
公園通り西地区は、渋谷区役所の南側、渋谷公園通りに面する渋谷区宇田川町及び神南一丁目地内に位置しています。再開発の対象となっているのは、1975年竣工の高層集合住宅「渋谷ホームズ」(地上14階建て)と、1964年竣工の渋谷区立神南小学校(3階建て)の2棟です。いずれも築50年以上が経過しており、耐震性・防災性の観点からも建て替えが急務とされてきました。
渋谷区は2024年1月に都市計画決定(令和6年告示第4号)を行い、その後約1年半をかけて組合設立の準備が進められました。2025年9月22日には東京都が「公園通り西地区市街地再開発組合」の設立を正式に認可し、事業は準備段階から本格的な推進フェーズへと移行しています。事業協力者には東急不動産(参加組合員兼)と清水建設が名を連ねており、渋谷エリアでの開発実績が豊富な両社の参画が事業の信頼性を高めています。
計画規模と用途構成
新たに建設される再開発棟は地上33階・地下4階建てで、高さは約140mに達します。延べ床面積は約70,000㎡を確保し、住宅・事務所・店舗・サービス施設・多目的スペース・駐車場を複合的に組み込む構成です。渋谷駅から徒歩圏内という好立地に、これだけの規模の複合ビルが誕生することで、エリア全体の回遊性と利便性が大きく向上することが期待されます。
また、旧区道の廃止・敷地統合によって広場(約1,160㎡)が整備される計画も含まれています。帰宅困難者の受け入れ施設や防災備蓄倉庫の設置も予定されており、商業・居住機能だけでなく、渋谷エリアの防災拠点としての役割も担います。渋谷駅周辺は多くの通勤・通学者が集中するターミナルであるため、こうした防災インフラの整備は地域全体の安心感を底上げするものといえます。
全国注目の「空中権活用」スキームとは
本事業の最大の特徴が、渋谷区立神南小学校の「空中権(未使用容積率)」を民間再開発棟へ移転するスキームです。この仕組みを理解するには、まず「空中権」の概念を押さえる必要があります。
建物には都市計画によって容積率の上限が定められています。実際に建物が利用している容積率がその上限を大きく下回っている場合、使い切っていない容積率分を「空中権」として隣接する敷地に移転・売却することができます。神南小学校は容積率の約91%が未使用の状態であり、この余剰容積率を今回の再開発棟に移転することで、通常では実現できない高容積のタワービルが可能となります。
その対価として、民間(再開発組合・東急不動産)が神南小学校(延べ約21,830㎡)の建て替え費用を負担するという取り決めです。不動産鑑定士による試算では空中権の評価額は約100億円とされ、渋谷区が公表した52億円との間には大きな乖離があり、区議会でも議論を呼んだ経緯があります。いずれにせよ、公立学校の建て替えを実質的に民間が担うというスキームは全国的にも事例が少なく、今後の都市再開発における公民連携モデルとして広く注目されています。
このような仕組みが成立した背景には、老朽化した公立小学校の建て替えを財政的に単独で行うことが難しい自治体の現状があります。容積率という明確なインセンティブを得る民間事業者と、財政負担を抑えながら公共施設を刷新できる自治体の双方のニーズが合致した結果です。公と民が利害を一致させ、都市基盤整備と収益性を両立させる本スキームは、財政制約が続く自治体にとって一つの有力な解決策を示しているといえます。
事業スケジュールと現在の進捗
本事業は以下のスケジュールで進行しています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024年1月 | 渋谷区都市計画決定(令和6年告示第4号) |
| 2025年9月22日 | 東京都による組合設立認可 |
| 2026年度(予定) | 権利変換計画認可 |
| 2027年度(予定) | 着工 |
| 2032年度(予定) | 竣工 |
2025年9月の組合設立認可により、現在は2026年度の権利変換計画認可に向けた準備が進められています。権利変換とは、従前の土地・建物の権利を新しい再開発ビルの権利へ移行させる手続きです。これが完了することで既存居住者・権利者への補償内容が確定します。着工まで約2年、竣工まで約7年という長期事業ではありますが、スケジュールは着実に進捗しています。
「渋谷ホームズ」の建て替えはいつから?経緯と“白紙”の噂の真相
今回の再開発の主な対象となっている「渋谷ホームズ」は、1975年(昭和50年)に竣工した地上14階建ての分譲マンションです。建て替えの検討自体は古くから進められており、渋谷区の公表資料によれば平成29年(2017年)4月に「公園通り西地区市街地再開発準備組合」が設立され、そこから約8年をかけて2025年9月の正式な組合設立認可にたどり着いています。したがって現在の渋谷ホームズが実際に着工(解体・建設開始)されるのは、上表のとおり2027年度予定であり、既に約8年の準備期間を経た計画ということになります。
検討の過程では反対の声も上がりました。令和5年(2023年)12月5日には「渋谷区が違法な計画を進めている」とする趣旨のチラシが区役所周辺で配布されています。これに対し渋谷区は公式ページで、都市計画上の要件(都市再開発法第3条第3号等)に適合していることや、準備組合加入率が同年11月末時点で約96%に達していたことなどを示し、「誤解に基づくもの」との見解を公表しました。実際、計画はその後も白紙になることなく手続きが進み、2025年9月22日に東京都が正式に組合設立を認可しています。「渋谷ホームズ 白紙」といった検索も見られますが、本記事執筆時点(2026年9月)で事業は2026年度予定の権利変換計画認可に向けて進行中です。
なお、渋谷パルコ北側エリアでは「神南一丁目地区第一種市街地再開発事業」という名称の別プロジェクトも進められています。渋谷区のまちづくり資料によれば、これは本記事が扱う公園通り西地区(渋谷ホームズ・神南小学校の建て替え)とは異なる、独立した市街地再開発事業です。名称が似ているため検索時に混同されやすい点にご注意ください。
渋谷公園通りエリアの不動産価値への影響
渋谷区は2026年公示地価において平均坪単価1,798万円(前年比+12.32%)を記録し、全国3位の上昇率を示しました。特に渋谷区桜丘町は東京都内の公示地価上昇率1位(+28.99%)を記録しており、渋谷エリア全体で不動産価値の上昇が続いています。公園通り西地区が位置する宇田川町・神南一丁目も、この上昇トレンドから恩恵を受けるエリアです。
再開発が不動産価値に与える影響は多面的です。第一に、高層複合施設の誕生によるエリアの魅力向上があります。商業・オフィス・住宅の複合利用が進むことで、周辺の賃料水準や売買価格に上昇圧力がかかります。第二に、防災インフラの整備による安全性の向上です。耐震性の高い建物や帰宅困難者受け入れ施設の整備はエリア全体のレジリエンスを高め、長期保有資産としての評価を引き上げます。第三に、神南小学校の建て替えによる教育環境の充実は、子育て世代のファミリー層の需要を呼び込む要因となります。
一方で、着工から竣工までの約5年間は建設工事に伴う騒音・振動・交通規制が周辺環境に影響を与える可能性があります。渋谷駅周辺では道玄坂二丁目南地区や渋谷二丁目西地区の再開発も並行して進んでおり、複数の大規模工事が同時進行することで一時的な利便性の低下も想定されます。しかし、竣工後の恩恵を考えれば、長期的な視点でエリアの資産価値上昇を見据えた判断が求められます。
渋谷駅周辺再開発の全体像と不動産価値への影響でも詳しく解説していますが、渋谷エリアは再開発が重なり合うことで相乗効果を生む構造になっています。単一プロジェクトの竣工ではなく、エリア全体が段階的に更新されることで、長期にわたる資産価値の上昇トレンドが維持されます。
取引価格は実際にどう動いているか
再開発が周辺の不動産価格にどう表れているかを、国土交通省が公表している不動産取引価格データで確認しました。神南の地区単位では中古マンションの取引が年数件と少ないため、渋谷区全体で集計しています。
| 年 | 取引件数 | 渋谷区の㎡単価(中央値) |
|---|---|---|
| 2023年 | 1,174件 | 131.4万円 |
| 2024年 | 1,214件 | 146.7万円 |
| 2025年 | 1,393件 | 157.5万円 |
| 2026年(第1四半期のみ) | 257件 | 162.9万円 |
2023年から2025年にかけて渋谷区の中古マンション㎡単価は+19.9%上昇しました。ちなみに渋谷駅周辺(地区名に「渋谷」を含む取引)に限ると同期間で+28.5%で、駅に近いほど上昇率が高いという構造が見て取れます。
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)「不動産取引価格情報」(国土交通省)をもとにINA&Associates株式会社作成。2026年9月時点で取得できたデータによります。直近の四半期は後から取引が追加されるため暫定値です。
オーナーが取るべきアクション
公園通り西地区の再開発を踏まえ、渋谷・原宿エリアで不動産を保有・検討しているオーナーには以下の点を意識した行動が有効です。
まず、エリア内の土地・建物の取得タイミングを見極めることが重要です。再開発が具体化するにつれて価格は先行して上昇する傾向があります。2026年度の権利変換計画認可前後は一つの注目局面となるため、情報収集を密に行うことが得策です。
次に、既存物件のリノベーション・バリューアップを検討することです。再開発エリアへの人流増加に伴い、周辺の賃貸物件・商業物件の需要も高まります。老朽化した物件を放置するのではなく、入居者・利用者にとって魅力的な空間へとアップデートすることで、エリアの上昇気流に乗ることができます。
さらに、防災・耐震性能の確認と強化も欠かせません。公園通り西地区の再開発でも防災拠点機能が重視されているように、渋谷エリア全体で高い安全基準が求められています。既存物件の耐震診断を行い、必要であれば改修を検討することが、長期的な資産価値の維持につながります。
なお、権利変換に関わる現権利者については、今後の手続きについて組合や専門家への早期相談が望まれます。権利変換計画は権利者の同意形成が必要であり、丁寧なプロセスを経ることが円滑な事業推進の鍵となります。
私の考え
本事業で最も注目すべきは、神南小学校の空中権活用スキームが示す「公民連携の新たな可能性」です。財政制約が続く自治体にとって、老朽化した公共施設の建て替えは長年の課題でした。このスキームは、民間事業者が容積率というインセンティブを得る代わりに公共施設の整備費用を負担するという、双方に合理性のある仕組みです。空中権評価額の開示をめぐる議論は残りますが、それ自体が透明性向上へのプロセスであり、今後の事例に向けた重要な先例となると私は考えます。
渋谷エリアの再開発は、もはや個別プロジェクトの集積ではなく、エリア全体をリデザインする都市戦略の様相を呈しています。道玄坂・渋谷二丁目・宮益坂・そして公園通り西という各地区が同時並行で更新されることで、渋谷は2030年代に向けて国際競争力のある都市へと進化します。私たちINAが不動産投資・資産管理の観点で渋谷エリアを引き続き注目し続ける理由は、まさにこのダイナミックな変化にあります。
不動産市場において長期的視野を持つことの重要性は言うまでもありません。短期的な工事期間中の不便さや一時的な価格変動に惑わされず、2032年竣工後のエリアの姿を見据えた意思決定が、資産保有者にとって本質的な価値を生み出すものだと私は考えています。
数字から見た補足(2026年9月時点)
公園通りエリアは、住宅市場の数字では捉えにくい場所です。神南の地区単位では中古マンションの取引が年数件しか発生せず、相場を集計することができませんでした。商業・業務用途が中心で、個人が買える住宅の在庫がほとんどないためです。
この立地の価値は、住宅の取引価格ではなく店舗とオフィスの賃料で測るべきものです。空中権の活用という手法が採られていること自体が、土地の利用価値が極めて高いエリアであることを示しています。
投資対象として見るなら、渋谷区全体の住宅市場(3年で+19.9%)と、駅周辺(同+28.5%)の差が参考になります。駅に近いほど伸びが大きいという傾向は、公園通りにも当てはまると考えています。
投資家としての判断軸
- 公園通りで住宅を探すのは現実的ではありません。投資対象を求めるなら、渋谷区内で在庫のあるエリアに広げる必要があります。
- 店舗物件を検討する場合、判断材料は賃料と稼働率です。住宅の相場観をそのまま持ち込むと見誤ります。
- 渋谷ホームズの建て替えは、周辺で数少ない住宅供給の機会になります。動向を追う価値があります。
まとめ
公園通り西地区第一種市街地再開発事業のポイントを整理します。
- 事業規模:地上33階・高さ約140m・延べ床面積約70,000㎡・総事業費約882億円
- 事業主体:公園通り西地区市街地再開発組合(東急不動産・清水建設が参画)
- 最大の特徴:神南小学校の空中権(約100億円相当)を再開発棟に移転し、民間が小学校建て替えを担う全国注目の公民連携スキーム
- スケジュール:2027年度着工・2032年度竣工(権利変換計画認可は2026年度予定)
- 不動産価値への影響:渋谷区の公示地価は前年比+12.32%と全国3位の上昇。再開発竣工後もエリア全体の資産価値向上が継続すると見込まれる
渋谷エリアの再開発は2030年代に向けて加速しており、公園通り西地区はその中でも公民連携モデルという点で特に重要な位置づけを持っています。長期的な視点でエリアの変化を捉え、資産戦略に活かしていただければと思います。
よくある質問(FAQ)
Q. 竣工はいつ予定されていますか?
A. 2032年度の竣工が予定されています。2027年度の着工から約5年間の工事期間を経て完成します。2026年度に予定されている権利変換計画認可が一つの重要なマイルストーンとなります。
Q. 現在の居住者(渋谷ホームズの住民)はどうなりますか?
A. 第一種市街地再開発事業では、従前の権利者は権利変換計画に基づき、新しい再開発ビルの住戸や床に権利を移転することができます。補償内容は権利変換計画の認可(2026年度予定)を経て確定します。詳細については再開発組合への確認を推奨します。
Q. 神南小学校はどうなりますか?
A. 神南小学校は、今回の再開発棟内に延べ約21,830㎡の規模で再整備される計画です。空中権移転の対価として民間事業者が建て替え費用を負担し、渋谷区立小学校として引き続き運営されます。老朽化した施設が刷新され、教育環境の向上が期待されます。
Q. 周辺の不動産価格への影響はありますか?
A. 渋谷区の2026年公示地価は前年比+12.32%と全国3位の上昇を記録しており、再開発が価格上昇の一因となっています。公園通り西地区の竣工後は、エリアの利便性・防災性・教育環境の向上により、周辺物件の賃料・売買価格にポジティブな影響が見込まれます。工事期間中は一時的な影響も考慮に入れた判断が必要です。



