共益費(きょうえきひ)とは、階段・廊下・エントランスなど共用部分の維持管理にかかる光熱費・上下水道使用料・清掃費などに充てるため、入居者が家賃とは別に毎月支払う費用です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書では家賃と別の条文で定められ、募集広告では1戸当たりの月額表示が求められます。
募集図面の「家賃6.5万円+共益費5,000円」を見て、この5,000円は何に使われ、家賃込みの物件と比べて損なのかと迷ったことはないでしょうか。読み方から相場・内訳・勘定科目までを、法令と国のひな形、最新の政府統計を根拠に整理します。
この記事のポイント
- 共益費は「きょうえきひ」と読み、法律に直接の定義はありませんが、国土交通省の標準契約書と公正競争規約に公的な定義があります。
- 賃貸では共益費と管理費に実質的な差はほぼなく、国税庁も「その名称にかかわらず」同じ扱いとしています。
- 月額平均は4,837円、家賃平均は83,381円で比率は約5.8%です(国土交通省 令和7年度住宅市場動向調査/三大都市圏が対象)。
- 「共益費込み」と「共益費別」は月額が同じでも、仲介手数料・敷金・礼金・更新料の算定基礎が変わります。
- 共益費に賃料のような増減額請求権はありません。借地借家法第32条の対象は「建物の借賃」で、改定は協議事項です。
共益費とは?読み方と、国が示す2つの定義
共益費は「きょうえきひ」と読みます。法律に直接の定義規定はありませんが、国が関わる文書に定義が2つあり、実務はその2つで動いています。
1つ目は国土交通省の賃貸住宅標準契約書です。第5条第1項は「乙は、階段、廊下等の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下この条において『維持管理費』という。)に充てるため、共益費を甲に支払うものとする」と定めています。解説コメントも「実費に相当する費用」と説明します。サービスの対価ではなく、実費に対応する費用だという建付けです。
2つ目は不動産の表示に関する公正競争規約の施行規則です。別表(42)は共益費を「借家人が共同して使用又は利用する設備又は施設の運営及び維持に関する費用」と定義し、1戸当たりの月額の表示を求めています。募集広告に金額が必ず載るのは、この規定があるためです。
なお標準契約書はひな形で、使用は法令上の義務ではありません。権利義務は自分の契約書の条文で決まります。共用部分がなければ共益費も発生せず、同じ解説コメントは戸建て賃貸住宅では通常発生しないとしています。
共益費と管理費は何が違う?名称ではなく契約書の記載で判断する
賃貸物件では、共益費と管理費に実質的な差はほとんどありません。国税庁は消費税の質疑応答事例で、共用部分の費用を居住者に応分に負担させる性格のものは「共益費、管理費等その名称にかかわらず非課税となります」と明示しています。
ただし用語は使い分けられています。表示規約の施行規則は、(42)で共益費を借家の共用設備・施設の運営維持費と定めます。一方(41)の管理費は「マンションの事務を処理し、設備その他共用部分の維持及び管理をするために必要とされる費用」を指し、対象は区分所有マンションです。
| 項目 | 共益費 | 管理費(分譲マンション) |
|---|---|---|
| 定義の出典 | 表示規約施行規則(42)/標準契約書 第5条 | 表示規約施行規則(41) |
| 費用の中身 | 共用部分の光熱費・上下水道使用料・清掃費などの実費 | 共用部分の維持管理費(公租公課を含み、修繕積立金を含まない) |
| 支払先 | 貸主(または管理会社) | 管理組合(区分所有者が支払う) |
| 契約書での確認点 | 第何条にあるか、改定条項が賃料と分かれているか | 借主が負担するのは共益費のみ。修繕積立金は負担しない |
確認したいのは、契約書と募集図面で名称が揃っているか、名称違いの費用が二重請求されていないかの2点です。
分譲マンションを借りている場合、管理組合へ払う管理費・修繕積立金と、貸主へ払う共益費は別物です。分譲マンションの管理費と修繕積立金の仕組みと併せて読むと境界がはっきりします。
共益費は家賃に含まれる?「共益費込み」と「共益費別」の意味
共益費が家賃に含まれる物件と、別に請求される物件のどちらもあります。別建てなら表示規約により1戸当たりの月額表示が必要で、募集広告に必ず金額が載ります。「共益費込み」とだけあれば、その家賃がそのまま毎月の支払額です。
毎月の支払総額が同じでも、初期費用と更新料は変わります。仲介手数料の上限は宅地建物取引業法第46条に基づく告示で「借賃」を基準に定められ、敷金・礼金・更新料も賃料を基礎に決めるのが通例だからです。
| 項目 | A:家賃7.0万円(共益費込み) | B:家賃6.5万円+共益費5,000円 |
|---|---|---|
| 毎月の支払額 | 70,000円 | 70,000円 |
| 仲介手数料(賃料1か月分+消費税) | 77,000円 | 71,500円 |
| 敷金(賃料1か月分) | 70,000円 | 65,000円 |
| 礼金(賃料1か月分) | 70,000円 | 65,000円 |
| 契約時の合計(上記3項目) | 217,000円 | 201,500円 |
| 更新料(賃料1か月分) | 70,000円 | 65,000円 |
毎月の支払いは同じ7万円でも、契約時に払う金額は15,500円違い、更新料も5,000円違います。ただし敷金や更新料を「賃料+共益費」で計算する契約書も実在するため、算定基礎は申込み前に確認してください。
改定手続きも変わります。込みなら共用部分の費用が増えても賃料の改定として扱われ、別建てなら共益費の条項で協議します。
共益費の相場はいくら?公的統計の月額平均と家賃比
共益費の月額平均は4,837円です。国土交通省の令和7年度住宅市場動向調査(2026年7月17日公表)による数値で、同じ調査の月額家賃の平均は83,381円、中央値は74,000円でした。この調査の民間賃貸住宅は三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏)が対象で、全国平均ではありません。
| 区分 | 共益費 月額平均 | 月額家賃 平均 | 共益費÷家賃 |
|---|---|---|---|
| 三大都市圏 計 | 4,837円 | 83,381円 | 5.8% |
| 首都圏 | 4,764円 | 94,068円 | 5.1% |
| 中京圏 | 4,457円 | 63,447円 | 7.0% |
| 近畿圏 | 5,285円 | 71,965円 | 7.3% |
| 一戸建て | 3,400円 | 89,617円 | 3.8% |
| 集合住宅 | 4,860円 | 82,810円 | 5.9% |
「家賃の5〜10%」という通説を実数で確かめると、三大都市圏の比率は5.8%で下限に近い水準でした。首都圏は5.1%と低く、近畿圏は7.3%と高い。「家賃の1割」を目安にすると、首都圏では高く見積もりすぎます。なおこの比率は平均同士を割った値で、世帯ごとの比率を平均した値ではありません。一戸建てが3,400円と低いのは、共用部分が少ないためです。
推移は令和3年度5,362円から4年度4,836円、5年度4,614円、6年度4,441円と3年続けて下がり、令和7年度は4,837円へ約400円上がりました。
共益費の内訳は?何にいくら使われているか
共益費が充てられるのは共用部分の維持管理費です。次の費目が入ります。
- 共用部分の電気代(廊下・階段・エントランスの照明、自動ドア、エレベーターの動力)
- 共用部分の水道代、日常清掃・定期清掃の費用と人件費、ゴミ置場の管理
- エレベーター、機械式駐車場、消防用設備、貯水槽などの点検・保守
- 共用部分の小修繕(照明器具の交換、鍵や建具の補修)と植栽の管理
- インターネット無料設備や機械警備の月額費用
金額は、建物全体の費用を戸数で割って決まります。共用部分の年間費用が96万円なら、24戸で1戸あたり月3,333円、8戸なら月10,000円です。高い物件は設備が豪華なのではなく、戸数が少なくて1戸あたりの負担が大きいだけの場合もあります。
内見や申込みの前に、管理会社へ次の5点を確認してください。
- 専有部分の水道代が含まれるか。含まれる場合は定額か実費精算か
- 共用部分の清掃の頻度(週◯回、月◯回)と範囲
- エレベーター・機械式駐車場の保守費用が共益費に含まれるか
- インターネット無料設備の費用が含まれるか、別途請求か
- 別に請求される費用(町内会費、ゴミ処理費、CATV利用料など)があるか
水道代の決め方は共益費に水道代を含める場合の相場設定と契約書の書き方で整理しています。この5点に即答できない管理会社なら、金額の妥当性以前に管理体制を見たほうがよいと私は考えています。
共益費は毎月払う?入居月・退去月の日割りはどうなる
共益費は毎月、家賃と同じ日に支払います。翌月分を前月末までに前払いする契約がほとんどで、年1回まとめて実費精算する仕組みは日本の賃貸住宅では通常ありません。
迷いやすいのは入居月と退去月です。賃貸住宅標準契約書 第5条第3項は「1か月に満たない期間の共益費は、1か月を30日として日割計算した額とする」と定めています。月額5,000円の物件に10月20日から入居した場合、10月分は12日分で、5,000円÷30日×12日=2,000円です。
退去月は契約書で扱いが分かれます。標準契約書に沿えば使用した期間の日割りですが、「解約月は月割り」と定める契約書も実在します。起算が鍵の引渡日か契約開始日かでも金額が変わるため、解約通知の期限と合わせて条文を確認してください。
共益費は値下げ・減額交渉できる?賃料との法的な違い
共益費には、賃料のような法律上の増減額請求権がありません。借地借家法第32条が定める増減額請求権の対象は「建物の借賃」であり、共益費は当然には含まれないからです。改定は、契約書の条項に従って当事者が協議する事項になります。
この違いは標準契約書にも表れています。賃料の改定は第4条第3項で、租税等の負担の増減、土地建物価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料との比較という3つの事由を挙げます。一方、第5条第4項は「維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる」と定め、条文も事由も分けています。
よくある誤解として「共益費の変更には借地借家法に基づく手続きが必要」と説明されることがありますが、正確ではありません。第32条は借賃の規定です。改定条項が契約書にあればそれに従い、なければ当事者の合意によります。
借りる側は、共益費だけを法律上の根拠で下げさせる手段はないと考えておくのが現実的です。むしろ有効なのは、清掃されていない、共用灯が切れたままといった状態で、内訳の説明と是正を求めることです。
共益費の勘定科目・仕訳と消費税|借主側と貸主側
共益費の勘定科目に法令上の決まりはなく、家賃とまとめて「地代家賃」で処理するのが一般的です。重要なのは、消費税の課税区分を正しく分けることです。
住宅の貸付けは非課税取引です。国税庁の質疑応答事例は、居住者が共通に使用する部分の費用を応分に負担させる性格のものは「共益費、管理費等その名称にかかわらず非課税となります」としています。事業用建物の貸付けは課税取引で、共益費も課税対象です。
扱いが分かれるのは、別に請求される費用です。同じ事例は、別建て請求の料金のうち共益費に該当しないものを課税対象としています。別建ての駐車場利用料や専有部分の電気・ガス・水道使用料は住宅でも課税ですが、各戸に配線済みのCATV利用料や共用部分の管理料は非課税とされています。費目ごとに結論が変わるため、名目を分けて記録してください。
| 区分 | 住宅(自宅・社宅) | 事業用(事務所・店舗) |
|---|---|---|
| 借主の勘定科目 | 地代家賃(社宅は福利厚生費で処理する例もある) | 地代家賃 |
| 借主の消費税区分 | 非課税仕入 | 課税仕入 |
| 貸主の収益計上 | 不動産所得の総収入金額に算入 | 不動産所得の総収入金額に算入 |
| 貸主の消費税区分 | 非課税売上 | 課税売上 |
| 別建て請求分 | 駐車場利用料などは課税、CATV利用料などは非課税 | 課税対象 |
貸主側は共益費を不動産所得の総収入金額に算入します。国税庁のタックスアンサーNo.1370が「共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など」を含めると明記しており、預り金ではありません。
課税・非課税の判定やインボイスの扱いは不動産収入における課税・非課税とインボイスの基礎で整理しています。個別の処理は契約内容と用途で結論が変わるため、顧問税理士に確認してください。
オフィス・店舗の共益費は坪単価で別建て|住宅との3つの違い
事業用の共益費は、住宅と3つの点で異なります。1つ目は消費税です。事務所・店舗の賃貸は課税取引なので、共益費にも税がかかります。住宅と逆なので、予算を組むときに見落とすと差が出ます。
2つ目は表示の単位です。オフィスビルでは賃料も共益費も坪単価で示され、別建てで提示されるのが一般的です。仮に賃料が坪18,000円、共益費が坪3,000円なら実質の坪単価は21,000円、50坪で月額1,050,000円、税込み1,155,000円です。
3つ目は「賃料」の定義が一定でないことです。募集条件や市場データでは共益費込みの総額を示す場合と賃料のみの場合があります。提示賃料に共益費が含まれるか、含まれるサービス(清掃、警備、空調)の範囲、時間外空調費など別に実費請求される費目の有無。この3点を確認してください。
オーナー・管理会社が共益費を設定・改定するときの実務
共益費は、相場からではなく共用部分の年間実費から逆算して決めます。相場は決めた額を検証する物差しであって、出発点ではありません。実費と切り離した額は、内訳を問われても説明できません。
- 共用部分の年間費用を費目別に積み上げる(電気・水道、清掃、点検・保守、小修繕、保険)
- 年間合計を戸数で割り、さらに12で割って1戸あたりの月額を出す
- 令和7年度の平均4,837円や圏域別の水準と照合し、乖離があればその理由を1文で説明できるか確認する
- 募集図面・広告に1戸当たりの月額を表示する(不動産の表示に関する公正競争規約により必要)
- 改定するときは、維持管理費の増減という理由を数字で示し、協議の経過と通知を書面で残す
配分方式は面積按分・戸数割・一律の3通りです。賃貸住宅では戸数割か一律が一般的で、面積が広い部屋ほど高いとは限りません。面積按分なら契約書への明記が必要です。
共益費を利益の源泉には置きません。値上げで収益を作るより、共用部分の維持水準を保って空室期間を短くするほうが、長期の収支では有利です。設備を守るのも説明責任を果たすのも、現場の人財の仕事です。
設定額の妥当性や見直しの進め方は、賃貸オーナーが管理費を適正に設定し見直す手順で整理しています。共用部分の費用を把握できていない場合は、INA&Associates株式会社の無料相談で費目の棚卸しから始めます。
よくある質問(FAQ)
Q. 共益費がない物件は、何が違うのですか?
A. 共用部分がほとんどないか、共用部分の費用を家賃に含めている物件です。標準契約書の解説コメントも、戸建て賃貸住宅では通常は共益費が発生しないとしています。0円でも費用が消えるわけではないため、毎月の支払総額で比較してください。
Q. 共益費だけを滞納すると、どうなりますか?
A. 共益費も契約上の債務なので、家賃と同じく督促の対象です。連絡は初回の未入金の直後に来るのが実務で、2〜3か月待ってから動くわけではありません。支払えない事情があるときは、先に管理会社へ連絡してください。
Q. 共益費は値上げされることがありますか?
A. あります。賃貸住宅標準契約書は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは協議のうえ改定できると定めています。一方的な通知で確定するものではないため、どの費用がいくら増えたのかの説明を求めてください。
Q. 共益費は敷金・礼金・更新料の計算に含まれますか?
A. 一般的には含まれません。敷金・礼金・更新料は「賃料の◯か月分」で決めるのが通例です。ただし算定基礎は契約書次第なので、「賃料の1か月分」か「賃料+共益費の1か月分」かを該当条項で確認してください。
