賃貸経営で最もトラブルが発生しやすいのが退去時の立ち合いです。原状回復費用の負担をめぐってオーナーと入居者の意見が食い違い、裁判にまで発展するケースも珍しくありません。
本記事では、退去立ち合いで起きやすいトラブルの種類、オーナーが請求できる範囲と請求できない範囲、トラブルを防ぐための鉄則、場所別のチェックリストまで実務視点で解説します。
退去立ち合いで多い3つのクレーム
①原状回復費用のクレーム
通常損耗・経年劣化による摩耗は借主の負担にならないのが原則です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を正しく理解し、適切な判断ができるようにしておきましょう。
②特約に関するクレーム
ハウスクリーニング費用を借主負担とする特約を盛り込んでいても、通常損耗の範囲まで借主に負担させるには、その状態を超えていると証明する写真などの証拠が必要です。
③説明責任に関するクレーム
特約の内容を借主が十分に理解・承諾していなければ、その特約は無効と判断される可能性があります。説明を受けた旨の書面にサインをもらうことが不可欠です。
オーナーが追加請求できる範囲・できない範囲
借主に請求できる損傷(借主の注意義務違反)
- 引越し作業でできたクロスや柱のひっかき傷
- 子どもの落書き
- タバコのヤニによる黄ばみ・臭い
- ペットによるひっかき傷・臭い
- 結露放置による畳・フローリングの色落ち
- 照明器具取付時の穴・跡
- 鍵の紛失・破損
- 庭の手入れ不足による雑草の繁茂
請求できない損傷(通常損耗・経年劣化)
- 家具設置によるへこみ・跡
- 家電使用による壁の黒ずみ
- 畳・フローリング・クロスの自然な色落ち
- 画鋲の穴
- エアコン設置用のビス穴
- 入居時の鍵交換費用
- 自然災害による破損
- 設備の経年故障
※修繕範囲は特約で独自ルールを定めることが可能ですが、借主に不当に不利な内容は民法上認められません。
退去トラブルを防ぐ5つの鉄則
①原状回復ルールを明確にしておく
民法第616条の5により、通常損耗・経年劣化の修繕は借主の義務ではないと明記されています。契約前にオーナー負担と借主負担の線引きを明確にし、書面化しましょう。
②敷金の取り扱いを定義する
改正民法第622条の2により、敷金の使途は未払賃料・損害賠償金・修繕費用に限られ、余剰分は借主に返還する義務があります。
③保証人への極度額を設定する
改正民法第465条により、保証人に一定額以上の負担を課すことはできません。極度額を契約書に明記してください。
④入居時に物件の状態を記録する
入居時にオーナーと借主の双方が立ち会い、写真撮影と状態確認書への署名を行いましょう。長期入居後の退去では入居時の状態がわからなくなるため、この記録が最大の証拠になります。
⑤退去時は家財道具がない状態で立ち合う
家具で隠れている傷や汚れを見落とさないよう、引越し完了後の何もない状態で立ち合いを行いましょう。
退去立ち合い|場所別チェックリスト
水回り(キッチン・浴室・洗面台・トイレ)
- □ 蛇口・水栓の破損はないか(実際に水を出して確認)
- □ 水漏れ・水あか・カビの発生はないか
- □ レンジ周り・換気扇内の油汚れ
- □ 浴槽・排水口・シャワーヘッドの状態
- □ シャワーヘッドが入居時と異なる部品に交換されていないか
- □ 便器・便座・水洗タンクの異常
- □ 収納棚の状態
居室(リビング・寝室・和室)
- □ 壁・床・天井の傷・汚れ(釘跡、ヤニ汚れ、カビ)
- □ ドア上部や床際の壁紙の見落としがちな汚れ
- □ エアコン・火災報知器・照明器具の動作確認
- □ 窓ガラス・網戸・サッシの状態
- □ 和室の場合:畳・襖・障子の状態
玄関
- □ ドア・ドアノブの傷・破損(影になりやすいため注意)
- □ ドアの開閉具合(セキュリティに直結)
- □ 下駄箱の中板の有無
- □ 鍵・スペアキーの返却確認
- □ インターホン・ドアチェーンの動作確認
外回り
- □ ゴミの分別状況
- □ 粗大ゴミの放置がないか(回収シールの確認)
- □ ベランダ・バルコニーの忘れ物
- □ 室外設備の破損
支払いを拒否された場合の3つの対処法
①借家人賠償保険の適用を検討
火災保険に含まれる特約で、不慮の事故による損傷に対してオーナーに保険金が支払われる制度です。修繕費が高額になるケースで特に有効です。
②連帯保証人に請求
連帯保証人は借主と同様の支払い義務を負います。ただし、経済状況に応じて分割払いに応じる柔軟さも必要です。
③管理会社に退去立ち合いを委託
実績のある管理会社はガイドラインの知識とトラブル回避のノウハウを持っています。立ち合いから原状回復工事まで約10日で完了するケースが多く、空室期間の短縮にもつながります。
まとめ
退去立ち合いトラブルの大半は、入居時の記録不足・ガイドラインの理解不足・書面化の不備から発生します。入居時の写真撮影と状態確認書の取り交わし、ガイドラインに準拠した費用負担ルールの明確化、退去時の場所別チェックリストの活用で、トラブルの大部分は未然に防げます。
INA&Associates株式会社では、退去立ち合いから原状回復工事までワンストップで対応する賃貸管理サービスを提供しております。トラブルのない円滑な退去手続きを実現したいオーナー様は、お気軽にご相談ください。