東京都港区赤坂一丁目に立つ高さ205mのランドマーク「赤坂インターシティAIR」が、2025年7月に米国グリーンビルディング協会の「LEED」認証最高ランク・Platinumを取得しました。複合用途の大規模ビルとして国内初の快挙であり、2011年の都市計画決定から始まった「赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業」の成果が、完成から8年を経てあらためて注目されています。再開発がエリアの不動産市況にどのような影響を与えたのか、データとともに検証します。
赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業とは何だったか
事業の背景と都市計画決定(2011年)
外堀通りと六本木通りが交差する溜池山王駅至近のエリア——約2.5haにわたるこの地区には、老朽化した建築物が密集していました。道路交通基盤の整備や地下鉄との連絡通路整備が長年の課題となっていた背景を受け、港区は2011年9月に都市計画を決定しました。翌2012年8月には赤坂一丁目地区市街地再開発組合の設立が認可され、東京都心における大型の官民連携プロジェクトとして本格始動しました。
第一種市街地再開発事業とは、権利変換方式により地権者の権利を新築ビルの床に置き換える仕組みです。従前の権利関係を整理しながら都市基盤を一体的に整備できる手法であり、単なる建て替えとは本質的に異なります。地下鉄連絡通路の整備・広場の創出・歩行者ネットワークの強化といった公共インフラの整備を同時に実現できる点が、このスキームの最大の強みです。
事業の概要と赤坂インターシティAIRの誕生
施行者は赤坂一丁目地区市街地再開発組合、参加組合員は日鉄興和不動産(旧・新日鉄興和不動産)です。設計は株式会社日本設計、施工は大林組が担当しました。2014年9月に建築工事が着工し、2017年8月31日に工事完了公告、同年9月29日にグランドオープンを迎えています。
完成した赤坂インターシティAIRは、地上38階・地下3階・塔屋1階、高さ205.08m、延床面積178,328.01㎡という規模を誇ります。オフィス(貸室面積82,006㎡)・共同住宅52戸・会議施設・店舗を一体的に整備した複合型のランドマークビルです。東京メトロ銀座線・南北線「溜池山王」駅と地下通路で直結しており、基準階面積は約782坪と大型オフィス需要に対応しています。NTTドコモやグラクソ・スミスクラインなど国内外の主要テナントが入居しています。
完成から8年——2025年LEED Platinum取得の意味
「LEED O+M」Platinum認証とは何か
LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)は、米国グリーンビルディング協会(USGBC)が策定した国際的な建物環境評価システムです。中でも既存建物の運用・維持管理を評価する「LEED O+M: Existing Buildings v4.1」は、設計時の性能だけでなく実際の運用状況を継続的に評価するものです。エネルギー管理・水効率・室内環境品質・材料利用などが評価対象となります。Platinum(プラチナ)はその最高ランクであり、すべての評価カテゴリで高い水準のスコアを達成する必要があります。
日鉄興和不動産のプレスリリース(2025年7月23日)によれば、赤坂インターシティAIRは複合用途の大規模ビルとして国内初のLEED Platinum認証を取得しました。「複合用途」かつ「大規模」という条件を両立させた国内初の事例であり、国際的な不動産評価の文脈でも注目されています。
赤坂インターシティAIRが評価された要因
LEED認証の6つの評価カテゴリ——立地と交通、持続可能な敷地、水効率、エネルギー・大気、材料・資源、室内環境品質——において、このビルが高い評価を得た理由があります。設計段階からの環境配慮が一貫して実装されていた点が、その核心です。
敷地内に設けられた約5,000㎡の緑地(緑化率50%超)と、約200mにわたる「グリーンアベニュー」(並木道)は、ヒートアイランド対策と生物多様性保全の観点から高く評価されました。再生可能エネルギー由来電力の活用と再生水利用・節水設備の導入が、エネルギー・水効率の項目を押し上げています。溜池山王駅との地下直結という立地条件は「立地と交通」カテゴリでも有利に機能しています。
BCP(事業継続計画)対応として、デュアル燃料発電機(3,500kVA×2台)による最大200時間の電力供給能力を備えています。東日本大震災以降に企業が重視するレジリエンス要件を高いレベルで満たしており、テナント企業の選定においても重要な評価要素となっています。天井高2,850mm(特殊階3,000mm)という居住性の高さも室内環境品質の評価に寄与しています。
再開発が変えた赤坂の不動産市場——地価データで読む波及効果
赤坂エリア公示地価の推移(2020〜2026年)
赤坂一丁目地区の再開発が完成した2017年以降、赤坂エリアの不動産市況は継続的な上昇傾向を示しています。公示地価データによれば、赤坂駅周辺の公示地価は以下のように推移しました。
| 年度 | 地価(/㎡) | 坪単価 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 346万円 | 1,144万円/坪 | +8.33% |
| 2021年 | 340万円 | 1,125万円/坪 | -1.27% |
| 2022年 | 342万円 | 1,131万円/坪 | +0.69% |
| 2023年 | 350万円 | 1,158万円/坪 | +2.58% |
| 2024年 | 408万円 | 1,349万円/坪 | +6.18% |
| 2025年 | 457万円 | 1,511万円/坪 | +12.11% |
| 2026年 | 536万円 | 1,772万円/坪 | +17.08% |
2020年から2026年にかけて地価は約55%上昇しており、特に2024年以降の上昇ペースが加速していることがわかります。港区赤坂一丁目の住宅地基準地は、全国でもトップクラスの上昇率(2025年:+15.6%)を記録しています。コロナ禍の2021年に一時的な調整があったものの、それ以降は一貫して上昇しており、エリアとしての底堅さが際立っています。
なお、東京再開発エリア主要プロジェクト調査レポート|投資・居住適性と将来性でも示しているように、大型再開発の完成後にエリアの地価が段階的に上昇するパターンは、赤坂以外のエリアでも繰り返し確認されています。
再開発完成が周辺市場に与えた3つの効果
再開発が地価・不動産市況に与える影響は、単純な「新築ビル建設」にとどまりません。赤坂一丁目地区再開発は、3つのメカニズムを通じてエリア全体の価値を押し上げてきました。
第一に、インフラ整備効果です。地下鉄との連絡通路整備・広場の創出・歩道の整備によって、エリア内の回遊性が格段に向上しました。これは個別ビルの価値にとどまらず、周辺の商業・住宅需要にも波及しています。
第二に、国際的認知の向上です。グラクソ・スミスクラインをはじめとする外資系大手テナントの誘致が実現したことで、赤坂エリアは「国際ビジネスが集積するエリア」としての認知を確立しました。むしろ、こうしたブランド形成こそが長期的な地価支持力の源泉といえます。
第三に、連鎖再開発の誘発です。赤坂インターシティAIRの成功は、周辺エリアの再開発を加速させる呼び水となりました。東京都心再開発が不動産価値に与える影響|虎ノ門・渋谷・品川の投資分析でも分析しているとおり、核となる再開発が完成すると周辺での開発意欲が高まり、エリア全体が変容していく現象が起きます。
赤坂エリアの連続再開発——2028年に向けた次のランドマーク
赤坂一丁目の成功を起点に、赤坂エリアでは現在も大型再開発が連続して進行しています。
| 事業名 | 規模 | 状況 |
|---|---|---|
| 赤坂インターシティAIR(赤坂一丁目) | 地上38階・205m | 2017年完成 |
| 赤坂二・六丁目地区開発計画 | 地上40階(東街区)+地上18階(西街区) | 2028年完成予定 |
| 赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業 | 地上46階 | 建設中 |
三菱地所とTBSが主導する赤坂二・六丁目地区開発計画は、2028年の完成が予定されており、地上40階の東街区と地上18階の西街区で構成されます。日鉄興和不動産が手がける赤坂七丁目2番地区第一種市街地再開発事業(地上46階)も建設が進んでいます。これらのプロジェクトは赤坂・虎ノ門エリアを「グリーンコリドー」として整備する構想とも連携しており、都市の持続可能な発展という大きなビジョンの中で位置づけられています。2028年以降には、こうした連続する再開発の完成がさらなる地価上昇圧力を生む可能性があります。
不動産オーナーが取るべきアクション
1. 赤坂・溜池山王エリアの資産価値を再評価する
2026年公示地価で+17%という上昇率は、単年の数字として受け止めるだけでは不十分です。重要なのは、2020年から2026年にかけての6年間で約55%という累積上昇の構造的背景を理解することです。赤坂エリアでは2028年に向けてさらなる大型再開発の完成が予定されており、追加の上昇圧力が継続する可能性があります。現在保有している資産の位置づけを、こうした長期的なエリア変容の文脈で改めて評価することが重要です。
2. 「環境認証」が物件価値に与える影響を認識する
赤坂インターシティAIRのLEED Platinum取得は、環境認証が竣工後も物件の競争力を継続的に高める可能性を示しています。LEED・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)・CASBEEといった環境認証は、ESG投資の拡大を背景に、機関投資家や外資系テナントの物件選定において重要な評価基準となりつつあります。だからこそ、既存物件のグリーン化改修への投資を検討することは、物件価値の長期的な維持・向上につながる戦略的判断といえます。省エネ設備の導入・再生水利用設備の整備といった取り組みは、単なる設備投資を超えた資産価値向上策として捉える視点が求められます。
3. ポートフォリオ戦略:再開発エリアへの分散投資
完成済みの再開発エリア(赤坂一丁目)への投資は、インフラ整備が完了した安定した資産価値を享受できます。しかし、値上がり余地は限定的になる側面もあります。現在進行中の赤坂七丁目2番地区や赤坂二・六丁目地区のような完成前・開発中のエリアは、完成後の価値上昇を先取りする形で投資機会を提供します。完成済みエリアと開発中エリアを組み合わせたリスク分散の視点が、不動産ポートフォリオ戦略の基本です。
INAの見解——再開発の「成果」を正しく読む視点
私が赤坂インターシティAIRの事例から強く受け取るメッセージは、「再開発の真価は完成時ではなく、その後5〜10年で現れる」という事実です。2017年の竣工から8年を経て取得したLEED Platinum認証は、2011年の都市計画段階から環境配慮を設計の根幹に置いていた先見性の証明です。完成時に高く評価されたビルが、長期にわたり国際基準の最高評価を維持し続けていること——これは偶然ではなく、再開発設計の質と運用管理の継続的な取り組みの結果です。
不動産オーナーにとって、再開発エリアを見る際に必要な時間軸は「完成後いくらで売れるか」ではなく「完成後10年でエリアがどう変容しているか」です。赤坂エリアは現在まさにその変容の真っ只中にあります。2028年に向けた複数の大型プロジェクトが完成するにつれ、このエリアは国際ビジネス拠点としてさらに成熟していくでしょう。
もうひとつ注目すべき点は、環境認証が不動産価値評価の「必須要件」になりつつあるという潮流です。ESG投資の拡大とともに、機関投資家や外資系企業は環境性能を物件選定の重要条件として位置づけるようになっています。むしろ、環境認証のない物件は選択肢から外れるリスクすら生じつつあります。この変化は、既存物件を保有するオーナーにとって、改修投資の優先順位を再考する契機となるはずです。
私たちINA&Associates株式会社は、不動産市場の長期的なトレンドを読み解きながら、オーナー様の資産価値を最大化するための戦略的なパートナーシップを提供しています。赤坂エリアをはじめとする東京都心の再開発動向と、それが個別資産に与える影響についても、継続的に情報を発信していきます。
まとめ
- 赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業は2017年に完了し、高さ205mの複合ランドマーク「赤坂インターシティAIR」が誕生しました。
- 2025年7月、同ビルは複合用途大規模ビルとして国内初となるLEED O+M Platinum認証を取得し、設計段階からの環境先見性が国際的に証明されました。
- 赤坂エリアの公示地価は2020〜2026年で約55%上昇しており、2026年は前年比+17.08%と加速しています。
- 再開発の波及効果は「インフラ整備」「国際的認知の向上」「連鎖再開発の誘発」という3つのメカニズムで機能しています。
- 赤坂二・六丁目地区(2028年予定)・赤坂七丁目2番地区(建設中)と連続する再開発が進行中であり、エリア価値の長期的な上昇圧力が続く見通しです。
- 不動産オーナーには、環境認証の価値の変化を踏まえた改修投資と、再開発エリアへの分散投資戦略が求められています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 赤坂インターシティAIRのLEED Platinum認証はなぜ「国内初」なのですか?
LEED O+M(既存建物の運用・維持管理部門)のPlatinum認証は、単体用途のビルでの取得事例はありましたが、オフィス・住宅・商業施設・会議施設を複合した大規模ビルでの取得は赤坂インターシティAIRが国内初です。複合用途の場合、各用途が異なるエネルギー消費パターンを持つため、一体的な環境管理の難易度が高く、プラチナ水準の達成はより困難とされています。
Q2. 赤坂エリアの地価は今後も上昇し続けますか?
2026年の赤坂エリア公示地価は前年比+17.08%と高い上昇率を示していますが、これが永続するとは断言できません。しかし、2028年に予定される赤坂二・六丁目地区開発計画の完成や、進行中の赤坂七丁目2番地区再開発が完了するタイミングで追加の上昇圧力が生じる可能性があります。中長期的には「国際ビジネス拠点としての成熟」がエリアの底堅さを支える構造的要因として機能すると考えられます。
Q3. 第一種市街地再開発事業と通常の民間開発はどう違うのですか?
第一種市街地再開発事業は都市再開発法に基づく公的スキームであり、権利変換方式によって地権者の権利を新築ビルの床に置き換えます。民間の区分所有建物の建て替えと異なり、道路・広場・地下通路などの公共インフラ整備を一体的に実施できる点が最大の特徴です。行政が都市計画決定を行い、組合が施行者となる形で進められます。赤坂一丁目地区の場合、溜池山王駅との地下直結通路整備もこのスキームによって実現しました。
Q4. 環境認証(LEED等)は不動産の賃料や空室率に実際に影響しますか?
海外の研究では、LEED認証ビルは非認証ビルと比較して賃料が5〜10%高い傾向があるとされており、空室率も低い水準を維持する事例が報告されています。国内でも、ESG投資の拡大とともに外資系テナントや機関投資家が環境認証を物件選定の重要条件とするケースが増えています。直接的な数値効果は物件の立地・規模・用途によって異なりますが、環境認証の有無が中長期的な競争力に影響を与える方向性は明確です。
引用・参考資料
港区都市整備部「赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業」(港区公式)
港区議会「赤坂一丁目地区市街地再開発組合の解散について」(令和元年11月22日)
日鉄興和不動産株式会社「赤坂インターシティAIR 建物概要」
日鉄興和不動産株式会社プレスリリース「赤坂インターシティAIRが『LEED認証』最高ランクPlatinumを取得」(2025年7月23日)(PR TIMES)