中国人投資家による日本の不動産投資は年々増加しています。円安の進行、日本の不動産市場の安定性、東京・大阪を中心とした都市部の利回りの高さが主な要因です。投資用マンションからタワーマンション、さらには地方のリゾート物件まで、投資対象は多岐にわたります。
中国人(外国人)による日本の不動産購入は法律で規制されているか
結論として、日本には国籍を理由に不動産の取得そのものを一律に禁止・制限する法律はありません。中国人投資家であっても、一般的な住宅用・投資用の不動産を購入すること自体に法律上の制限はなく、これは日本が海外資本に対して開かれた不動産市場を維持している理由の一つです。
唯一、国籍要件を含む法律として外国人土地法(1925年制定)が存在しますが、同法が実際に取得制限を発動するために必要な政令は、戦後一度も制定されていません。当時の菅直人首相は2010年の国会答弁で、同法について「規制には政令が必要だが、現在は存在せず、事実上有名無実になっている」と説明しており、現時点で同法にもとづく取得制限は機能していません。
現在、実際に機能している関連制度は2021年制定の重要土地等調査法です。防衛関係施設周辺おおむね1,000メートル圏内や国境離島等を「注視区域」「特別注視区域」に指定し、区域内の土地利用状況を調査するとともに、特別注視区域内での売買契約締結時には届出を義務付けています。ただしこれは国籍を問わずすべての取得者に適用される安全保障上の利用監視制度であり、中国人を含む外国人だけを対象とした購入禁止制度ではありません。
中国特有の登記手続きの注意点
印鑑証明書が存在しない
中国には日本のような個人の印鑑証明制度がありません。中国にも印鑑(印章)は存在しますが、個人が所有するのは一般的ではなく、印鑑証明書の発行制度もありません。
そのため、不動産登記の際は以下の代替書類が必要になります。
- 署名証明書(サイン証明):在日中国大使館・領事館で署名を認証してもらう
- 宣誓供述書:中国国内の公証処(公証役場に相当)で作成し、署名の認証を受ける
署名証明書の形式
署名証明書には「奥書形式」と「単独形式」の2種類があります。
- 奥書形式:委任状に記載された署名について公証人等が直接証明する形式。確実性が高い
- 単独形式:独立型の署名証明書。申請書や委任状の署名と同一と判断できれば有効
住民票の代替
短期在留や海外居住の中国人は住民票が取得できないため、以下の書類で代替します。
- 宣誓供述書+パスポートのコピー(原本証明付き)
- 中国の公証処で作成した住所証明
中国からの送金に関する規制
中国人投資家にとって最大のハードルの一つが資金の送金です。中国には外貨管理局による厳格な外貨規制があり、個人の海外送金は年間5万米ドルが上限とされています。
実務上の対応
- 複数年にわたって送金を行い、日本国内の口座に資金を蓄積する方法
- 香港やシンガポールなど第三国経由での送金
- 日本国内に既に資産を持つ親族からの資金援助
不動産会社としては、資金出所の確認を慎重に行う必要があります。マネーロンダリング防止の観点からも、資金の流れを明確に把握しておくことが重要です。
資金を受け入れる日本側の規制:犯罪収益移転防止法
中国側の送金規制に加えて、資金を受け入れる日本の不動産会社側にも法律上の確認義務があります。宅地建物取引業者は犯罪収益移転防止法上の「特定事業者」に指定されており、不動産売買契約の締結・代理・媒介を行う際には、顧客の氏名・住所・生年月日等の本人特定事項に加え、取引を行う目的や職業(法人の場合は実質的支配者)を確認する「取引時確認」を行う義務を負います。
あわせて、確認記録・取引記録の作成・保存義務、そして疑わしい取引の届出義務も課されています。中国人投資家の資金が複数年に分けた送金や第三国経由の送金で形成されている場合、不動産会社は本人確認書類に加えて、資金の出所を説明する資料の提出を求めることが実務上望ましい対応です。
税金と納税管理人
中国に居住する非居住者が日本の不動産を所有する場合、以下の税金が発生します。
- 固定資産税・都市計画税:毎年の保有コスト
- 不動産取得税:購入時に一度課税
- 譲渡所得税:売却時の利益に課税(保有期間で税率が変動)
納税管理人の選任が必須です。税務署からの通知は全て納税管理人に届くため、信頼できる税理士や不動産管理会社との連携が不可欠です。
中国人投資家が保有物件を売却する際の源泉徴収(買主側の義務)
中国居住の非居住者が日本の不動産を売却する場合、買主側に源泉徴収の義務が生じる点は不動産事業者として押さえておくべき実務です。所得税法第212条にもとづき、非居住者から土地・建物を購入した買主は、譲渡対価の10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)を源泉徴収し、原則として支払月の翌月10日までに税務署へ納付しなければなりません。
例外として、譲渡対価が1億円以下で、かつ買主個人が自己または親族の居住の用に供するために購入する場合は、源泉徴収が不要になります。投資用物件の売買や法人による購入、1億円を超える取引ではこの例外は適用されないため、中国人投資家が保有物件を売却する場面では、買主側が源泉徴収の要否を必ず確認する必要があります。
外為法の届出
非居住者である中国人が不動産を取得した場合、取引翌日から20日以内に日本銀行への届出が必要です。投資用不動産は基本的に届出対象となります。居住用目的(本人や親族の居住)の場合は不要ですが、別荘やセカンドハウスは対象です。
2024年からの登記変更点
- ローマ字併記の義務化:所有権登記に中国人の氏名をローマ字(ピンイン)で併記する必要あり。全て大文字、姓→名の順
- 国内連絡先の登記:日本国内に住所がない場合、国内連絡先の登記が必要
中国人投資家との取引で気をつけること
- 契約書・重要事項説明書の中国語翻訳の準備(法的には日本語で有効だが理解促進のため)
- 商習慣の違い(価格交渉のスタイルが異なる場合がある、仲介を介さず直接交渉を希望されるケースがある)
- WeChat等の中国系SNSでのコミュニケーションが一般的
- 旧正月前後は連絡が取りにくくなる傾向
よくある質問(FAQ)
Q. 中国人は日本の銀行で住宅ローンを組めますか?
非居住者の場合、日本の銀行での住宅ローンは原則困難です。在留資格があり日本で収入がある場合は一部の金融機関で対応可能ですが、審査基準は日本人より厳しくなります。多くの場合、現金購入が主流です。
Q. 中国の外貨規制をクリアする合法的な方法はありますか?
複数年にわたる計画的な送金や、既に海外に資産を持つ場合の活用などが考えられます。いずれにしても合法的な資金移動であることの証明が必要です。不明な点は専門家に相談することをおすすめします。
