賃貸物件の建築費は、構造と工法で坪72.1万円から116.0万円まで開きます。同じ木造でも、プレハブは全工法平均より約4割高くなります。だから比べるべきは「ハウスメーカーか建築会社か」という会社の属性ではなく、どの構造・工法で、坪いくらで建て、いくらの家賃が取れるかという3点です。会社名の比較は、その後で意味を持ちます。
この記事は、土地をお持ちの方、あるいはこれからアパート経営・マンション経営を始める方に向けて、発注先を絞り込むための判断材料を数字でそろえたものです。国土交通省「建築着工統計調査」の令和7年計(2026年1月30日公表)、総務省「住宅・土地統計調査」、国税庁、住宅金融支援機構という一次資料だけを使い、構造別の坪単価、5年間の建築費上昇、地域差、利回りの試算、返済額、そして会社を検証する具体的な手順までを整理します。2026年8月時点の公表資料に基づいています。
この記事のポイント
- 貸家の建築単価は、木造が坪72.1万円、鉄骨造が坪112.4万円、RC造が坪116.0万円です(国土交通省「建築着工統計調査」令和7年計・全国)。
- 同じ構造で比べると、プレハブ(ハウスメーカー系)は木造で40.8%高く、鉄骨造では2.4%しか変わりません。全体平均の差は18.4%です。
- 貸家の1㎡あたり工事費は令和2年の21.4万円から令和7年の29.3万円へ、5年で36.9%上がりました。数年前の見積書はもう基準になりません。
- 延床200㎡の木造アパートは、在来工法なら表面利回り11.98%、プレハブなら8.51%。建築費1,780万円の差が、利回り3.5ポイントの差になります。
- 会社選びは、坪単価だけでなく長期優良住宅の認定が取れるか(融資金利が当初15年間0.3%下がる)まで含めて比べると、判断が変わります。
2026年、賃貸物件の建築費はいくらか|構造別の坪単価
結論から書きます。令和7年に着工した貸家(新設・居住専用住宅)の1㎡あたり工事費予定額は、全体平均で29.3万円、坪に直すと96.9万円でした。構造別では木造がもっとも安く坪72.1万円、もっとも高いRC造が坪116.0万円です。この差が、そのまま総事業費と利回りの差になります。
貸家の建築単価は木造21.8万円/㎡・鉄骨造34.0万円/㎡・RC造35.1万円/㎡
国土交通省「建築着工統計調査 住宅着工統計」第34表(令和7年計・全国/貸家)から、構造別の単価と1戸あたり工事費を抜き出したものが次の表です。1坪=3.30578㎡で換算しています。
| 構造 | 着工戸数 | 1㎡あたり工事費 | 坪単価(換算) | 1戸あたり工事費 |
|---|---|---|---|---|
| 貸家 総計 | 300,793戸 | 29.3万円 | 96.9万円 | 1,385.7万円 |
| 木造 | 133,938戸 | 21.8万円 | 72.1万円 | 957.0万円 |
| 鉄骨造 | 65,924戸 | 34.0万円 | 112.4万円 | 1,882.5万円 |
| 鉄筋コンクリート造(RC造) | 98,543戸 | 35.1万円 | 116.0万円 | 1,633.5万円 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) | 2,240戸 | 32.2万円 | 106.4万円 | 1,474.2万円 |
出典:国土交通省「建築着工統計調査 住宅着工統計」年次2025年 第34表(2026年1月30日公表)
ここで一つ、見落としやすい点があります。1㎡あたり単価がもっとも高いのはRC造ですが、1戸あたり工事費がもっとも高いのは鉄骨造の1,882.5万円です。鉄骨造の貸家は1戸あたりの面積が広く取られる傾向があり、単価と総額は必ずしも同じ順番になりません。見積書を比べるときも、坪単価だけを並べると判断を誤ります。延床面積と戸数を揃えたうえで総額を比べる必要があります。
なお、令和7年の新設住宅着工全体は740,667戸(前年比6.5%減)、うち貸家は324,991戸(前年比5.0%減)で、いずれも3年連続の減少でした。着工は減っているのに1戸あたり工事費は上がっている、というのが今の市況です。着工前に押さえておく費用の全体像はアパート経営の初期費用の内訳と自己資金の目安で詳しく整理しています。
建築費はこの5年で36.9%上がった
「数年前に取った見積もりがあるから、だいたいの相場は分かる」と思われる方は少なくありません。しかし、その前提はもう成り立ちません。貸家の1㎡あたり工事費予定額は、令和2年から令和7年までの5年間で36.9%上昇しています。
| 年次 | 貸家 総計(万円/㎡) | 木造 | 鉄骨造 | RC造 | 1戸あたり工事費 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和2年(2020年) | 21.4 | 16.6 | 23.8 | 24.9 | 985.1万円 |
| 令和4年(2022年) | 23.0 | 16.9 | 25.5 | 26.6 | 1,077.1万円 |
| 令和6年(2024年) | 27.0 | 20.3 | 31.2 | 31.5 | 1,261.6万円 |
| 令和7年(2025年) | 29.3 | 21.8 | 34.0 | 35.1 | 1,385.7万円 |
| 5年間の上昇率 | +36.9% | +31.3% | +42.9% | +41.0% | +40.7% |
出典:同上(第34表 令和2年計・令和4年計・令和6年計・令和7年計)
上昇幅が大きいのは鉄骨造(+42.9%)とRC造(+41.0%)で、木造(+31.3%)との差が開きました。鋼材とセメントの価格上昇が、そのまま非木造の単価に効いていると読めます。国税庁が譲渡所得の計算用に公表している「建物の標準的な建築価額表」でも、住宅全体で令和元年から令和5年にかけて木造が170.1千円/㎡→204.1千円/㎡(+20.0%)、鉄骨造が228.8→281.1(+22.9%)と、同じ方向の動きが確認できます。
実務上の意味は単純です。3年前(令和4年)の資料をもとにした収支計画は、建築費を2割以上低く見積もっている可能性があります。令和4年から令和7年で、貸家総計は23.0万円/㎡から29.3万円/㎡へ27.4%上がっています。複数社から見積もりを取るときは、同じ月に、同じ延床・同じ仕様条件で出してもらうことが前提になります。
同じ構造でも地域で約2倍違う
全国平均は目安にすぎません。同じRC造の貸家でも、東京都は44.5万円/㎡、北海道は22.5万円/㎡と、約2倍の開きがあります。都道府県別に見ると次のとおりです。
| 都道府県 | 貸家 総計(万円/㎡) | 木造 | 鉄骨造 | RC造 | RC造の坪単価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全国 | 29.3 | 21.8 | 34.0 | 35.1 | 116.0万円 |
| 東京都 | 39.9 | 28.1 | 40.2 | 44.5 | 147.1万円 |
| 大阪府 | 27.9 | 19.1 | 30.7 | 33.4 | 110.4万円 |
| 愛知県 | 26.2 | 20.0 | 33.1 | 30.8 | 101.8万円 |
| 福岡県 | 24.3 | 18.9 | 31.2 | 26.8 | 88.6万円 |
| 北海道 | 22.6 | 22.7 | 27.1 | 22.5 | 74.4万円 |
出典:同上(第34表 令和7年計・都道府県別/貸家)
東京都の木造は28.1万円/㎡で、全国平均の21.8万円/㎡より29%高い水準です。狭小地・変形地が多く、仮設や搬入の条件が厳しいことが単価に反映されていると考えられます。逆に愛知県は鉄骨造(33.1)がRC造(30.8)を上回るという、全国平均とは逆の並びになっています。「全国相場より高い/安い」で会社の良し悪しを判断せず、まず自分の都道府県の平均に当ててから比べてください。
ハウスメーカーと建築会社は何が違うのか|分かれ目は「工法」
答えは、営業体制でも会社の規模でもありません。工法です。ハウスメーカーの多くは工場で部材を生産するプレハブ工法かツーバイフォー(枠組壁工法)を採用し、地域の建築会社・工務店は在来工法(木造軸組工法)を中心に手がけます。この違いが、坪単価・工期・設計自由度を規定しています。
プレハブは貸家全体の18.9%、ツーバイフォーは18.2%
まず市場の構成を押さえておきます。令和7年に着工した貸家300,793戸の内訳は次のとおりです。
| 工法 | 着工戸数(貸家) | シェア | 1㎡あたり工事費 | 坪単価 | 1戸あたり工事費 |
|---|---|---|---|---|---|
| プレハブ | 56,834戸 | 18.9% | 34.7万円 | 114.7万円 | 2,049.5万円 |
| ツーバイフォー(木造) | 54,664戸 | 18.2% | 21.3万円 | 70.4万円 | 1,059.1万円 |
| その他(在来工法など) | 約189,295戸 | 62.9% | ― | ― | ― |
出典:同上(第34表・第36表 プレハブ着工新築住宅・第45表 ツーバイフォー着工新築住宅 令和7年計)
読み取れることは2つあります。第一に、大手ハウスメーカーが得意とするプレハブは、貸家市場の2割弱にすぎません。残る6割強は在来工法を中心とする建築会社が施工しています。「大手に頼むのが標準」という思い込みは、統計とは合っていません。
第二に、ツーバイフォーの貸家は坪70.4万円で、木造全体の坪72.1万円より低い水準にあります。ツーバイフォーも工場生産部材を使う工法ですが、価格は在来木造と大きく変わりません。「工場生産=高い」ではなく、「プレハブ=高い」というのが正確な整理です。
プレハブは同じ構造でどれだけ高いか
ここが本題です。工法の違いは、同じ構造どうしで比べないと意味がありません。第34表(全工法)と第36表(プレハブのみ)を突き合わせると、次のようになります。
| 構造 | 全工法(万円/㎡) | プレハブ(万円/㎡) | 差 | 坪単価の差 |
|---|---|---|---|---|
| 木造 | 21.8 | 30.7 | +40.8% | 72.1万円 → 101.5万円 |
| 鉄骨造 | 34.0 | 34.8 | +2.4% | 112.4万円 → 115.0万円 |
| RC造 | 35.1 | 38.1 | +8.5% | 116.0万円 → 126.0万円 |
| 全体 | 29.3 | 34.7 | +18.4% | 96.9万円 → 114.7万円 |
出典:同上(第34表・第36表 令和7年計・全国/貸家)
「ハウスメーカーは工務店より1割から3割高い」という説明を目にすることがありますが、一次データで見るとそう単純ではありません。木造では40.8%の差がつく一方、鉄骨造ではわずか2.4%しか変わりません。鉄骨造やRC造で建てるなら、プレハブ系ハウスメーカーの価格は市場水準とほぼ同じです。逆に木造アパートで坪単価を抑えたいなら、プレハブ以外の選択肢も比較対象に入れる価値が大きくなります。差の出方が構造ごとにこれだけ違うことが、この記事でもっとも実務的な発見だと考えています。
ただし、この40.8%という数字の前提は正直に書いておきます。令和7年に着工した貸家のうち、プレハブ木造は3,648戸で、木造貸家133,938戸の2.7%にすぎません。母数が小さい分、年によって振れます。なお、木造貸家からプレハブ分を差し引いた130,290戸の実績は21.4万円/㎡(坪70.9万円)で、これを基準にするとプレハブ木造との差は+43.4%になります。本記事では、より保守的な「全工法平均との比較(+40.8%)」を採用しています。
価格差の中身は何か
木造で40.8%という差は、単なる利益率の違いではありません。プレハブが持つ価値と、その代わりに失うものを、正直に整理します。
| 観点 | プレハブ(ハウスメーカー系) | 在来工法(建築会社・工務店) |
|---|---|---|
| 坪単価(木造・貸家) | 101.5万円(プレハブ木造3,648戸の実績) | 70.9万円(プレハブを除く木造貸家130,290戸の実績) |
| 品質のばらつき | 工場生産のため部材精度が安定しやすい | 職人の技量と現場管理の体制に左右される |
| 工期 | 現場作業が少なく短縮しやすい | 相対的に長くなりやすい |
| 設計の自由度 | 規格化された商品ラインの範囲内 | 変形地・狭小地に合わせた設計がしやすい |
| アフター体制 | 全国組織による長期保証・点検の仕組みがある | 会社ごとに差が大きく、事前確認が要る |
| 入居者募集 | 自社ブランドの仲介網を持つ場合がある | 別途、管理会社・仲介会社と組む必要がある |
工期が短いことは、賃貸経営にとって金額の話でもあります。着工から引き渡しまでが3か月短ければ、その分だけ家賃収入の開始が早まり、建設中の金利負担も減ります。前掲の試算条件(8戸・年間家賃522.3万円)なら3か月で約130万円です。坪単価の差だけを見て「高い」と切り捨てるのは、この部分を計算に入れていない判断です。
候補になる大手ハウスメーカー系としては、大東建託、東建コーポレーション、パナソニック ホームズ、三井ホーム、積水ハウスなどが挙がります。同じ「ハウスメーカー」でも主力工法は同じではなく、たとえば三井ホームはツーバイフォー(枠組壁工法)を主力としています。ここまで見たとおり工法によって単価の水準が変わるため、社名ではなく提案されている工法から確認してください。ただし各社の借上期間や賃料改定の条件は、公式サイトに数値で明示されていないことが多いのが実情です。たとえば積水ハウスの一括借上システムは、シャーメゾンショップ約3,000店との連携、積水ハウスシャーメゾンPM各社の全管理物件実績723,808室(2026年1月現在)を公表していますが、借上期間と賃料の改定頻度は「定期的な見直し(更新)により減額となる場合があります」と記載されているのみです。年数や保証水準は、個別提案の書面で確認してください。ネット上の要約を根拠に判断しないことが、最初の防御になります。
アパート経営とマンション経営で選ぶべき会社は変わる
「アパート経営の建築会社」と「マンション経営の建築会社」は、同じ土俵にありません。木造2〜3階建てのアパートと、RC造4階建て以上のマンションでは、坪単価も耐用年数も、会社に求める能力も別物だからです。
木造アパート(2〜3階)の場合
坪単価72.1万円、法定耐用年数22年。この2つが木造アパートの基本条件です。プレハブと在来工法の価格差がもっとも大きい領域なので、複数の工法をまたいで見積もりを取る意味がいちばん大きいのが木造です。
会社を選ぶ観点は、坪単価に加えて次の3つです。第一に、その地域の賃貸需要に合った間取りを提案できるか。第二に、防音・断熱の仕様が具体的に示されているか(木造アパートの解約理由で騒音は常に上位に来ます)。第三に、長期優良住宅の認定申請に対応できるか。認定が取れると融資金利と固定資産税の減額期間が変わるため、坪単価の数万円の差を上回る影響が出ることがあります。
RC造・SRC造マンション(4階建て以上)の場合
坪単価106.4万円から116.0万円、法定耐用年数47年。総事業費が億単位になるため、会社に求めるものが変わります。構造計算の体制、地盤調査と杭工事の実績、近隣対応の経験、そして工期が延びたときの資金繰りに耐えられる財務基盤です。
マンション建築では、プレハブ系ハウスメーカーとの価格差が8.5%まで縮まります(35.1万円/㎡ vs 38.1万円/㎡)。つまり中高層のマンション経営では、「ハウスメーカーか建築会社か」という軸そのものが、木造ほど大きな意味を持ちません。むしろ同規模・同構造の施工実績が何棟あるかを具体的に聞くほうが、判断の精度は上がります。RC造そのものの特性(耐火・遮音・重量と地盤への影響)も、同規模の実績とあわせて確認しておきたいところです。
構造別 経営条件の一覧
坪単価・耐用年数・減価償却・家賃水準を一枚にまとめると、構造選びが収支のどこに効くのかが見えてきます。減価償却は延床200㎡(木造・鉄骨造)/600㎡(RC・SRC造)で建てた場合の年額を、定額法・耐用年数で割った概算です。
| 項目 | 木造 | 鉄骨造(骨格材4mm超) | RC造・SRC造 |
|---|---|---|---|
| 坪単価(貸家・全国) | 72.1万円 | 112.4万円 | 106.4〜116.0万円 |
| 法定耐用年数(住宅用) | 22年 | 34年 | 47年 |
| 建築費の例 | 200㎡=4,360万円 | 200㎡=6,800万円 | 600㎡=2億1,060万円 |
| 減価償却の年額(概算) | 198.2万円 | 200.0万円 | 448.1万円 |
| 想定される融資期間 | 耐用年数が短く、返済期間も短くなりやすい | 木造とRC造の中間 | 耐用年数が長く、長期の融資を組みやすい |
| 家賃水準(民営借家・全国平均) | 54,409円/月 | 68,548円/月(非木造) | |
出典:坪単価は前掲の建築着工統計、耐用年数は国税庁「主な減価償却資産の耐用年数(建物/建物附属設備)」、家賃は総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 基本集計結果」(2024年9月25日公表)
金属造(鉄骨造)は骨格材の肉厚で耐用年数が変わり、4mm超が34年、3mm超4mm以下が27年、3mm以下が19年です。軽量鉄骨のアパートを検討する場合、この肉厚が減価償却と融資期間を左右します。提案書に肉厚が書かれていなければ、そこは確認しておきたい点です。構造ごとの寿命の考え方は法定・物理的・経済的の3つの耐用年数の違いで整理しています。
数字で確かめる|建築会社の違いが利回りをどれだけ変えるか
ここまでの数字を、実際の収支に当てはめます。以下はすべて土地を自己所有していることを前提とした、満室想定の表面利回りです。
計算例① 木造アパート(延床200㎡・8戸)
1戸25㎡、8戸のアパートを建てるケースで、在来工法とプレハブを比べます。家賃は民営借家(木造)の全国平均54,409円を使います。
| 項目 | 在来工法(全工法平均) | プレハブ |
|---|---|---|
| 建築単価 | 21.8万円/㎡ | 30.7万円/㎡ |
| 建築費(200㎡) | 4,360万円 | 6,140万円 |
| 年間家賃収入 | 54,409円 × 8戸 × 12か月 = 522.3万円 | |
| 表面利回り | 11.98% | 8.51% |
| 減価償却(22年・定額法) | 198.2万円/年 | 279.1万円/年 |
建築費の差は1,780万円。これが表面利回りで3.47ポイントの差になります。坪単価の差は、こうして利回りの差に翻訳して初めて判断材料になります。ただし利回りは表面と実質で意味がまったく違うため、比較の前提としては表面利回りと実質利回りの違いと目安を押さえておくと、営業資料の読み方が変わります。
計算例② RCマンション(延床600㎡・20戸)
1戸30㎡、20戸のRC造マンションを建てるケースです。家賃は民営借家(非木造)の全国平均68,548円を使います。
- 建築費:35.1万円/㎡ × 600㎡ = 2億1,060万円
- 年間家賃収入:68,548円 × 20戸 × 12か月 = 1,645.2万円
- 表面利回り:1,645.2万円 ÷ 2億1,060万円 = 7.81%
- 減価償却(47年・定額法):448.1万円/年
木造アパートの11.98%に対して、RCマンションは7.81%。表面利回りだけを見れば木造が有利です。しかし減価償却は年448.1万円と木造の198.2万円の2.3倍で、耐用年数47年という長さが融資期間の交渉余地を生みます。木造は利回りで取り、RC造は期間と融資条件で取る。この構造的なトレードオフを理解しないまま「利回りが高いほうがいい」と決めると、返済比率で行き詰まります。
計算例③ 返済額まで入れて見る
建築費を全額借り入れた場合の返済額を、住宅金融支援機構「賃貸住宅融資」の令和8年8月参考金利(35年固定3.94%・繰上返済制限制度の利用あり)で、元利均等返済として試算します。
| ケース | 借入額 | 毎月返済額 | 年間返済額 | 年間家賃収入 | 差額(年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 木造アパート(在来) | 4,360万円 | 19.1万円 | 229.8万円 | 522.3万円 | +292.5万円 |
| 木造アパート(プレハブ) | 6,140万円 | 27.0万円 | 323.6万円 | 522.3万円 | +198.7万円 |
| RCマンション | 2億1,060万円 | 92.5万円 | 1,109.9万円 | 1,645.2万円 | +535.3万円 |
出典:金利は住宅金融支援機構「賃貸住宅融資金利」(2026年7月30日更新)の令和8年8月参考金利
同じ8戸のアパートでも、工法の違いだけで年間の差額が93.8万円変わります。35年で3,283万円です。一方で、この金利には引き下げ制度があります。長期優良住宅に適合する賃貸住宅なら、当初15年間は年0.3%の引き下げを受けられます。3.94%が3.64%になると、4,360万円の借入で月0.77万円、年9.3万円の負担減です。引き下げは3種類あり、長期優良住宅が年0.3%、機構が定めるZEH基準への適合が年0.2%、機構が定める子育て配慮賃貸住宅の基準への適合が年0.2%です(いずれも当初15年間)。併用の上限は、長期優良住宅と子育て配慮の組み合わせで年0.5%、ZEHと子育て配慮の組み合わせで年0.4%となります。ただし子育て配慮による引き下げは、機構すまい・る賃貸ローンの子育て省エネ型・まちづくり型に限られます。認定を取れる会社かどうかは、坪単価と同じ重みで比べる価値があります。
試算の前提と限界
ここまでの数字は、判断の出発点であって結論ではありません。次の3点はご自身の条件に置き換えてください。
- 満室想定です。空室率と滞納リスクは織り込んでいません。エリアの実態に合わせて、家賃収入を5〜15%程度割り引いた数字も並べて見てください。
- 建築費以外の費用が入っていません。設計料、地盤改良、外構、登記費用、不動産取得税、火災保険、管理委託料、修繕積立は別途かかります。
- 家賃は全国平均です。実際は駅距離・築年・設備で大きく動きます。周辺の募集事例から自分で押さえた数字に置き換えてください。
それでも、この試算には意味があります。複数社の提案を、同じ計算式の上に並べ直せるからです。各社が出してくる収支計画書は前提がばらばらで、そのままでは比較になりません。坪単価・延床・戸数・家賃・金利の5つを自分の側で固定し、そこに各社の数字を差し込んでいきます。これが、営業資料に流されずに判断するための最も確実な方法だと考えています。
建築会社を比較するときの7つのチェック項目
坪単価と利回りが出そろったら、次は会社そのものを検証します。ここでは、読者ご自身が公的な仕組みを使って確認できることを中心に7項目を挙げます。
① 見積もりは延床と仕様まで揃えて比べる/② 長期優良住宅・ZEH認定に対応できるか
① 坪単価だけを横に並べても比較になりません。延床面積、戸数、各戸の専有面積、外構・地盤改良の有無、設計料が本体価格に含まれるかどうか。この5点を揃えたうえで総額を比べてください。ある社の坪単価が安いのは、外構と地盤改良が別計上だからということが実際にあります。
② 長期優良住宅の認定は、融資金利(当初15年間0.3%引き下げ)、不動産取得税の控除額、固定資産税の減額期間の3つに同時に効きます。認定申請の実績が何件あるか、申請費用が見積もりに含まれるかを具体的に確認してください。「対応できます」という口頭の回答と、実績件数の回答とでは、意味がまったく違います。
③ 建設業許可と監督処分歴を国交省の2つのサイトで確認する/④ 賃貸住宅管理業者として登録されているか
③ 確認先は2つに分かれます。建設業許可の有無・許可番号・許可業種は、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで会社名から誰でも調べられます。監督処分・行政処分の履歴は同じ場所ではなく、国土交通省 ネガティブ情報等検索サイトで確認します。こちらは建設業者、宅地建物取引業者、賃貸住宅管理業者等の分野別に検索でき、宅地建物取引業者では直近5年分の行政処分情報が公開されています。どちらも相見積もりを依頼する前の5分でできる作業です。許可の種類(大臣許可か知事許可か、一般か特定か)と許可を受けている業種も見ておくと、その会社が何を自社で施工し、何を下請けに出すのかの見当がつきます。
④ 建築と管理をセットで任せる提案を受けているなら、賃貸住宅管理業者としての登録の有無を確認します。賃貸住宅管理業法では、管理戸数200戸以上の事業者に国土交通大臣への登録が義務づけられています(200戸未満は任意登録)。登録事業者には業務管理者の選任やオーナーへの重要事項説明が義務づけられているため、登録の有無はそのまま説明責任の水準の違いになります。登録の有無は、前述の企業情報検索システムから確認できます。
⑤ サブリースを提案されたら|賃貸住宅管理業法 第28〜31条で確認すべきこと
一括借り上げ(マスターリース)の提案は、賃貸住宅管理業法によって厳しく規制されています。「知らなかった」で済まされない領域なので、条文単位で押さえておきます。
オーナーが直接結ぶのはマスターリース契約であり、入居者との賃貸借契約の当事者はサブリース業者です。したがって「空室でも家賃が入る」という安心は、業者の支払能力と契約条項の上に成り立っています。確認すべき条文は次の4つです。
| 条文 | 規制の内容 | 違反時の罰則 |
|---|---|---|
| 第28条 誇大広告等の禁止 | 家賃の額・支払期日・変更に関する事項、維持保全の実施方法と費用分担、契約解除の条件について、著しく事実と異なる表示を禁止 | 30万円以下の罰金 |
| 第29条 不当な勧誘等の禁止 | 家賃減額のリスクなど重要事項の故意の不告知・不実告知を禁止。承諾なく午後9時〜午前8時に電話・訪問勧誘を行うことも該当し得る | 6月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
| 第30条 契約締結前の重要事項説明 | 契約前に14項目を記載した書面を交付して説明する義務。説明から契約締結まで1週間程度の期間を置くことが望ましいとされる | 50万円以下の罰金 |
| 第31条 契約締結時の書面交付 | 契約期間、家賃その他の条件、維持保全の実施方法と費用分担、報告、損害賠償額の予定、免責、更新・解除、契約終了時の権利義務の承継など13項目を記載した書面の交付義務 | 50万円以下の罰金 |
実務では、次の3つを実行してください。第一に、重要事項の説明を受けた日と契約日の間を1週間以上あける。第二に、第31条の書面で「家賃改定の時期と方法」「契約解除の条件」の2項目を読み上げてもらい、その場で理解できる言葉に置き換えて説明を求める。第三に、サブリース業者が第32条に基づいて営業所に備え置いている業務状況調書と貸借対照表の閲覧を申し出る。これは事業年度経過後3か月以内に作成され、備え置いた日から3年間、閲覧に応じる義務があります。閲覧を渋る会社に、35年の借り上げを任せる理由はありません。契約構造そのものの理解にはサブリース(一括借り上げ)の契約構造とリスクもあわせてお読みください。
⑥ 建築と管理を分離できるか/⑦ 出口まで見据えた構造・仕様か
⑥ 建築を依頼した会社に管理まで任せることは義務ではありません。建築と管理を分けられるか、分けた場合に保証やアフター点検がどう変わるかを、契約前に文書で確認してください。分離できない条件が付いている場合、その条件が何年続くのかが実質的な拘束期間になります。
⑦ 建てた瞬間から、出口は始まっています。売却時に買主が融資を組めるかどうかは、構造・耐用年数の残存・検査済証の有無で決まります。建築確認と完了検査の書類一式を引き渡し時に受け取れるか、設計図書と構造計算書の保管をどうするか。ここを曖昧にしたまま20年経つと、売るときに買主の銀行で止まります。
税制と融資|2026年時点で押さえておく数字
建築会社選びは、税制優遇の取りやすさと直結しています。2026年8月時点で確定している内容を整理します。
新築住宅の固定資産税1/2減額は令和13年3月31日まで延長
新築住宅に対する固定資産税の税額を2分の1に減額する措置(戸建て3年間、マンション5年間)は、令和8年4月1日から令和13年3月31日まで、5年間延長されました。あわせて2つの変更があります。
- 対象となる住宅の床面積要件の下限が、原則40㎡(現行50㎡)に緩和されました。ワンルーム中心の賃貸住宅にとっては実務上の影響が大きい変更です。
- 一定のハザードエリア内に所在する住宅は対象外となります。計画地がどの区域に該当するか、自治体のハザードマップで着工前に確認しておく必要があります。
国土交通省の推計では、2,500万円の住宅を新築した場合、特例がなければ年18.2万円のところ、特例があれば年9.1万円となり、3年間で約27万円の負担軽減効果があるとされています。更地のまま保有する場合との税負担の差も、あわせて試算しておくと判断が早くなります。
認定長期優良住宅なら不動産取得税の控除1,300万円
認定長期優良住宅に係る特例措置も、同じく令和13年3月31日まで5年間延長されました。一般住宅との差は次のとおりです。
| 税目 | 一般住宅 | 認定長期優良住宅 |
|---|---|---|
| 不動産取得税の課税標準からの控除額 | 1,200万円 | 1,300万円 |
| 固定資産税の減額期間(戸建て) | 3年間 | 5年間 |
| 固定資産税の減額期間(マンション) | 5年間 | 7年間 |
| 賃貸住宅融資の金利引き下げ | なし | 当初15年間 年0.3% |
出典:国土交通省「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)、金利は前掲の住宅金融支援機構
認定を取るには、劣化対策、耐震性、省エネ性、維持管理・更新の容易性、災害への配慮、居住環境などの基準を満たす必要があります。設計段階から認定を前提に組み立てられる会社かどうかで、税・金利・出口の3つが同時に変わります。坪単価が数万円高くても、こちらのほうが有利になる場合があります。認定の実績件数と、申請から認定までに要した期間を各社に聞いてみてください。
私たちが考える、建築会社選びの本質
ここまで数字を並べてきましたが、最後に申し上げたいのは別のことです。
数字を並べたうえで、最後に効くのは「長く付き合える相手か」という視点
賃貸経営は、建てて終わりではありません。木造なら22年、RC造なら47年。その間に入居者は何度も入れ替わり、給湯器は交換時期を迎え、外壁は塗り替えが必要になります。その長い時間を一緒に歩ける相手かどうかは、坪単価の表には出てきません。
私たちINA&Associates株式会社は、人財こそが最大の資産だと考えています。建物は図面どおりに建ちますが、竣工後に起きることへの対応は、担当者一人ひとりの判断と誠実さに委ねられます。だからこそ、契約前に会っておくべきなのは営業担当者だけでなく、竣工後に窓口となる人です。「その方は何年この会社にいらっしゃいますか」と一言聞くだけで、返ってくる答えの温度が変わります。
もう一つ大切にしているのは、デメリットも含めて正直に伝えることです。プレハブが木造で40.8%高いという事実は、ハウスメーカーにとって都合の良い数字ではありません。しかし、その差額に見合う工期短縮とアフター体制があるなら、それも同じ資料の上で説明されるべきです。都合の悪い数字を先に出してくる会社は、信用に足ります。
提案を受けた側にできる最も費用対効果の高い行動は、利害関係のない第三者に一度見てもらうことです。収支計画書に書かれた空室率、家賃下落率、修繕費の見積もりが妥当かどうかは、その会社の外にいる人のほうが判断しやすいものです。私たちが不動産投資のセカンドオピニオンという形で関わらせていただくのは、そのためです。
まとめ|比べるべきは会社名ではなく、坪単価と利回りと長期の体制
アパート経営・マンション経営の建築会社比較で、最後に手元に残しておきたいのは次の5点です。
- 坪単価は構造で決まる。木造72.1万円、鉄骨造112.4万円、RC造116.0万円が2026年時点の全国水準です。まず自分の計画の構造を決めてから会社を探してください。
- プレハブの割高さは構造で違う。木造で+40.8%、鉄骨造で+2.4%、RC造で+8.5%。木造アパートでこそ、工法をまたいだ比較の価値が大きくなります。
- 建築費は5年で36.9%上がった。過去の資料を前提にした収支計画は組み直しが要ります。
- 利回りは木造が高く、期間はRC造が長い。木造11.98%とRC造7.81%は優劣ではなく、耐用年数22年と47年というトレードオフです。
- 長期優良住宅の認定可否が、金利・税・出口を同時に変える。坪単価の数万円より効くことがあります。
そして最後に、企業情報検索システムでの建設業許可と賃貸住宅管理業者登録の確認、ネガティブ情報等検索サイトでの監督処分歴の確認、サブリース契約の第28〜31条のチェック。この3つは、誰でも、無料で、契約前にできます。マンション経営もアパート経営も、判断の質は情報の質で決まります。
よくある質問(FAQ)
Q. ハウスメーカーと建築会社で建築費はどれくらい違いますか?
同じ構造で比べると、木造では約4割(+40.8%)、全体平均では18.4%の差があります。ただし鉄骨造は+2.4%、RC造は+8.5%にとどまります。国土交通省「建築着工統計調査」令和7年計の貸家データで、木造は全工法平均21.8万円/㎡に対しプレハブ30.7万円/㎡、鉄骨造は34.0対34.8、RC造は35.1対38.1でした。「ハウスメーカーは1割から3割高い」という一般論より、構造ごとの差の違いのほうが実務では重要です。
Q. アパート経営とマンション経営、どちらが利回りは高いですか?
表面利回りは木造アパートのほうが高くなります。延床200㎡・8戸の木造アパートで11.98%、延床600㎡・20戸のRCマンションで7.81%という試算です(いずれも全国平均の建築単価と民営借家の平均家賃を使用、土地自己所有・満室想定)。ただし法定耐用年数は木造22年に対しRC造47年で、減価償却の年額と組める融資期間が変わります。利回りの高さと保有期間の長さは、どちらを取るかという選択です。
Q. 見積もりは何社から取るべきですか?
3社程度が現実的です。重要なのは社数より前提を揃えることで、延床面積・戸数・各戸の専有面積・外構と地盤改良の扱い・設計料の内訳という5点を指定して依頼してください。建築費は5年で36.9%上昇しているため、見積もりは同じ時期に取ることも条件になります。依頼前に、国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムで各社の許可番号を、ネガティブ情報等検索サイトで監督処分歴を確認しておくと、比較の土俵が整います。
Q. サブリース契約はやめたほうがいいですか?
一律にやめるべきものではありませんが、確認すべき条項がはっきりしています。賃貸住宅管理業法により、誇大広告(第28条)と不当な勧誘(第29条)は禁止され、契約締結前の重要事項説明(第30条・14項目)と契約時の書面交付(第31条・13項目)が義務づけられています。特に「家賃改定の時期と方法」「契約解除の条件」の2項目を書面で確認し、重要事項説明から契約まで1週間程度の期間を置いてください。保証賃料は定期的な見直しで減額され得るという前提で、収支計画を組んでおくことをおすすめします。
Q. 建築費が上がっている今、着工を待つべきですか?
待てば下がるとは言い切れないため、判断材料を2つ挙げます。第一に、貸家の1㎡あたり工事費は令和2年21.4万円、令和4年23.0万円、令和6年27.0万円、令和7年29.3万円と、一貫して上昇しています。第二に、令和7年の貸家着工は324,991戸で3年連続の減少です。着工が減っても単価が下がっていないという事実は、価格上昇が需要要因より資材・人件費要因であることを示唆しています。金利は令和8年8月の機構参考金利で35年固定3.94%です。「待つ」という判断をする場合は、待っている間の家賃収入の機会損失と、金利が動くリスクの両方を計算に入れてください。
Q. 建築後の管理会社は、建築を依頼した会社と同じでなければいけませんか?
同じである必要はありません。建築をハウスメーカーに、管理を別の専門管理会社に委託することも可能です。ただし一括借り上げや長期保証がセットになった契約では、管理を切り替えると保証条件が変わる場合があります。分離できるか、分離した場合に何が変わるかを、契約前に書面で確認しておいてください。
引用・参考資料
- 国土交通省「建築着工統計調査 住宅着工統計」年次2025年(令和7年計)第34表・第36表・第45表(2026年1月30日公表)
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)について」(令和8年1月30日公表)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(令和6年9月25日公表)
- 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数(建物/建物附属設備)」
- 国税庁「建物の標準的な建築価額表」
- 住宅金融支援機構「賃貸住宅融資金利」(2026年7月30日更新/令和8年8月参考金利)
- 国土交通省「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト「適正化のための措置(サブリース)」
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト「制度解説」
- 国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
- 国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」
- 積水ハウス「一括借上システム」
本記事の計算例は公的データに基づく試算であり、個別の土地条件・所得状況における税務・融資の判断については、税理士等の専門家および金融機関にご確認ください。
