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不動産投資の確定申告ガイド|収支管理・必要経費・減価償却・青色申告の判断軸

不動産投資の確定申告を、収支管理、必要経費、減価償却、青色申告、損益通算、資料保存、税理士相談の判断軸まで投資家目線で解説します。

最終更新: 約14分で読めます

不動産投資の確定申告は「納税手続き」ではなく運用管理です

不動産投資で家賃収入を得ると、確定申告は避けて通れない実務になります。ただし、確定申告を単なる年1回の書類作成と捉えると、投資判断を誤りやすくなります。

不動産投資の確定申告で本当に重要なのは、税額を計算することだけではありません。家賃収入、管理費、修繕費、借入金利息、減価償却費、固定資産税などを整理することで、物件ごとの実質収益力が見えるようになります。

帳簿が整っていない投資家は、黒字に見える物件の手残りが少ない理由や、赤字に見える物件が将来のキャッシュフローにどう影響するかを判断しにくくなります。確定申告は、税務署に提出するためだけの作業ではなく、投資の成績表を作る作業でもあります。

確定申告が必要になる人と注意したい境界線

不動産所得がある場合、原則として確定申告の要否を確認する必要があります。特に会社員が副業として不動産投資をしている場合、「給与所得者だから年末調整で終わり」と考えるのは危険です。

一般に、給与所得者で給与以外の所得が一定額以下であれば所得税の確定申告が不要となるケースがあります。ただし、住民税の申告が別途必要になる場合があります。また、医療費控除、ふるさと納税のワンストップ特例が使えないケース、損失を申告したいケースでは、金額だけで単純に判断できません。

不動産投資では、次のような場合に特に確認が必要です。

  • 家賃収入がある
  • 礼金、更新料、返還不要の敷金などを受け取った
  • 不動産所得が赤字で、給与所得などとの損益通算を検討している
  • 青色申告を利用したい
  • 複数物件を保有している
  • 物件を売却した年で、譲渡所得の申告が必要になる可能性がある

不動産投資の確定申告では、「申告が必要かどうか」だけでなく、「申告した方が有利か」「申告しないことで将来の説明資料が不足しないか」まで考えることが大切です。

不動産所得の基本式を押さえる

不動産所得は、国税庁の整理では次のように計算します。

不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費

ここでいう総収入金額は、毎月の家賃だけではありません。礼金、更新料、返還不要となった敷金・保証金、共益費として受け取る金額なども含まれる場合があります。

一方、必要経費は「不動産収入を得るために直接必要な費用」であり、家事上の支出と明確に区分できるものが対象です。自宅の生活費、個人的な支出、投資と関係の薄い会食費などを安易に入れると、税務上の説明が難しくなります。

不動産所得を正しく計算するためには、収入と支出を「入金・出金」だけで見ないことが重要です。たとえば、借入金の返済額は元本と利息に分かれます。元本返済は経費ではなく、利息部分が経費の検討対象になります。修繕費と資本的支出の区別も、単純な支払額だけでは判断できません。

申告方法は白色申告か青色申告か

不動産投資の確定申告では、白色申告と青色申告のどちらで申告するかを考えます。初年度は白色申告で始める人もいますが、長期的に物件を増やす予定があるなら、早い段階で青色申告を検討する価値があります。

区分 白色申告 青色申告
事前申請 不要 原則として青色申告承認申請書が必要
記帳 比較的簡易 一定水準の記帳が必要
特別控除 なし 要件により10万円、55万円、65万円
赤字の繰越 原則なし 要件を満たせば純損失の繰越などが可能
向いている人 小規模で初年度の投資家 継続保有・複数物件・規模拡大を考える投資家

青色申告の大きなメリットは、青色申告特別控除や損失の繰越などを使える可能性があることです。ただし、65万円控除には複式簿記、貸借対照表・損益計算書の作成、期限内申告、e-Taxまたは一定の電子帳簿保存などの要件が関係します。

また、不動産貸付が「事業的規模」に当たるかどうかで、受けられる扱いが変わる場面があります。一般に「5棟10室基準」が目安として語られますが、これは機械的にすべてを決める絶対基準ではありません。物件数、賃貸の実態、管理の状況などを踏まえて判断する必要があります。

必要経費は「使ったか」より「説明できるか」が重要です

不動産投資の必要経費は、投資家の手残りに直結します。ただし、節税を意識しすぎて経費の範囲を広げすぎると、後から説明に苦労します。

判断の基本は、その支出が不動産収入を得るために直接必要だったか、個人的支出と区分できるかです。領収書があるだけでは十分ではありません。何のための支出か、どの物件に関係するか、資産価値を高める支出なのか、原状回復や維持管理なのかを整理しておく必要があります。

支出項目 経費判断の考え方
管理委託費・賃貸管理手数料 賃貸運営に直接関係するため、通常は経費対象になります
修繕費 原状回復や維持管理なら経費になりやすい一方、価値を高める工事は資本的支出になる場合があります
固定資産税・都市計画税 貸付資産に関するものは経費対象になり得ます
損害保険料 賃貸物件に関する火災保険料などは経費対象になり得ます
借入金利息 建物・土地の取得資金に係る利息は検討対象ですが、赤字時の損益通算では土地等に係る利息に制限があります
減価償却費 建物や設備などを耐用年数に応じて費用化します
交通費・通信費 物件確認や管理会社との連絡など、投資目的との関連を説明できる範囲で整理します
書籍・セミナー費 不動産投資や賃貸経営に直接関係するものかを記録しておきます

経費管理では、物件別に支出を分けることが大切です。複数物件を保有している場合、全体では黒字でも特定の物件だけ収益性が悪いことがあります。物件別の損益を把握できないと、売却、借り換え、修繕、家賃改定の判断が遅れます。

減価償却は節税ではなく投資回収の設計です

減価償却は、不動産投資の確定申告で最も誤解されやすい項目です。建物や設備は購入時に一括で経費にするのではなく、法定耐用年数などに応じて毎年費用化します。この費用が減価償却費です。

減価償却費は現金支出を伴わない経費として計上されるため、帳簿上の不動産所得を圧縮する効果があります。そのため「節税になる」と説明されることがありますが、実態としては購入時に支払った建物価額を期間配分しているだけです。

投資家が見るべきポイントは、減価償却費によって税引後キャッシュフローがどの程度改善するか、償却が終わった後に税負担が増えないか、売却時に譲渡所得へどのように影響するかです。中古木造物件のように償却期間が短くなりやすい物件では、保有中の税務メリットだけでなく、償却後の収支悪化や出口価格も合わせて検討する必要があります。

減価償却の基礎を深く確認したい場合は、富裕層のための不動産投資における減価償却費の仕組みと計算方法も参考になります。

損益通算は使えるが、万能ではありません

不動産所得が赤字になった場合、一定の範囲で給与所得など他の所得と損益通算できることがあります。会社員投資家にとっては、給与から源泉徴収された所得税の一部が還付される可能性があるため、関心の高い論点です。

ただし、損益通算は「赤字なら何でも給与と相殺できる」という制度ではありません。特に、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金利子に相当する部分は、損益通算の対象から除かれる扱いがあります。

また、赤字が出ている理由も重要です。減価償却費による帳簿上の赤字なのか、空室や賃料下落による実質的な赤字なのかで、投資判断はまったく変わります。税務上の赤字が出ていても、現金収支が安定していれば長期保有に耐えられる場合があります。一方で、現金収支まで赤字なら、税還付だけで投資を正当化するのは危険です。

不動産所得の計算や申告全体を整理したい場合は、不動産所得の確定申告を完全解説|計算方法・必要書類・事業規模の判断基準もあわせて確認すると理解しやすくなります。

申告前にそろえる資料と保存ルール

確定申告の直前に資料を集めると、抜け漏れが起きやすくなります。不動産投資では、毎月の家賃入金、管理会社からの送金明細、ローン返済予定表、修繕の請求書、固定資産税の納税通知書など、資料が複数の場所に分散します。

最低限、次の資料は年初から整理しておきたいところです。

  • 賃貸借契約書
  • 家賃入金明細、管理会社の送金明細
  • 管理委託契約書
  • ローン返済予定表、年末残高証明書、利息明細
  • 固定資産税・都市計画税の納税通知書
  • 火災保険・地震保険などの保険料資料
  • 修繕費、設備交換、原状回復工事の請求書・領収書
  • 売買契約書、重要事項説明書、仲介手数料の資料
  • 登記費用、不動産取得税、登録免許税など取得時費用の資料
  • クラウド会計や表計算ソフトで作成した帳簿

青色申告では、帳簿や書類の保存も重要です。国税庁は、青色申告者の帳簿書類について原則7年間の保存が必要で、書類によっては5年間でよいものもあると整理しています。電子データで保存する場合は、電子帳簿保存法の要件にも注意が必要です。

確定申告の実務手順

不動産投資の確定申告は、作業を分解すると進めやすくなります。おすすめの順序は、資料収集、収入整理、経費整理、減価償却の計算、所得計算、申告書作成、提出・納税です。

まず、物件ごとに家賃収入と経費を分けます。次に、借入金返済額を元本と利息に分けます。元本返済は経費ではないため、ローン口座の出金額をそのまま経費にしないよう注意が必要です。

その後、建物・附属設備・器具備品などの減価償却を計算します。取得価額の土地・建物按分、耐用年数、償却方法に誤りがあると、その後の申告にも影響が残ります。初年度に判断を誤ると修正が面倒になりやすいため、購入初年度は特に慎重に確認しましょう。

申告書の作成は、国税庁の確定申告書等作成コーナー、会計ソフト、税理士への依頼など複数の方法があります。物件が1件で取引が少ない場合は自分で対応できることもありますが、複数物件、法人化、相続、売却、海外居住、消費税が絡む場合は専門家に相談した方が安全です。

税理士に相談すべきタイミング

不動産投資の確定申告は、必ず税理士に依頼しなければならないわけではありません。ただし、次のような状況では、税理士に相談するメリットが大きくなります。

  • 初めて物件を購入し、土地・建物の按分や減価償却の設定が不安
  • 複数物件を保有している
  • 大規模修繕や設備交換を行った
  • 不動産所得が赤字で、損益通算の扱いを確認したい
  • 青色申告の65万円控除を狙いたい
  • 事業的規模に該当するか判断が必要
  • 売却、買い替え、相続、法人化を検討している
  • 税務署から問い合わせやお尋ねが届いた

税理士に依頼するかどうかは、申告作業の代行費用だけで判断しない方がよいです。初年度の減価償却設定、修繕費と資本的支出の区分、損益通算の制限、青色申告の要件などは、後年の税額や売却時の計算にも影響します。

特に高所得者や複数物件保有者は、節税額だけでなく、税務リスク、融資審査で使える決算資料、将来の売却戦略まで含めて相談する価値があります。

確定申告を投資判断に活かす視点

確定申告が終わったら、提出して終わりにしないことが大切です。申告書と決算書には、投資判断に使える情報が詰まっています。

見るべきポイントは、まず物件ごとの実質利回りです。表面利回りが高くても、管理費、修繕費、固定資産税、空室損、借入金利息を差し引くと手残りが薄い物件は珍しくありません。

次に、税引後キャッシュフローを確認します。不動産所得が黒字でも、ローン元本返済が大きければ現金は残りにくくなります。逆に、減価償却費によって帳簿上は赤字でも、現金収支は黒字というケースもあります。

さらに、将来の修繕負担を見込む必要があります。確定申告上の利益が出ていても、大規模修繕や設備更新の積立が不足していれば、実態としては余裕がない運用です。毎年の申告を通じて、保有継続、借り換え、家賃改定、売却の判断材料を更新していきましょう。

不動産投資全体の進め方を整理したい場合は、不動産投資の始め方|初心者が失敗を避ける判断手順も参考になります。

よくある質問

会社員でも不動産投資の確定申告は必要ですか?

必要になる場合があります。給与所得者でも、給与以外に不動産所得がある場合は確定申告の要否を確認してください。所得税の確定申告が不要なケースでも、住民税の申告が必要になることがあります。また、不動産所得が赤字で損益通算を検討する場合や、医療費控除などを受ける場合は、申告した方がよいケースがあります。

青色申告はいつまでに申請すればよいですか?

原則として、青色申告をしようとする年の3月15日までに、納税地の所轄税務署へ青色申告承認申請書を提出します。その年の1月16日以後に新たに業務を開始した場合は、業務開始日から2か月以内が目安です。相続で承継した場合は別の期限があるため、早めに確認してください。

修繕費と資本的支出はどう見分ければよいですか?

原状回復や維持管理のための支出は修繕費になりやすく、物件の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする支出は資本的支出として減価償却の対象になる場合があります。金額だけで機械的に決めるのではなく、工事内容、目的、請求書の内訳、過去の状態との比較で判断します。大規模修繕や設備更新では税理士に確認した方が安全です。

不動産所得が赤字なら必ず節税になりますか?

必ず節税になるわけではありません。損益通算には制限があり、土地等を取得するための借入金利子に相当する部分などは注意が必要です。また、税務上の赤字が減価償却によるものなのか、空室や修繕費増加による実質的な赤字なのかで投資判断は変わります。還付額だけでなく、現金収支と将来の修繕負担を合わせて見てください。

関連リンク

参考リンク

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEOINA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者