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COLUMN

入居者への立ち退き依頼|正当事由・通知書テンプレート・交渉の流れ

入居者への立ち退きを、正当事由の判断、通知書の記載事項とテンプレート、交渉の流れ、立ち退き料の相場感まで体系的に整理して解説します。

最終更新: 約14分で読めます

賃貸物件のオーナーとして、建物の老朽化や家賃滞納などを理由に入居者へ立ち退きを依頼せざるを得ない場面があります。とはいえ、立ち退きは入居者の生活に直結する重大事であり、感情と法律の両面で慎重な対応が求められます。本記事では、立ち退きが認められる正当事由、立ち退き通知書の書き方、交渉の進め方、立ち退き料の相場感までを整理して解説します。

私たちINA&Associates株式会社は、入居者と貸主の双方が長期的に納得できる関係を最重視しています。立ち退き交渉は、まさにその関係性が試される場面です。だからこそ、形式ばった通知書のテンプレートをなぞるだけでは不十分で、誠実なコミュニケーションが基盤になります。なお、本記事は一般情報であり、実際の交渉は弁護士への相談を推奨します。

立ち退きが発生する2つのケース

1. 貸主側の都合による立ち退き

建物の老朽化、建て替え、自己使用、売却の意向など、貸主側の都合で入居者に退去を求めるケースです。借地借家法上、貸主からの解約や更新拒絶には「正当事由」が必要であり、単なる希望だけで強制することはできません。このケースでは、立ち退き料の支払いが一般的です。

2. 入居者の契約違反による立ち退き

家賃の長期滞納、ペット禁止物件での無断飼育、無届け民泊運営、用途違反など、入居者側の重大な契約違反がある場合です。このケースでは、貸主からの解除が認められる可能性が高く、原則として立ち退き料の支払いは不要です。

立ち退き要求が認められる正当事由

借地借家法第28条では、解約申し入れや更新拒絶において、以下の事情を総合考慮して正当事由の有無を判断するとしています。

建物使用の必要性

貸主側、入居者側それぞれが当該建物を使用する必要性が、判断の中心軸となります。貸主が自己使用する必要性が高いほど、立ち退き要求は認められやすくなります。逆に、入居者が住み続ける必要性が高い場合(高齢、病気、生活基盤など)は、立ち退きのハードルは上がります。

賃貸借契約の経過と従前経緯

契約期間・契約更新の履歴・家賃支払い状況・契約締結時の事情なども考慮されます。入居前から建て替え計画が説明されていた場合、貸主側の主張は通りやすくなります。

建物の現況

耐震性能不足、老朽化による倒壊リスクなど、建物の物理的な状態が立ち退きを必要とする状況であれば、正当事由として評価されます。

立ち退き料による補完

正当事由が部分的にしか認められない場合でも、適切な立ち退き料の提示によって正当事由が補完されると判断されるケースが多いです。立ち退き料は、立ち退き交渉における重要な調整弁となります。

「立ち退きのお願い」文書とは?通知書との違いと文例

「立ち退きのお願い文書」とは、法的効力を持つ解約申入れ・更新拒絶通知(内容証明郵便で送付する正式な通知書)を送る前段階として、入居者に事情を説明し、任意の協力をお願いする書面です。借地借家法上の解約申入れ・更新拒絶としての効力はなく、あくまで対話のきっかけを作るための文書である点が、後述の通知書との違いです。いきなり内容証明を送ると心理的な対立を招きやすいため、まずはお願い文書や口頭での説明を挟むケースが多く見られます。

以下は、老朽化を理由にした「お願い」文書の文例です。

ご相談とお願い

拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

平素より○○(物件名)をご利用いただき、誠にありがとうございます。

このたびは、本物件の建物老朽化に伴う建て替え計画について
ご相談とお願いを申し上げたく、書面を差し上げました。

本物件は築○○年が経過し、耐震診断の結果、現行の耐震基準を
満たしていないことが判明いたしました。入居者の皆様の安全を
最優先に考え、建て替えを検討しております。

つきましては、恐れ入りますが、令和○年○月頃を目途に
本物件からのお引越しにご協力いただけないかご相談申し上げます。

お引越しに伴うご負担につきましては、立ち退き料や引越費用の
一部負担など、誠意をもってご相談させていただく所存です。

まずは本状にてご事情をお伝えし、後日改めてお伺いのうえ、
詳しくご説明させていただきたく存じます。ご不明な点がございましたら、
下記までお気軽にお問い合わせください。

敬具

連絡先:○○○-○○○○-○○○○

この段階では、まだ法的な解約申入れ・更新拒絶の効力は発生しません。借地借家法上の期間制限(更新拒絶は期間満了の1年〜6か月前まで、解約申入れは6か月の経過が必要)を確保するには、別途、正式な通知書を内容証明郵便で送付する必要があります。お願い文書は、その前段の関係構築のための書面と位置づけてください。

立ち退き通知書の役割と記載事項

立ち退き通知書とは

立ち退き通知書は、貸主から入居者に対して立ち退きを依頼する正式な文書です。法律上、書面化が必須というわけではありませんが、後の紛争予防のため書面で残すことが強く推奨されます。配達証明付き内容証明郵便で送付することで、送付日と内容を証拠化できます。

記載すべき主な項目

  • 通知日
  • 賃借人の氏名・住所
  • 貸主または管理会社の氏名・住所
  • 物件の所在地・物件名・部屋番号
  • 賃貸借契約の締結日・契約期間
  • 立ち退きを求める理由
  • 立ち退き希望日
  • 立ち退き料・引越費用などの提示内容
  • 連絡先・期限

立ち退き通知書のテンプレート

貸主側都合(老朽化)の場合のサンプル

通知書

令和○年○月○日

〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○-○-○
○○ ○○ 殿

〒○○○-○○○○
○○県○○市○○町○-○-○
通知人 ○○ ○○

前略 通知人は、貴殿に対し、下記の通り通知いたします。

通知人と貴殿は、令和○年○月○日付で下記建物の賃貸借契約を締結し、
通知人は貴殿に対し本物件を引き渡しております。

物件名:○○
所在地:○○県○○市○○町○-○-○
賃料:月額○○円
契約期間:令和○年○月○日から令和○年○月○日まで

しかしながら、本物件は建築より○○年以上が経過し、老朽化が進行しております。
耐震診断の結果、現行基準を満たさないことが判明し、入居者の生命・身体に
重大な危険が及ぶおそれがあります。

つきましては、本契約の更新をお断りし、令和○年○月○日までに
本物件の明け渡しをお願い申し上げます。

明け渡しに際しましては、立ち退き料として金○○○万円のお支払い、
および引越費用の実費負担をご相談させていただきたく存じます。
詳細につきましては、別途協議の場を設けさせていただきます。

ご不明点、ご質問等ございましたら、下記までご連絡ください。

連絡先:○○○-○○○○-○○○○

草々

賃借人の契約違反(家賃滞納)の場合のサンプル

催告および契約解除通知書

令和○年○月○日

(宛先・差出人省略)

通知人と貴殿は、令和○年○月○日付で本物件の賃貸借契約を締結しておりますが、
貴殿は令和○年○月分以降、賃料合計金○○○○円の支払いを怠っておられます。
本通知書到達後○日以内に未払賃料全額をお支払いください。

万一、上記期間内にお支払いがない場合、本書面をもって
本賃貸借契約を解除させていただきますので、その旨ご通知いたします。

これらはあくまで一般的なテンプレートです。実際の通知書作成は、必ず弁護士など専門家のレビューを受けることを強くおすすめします。

立ち退き交渉の流れ

ステップ1:事前準備と方針決定

立ち退き理由を整理し、立ち退き希望時期、立ち退き料の上限、代替提案などをあらかじめ決めておきます。耐震診断結果や建て替え計画など、根拠資料も揃えます。

ステップ2:通知書送付(解約申し入れまたは更新拒絶通知)

期間の定めのある契約では、契約期間満了の1年〜6か月前までに更新拒絶の通知が必要です。期間の定めのない契約では、解約申し入れから6か月の経過が必要となります。

ステップ3:直接の話し合い

通知書送付後、入居者と直接面談し、退去希望時期・条件・移転先の見通しなどを丁寧にすり合わせます。感情的な対立を避けるためにも、弁護士や経験豊富な管理会社が同席する形が望ましいケースが多いです。

ステップ4:合意書の作成

合意できた場合は、立ち退き合意書を作成し、立ち退き日、立ち退き料の金額・支払時期、原状回復の取り扱いなどを明記します。

ステップ5:交渉が決裂した場合

交渉が決裂した場合、調停・訴訟(建物明渡請求訴訟)に進む選択肢があります。判決による強制執行は時間と費用がかかるうえ、入居者との関係性も悪化するため、可能な限り合意による解決を目指すのが現実的です。

立ち退き合意書のテンプレートと記載事項

合意ができた場合に作成する「立ち退き合意書」(明渡合意書)には、少なくとも次の項目を明記します。

  • 当事者(貸主・借主)の氏名・住所
  • 物件の表示(所在地・物件名・部屋番号)
  • 明渡日
  • 立ち退き料の金額・支払方法・支払時期
  • 原状回復の範囲と費用負担
  • 鍵の返却方法
  • 清算条項(本合意書に定める以外、互いに債権債務がないことの確認)
立ち退き合意書

貸主○○(以下「甲」という)と借主○○(以下「乙」という)は、
下記物件の賃貸借契約の終了および明渡しに関し、以下のとおり合意する。

第1条(物件の表示)
 所在地:○○県○○市○○町○-○-○
 物件名:○○ 部屋番号:○○号室

第2条(明渡日)
 乙は、令和○年○月○日までに本物件を明け渡すものとする。

第3条(立ち退き料)
 甲は乙に対し、立ち退き料として金○○○万円を、
 令和○年○月○日までに、乙が指定する口座に振り込む方法により支払う。

第4条(原状回復)
 本物件の原状回復費用は、甲乙協議のうえ別途定める。

第5条(清算条項)
 甲及び乙は、本合意書に定めるもののほか、本件に関し
 何らの債権債務がないことを相互に確認する。

以上の合意を証するため、本書2通を作成し、甲乙各1通を保有する。

令和○年○月○日

甲(貸主)住所・氏名:
乙(借主)住所・氏名:

立ち退き料の金額が大きい場合や、支払いの確実な履行を担保したい場合は、合意書を公正証書(特に強制執行認諾文言付き)にしておくと、万一支払いが滞った際に訴訟を経ずに強制執行が可能になります。公証役場での手続きが必要になるため、事前に公証人へ相談してください。

「退去命令書」は貸主が出せる?自力救済の禁止と法的手続き

結論から言うと、貸主が入居者に対して法的拘束力のある「退去命令書」を独自に作成・送付することはできません。入居者を強制的に退去させる権限は裁判所にあり、貸主が直接、鍵の交換や家財の搬出といった実力行使で退去させることは「自力救済」として法律上認められていません。

正当な手続きは次の順序になります。

  • 交渉・合意を試みる(合意に至れば合意書を作成し、訴訟は不要)
  • 合意に至らない場合、建物明渡請求訴訟を提起する
  • 勝訴判決が確定しても入居者が退去しない場合、判決を債務名義として、民事執行法に基づき執行官へ「建物明渡しの強制執行」を申し立てる

貸主が独断で鍵を交換したり、入居者の家財を処分したりすると、刑事責任(住居侵入罪、器物損壊罪など)や損害賠償責任を問われる可能性があります。「退去命令」「退去勧告」といった文書名で送付される書面も、法的には前述の通知書やお願い文書と同じ位置づけであり、それ自体に強制力はない点に注意してください。

立ち退き料の相場感

立ち退き料は法定の算定式があるわけではなく、個別事情で大きく変動します。一般的には以下の要素を組み合わせて算定されることが多いです。

  • 引越費用の実費
  • 新居の敷金・礼金・仲介手数料
  • 家賃差額補償(数か月分)
  • 慰謝料的な調整金
  • 営業補償(事業用の場合)

住居用賃貸の場合、家賃の6か月〜1年分が目安とされることが多いものの、案件によっては大きく上下します。事業用の場合は、営業補償が加わるためさらに高額になる傾向があります。

INA&Associatesの考え方

立ち退き交渉は、形式的に進めれば淡々と完了するものではありません。入居者にとっては生活基盤の再構築を強いる重大事であり、貸主にとっては資産活用と社会的責任のバランスが問われる局面です。私たちは、目先の効率よりも、誠実なコミュニケーションを通じた合意形成を優先する姿勢を一貫して大切にしています。

関わる全ての方の幸せを追求する姿勢は、立ち退きという厳しい局面でも変わりません。短期的に見れば負担が大きく感じられても、誠実な対応の積み重ねが長期的な信頼と評判につながると考えています。

まとめ

  • 立ち退きは「貸主都合」と「入居者の契約違反」の2類型がある
  • 貸主都合の場合、借地借家法上の正当事由と立ち退き料の組み合わせで判断される
  • 立ち退き通知書は記載事項を漏らさず、内容証明郵便で送付するのが望ましい
  • 交渉は誠実な対話を基本とし、合意書として書面化する
  • 立ち退き料は家賃の6か月〜1年分が一つの目安だが、案件で大きく変動する

よくある質問(FAQ)

Q1. 立ち退き通知書を送れば必ず退去してもらえますか?

通知書の送付だけで強制退去できるわけではありません。正当事由を満たし、入居者との合意または裁判所の判決を経る必要があります。

Q2. 家賃滞納が1か月あったら立ち退きを請求できますか?

1か月程度の滞納では、信頼関係破壊までは認められないことがほとんどです。一般には3か月以上の滞納が一つの目安とされています。

Q3. 立ち退き料はどの程度を提示すべきですか?

個別事情により幅が大きいため、弁護士や経験豊富な仲介・管理会社へ相談することを強くおすすめします。家賃6か月〜1年分が一つの目安です。

Q4. 立ち退き交渉が長期化した場合の対応は?

交渉が膠着した場合、簡易裁判所の調停申立てや、最終的には建物明渡請求訴訟という選択肢があります。いずれも時間・費用を要するため、合意での解決を目指す姿勢が現実的です。

Daisuke Inazawa, President & CEO of INA&Associates Inc.

著者

代表取締役社長 / CEO — INA&Associates株式会社

INA&Associates株式会社 代表取締役社長。首都圏・近畿圏を中心に不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントを統括。収益不動産投資戦略と超富裕層向け不動産コンサルティングを専門領域とする。

稲澤 大輔(いなざわ・だいすけ)は、INA&Associates株式会社の代表取締役社長(CEO)。大阪本店・東京営業所を拠点に、首都圏・近畿圏における不動産売買仲介、賃貸仲介、プロパティマネジメントの三事業を統括する。

専門領域は、収益不動産の投資戦略立案、賃貸経営の収支最適化、超富裕層(UHNWI)・機関投資家向け不動産コンサルティング、およびクロスボーダー不動産投資。国内外の投資家に対し、データと長期視点に基づくアドバイザリーを提供している。

「企業の最も重要な資産は人財である」を経営理念に掲げ、人財投資カンパニーとして持続可能な企業価値の創造に取り組む。経営者として、変化の時代におけるリーダーシップのあり方と組織文化についても積極的に発信を続けている。

合格・取得資格は11種:宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、行政書士、個人情報保護士、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者。

  • 宅地建物取引士
  • 公認不動産コンサルティングマスター
  • マンション管理士
  • 管理業務主任者
  • 賃貸不動産経営管理士
  • 行政書士
  • 個人情報保護士
  • 甲種防火管理者
  • 競売不動産取扱主任者
  • マンション維持修繕技術者
  • 貸金業務取扱主任者