賃貸アパートやマンションを経営する上で、ドアのメンテナンスは避けて通れません。きしみやがたつき、閉まりの悪さなどのトラブルは入居者の不満につながり、放置すれば退去原因にもなります。この記事では、ドア関連のトラブルの種類から交換費用の相場、注意点までを詳しく解説します。
賃貸物件で起こるドア関連のトラブルとは?
ドアのトラブルは経年劣化や使用頻度によって様々な形で現れます。主なトラブルと応急対処法を確認しましょう。
ドアのきしみ
蝶番の緩みや変形が原因でドアがきしむことがあります。蝶番にシリコンスプレーを吹き付けることで改善する場合があります。集合住宅ではきしみ音が近隣への迷惑になるため、早めの対処が大切です。
ドアノブ・取っ手のがたつき
毎日の開閉による負荷でドアノブや取っ手ががたつくトラブルも多く見られます。修理のみなら1万円以下、交換の場合は1万円+部品代が相場です。
引き戸のスムーズでない動き
経年劣化や地震による歪みで、引き戸がスムーズに動かなくなるケースがあります。修理費用は1万~3万円程度ですが、改善しない場合はリフォームが必要です。
ドアクローザーの不調
ドアクローザーの不調はドアの閉まり具合に直接影響します。調節で済む場合は1万円以下、交換の場合は1万~2万円+部品代が相場です。
鍵のトラブル
鍵が抜けにくい、回りにくいなどの症状は、シリンダー内部の摩耗や汚れが原因です。潤滑剤の注入で改善する場合もありますが、交換が必要なケースでは2万~5万円程度の費用がかかります。
賃貸のドアが壊れたとき、直すのは貸主か借主か
ドアの不具合が出たときの費用負担は、民法の3つの条文で説明がつきます。
原則:修繕の義務は貸主にある
民法第606条第1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」と定めています。ドアが閉まらない、鍵が回らない、ドアクローザーが壊れて勢いよく閉まる、といった経年劣化や自然故障による不具合は、貸主の負担で直します。入居者がぶつけて凹ませた、無理な力をかけて引き戸を外した、といった場合はただし書きにより入居者負担です。
貸主が直さないとき、入居者は自分で直せる
2020年4月施行の改正民法で新設された第607条の2は、次のいずれかのときに賃借人が修繕をすることができると定めています。
- 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
- 急迫の事情があるとき
オーナー側から見ると、修繕依頼の連絡を放置すれば入居者が自分で業者を手配し、その費用を請求される立て付けになった、ということです。連絡を受けた日と、業者を手配した日を管理記録に残しておくことが、「相当の期間内」を説明する材料になります。
使えない期間は賃料が当然に減額される
民法第611条第1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される、と定めています。改正前は「減額を請求することができる」でしたが、現在は当然に減額される規定です。玄関ドアが施錠できず住戸を使えないといった事態では、修理の遅れがそのまま賃料の減収につながります。ドアの不具合は「とりあえず開閉できるから後回し」にされがちですが、施錠・防火・避難に関わる部位である以上、優先順位を上げて処理したほうが結果的に安く済みます。
賃貸物件で使われるドアにはどんな種類がある?
賃貸物件のドアは大きく「開き戸」と「引き戸」に分類されます。
開き戸(スイングドア)
最も一般的なタイプで、片開きと両開きがあります。気密性・防音性に優れており、玄関ドアに多く採用されています。
引き戸(スライドドア)
横にスライドして開閉するタイプで、開閉スペースを取らないのが特徴です。バリアフリー対応や省スペース設計の物件で採用が増えています。
ドアの耐用年数はどれくらい?
ドア全体および各部品の耐用年数の目安は以下のとおりです。
| 部位 | 耐用年数 |
|---|---|
| ドア本体(木製) | 20~30年 |
| ドア本体(金属製) | 30~40年 |
| ドアクローザー | 10~20年 |
| 蝶番 | 15~20年 |
| ドアノブ・レバー | 10~15年 |
| シリンダー錠 | 10~15年 |
ドアを壊した場合、退去時にいくら請求されるのか
ここは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」が明確な答えを持っている領域です。ドアは同ガイドラインの「建具・柱」に分類され、クロスや設備機器とは負担のルールが違います。
建具は「経過年数を考慮しない」
ガイドラインの別表は、負担単位と経過年数の考慮を部位ごとに定めています。建具・柱の欄には、「(襖、障子等の建具部分、柱)経過年数は考慮しない。」と明記されています。他の部位と並べると、この意味がはっきりします。
| 部位 | 経過年数等の考慮 |
|---|---|
| 壁(クロス) | 6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する |
| カーペット・クッションフロア・畳床 | 6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する |
| フローリング(全体にわたる毀損で張り替える場合) | 当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような負担割合を算定する |
| 設備機器 | 耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する |
| 建具(襖、障子等の建具部分)・柱 | 経過年数は考慮しない |
| 鍵(紛失の場合) | 経過年数は考慮しない。交換費用相当分を借主負担とする |
クロスなら入居6年で借主の負担割合がほぼゼロに近づきますが、建具は入居年数が長くても同じようには減りません。「10年住んだのだから経年劣化で相殺されるはず」という説明は、ドアについては通りにくい、ということです。
ただし負担単位は「毀損部分の補修」
同じ別表で、建具・柱の負担内容は「毀損部分の補修」とされ、襖は1枚単位、柱は1本単位が負担単位とされています。ドアの一部を破損させたことを理由に、住戸内のドアをまとめて交換した費用を請求する、といった扱いはこの負担単位から外れます。請求を受けたときは、まず「何を1単位として算定しているか」を確認してください。オーナー・管理会社の側も、見積書の単位が「1枚」なのか「一式」なのかで説明のしやすさが変わります。
貸主負担になるドア関連のケース
ガイドラインの別表は、賃貸人が負担すべき例として次を挙げています。
- 網戸の張替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)
- 地震で破損したガラス(自然災害による損傷であり、賃借人には責任はないと考えられる)
- 網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)
- 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
- 設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)
一方、賃借人負担とされる例には「飼育ペットによる柱等のキズ・臭い」「落書き等の故意による毀損」「鍵の紛失または破損による取替え」が挙げられています。鍵については、紛失の場合はシリンダーの交換も含めて借主負担、かつ経過年数を考慮せず交換費用相当分を負担する扱いです。
「耐用年数」には3つの意味がある
前章の表は、部材が物理的に持つ年数の目安です。これと、原状回復で負担割合を計算するときの経過年数、そして税務上の法定耐用年数は、いずれも別のものです。
| どの耐用年数か | 何に使うか | ドアの場合 |
|---|---|---|
| 物理的な寿命の目安 | 修繕計画・交換時期の検討 | 木製20〜30年、金属製30〜40年など(前章の表) |
| 原状回復での経過年数 | 退去時の負担割合の算定 | 建具部分は経過年数を考慮しない(ガイドライン別表) |
| 税務上の法定耐用年数 | 減価償却の年数 | ドア本体は建物と一体の建具であり、設備機器のような単独の法定耐用年数は定められていない |
入居者から「室内ドアの耐用年数は何年ですか」と聞かれたときは、物理的な寿命の話なのか、退去時の負担の話なのかを分けて答える必要があります。この2つを混ぜて説明すると、後から「経年で減るはずだった」という争いになります。
玄関ドア交換にかかる費用の相場は?
玄関ドアの交換費用は、工法やドアのグレードによって大きく異なります。
カバー工法
既存の枠を活かして新しいドアを取り付ける工法です。費用は15万~30万円程度で、工期は1日で完了するケースがほとんどです。壁や床への影響が少なく、賃貸物件のリフォームに適しています。
はつり工法
既存の枠ごと撤去して新設する工法です。費用は25万~50万円程度で、工期は2~3日かかります。開口部のサイズ変更が可能ですが、壁の補修が必要になる場合があります。
ドア交換費用は修繕費か資本的支出か
オーナーにとってのドア交換の実質コストは、税務上の扱いで変わります。その年の経費(修繕費)にできるか、資産計上して減価償却するか(資本的支出)の分かれ目です。
まず金額と周期で判定する
法人税基本通達7-8-3は、一の修理・改良等が次のいずれかに該当する場合、修繕費として損金経理をすることができるとしています。
- その一の修理、改良等のために要した費用の額が20万円に満たない場合
- その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
これに当たらず、資本的支出か修繕費かが明らかでない金額については、通達7-8-4が形式基準を置いています。
- その金額が60万円に満たない場合
- その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
性能を上げた分は資本的支出になる
通達7-8-1は資本的支出の例として、「機械の部品を品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合に要すると認められる費用の額を超える部分の金額」を挙げています。ドアに置き換えると、同等品への交換は修繕費になりやすく、断熱ドアやスマートロック付きへの入替えは「通常の取替え費用を超える部分」が資本的支出になり得る、という考え方です。
実務での組み立て方
見積書を「原状回復・同等品への交換」と「性能向上」に分けて出してもらうことが、後の説明を楽にします。1枚の見積書に一式で書かれていると、区分の根拠を自分で組み立て直すことになります。空室のタイミングで室内ドアを1枚だけ交換する場合と、全戸の玄関ドアをカバー工法で一斉に更新する場合とでは、金額の規模も判定も変わります。判断が割れやすい20万円〜60万円の帯に入るときは、着工前に見積書を顧問税理士に見せておくのが確実です。
ドア交換で空室対策は可能なのか?
玄関ドアは入居者が最初に触れる設備であり、物件の第一印象を左右します。古びたドアを新しいものに交換するだけで、内見時の印象が大きく向上し、入居率アップにつながります。特にオートロック機能やスマートロックの導入は、セキュリティ意識の高い入居者へのアピールポイントになります。
ドア交換時に気をつけるべき注意点とは?
- 管理規約の確認:分譲マンションの場合、玄関ドアは共用部分にあたるため管理組合の承認が必要
- 防火性能の確認:防火地域内のマンションでは防火戸の基準を満たす必要がある
- 採寸の正確さ:サイズが合わないドアを発注するとやり直しになり、余計な費用がかかる
- 信頼できる業者の選定:複数社から見積もりを取り、施工実績を確認する
分譲マンションの玄関ドアは勝手に交換できない
賃貸に出している分譲マンションの一室では、玄関ドアの扱いが賃貸アパートとまったく異なります。
マンション標準管理規約は、玄関扉について「錠及び内部塗装部分」を専有部分とし、扉そのものは共用部分としています。つまり、内側の塗り替えと鍵の交換までは区分所有者の裁量ですが、ドア本体の交換は共用部分に手を入れる行為になります。
同規約第22条は、防犯・防音・断熱等の住宅の性能の向上等に資する開口部(窓枠、窓ガラス、玄関扉。玄関扉にあっては錠および内部塗装部分を除く)の改良工事について、管理組合がその責任と負担において計画修繕として実施するものとし、管理組合が速やかに実施できない場合には、区分所有者が理事長に申請して書面による承認を受けることで、自己の責任と負担において実施できるという枠組みを置いています。
賃貸オーナーの実務としては、玄関ドアの不具合は「自分で直す設備」ではなく「管理組合に報告して修繕を求める設備」だと整理しておくのが正解です。入居者から玄関ドアの不調の連絡が来たら、まず専有部分である錠だけの問題なのか、扉本体・丁番・ドアクローザーの問題なのかを切り分け、後者ならマンションの管理会社へ通報します。ここを取り違えて自費で交換すると、管理規約違反として原状回復を求められることがあります。なお実際の規約は各マンションで異なるため、判断の根拠にするのは標準管理規約ではなく、そのマンションの管理規約の該当条文です。
防火設備としてのドアを扱うときの注意点
共同住宅の玄関ドアや共用廊下の扉は、防火設備として指定されていることがあります。指定されたドアを、防火性能のない一般のドアに交換することはできません。交換時には、既存の扉が防火設備かどうかを、竣工図の建具表と扉に貼られた表示(ラベル)で確認します。
維持管理の面では、建築基準法第12条第3項の防火設備定期検査があります。この検査の対象は、防火扉・防火シャッター等のうち随時閉鎖または作動できるものであり、常時閉鎖式の防火設備は対象から除かれ、従来どおり特定建築物定期調査で確認します。報告の対象となる建築物と時期は、特定行政庁が指定します。
現場でよく起きるのは、防火扉の前に自転車や荷物が置かれて閉鎖の妨げになっている、閉鎖装置が外されたまま戻されていない、という状態です。ドアの交換工事を行うときは、あわせて閉鎖装置の作動と扉まわりの空きスペースを確認しておくと、次の検査での指摘を減らせます。
よくある質問(FAQ)
Q. ドア交換の費用は大家さんが負担しますか?
経年劣化によるドア交換は原則として大家さんの負担です。民法第606条第1項が「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定めているためで、同項ただし書きにより賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときは入居者負担になります。なお国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、ドアが分類される建具について経過年数を考慮しないとされており、クロスのように入居年数で負担割合が下がる扱いにはならない点に注意が必要です。その代わり負担単位は「毀損部分の補修」とされています。
Q. ドアの交換工事中、入居者は部屋を使えますか?
カバー工法であれば数時間で完了するため、日中不在の間に施工可能です。はつり工法の場合は仮ドアを設置して対応します。
Q. 入居中にドアが壊れて使えません。家賃は下がりますか?
入居者の責めに帰することができない事由でドアが使えなくなり、その部分の使用収益ができなくなった場合、民法第611条第1項により賃料はその割合に応じて減額されます。2020年4月施行の改正で「減額を請求することができる」から「減額される」に変わり、当然に減額される扱いになりました。減額の割合は使えなくなった部分の割合によるため、玄関ドアが施錠できず住戸を使えない場合と、室内ドアの1枚が閉まらない場合とでは大きく異なります。
Q. ドアに穴を開けてしまいました。ドア1枚の交換費用を全額請求されますか?
入居者の故意・過失による毀損なので負担は生じますが、金額の根拠は確認してください。国土交通省のガイドラインは建具の負担内容を「毀損部分の補修」とし、負担単位を襖なら1枚単位、柱なら1本単位としています。また建具部分については経過年数を考慮しないとされているため、入居年数による減額は原則として働きません。争点になりやすいのは「補修で足りるのか、交換が必要なのか」であり、破損箇所の写真と見積書の内訳を突き合わせて確認するのが実務的です。
Q. 鍵の交換費用は誰が負担しますか?
ガイドラインは、破損も紛失もない場合の鍵の取替えを賃貸人負担の例に挙げ、鍵の紛失または破損による取替えを賃借人負担の例に挙げています。紛失の場合はシリンダーの交換も含めた交換費用相当分が借主負担となり、経過年数は考慮されません。入居者の入替えごとに防犯目的で行う鍵交換については、入居者負担とする特約が契約書に置かれていることが多いため、契約書の特約条項を確認してください。
Q. 引き戸(スライドドア)が破損した場合も同じ扱いですか?
引き戸も建具であり、ガイドライン上は開き戸と同じ「建具・柱」の区分です。経過年数は考慮されず、負担内容は毀損部分の補修になります。ただし引き戸は、建具本体のほかに上吊りレール・戸車・下部ガイドといった部品で構成されています。建具本体の破損なのか、レールや戸車の摩耗という経年劣化なのかで負担者が変わるため、動きが悪いという症状だけでは判断できません。分解して原因を特定してから負担を決めるのが妥当です。
Q. 室内ドアの交換費用はどのくらいですか?
室内ドアは3万~10万円程度が相場です。枠ごとの交換が必要な場合は10万~20万円程度かかります。
