「オフィスが足りない」。2025年の東京不動産市場を一言で表すとすれば、この言葉に尽きます。
CBREの調査では、2025年の東京23区における新規オフィス需要は33〜36万坪と過去最大水準に達した一方、新規供給はその55%にも満たない18万坪にとどまる見通しです。空室率は5%を割り込み、コロナ禍以降では最低水準。移転先が見つからない、賃料が上がり続ける、という声が企業の経営層からも聞こえてきます。
しかし私たちは、この状況を単なる「需給の一時的ミスマッチ」と捉えていません。これは、日本企業の経営構造が変化しつつあることを示す、重要なシグナルだと考えています。
なぜ今、オフィスへの投資が増えているのか
コロナ禍でリモートワークが普及した際、「オフィスは不要になる」という議論が活発になりました。実際、2020〜2021年にかけて多くの企業がオフィスを縮小し、空室率は大幅に上昇しました。あの流れはどこへ消えたのでしょうか。
答えはシンプルです。「人が集まる場所」の価値は、生産性の問題ではなく、文化の問題だからです。企業が本当に優秀な人財を惹きつけようとするとき、リモートワーク環境の整備と同時に、「ここで働きたい」と思わせるリアルな場が必要になります。本社の所在地、フロアの質、立地の格——これらは企業ブランドの一部であり、採用競争における無言のメッセージでもあります。
私たちが超富裕層や成長企業の経営者と日々接する中で感じるのは、「場所へのこだわり」が以前にも増して強くなっているということです。これはラグジュアリーの話ではなく、戦略の話です。
「建てられない」という構造問題
供給が増えない理由として建築費の高騰が挙げられますが、問題の本質はもう少し深いところにあります。建設業界の人財不足、資材の調達難、さらには行政手続きの複雑化——これらが重なり合い、「建てたくても建てられない」構造が生まれています。
トーチタワー(2028年完成予定)やNTT日比谷タワーなどの大型プロジェクトは、確かに中長期の供給増に貢献します。しかし、2025〜2026年の逼迫した現場には間に合わない。つまり、今オフィスを必要としている企業が向き合うべきは、「新築を待つ」のではなく「既存ストックをどう活用するか」という現実的な発想の転換です。
この観点から見ると、築年数が経過していても立地・管理状態が良好な物件の価値が相対的に高まっており、リノベーション済み物件や用途変更物件への注目度が上昇しています。私たちが管理・仲介する物件の中にも、こうした「隠れた優良物件」が存在します。
私たちが考える「本当のリスク」
この市場状況において、多くの論者が「賃料が上がる」「物件が取れない」というリスクを語ります。それは事実です。しかし私たちが考える「本当のリスク」は別のところにあります。
それは、「意思決定の遅さ」です。
需給が逼迫している市場では、優良物件の成約スピードが格段に上がります。「社内で検討します」と言っている間に、他の企業が決断し、契約を結びます。かつてのように「気に入った物件を数ヶ月かけて交渉する」という余裕は、現在の東京オフィス市場には存在しません。
私たちが経営者の方々にお伝えしているのは、「不動産の意思決定を経営判断と同じスピード感で行う」ということです。失敗を恐れて動かないことが、最もコストの高い選択になりうる市場環境が来ています。
大阪・関西市場との比較という視点
東京一極集中の文脈でオフィス不足が語られる中、私たちが大阪を拠点として持つ立場から付言したいのは、大阪・関西エリアの再評価です。
2025年の大阪・関西万博、2030年代を見据えたIR(統合型リゾート)構想、さらには関西経済圏全体のインフラ整備が重なり、大阪のオフィス市場にも着実に変化が生まれています。東京で物件確保が困難になった企業が、機能の一部を大阪・関西に移管するケースは、今後さらに増えると見ています。
私たちは、東京・大阪という複数拠点を持つことで、こうした広域的な不動産ニーズにワンストップで対応できる体制を整えています。
人財と不動産は、切り離せない経営資源である
最後に、私たちが最も強調したい視点をお伝えします。
企業にとって最も重要な資産は人財です。そしてその人財が最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることが、経営者の責務のひとつです。オフィスは「コスト」ではなく「人財への投資」として捉えるべきだと、私たちは考えています。
採用候補者が内定承諾を決める際、オフィスの立地や雰囲気が影響することは珍しくありません。優秀な人財ほど、会社の「本気度」を空間から読み取ります。本社の格、働く環境の質——これらは企業ブランドを形成する無形の資産であり、人的資本経営の観点からも重要な投資対象です。
「どこに拠点を置くか」は、単なる不動産の話ではなく、「どんな企業でありたいか」という経営哲学の表明です。私たちはそのパートナーとして、お客様の意思決定を全力でサポートいたします。