京急空港線・糀谷駅前で2017年3月に完成した「糀谷駅前地区第一種市街地再開発事業」は、老朽木造住宅が密集していた約1.3haの地区を、事業費約219億円(※旭化成不動産レジデンス2015年4月プレスリリースによる)をかけた複合ツインタワーへと生まれ変わらせた成功事例です。完成から約9年が経過した今、この再開発がエリアにもたらした不動産価値の変化を改めて検証します。そして2025年、国土交通省が整備・営業構想を認定した「蒲蒲線(新空港線)」の動向が、糀谷エリアに新たな価値上昇の波をもたらそうとしています。
糀谷駅前地区再開発事業とは——背景と課題
再開発前のまち——木造密集市街地が抱えていた問題
糀谷駅前地区は京急空港線と環状8号線に挟まれた約1.3haのエリアです。再開発が始まる前のこの地区には、老朽木造住宅が密集し、道路が狭隘な状態が続いていました。大規模地震が発生した場合には延焼火災のリスクが高く、消防車・救急車のアクセスさえ困難な箇所が存在していたのです。
217名にのぼる権利者が入り組んだ地区であっただけに、個別の建替えでは解決できない問題が山積していました。だからこそ、第一種市街地再開発事業という手法を使い、権利者全員が参加した組合施行により、一体的かつ計画的な整備が実現したのです。
このような木造密集市街地の解消は、東京都が長年取り組んできた防災上の最重要課題の一つでもあります。糀谷駅前地区は、そうした課題に正面から向き合った先行事例として高く評価されています。
事業規模と参加者——217名の権利者、約219億円の事業費
事業の全体像をまとめると次のようになります。施行面積は約1.3ha、事業費は約219億円(旭化成不動産レジデンス2015年4月プレスリリースによる)、関係権利者は217名に達しました。延床面積はW棟34,142㎡・E棟8,948㎡の合計約43,000㎡と、駅前の規模としては相当の大事業です。
施工は戸田建設株式会社、設計は株式会社山下設計が担当しました。また、一般財団法人首都圏不燃建築公社が売主として参加組合員に名を連ね、旭化成不動産レジデンス株式会社・三井不動産レジデンシャル株式会社が販売提携代理として参画するという、大手の安心感を備えた事業体制が組まれました。
事業の経緯——2003年から2017年、14年間の歩み
準備組合設立から都市計画決定——10年の準備期間
糀谷駅前地区再開発準備組合が設立されたのは2003年のことです。その後、2008年3月に都市計画決定を取得するまで、実に約5年の歳月を要しました。土地区画が複雑に入り組んだ地区での事業化には、権利者一人ひとりとの丁寧な合意形成が不可欠だったからです。
2012年7月には再開発組合の設立認可(事業認可)を取得し、翌2013年12月には権利変換計画が認可されました。長い準備期間を経て、ようやく事業の具体化が始まったのです。
着工・竣工・完成——3年で完結した整備
2014年4月に解体工事が着手され、同年9月には本体工事が始まりました。2015年3月には第1期分譲の販売が開始され、2016年11月28日に施設建築物が竣工。そして2017年3月、駅前広場などの公共施設整備が完了し、事業全体が終了しました。準備組合設立から数えると約14年、事業認可からは約5年での完成です。
ステーションツインタワーズ糀谷——何が整備されたか
ツインタワーの全容——W棟20階・E棟18階、計335戸
整備された施設の中心は、「ステーションツインタワーズ糀谷」と名付けられた2棟のタワーマンションです。フロント・ウエスト(W棟)は地上20階・地下1階建て、高さ64.55m。フロント・イースト(E棟)は地上18階・地下2階建て、高さ62.20mとなっています。
2棟合計の総戸数は335戸で、そのうち非分譲住宅が149戸含まれています。住宅だけでなく、店舗・事務所も入居する複合的な施設構成が採られました。駅前に立地するツインタワーが誕生したことで、糀谷のまちの「顔」が大きく変わりました。
駅前広場・公益施設——多世代共生の拠点整備
再開発が生み出したのは住宅だけではありません。約2,000㎡の駅前広場が整備され、歩行者が安全に行き来できる空間が生まれました。また、子育て支援施設(認可保育所等)・高齢者支援施設・公共自転車駐車場・防災倉庫・スーパーマーケットが一体的に整備されています。
子育て世代と高齢者が同じ場所で支援を受けられる施設が駅前に揃った点は、単なる住宅供給にとどまらない、まちの価値を高める取り組みと言えます。職住近接・多世代共生の実現という観点から、この再開発は先進的な事例として位置づけられています。
なお、東京における再開発の全体像については2025年、東京を変貌させる主要再開発プロジェクトも参考になります。
再開発が変えた糀谷の不動産価値
第1期販売の好調スタート——坪単価290万円超、倍率1.2倍
2015年3月に始まった第1期分譲(83戸)には101件の申し込みが集まり、平均倍率は約1.2倍となりました。販売価格は3,070万円〜9,350万円(坪単価290万円強)という水準です。当時の糀谷エリアの相場水準を考えれば、再開発効果による価値の乗り上げが顕著に現れた数字といえます。
購入者の属性では、70%が大田区在住者、30〜40代が50%を占めており、地元居住者による実需主導の取得が中心だったことがわかります。地域に根ざした購入ニーズが再開発の恩恵を受ける、健全な市場形成が実現したと言えるでしょう。
竣工後の地価上昇——2026年公示地価で前年比+8.18%
再開発の完成が地価にもたらした影響は、数字の上にも明確に表れています。糀谷駅周辺の2026年公示地価(平均)は約80万円/㎡で、前年比+8.18%の上昇となっています(tochidai.info調べ)。2025年基準地価(平均)も約51万円/㎡(前年比+8.74%)と、大田区全体の平均上昇率+8.63%をわずかに上回る水準で推移しています。
竣工後の約10年間で中古マンション価格も約34.75%の上昇を見せており、資産価値という点でも再開発の成果が継続していることがわかります。ただし、この中古価格上昇率は業界データに基づく参考値であり、個別物件の価格変動は条件によって異なる点はご留意ください。
蒲蒲線(新空港線)が糀谷にもたらす次のステージ
蒲蒲線の計画概要——糀谷駅が経由駅になる意味
「蒲蒲線」とは、東急多摩川線(矢口渡駅)と東急蒲田駅を経由し、京急蒲田駅へと接続する新路線「新空港線」の通称です。計画ルートは一期区間(矢口渡〜京急蒲田)と二期区間(京急蒲田〜大鳥居)から構成されており、糀谷駅は二期区間の途中駅として計画に含まれています。
蒲蒲線が全線開業した暁には、糀谷駅から東急東横線・東京メトロ副都心線との相互直通により、渋谷・新宿・池袋・さらに埼玉方面まで乗り換えなしでアクセスできるようになります。現在の糀谷駅は「京急空港線の途中駅」という位置づけですが、将来的には東西・南北を結ぶ「交通結節点」へと役割が変わります。
2025年国交省認定——二期区間の着工・開業時期は今後の検討次第
2025年、国土交通省は東急電鉄等が申請した蒲蒲線の整備・営業構想を認定しました。この認定は、路線整備に向けた大きな前進を意味します。開業見通しは2038〜2042年ごろとされていますが、現時点で事業化が先行しているのは一期区間(矢口渡〜京急蒲田)です。
糀谷駅が含まれる二期区間(京急蒲田〜大鳥居)については、着工・開業の具体的な時期はいまだ未定です。一期区間の整備進捗や財源確保の状況によって、二期の具体化スケジュールは変動する可能性があります。投資・購入判断にあたっては、この点を正確に踏まえておく必要があります。
むしろ、だからこそ今の糀谷エリアは「まだ蒲蒲線の恩恵が価格に完全織り込まれていない段階」とも解釈できます。長期的な視野で資産価値の向上を見据えるならば、現在の価格水準は一考の余地があると私は考えています。
大田区まちづくり政策と糀谷の位置づけ
大田区の「鉄道と魅力的なまちづくり宣言」
大田区は2022年12月に「鉄道と魅力的なまちづくり宣言」を策定し、翌2023年には「大田区鉄道沿線まちづくり構想」を公表しています。この構想は、新空港線(蒲蒲線)沿線を中心とした民間開発機運の醸成を明確な方針として位置づけています。
行政が積極的にまちづくりの方向性を示すことは、民間投資の呼び水になります。行政の意思と民間の投資判断が一致したエリアでは、長期にわたって持続的な価値向上が実現しやすい傾向があります。
糀谷再開発が先行事例として果たした役割
糀谷駅前地区再開発は、大田区における「再開発成功事例」の代表格として評価されています。木造密集地区を複合ツインタワーに転換した実績は、蒲蒲線沿線の他のエリア——蒲田・矢口渡・大鳥居など——における将来の都市開発を検討する際の「先例」として参照されています。
他の東京東部エリアでの駅前再開発との比較という観点では、立石駅北口再開発|1,280億円・36階タワーと新庁舎の全容も参照すると、再開発が地域にもたらす変化の構造をより深く理解できます。
行政・施行者・権利者・参加組合員がそれぞれの役割を果たしながら、老朽密集地区を防災性の高い複合施設へと転換した糀谷の取り組みは、都市更新の在り方を示す好例です。信頼と長期的視野をもってまちと関わる全ての人が幸せになることを追求する——そうした姿勢がこの事業には体現されていると感じます。
まとめ
糀谷駅前地区再開発について、本記事のポイントを整理します。
- 事業完成は2017年。老朽木造密集地区だった約1.3haが、事業費219億円・延床約43,000㎡のツインタワー複合施設へと変貌した
- 防災・住宅・商業・福祉・公共空間を一体的に整備した複合型まちづくりが、地域の価値を大きく向上させた
- 地価は上昇基調。糀谷駅周辺の2026年公示地価は前年比+8.18%と、大田区全体水準を上回る勢いで上昇している
- 蒲蒲線(新空港線)は2025年4月に国土交通省の構想認定を取得。ただし糀谷が含まれる二期区間(京急蒲田〜大鳥居)の着工・開業時期は現時点で未定であり、最新情報を継続的に確認することが重要
- 大田区のまちづくり政策が沿線全体の開発機運を後押しし、糀谷エリアは中長期的な価値向上ポテンシャルを持つエリアとして注目が高まっている
よくある質問(FAQ)
Q1. 糀谷駅前地区再開発事業はいつ完成しましたか?
施設建築物は2016年11月28日に竣工し、駅前広場などの公共施設整備は2017年3月に完了しました。準備組合の設立(2003年)から完成まで約14年を要した大規模事業です。
Q2. ステーションツインタワーズ糀谷の施設概要を教えてください。
フロント・ウエスト(W棟・地上20階、高さ64.55m)とフロント・イースト(E棟・地上18階、高さ62.20m)のツインタワーで構成される総戸数335戸の複合施設です。住宅のほか、店舗・事務所・保育所・高齢者支援施設・スーパーマーケット・防災倉庫・駅前広場(約2,000㎡)が一体的に整備されました。売主は一般財団法人首都圏不燃建築公社で、旭化成不動産レジデンス・三井不動産レジデンシャルが販売提携代理として参画しています。
Q3. 蒲蒲線(新空港線)の開業で糀谷駅はどのように変わりますか?
蒲蒲線の二期区間(京急蒲田〜大鳥居)が開業すると、糀谷駅は東急東横線・東京メトロ副都心線との相互直通により渋谷・新宿・池袋・埼玉方面へ乗り換えなしで直結する交通結節点となります。ただし、糀谷が含まれる二期区間の着工・開業時期は現時点で未定です。国土交通省は2025年4月に整備・営業構想を認定しており、一期区間(矢口渡〜京急蒲田)の事業化が先行しています。
Q4. 糀谷駅周辺の現在の地価水準はどの程度ですか?
糀谷駅周辺の2026年公示地価(平均)は約80万円/㎡(前年比+8.18%)、2025年基準地価(平均)は約51万円/㎡(前年比+8.74%)です。大田区全体の平均上昇率(+8.63%)をわずかに上回る水準で推移しており、蒲蒲線構想認定の効果もあって上昇基調が続いています(地価データはtochidai.infoによる参考値)。