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COLUMN

借賃の増減請求とは?賃料改定が認められる条件と手続きの流れ

借賃の増減請求を、借地借家法32条に基づき解説。認められる条件、特約との関係、内容証明、交渉、調停、訴訟、差額精算まで整理します。

最終更新: 約7分で読めます

借賃の増減請求とは、契約後の事情変化により、現在の賃料が不相当になった場合に、貸主または借主が将来に向かって賃料の増額・減額を求める制度です。

根拠は借地借家法32条です。貸主は増額請求、借主は減額請求ができます。つまり、これは貸主だけの権利でも、借主だけの権利でもありません。固定資産税、土地建物価格、経済事情、近隣相場などが変わったときに、契約賃料を見直すための制度です。

この記事では、借賃の増減請求が認められる条件、特約との関係、実務手順、合意できない場合の扱いを整理します。

借賃の増減請求の根拠

借地借家法32条は、建物の借賃が次の事情により不相当となったとき、当事者が将来に向かって借賃の増減を請求できると定めています。

  • 土地・建物に対する租税その他の負担の増減
  • 土地・建物価格の上昇または低下
  • その他の経済事情の変動
  • 近傍同種の建物の借賃との比較

ここで重要なのは、「高くしたい」「安くしてほしい」という希望だけでは足りないことです。現行賃料が客観的に不相当になったことを示す資料が必要になります。

増額請求が認められやすいケース

貸主側の増額請求では、次のような事情が根拠になります。

ケース 根拠資料の例
周辺相場が上昇した 近隣類似物件の募集・成約事例
固定資産税・都市計画税が上がった 納税通知書、評価替え資料
建物維持費が上がった 修繕見積、管理費推移
設備更新で価値が上がった 工事記録、設備更新資料
長期間賃料据え置き 過去契約書、賃料履歴

増額請求では、相場資料の選び方が重要です。高い募集事例だけを集めても説得力は弱くなります。駅距離、築年数、面積、設備、階数が近い物件を比較し、提示額との関係を説明する必要があります。

減額請求が認められやすいケース

借主側の減額請求では、現行賃料が周辺相場や建物状態に比べて高すぎることを示す必要があります。

ケース 根拠資料の例
周辺相場が下落した 近隣類似物件の賃料資料
建物・設備が劣化した 修繕未了の記録、写真
利便性が低下した 周辺施設閉鎖、交通環境変化
一部使用不能になった 漏水、工事、災害被害の記録
同じ建物内で安い募集が出ている 同一マンション・同一アパートの募集資料

借主側も、単に家計が苦しいという理由だけでは制度上の減額根拠としては弱くなります。賃料そのものが不相当になったことを説明する必要があります。

特約との関係

借地借家法32条には、一定期間は借賃を増額しない旨の特約がある場合、その定めに従うという規定があります。つまり「一定期間増額しない」特約は有効になり得ます。

一方で、借主側の減額請求を排除するような特約は、借主に不利なものとして効力が問題になります。契約書に賃料改定に関する条項がある場合でも、条文と個別事情を確認する必要があります。

特約 考え方
一定期間増額しない 有効になり得る
一切減額請求しない 借主に不利な特約として問題になり得る
定期的に協議する 協議義務の根拠になる
自動的に一定率増額 実際の相当性との関係を確認

手続きの流れ

借賃の増減請求は、いきなり裁判に進む制度ではありません。通常は、資料を準備し、意思表示し、交渉し、必要に応じて調停・訴訟へ進みます。

1. 根拠資料を集める

相場資料、税負担、修繕費、建物状態、契約書、過去の賃料履歴を整理します。資料がないまま請求しても、相手に納得してもらうことは難しくなります。

2. 書面で意思表示する

増額または減額を求める意思を、書面で通知します。内容証明郵便を使うと、いつ、どのような内容を通知したかを証拠化できます。

3. 当事者間で交渉する

提示額、適用開始日、段階改定、設備修繕との組み合わせなどを協議します。合意できた場合は、覚書や変更契約書を作成します。

4. 民事調停を申し立てる

合意できない場合、賃料増減額の争いは原則として調停を経る必要があります。調停では、調停委員を交えて相場資料や事情を整理します。

5. 訴訟で確認する

調停でもまとまらない場合、賃料増減額確認訴訟へ進みます。不動産鑑定が必要になることもあり、時間と費用がかかります。

合意までの賃料と差額精算

増額請求について協議が調わない場合、借主は増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額を支払えば足りるとされています。ただし、裁判で増額が正当と認められ、不足があれば利息を付して支払う必要があります。

減額請求の場合は、貸主が相当と認める額を請求でき、裁判で減額が正当と認められれば、超過受領分を利息付きで返還することになります。

この仕組みから分かるように、増減請求は「言ったもの勝ち」ではありません。最終的に適正額が決まったとき、過不足を精算する制度です。

貸主・借主が準備すべき資料

立場 準備資料
貸主 税負担の推移、修繕費、周辺相場、設備更新履歴、賃料履歴
借主 周辺相場、建物劣化の記録、同一物件内募集、使用不能部分の記録
双方 契約書、重要事項説明書、過去の覚書、支払記録

資料は、交渉の武器であると同時に、感情的な対立を避けるための共通言語です。数字と事実をそろえるほど、合意点を見つけやすくなります。

実務上の落としどころ

賃料増減請求では、満額の増額・減額にこだわるより、段階改定や設備改善と組み合わせて合意することがあります。

落としどころ 向いているケース
一部改定 相場差はあるが提示額が大きい
段階改定 一度の負担増が大きい
更新時改定 タイミングを整理したい
設備更新とセット 賃料に見合う価値を明確にする
現状維持+再協議日設定 根拠がまだ弱い

賃料改定は、契約関係を続ける中での調整です。強硬な進め方で退去や訴訟になれば、貸主・借主双方にコストが発生します。

INA&Associatesの考え方

借賃の増減請求は、法律上の制度であると同時に、貸主と借主の信頼関係を調整する場面でもあります。根拠のない値上げや、一方的な減額要求は、どちらの立場でも望ましくありません。

私たちは、相場、税負担、修繕、建物価値、入居継続のメリットを同じテーブルで見ながら、長期的に納得できる賃料を探ることを重視しています。短期的な差額だけでなく、空室リスクや関係性まで含めて判断することが、安定した賃貸経営につながります。

よくある質問

Q. 借賃の増減請求は何度でもできますか?

事情変更があれば再度請求できます。ただし、前回合意から間もない場合は、新たな事情変化を示す必要があります。

Q. 内容証明郵便は必須ですか?

法律上常に必須というわけではありませんが、意思表示の時期と内容を証拠化するために実務上有効です。

Q. 増額請求中は新賃料を払う必要がありますか?

合意または裁判確定までは、借主が相当と認める額を支払えば足ります。ただし、後で増額が認められた場合、不足額と利息を支払う可能性があります。

Q. 減額請求中に家賃を勝手に下げてもよいですか?

一方的な減額は滞納扱いのリスクがあります。まず書面で請求し、交渉や調停で適正額を確認する流れを取るべきです。

参考・引用

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者