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入居者募集の方法と費用相場|空室損とAD上限【2026年版】

入居者募集の費用相場を一次データで解説。空室1回転は約1.5ヶ月・約9.9万円、払える上限は借賃1.1倍+広告料別枠、長期空室は2.2倍まで。値下げが最も割高。

最終更新: 約27分で読めます

入居者募集で最初に決めるのは、広告文でも内見の段取りでもありません。「1回転あたり、いくらまで払うか」という上限額です。この記事は、アパート・マンションを所有する賃貸オーナーの方に向けて、2026年時点の一次データをもとに、空室1回転の損失額、広告料(AD)や仲介手数料として支払える法的な上限、そして賃料値下げ・フリーレント・AD上乗せ・空室放置のどれが一番高くつくかを、すべて実額で示します。感覚ではなく金額で募集予算を決めたい方のための記事です。

この記事のポイント

  • 一棟木造アパート(全国平均)の空室1回転は約1.5ヶ月、満室賃料66,156円なら1回転あたり約99,000円の逸失です。
  • 貸借の媒介で不動産会社が受け取れる報酬は、貸主・借主の合計で借賃1ヶ月分の1.1倍以内。居住用建物では借主から0.55倍以内が原則です。
  • 広告料(AD)は、依頼者の依頼によって行う広告の実費相当額として、報酬の枠とは別に支払えます。
  • 長期にわたって使われていない「長期の空家等」の貸借では、借賃1ヶ月分の2.2倍まで支払える特例が2024年7月1日から使えます。
  • 賃料5%値下げは平均入居期間6.0年で238,176円の減収となり、フリーレント1ヶ月(66,156円)やAD1ヶ月より高くつきます。

結論:募集予算は「1回転あたりの上限額」で決める

入居者募集の判断は、次の3つの数字がそろえば9割が決まります。1つ目が1回転あたりの空室損、2つ目が法律上支払える報酬の上限、3つ目が値下げした場合の累計減収です。この3つを並べると、「ADを1ヶ月分上乗せしてでも2ヶ月早く決める」ことが、賃料を下げるよりはるかに安いという結論が、数字として見えてきます。

以下では、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会とIREM JAPANの実態調査、国土交通省の報酬告示と住宅市場動向調査、総務省の住宅・土地統計調査という一次情報から、その3つの数字を順番に組み立てます。募集方式(一般募集と専任募集)の話は、この数字の後に置きます。順番を逆にすると、判断の軸が言葉の定義にすり替わってしまうからです。

2026年の賃貸市場|賃貸用の空き家443.6万戸という前提

募集の難易度は、オーナーの努力量ではなく市場の空き部屋の量で決まります。日本の空き家のおよそ半分は、売れ残りでも別荘でもなく「募集中の賃貸住宅」です。ここを出発点に置くと、募集にかける費用の意味が変わります。

空き家900.2万戸のうち49.3%が賃貸用|共同住宅では78.5%

2024年9月に公表された総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)」によると、総住宅数は6,504.7万戸、空き家は900.2万戸で空き家率は13.8%と過去最高になりました。このうち賃貸用の空き家は443.6万戸で、空き家総数の49.3%を占めます。さらに建て方別に見ると、共同住宅の空き家502.9万戸のうち78.5%(394.7万戸)が賃貸用です。

つまり、アパート・マンションの空き部屋は「放置された廃屋」ではなく、いま同じ入居希望者を奪い合っている現役の競合です。募集を1ヶ月早めることは、この394.7万戸との競争を1ヶ月分短くすることを意味します。

家賃は上昇局面|借家の1か月家賃は59,656円で5年前比+7.1%

同じ調査では、借家(専用住宅)の1か月当たり家賃は59,656円で、2018年と比べて7.1%の増加でした。種類別では民営借家(木造)が54,409円(+4.5%)、民営借家(非木造)が68,548円(+7.0%)です。借家は1,946.2万戸で住宅全体の35.0%、うち民営借家が1,568.4万戸(28.2%)を占めます。

競合は多い一方で、家賃は上がっています。だからこそ、値下げで決めにいく判断は、市場の方向と逆を向いていないかを一度疑う価値があります。

【数値表】空室1回転のコストを実額で出す

ここからが本題です。自分の物件の数字がまだない方は、まず全国平均を仮置きして計算してみてください。使うのはIREM JAPANと公益財団法人日本賃貸住宅管理協会による「第13回(2025年版)全国賃貸住宅実態調査報告書」(全国3,844物件・有効回答40,979件)の一棟・木造物件(全国)の指標です。

指標(一棟・木造/全国)数値意味
満室月額賃料66,156円/戸1戸が満室のとき得られる月額
空室率2.09%解約戸数×平均空室期間で算出
空室損987円/戸・月空室により失われた月額
運営費10,761円/戸・月管理・修繕・保険などの月額
運営費率/NOI率17.79%/81.62%収入に対する運営費と純収益の割合
平均入替率16.7%1年間に入れ替わる戸数の割合
平均入居期間6.0年1人の入居者が住み続ける年数
募集費用(AD・広告料・客付手数料等)平均17,670円/戸・年
中央値13,260円/関東22,525円
募集にかけた費用の年額
賃貸管理手数料率(PMフィー)平均4.49%(中央値5.00%)管理委託料の料率
修理・維持費49,965円/戸・年(満室賃料比7.8%)原状回復を含む維持費

出典:IREM JAPAN/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「第13回(2025年版)全国賃貸住宅実態調査報告書」(関東地方は平均入替率19.5%・平均入居期間5.1年、満室月額賃料69,677円)

1回転あたりの空室期間は約1.5ヶ月|空室損は約99,000円

同報告書は空室率を「解約戸数×平均空室期間」と定義しています。この定義に従って逆算すると、全国・一棟木造の空室率2.09%を平均入替率16.7%で割った値が、1回転あたりの空室期間になります。

  • 2.09% ÷ 16.7% = 0.125年 = 約1.5ヶ月
  • 満室賃料66,156円 × 1.5ヶ月 = 約99,234円(1回転あたりの空室損)
  • 関東地方は1.97% ÷ 19.5% = 約1.2ヶ月、賃料69,677円なら約84,000円

ここで大事なのは金額の大小よりも構造です。入替率が高い地域ほど回転が頻繁で、1回転を短くする効果が毎年効いてきます。関東は入居期間5.1年に対し全国平均は6.0年ですから、関東の物件は同じ空室期間でも年あたりの負担が重くなります。※上記は報告書の指標からの逆算であり、報告書に直接記載された数値ではありません。

10戸アパートの年間収支分解|募集を1ヶ月早める価値

全国平均の一棟木造アパート10戸で、1年間の収支を分解します。

項目計算年額
満室賃料66,156円×10戸×12ヶ月7,938,720円
空室損987円×10戸×12ヶ月△118,440円
運営費10,761円×10戸×12ヶ月△1,291,320円
差引き6,528,960円
(参考)報告書の平均NOI率81.62%

10戸のうち年間で入れ替わるのは入替率16.7%として約1.7戸です。1回転の空室期間を1.5ヶ月から1.0ヶ月に縮められれば、66,156円×0.5ヶ月×1.7戸で年間約56,000円が戻ります。金額としては大きくありませんが、これは毎年発生し、しかも売却時の収益還元評価にそのまま乗ります。利回り5%で評価するなら、年5.6万円の改善は約112万円の資産価値に相当します。

募集費用(AD・客付手数料)の実額|1件あたり約10.6万円

では、その回転を短くするためにいくら使われているのか。報告書の募集費用(AD・広告料・客付手数料等)は年額ベースで示されているため、入替率で割ると1件あたりの水準が見えます。

  • 全国:17,670円 ÷ 16.7% = 約105,800円/件=満室賃料66,156円の約1.6ヶ月分
  • 関東:22,525円 ÷ 19.5% = 約115,500円/件=満室賃料69,677円の約1.66ヶ月分

つまり実務の相場として、1回転あたり賃料1.5〜1.7ヶ月分程度の募集費用が現に使われているということです。これは「AD1ヶ月+仲介手数料の貸主負担分」という一般的な構成とおおむね整合します。ここに賃貸管理手数料率4.49%(66,156円×12ヶ月で年約35,600円)を足すと、営業管理経費はおよそ年53,000円/戸になります。※こちらも年額指標からの推計です。

【比較表】募集で払える上限は法律で決まっている

募集予算を考えるうえで、支払い先である宅地建物取引業者が受け取れる報酬には法律上の上限があります。根拠は「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号、最終改正:令和6年6月21日国土交通省告示第949号、2024年7月1日施行)です。

取引の類型報酬の上限(消費税等相当額を含む)告示
貸借の媒介依頼者の双方から受ける合計額が借賃1ヶ月分の1.1倍以内。居住用建物では、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から0.55倍以内第四
貸借の代理借賃1ヶ月分の1.1倍以内(相手方から受ける分との合計も1.1倍以内)第五
長期の空家等の貸借の媒介借主から受ける額が1.1倍(居住用は承諾がある場合を除き0.55倍)以内である場合に限り、合計で借賃1ヶ月分の2.2倍まで第九
長期の空家等の貸借の代理借賃1ヶ月分の2.2倍以内第十
広告料依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額は、上記の枠外で受領可能第十一①ただし書

出典:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(改正後全文)国土交通省 宅地建物取引業法関係

AD(広告料)が別枠で払える法的根拠と、その限界

実務で「AD1ヶ月」「AD2ヶ月」と呼ばれるものの法的な位置づけは、告示第十一①のただし書、すなわち「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」です。報酬の上限とは別枠で受領できるのは、この広告料だけです。

ここで正直に申し上げておきたいのは、広告料は無制限ではないということです。あくまで依頼者(この場合はオーナー)が依頼した広告にかかる実費相当額であり、名目だけを広告料にして報酬上限を超える金銭を支払う扱いは、告示の趣旨に反します。オーナーとしては、「どのポータルに、どの期間、どの枠で掲載するのか」を確認したうえで、その対価として支払うという整理が実務上も説明上も安全です。この確認は、募集を依頼するときの1本の質問で済みます。

長期空室の物件は2.2倍まで払える|2024年7月施行の特例

長期にわたって居住や事業に使われておらず、将来も使われる見込みがない宅地・建物は、告示上「長期の空家等」として扱われます。この場合、借主の負担が上限内に収まっていることを条件に、媒介では合計で借賃1ヶ月分の2.2倍まで報酬を支払えます。代理では2.2倍以内です。

これは長期空室に悩むオーナーにとって、募集予算を正規の枠内で倍にできる制度です。空室が半年、1年と続いている物件では、仲介会社に「この物件は長期の空家等の特例に該当しないか」と確認する価値があります。ただし該当性の判断は個別の事情によりますので、依頼先の宅地建物取引業者と国土交通省の告示を確認したうえで進めてください。

【比較表】値下げ・フリーレント・AD・放置|どれが一番高くつくか

結論から書きます。賃料の値下げが、最も高くつきます。満室賃料66,156円、平均入居期間6.0年(72ヶ月)という全国平均を前提に、4つの打ち手のコストを並べます。

打ち手コストの計算1回転あたりの負担性質
①空室を1.5ヶ月放置66,156円×1.5ヶ月99,234円毎回発生
②フリーレント1ヶ月66,156円×1ヶ月66,156円1回限り
③AD1ヶ月上乗せ66,156円×1ヶ月66,156円1回限り
④賃料5%減額3,308円×72ヶ月238,176円入居期間ずっと継続

月3,308円の値下げは、募集時には小さく見えます。しかし平均入居期間6.0年で積み上がると238,176円になり、フリーレント1ヶ月の3.6倍、空室1.5ヶ月放置の2.4倍の負担です。「たった3,000円」と「24万円」は同じ判断の表と裏です。

賃料を下げてはいけないもう1つの理由|次回募集の基準まで下がる

値下げの本当のコストは、今回の入居者の6年分だけでは終わりません。一度下げた賃料は、次回募集時の「直前の成約賃料」として扱われ、周辺相場のデータにも反映されます。次の募集でその水準から上げ直すには、設備投資か市況の追い風が要ります。値下げは1回の判断ではなく、物件の賃料水準を長期に固定する判断です。

賃料を動かす前に、まず利回りから逆算した適正水準を確認することをおすすめします。考え方は投資利回りから逆算する家賃設定の考え方で整理しています。値下げ以外の打ち手の総覧は人口減少時代の空室対策10の戦略が参考になります。

【数値表】入居者は何を見て決めているか|令和7年度住宅市場動向調査

募集条件を組み立てる材料は、感覚ではなく調査にあります。2026年7月17日公表の国土交通省「令和7年度住宅市場動向調査」から、民間賃貸住宅に入居した世帯の回答を整理します。

選んだ理由(複数回答)妥協した点(複数回答)満足していない点(複数回答)
価格/家賃が適切 45.8%価格・家賃(予定より高い) 28.6%価格・家賃 17.3%
立地環境が良い 37.6%住宅の広さ 17.1%浴室の設備・広さ 16.1%
交通の利便性 34.2%間取り・部屋数 15.3%台所の設備・広さ 15.3%
職場から近い 27.6%台所/浴室の設備・広さ 各13.4%住宅の広さ 14.9%
デザイン・広さ・設備 27.3%交通の利便性 11.5%間取り・部屋数 13.2%

出典:国土交通省「令和7年度住宅市場動向調査 報告書」報道発表:2026年7月17日

この3列を横に読むと、募集の設計図が見えてきます。入居者は家賃で選び、家賃で妥協し、入居後も家賃に不満を持っています。ただし2列目・3列目には広さ・間取り・水回りが並びます。家賃で釣り合いを取るのではなく、広さや水回りの見え方で釣り合いを取れれば、賃料を維持したまま決まる余地があるということです。

設備で効くのは間取り65.8%と広さ55.3%

設備等に関する選択理由では、間取り・部屋数が65.8%で最多、次いで住宅の広さ55.3%、台所の設備・広さ32.9%、住宅のデザイン30.4%、浴室の設備・広さ27.3%、防犯性能の高さ11.8%でした。同調査では民間賃貸住宅入居世帯の宅配ボックス設置率が38.8%、在宅勤務に専念できる個室があるのは24.9%、入居した住宅の平均築後年数は19.9年です。

広さや間取りは簡単には変えられません。しかし、間取り図の描き方、家具配置の提案、居室の写真の撮り方で「広く見えるか」は変わります。募集写真の実務は反響を呼ぶ物件写真の撮り方にまとめています。宅配ボックスのように設置率がまだ4割弱の設備は、同価格帯の競合との差になりやすい領域です。

入居後の不満は浴室16.1%・台所15.3%|退去を減らす投資はどこか

満足していない点の上位に浴室16.1%・台所15.3%が並ぶという事実は、募集より退去の側に効きます。平均入居期間6.0年が7.0年に延びれば、入替率は16.7%から14.3%に下がり、空室損と募集費用が同じ比率で減ります。水回りへの投資は、募集の武器であると同時に、回転そのものを減らす投資です。1回転あたり空室損99,234円+募集費用105,800円、合わせて約20万円がかかる前提に立てば、水回り改修の判断基準も具体的になります。

募集の入口は7割がインターネット|ネット62.5%対不動産会社42.4%

同調査によると、民間賃貸住宅入居世帯のうちインターネットを通じた情報収集を行った世帯は71.5%、インターネットを通じた問い合わせ・説明会・内見・資料等の申込みは25.9%でした。物件を探した方法(複数回答)は、インターネット62.5%、不動産業者42.4%、知人等の紹介12.5%、勤務先5.1%、住宅情報誌4.1%です。

ネットと不動産会社は、どちらかではなく両方です。ネットで物件を見つけ、不動産会社の店舗で決めるという二段構えが標準になっています。したがってオーナーが確認すべきは、掲載枚数・写真の質・条件表記の正確さ(ペット可、楽器可、初期費用の内訳)と、仲介会社の担当者が物件の特長を説明できる状態にあるかの2点です。管理と仲介を一体で回す考え方は稼働率を上げる管理・仲介一体運営の実務モデルで解説しています。

電子契約2.2%・オンライン重要事項説明3.9%|まだ差が付く領域

一方で、電子署名等を活用した電子契約は2.2%、オンラインでの重要事項説明は3.9%、オンライン会議システムを活用した物件説明・商談は2.5%にとどまります。遠方からの転勤・進学需要を取りにいく物件では、この領域はまだ競合が少ない差別化の余地です。

初期費用の実額|家賃83,381円・敷金あり51.9%・礼金あり43.1%

条件設定の材料として、契約内容の実額も押さえておきます。令和7年度調査では、入居した住宅の月額家賃は平均83,381円・中央値74,000円、共益費は月額平均4,837円でした。敷金/保証金があった世帯は51.9%(月数は1ヶ月ちょうどが64.4%)、礼金があった世帯は43.1%(同73.4%)、仲介手数料があった世帯は48.0%(同69.7%)です。家賃について「非常に負担感がある」「少し負担感がある」の合計は53.9%でした。

礼金なしが約半数、仲介手数料なしが約半数という水準は、初期費用を下げる余地がまだあることを示します。初期費用の圧縮は、賃料を下げずに月々の支払いを維持したまま入口のハードルだけを下げる打ち手です。敷金・礼金の設計は敷金・礼金と初期費用の考え方もあわせてご覧ください。

一般募集と専任募集|数字で使い分ける

ここまでの数字を持ったうえで、募集方式を選びます。入居者募集には「一般募集」と「専任募集」の2つの方式があり、どちらが優れているという話ではありません。回転が早い物件は露出を優先し、回転が遅い物件は1社への情報の密度を優先する、という整理が実務的です。

一般募集:複数社に依頼して露出を最大化する

一般募集は複数の不動産会社に募集を依頼する方式です。多くの目に情報が触れるため成約確率が高まり、オーナー自身が入居者を探すこともできます。一方、成約時に他の依頼先へ連絡する手間が発生し、各社の熱量が分散して「どこも本気で追わない」状態になることもあります。入替率19.5%の関東のように回転が早く、放っておいても反響が出る立地では、露出の多さがそのまま日数短縮につながります。

専任募集:窓口を一本化して情報の密度を上げる

専任募集は1社に窓口を絞る方式です。連絡・報告が一元化されてオーナーの管理負担が軽くなるほか、1社が広告費と時間を集中的に投じやすくなります。反響が月に数件しかない物件、ターゲットが限定される物件、AD2ヶ月相当の予算を集中投下したい物件では、専任のほうが結果が出やすい傾向があります。判断材料は「直近3ヶ月の反響件数」と「内見からの成約率」です。反響が出ているのに決まらないなら物件側の問題、そもそも反響が出ていないなら露出と条件の問題です。

満室保証(サブリース)を検討する前に確認すること

空室が続くと、家賃保証のあるサブリース(一括借り上げ)が選択肢に上がります。仕組みとしては、オーナーとサブリース業者がマスターリース契約(特定賃貸借契約)を結び、業者が入居者に転貸します。

サブリースの仕組み 賃貸人・サブリース業者・転借人の契約関係図
サブリース(マスターリース契約と転貸借契約)の契約関係(出典:国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト

ここまで見てきた数字で判断するなら、比較の軸は明確です。提示された保証賃料の水準を、募集を自前で回した場合の負担と並べてみてください。仮に保証賃料が満室賃料の80〜85%であれば、賃料66,156円に対して年間で約12万〜16万円/戸の負担になります。一方、1回転あたりの空室損99,234円と募集費用105,800円の合計、つまり約20万円を平均入居期間6.0年で割ると、年約3.4万円です。この前提では、回転が平均並みの物件はサブリースのほうが高くつく計算になります。実際の保証率は契約ごとに異なりますので、提示された保証賃料・賃料改定の条件・免責期間の定めを、契約前に書面で確認してください。

管理会社は「登録」で検証する|賃貸住宅管理業法の使い方

管理会社の質は賃貸経営の成否を大きく左右します。実績や評判は比較しにくいものですが、賃貸住宅管理業法により誰でも今日確認できる客観的な事実が用意されています。

賃貸住宅管理業法 業務管理者の資格要件を満たすための移行講習・指定講習・登録試験の制度図
業務管理者の資格要件を満たすための講習・登録試験の枠組み(出典:国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト

管理戸数200戸以上は登録が義務|登録9,987件・業務管理者106,678名

国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の施行状況」(令和7年7月31日時点)によると、管理戸数200戸以上の事業者には国土交通大臣への登録が義務付けられ、登録事業者数は9,987件、業務管理者の資格要件を満たす者は106,678名です。登録業者には、業務管理者の選任、管理受託契約締結前の書面交付(重要事項説明)、財産の分別管理、委託者への定期報告といった義務が発生します。

なお、令和7年5月時点で登録業者の36.6%(3,624件)は登録義務のない200戸未満の事業者です。小規模でも登録している会社は、義務がないのに法定の体制を整えているということでもあります。登録の有無だけで優劣は決まりませんが、確認する価値のある事実です。

委託率は71.2%、相談件数は11,359件|任せきりにしないための3項目

同資料によると、賃貸住宅を所有するオーナーのうち管理業務を業者に委託する割合は、平成4年度の25.0%から令和5年度には71.2%へ上昇しました。一方、管理業者・サブリース業者等について消費生活センターに寄せられた相談件数は、平成26年度の3,785件から令和5年度には11,359件へと増えています。委託が普通になったからこそ、選び方と関わり方が問われています。

オーナーが今日確認できるのは、次の3項目です。

  1. 登録番号:国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルサイトで登録業者を検索し、登録の有無と番号を確認する。
  2. 業務管理者の選任:営業所ごとに業務管理者が選任されているか、誰が担当営業所の業務管理者かを聞く。
  3. 定期報告の中身:反響件数・内見件数・申込件数・成約までの日数が、毎月の報告書に数字で入っているか。

3つ目が実務では最も効きます。反響件数が報告されない募集は、改善のしようがありません。選定基準の詳細は不動産賃貸管理会社の選び方7つのポイント、契約書のチェック項目は賃貸管理委託契約書のチェックリストで整理しています。

募集ターゲットを広げる|改正住宅セーフティネット法(2025年10月1日施行)

募集の入口そのものを広げる制度も、2026年時点で新しくなっています。2025年10月1日に改正住宅セーフティネット法が施行され、居住サポート住宅の制度が始まりました。居住サポート住宅とは、居住支援法人等が大家と連携して、日常の安否確認、訪問等による見守り、生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅です。

高齢の単身者や外国籍の方の入居に不安を感じるオーナーは少なくありません。その不安の中身は、家賃の未払いと、入居中・退去時の対応にほぼ集約されます。改正法では次の枠組みが用意されました。

  • 家賃債務保証:一定の要件を満たす家賃債務保証業者の登録制度・認定制度により、保証を受けやすくする。
  • 残置物処理:2025年10月1日から、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加された。
  • 改修費補助:セーフティネット専用住宅・居住サポート住宅の改修に対する補助制度がある(金額・要件は自治体により異なるため、国土交通省の制度ページと所在地の自治体で確認してください)。

受け入れの不安を根性ではなく制度で埋める。これが、競合394.7万戸の中で募集の母数を広げるいちばん現実的な方法です。制度の使い方は住宅セーフティネット制度を空室対策に活用する方法で詳しく解説しています。

今日から動かす入居者募集チェックリスト(7項目)

  1. 自分の物件の満室賃料・年間解約戸数・平均空室期間を書き出し、1回転あたりの空室損を円で出す。
  2. その空室損を上限として、1回転あたりに払える募集費用(AD+貸主負担分)を決める。全国平均は賃料の約1.6ヶ月分。
  3. 仲介会社に、報酬と広告料の内訳(どのポータルに、どの期間、どの枠で掲載するか)を確認する。
  4. 空室が長期化している物件は、「長期の空家等」の特例(借賃2.2倍まで)に該当しないかを依頼先に確認する。
  5. 賃料を下げる前に、値下げ額×平均入居期間の累計額を計算し、フリーレントやADと比べる。
  6. 掲載写真の枚数と、間取り・広さの見え方を確認する。設備選択理由の上位は間取り65.8%・広さ55.3%。
  7. 管理会社の登録番号・業務管理者の選任・月次報告の反響件数の3点を確認する。

FAQ:入居者募集と満室維持についてよくある質問

Q. 入居者募集にかける費用は、家賃の何ヶ月分が相場ですか?

A. 実態調査からの推計では、1回転あたり賃料の約1.5〜1.7ヶ月分です。募集費用(AD・広告料・客付手数料等)の年額平均17,670円を平均入替率16.7%で割ると約105,800円となり、満室賃料66,156円の約1.6ヶ月分にあたります。関東は約115,500円で約1.66ヶ月分です。

Q. AD(広告料)はいくらまで払えますか?法律上の上限はありますか?

A. 報酬そのものの上限は、貸借の媒介で貸主・借主の合計が借賃1ヶ月分の1.1倍以内(居住用建物は借主から0.55倍以内が原則)です。広告料はこの枠とは別に支払えますが、それは「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」に限られます。名目だけの広告料で上限を超える支払いをする扱いは、告示の趣旨に反します。

Q. 空室が長期化している物件で、募集予算を増やす方法はありますか?

A. 2024年7月1日施行の報酬告示の改正により、「長期の空家等」の貸借では、媒介で合計借賃1ヶ月分の2.2倍まで、代理で2.2倍以内の報酬を支払えます。該当性は個別判断となるため、依頼先の宅地建物取引業者に確認してください。

Q. 空室が1ヶ月続くと、いくら損しますか?

A. 全国平均の一棟木造アパートでは満室賃料66,156円/戸ですので、1ヶ月で66,156円です。さらに1回転あたりの平均空室期間は約1.5ヶ月と推計され、1回転で約99,234円が失われます。10戸で年間の空室損は118,440円(987円×10戸×12ヶ月)です。

Q. 賃料値下げとフリーレント、どちらが得ですか?

A. 数字では圧倒的にフリーレントです。賃料5%(3,308円)の減額は平均入居期間6.0年で238,176円の減収ですが、フリーレント1ヶ月は66,156円の1回限りです。値下げは次回募集の基準賃料まで引き下げる二次的な影響もあります。

Q. 一般募集と専任募集はどちらを選ぶべきですか?

A. 直近3ヶ月の反響件数で判断してください。反響が十分あって決まらない物件は物件側の課題なので、露出を増やす一般募集の効果が限定的です。反響そのものが少ない物件は、広告費と時間を集中投下できる専任募集のほうが動きます。

Q. 入居者が部屋を選ぶ決め手は何ですか?

A. 令和7年度住宅市場動向調査では、民間賃貸住宅入居世帯の選択理由は家賃が適切45.8%、立地環境37.6%、交通の利便性34.2%、職場から近い27.6%、デザイン・広さ・設備27.3%の順でした。設備面では間取り・部屋数65.8%、住宅の広さ55.3%が上位です。

Q. 管理会社が信頼できるかを客観的に確認する方法はありますか?

A. 賃貸住宅管理業の登録を確認してください。管理戸数200戸以上は国土交通大臣への登録が義務で、令和7年7月31日時点の登録は9,987件です。国土交通省のポータルサイトで登録業者を検索でき、営業所ごとの業務管理者の選任状況もあわせて確認できます。

引用・参考資料

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者