスビル「住友不動産大崎ガーデンタワー」
A街区に建設された「住友不動産大崎ガーデンタワー」は、免震構造を採用した地上24階建て(高さ114.15m)のオフィスビルです。建築敷地面積19,928㎡、延床面積178,140㎡という規模は大崎エリア最大級です。竣工と同時に、セガサミーグループが本社およびグループ企業20社で全フロアの過半を契約するという大型テナント誘致に成功しました。
大型テナントが初期から入居したことは、ビルの稼働率と収益安定性の面で事業成功の大きな要因となりました。オフィスビルは空室リスクが最大の課題となりますが、セガサミーグループという著名な企業グループが中核テナントとなったことで、大崎ガーデンシティの認知度は開業当初から高まりました。
B街区:免震構造・423戸の都市型賃貸住宅「大崎ガーデンレジデンス」
B街区の「大崎ガーデンレジデンス」は、RC造・免震構造の地上22階建て(一部23階)、総戸数423戸の都市型賃貸住宅です。住友不動産が195戸を保有し、賃貸住宅として運営しています。専有面積は25〜100㎡と幅広く、月額賃料は10万円台前半から50万円台まで揃い、単身・DINKs・ファミリーなど多様なライフスタイルに対応しています。
大崎駅徒歩6分という立地に加え、免震構造による高い耐震性能と都市型の充実した共用設備は、法人契約・個人契約を問わず高い需要を維持しています。近隣の小岩駅再開発などと同様に、大崎エリアの賃貸住宅市場全体が厚みを増してきています。
約8,000㎡の公開広場空間と崖地解消によるバリアフリー化
本事業が都市改善の観点で特筆すべき成果のひとつが、約8,000㎡の公開広場空間の整備と、高低差約8mの崖地解消です。敷地中央部の緑地広場(約6,000㎡)は市民に開放され、周辺道路の拡幅、新たな歩行者ルート、バリアフリーアクセスの強化が実現しました。
この公共空間の整備は、従前の木密地域・崖地という都市問題を解決するだけでなく、大崎副都心全体の回遊性を高める役割を果たしています。再開発事業が単なる不動産開発を超え、地域のインフラ整備としての役割を担う好例といえます。
周辺再開発との関係──大崎副都心の変遷と今後
大崎ニューシティからゲートシティ、ThinkParkまでの開発史
大崎副都心の変遷を振り返ると、1987年の大崎ニューシティを皮切りに、ゲートシティ大崎(1999年)、ThinkPark(2007年)、大崎ウエストシティタワーズ(2009年)、NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎、2011年)、大崎ウィズタワー(2014年)、パークシティ大崎(2015年)と、約30年にわたって大型再開発が連鎖してきました。
こうした連続的な開発が大崎のブランド価値を段階的に向上させ、西品川一丁目地区の事業化を後押しする市場環境を形成したといえます。各再開発が生み出したオフィス需要・住宅需要・商業需要が積み重なり、今日の大崎副都心の都市格を形成しています。
大崎ガーデンシティ以降の大崎エリア再開発の動向
大崎ガーデンシティ完成後も、大崎エリアでは新たな開発が続いています。大崎駅西口では「大崎ステーションレジデンス」(地上37階・高さ143m)が2026年3月に入居開始を迎えました。また、東五反田二丁目第3地区(大崎リバーウォークガーデン)も施行中です。さらに品川浦周辺地区(北品川一丁目・東品川一丁目、約13ha)が2026年度の都市計画決定を目指して事業化が進んでいます。
品川駅西口土地区画整理事業も含め、品川区全体で大型プロジェクトが連動しており、大崎から品川にかけての広域エリアが継続的な都市変容のただ中にあります。こうした開発の連鎖が地価上昇の持続性を高める構造的な要因となっています。不動産市況への影響──地価・賃料データで読む大崎の資産価値
大崎駅前地価の推移(2025年公示)
大崎ガーデンシティの竣工から約7年が経過した現在、大崎エリアの不動産価値はどのように変化しているのでしょうか。2025年公示地価のデータによると、大崎駅周辺の平均地価は約252万円/㎡(坪単価約835万円)に達しており、前年比で+11.47%という高水準の上昇率を記録しています。また、品川区全体でも平均+12.15%の地価上昇が確認されています(2025年公示地価・国土交通省)。
この地価上昇が大崎ガーデンシティのみに起因するとは言い切れませんが、総延床22万㎡という大規模な複合施設がエリアの就業者数・居住者数・来街者数を大幅に増加させたことは、地域の需要底上げに直接的な影響を与えたと考えられます。
大崎ガーデンレジデンスの中古価格推移と賃料相場
大崎ガーデンレジデンスの中古市場価格は、2025年6月時点で5,133万〜1億7,416万円の幅があり、㎡単価では205〜229万円程度の水準が形成されています。賃貸市場では月額10万円台前半から50万円台という幅広い価格帯が維持されており、法人需要・富裕層需要ともに底堅い動向を示しています。
竣工時(2018年)から比較すると、周辺エリアの地価上昇に伴い資産価値は着実に高まっており、長期保有を前提とした不動産投資の観点からも大崎エリアのファンダメンタルズは良好といえます。東京都心再開発が不動産価値に与える影響で解説した通り、インフラ整備と再開発の連鎖は東京の不動産価値形成において最重要の評価軸となっています。
不動産投資家が注目すべき大崎エリアの将来性
大崎エリアは、複数の鉄道路線(JR山手線・湘南新宿ライン・埼京線・りんかい線)が乗り入れる交通ハブとしての優位性を持ちながら、大規模再開発の連鎖によってオフィス・住宅・商業の需要が継続的に拡大しています。大崎ガーデンシティはその中心的役割を担った事業として、エリアブランドの底上げに大きく貢献しました。
しかし、地価の継続上昇は投資利回りの低下も意味します。高値圏での新規投資においては、キャップレートの圧縮を踏まえた長期的視野でのリターン試算と、テナント安定性の精査が欠かせません。短期的な価格上昇にのみ着目するのではなく、インフラ整備の進捗・テナント需要の持続性・エリア全体の開発パイプラインを総合的に判断することが、信頼性の高い投資判断につながります。
【まとめ】大崎ガーデンシティが示す都市再生の可能性
西品川一丁目地区第一種市街地再開発事業(大崎ガーデンシティ)は、単なる大型不動産開発を超えた都市再生の実践事例です。木密地域・崖地・自動車教習所跡地という複合的な都市課題に、地権者約300名と組合・住友不動産が10年以上にわたって取り組み、2018年に大崎副都心の新たな顔として結実させました。
この事業から読み取れるポイントをまとめます。
- 長期合意形成の価値: 地権者約300名との約10年にわたる協議が、総事業費1,336億円・総延床22万㎡という大規模事業を可能にした
- 複合用途の相乗効果: オフィス・住宅・公開広場の組み合わせが、昼夜を通じた街区の活性化とエリアブランドの向上をもたらした
- 都市インフラへの貢献: 崖地解消・バリアフリー化・約8,000㎡の公開広場整備が、周辺住民の生活環境を直接改善した
- 地価・資産価値への波及: 大崎駅前地価は前年比+11.47%(2025年公示)と高水準を維持し、再開発の継続的な波及効果が確認できる
- 次世代開発への連鎖: 大崎ステーションレジデンス・品川浦周辺地区など、後続プロジェクトへの起爆剤としての役割を果たしている
都市再生は一度の事業で完結するものではなく、長期的な視野でエリアの価値を育てていくプロセスです。大崎ガーデンシティはその好事例として、不動産投資・まちづくりの両面で多くの示唆を与えてくれます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 西品川一丁目地区市街地再開発事業(大崎ガーデンシティ)はどこにありますか?
A. 東京都品川区西品川一丁目1〜3番に位置し、JR大崎駅(山手線・湘南新宿ライン・埼京線・りんかい線)から徒歩約6分のエリアです。施行面積は約3.9ha(約39,000㎡)で、大崎副都心の南側に位置します。大崎ニューシティやゲートシティ大崎などが集積する大崎副都心の中核エリアに隣接しています。
Q2. 大崎ガーデンシティの施設規模と総事業費は?
A. A街区のオフィスビル「住友不動産大崎ガーデンタワー」(地上24階・延床約178,140㎡)とB街区の賃貸住宅「大崎ガーデンレジデンス」(地上22階・423戸)の2棟で構成され、総延床面積は約22万㎡です。総事業費は約1,336億円で、大崎エリア最大規模の複合再開発となっています。竣工式は2018年10月11日に執り行われました。
Q3. 参加組合員の住友不動産はどのような役割を担いましたか?
A. 住友不動産は自動車教習所跡地の取得後、地権者約300名との合意形成を約10年かけて推進し、参加組合員として事業の中心的役割を果たしました。住友不動産大崎ガーデンタワーの命名にも表れているように、同社の大崎エリアにおける存在感は竣工後も継続しています。
Q4. 大崎ガーデンシティの完成が周辺の地価に与えた影響は?
A. 大崎駅周辺の公示地価は2025年時点で平均約252万円/㎡(前年比+11.47%)と高水準の上昇を記録しています。品川区全体でも前年比+12.15%の地価上昇が確認されており、大崎ガーデンシティをはじめとする一連の再開発がオフィス・住宅両需要を喚起し、エリア全体のブランド力向上に寄与していると分析されます。大崎ガーデンレジデンスの中古価格も2025年時点で5,000万〜1億7,000万円超の水準を維持しています(2025年公示地価・国土交通省)。