一括インターネットとは
一括インターネットの仕組み
一括インターネットの種類
個別契約と一括契約の基本比較
| 項目 | 個別契約方式 | 一括契約方式 |
| 契約主体 | 入居者個人 | 不動産オーナー・管理組合 |
| 月額料金負担 | 入居者が直接支払い | 管理費・共益費に含まれる |
| 初期費用 | 入居者負担(工事費等) | オーナー負担(建物全体) |
| 回線選択の自由度 | 高い(自由に選べる) | 低い(指定された回線のみ) |
| 入居時の手続き | 必要(契約・開通工事) | 不要(即日利用可能) |
| 退去時の手続き | 必要(解約手続き) | 不要 |
| 料金の目安(月額) | 4,000円~6,000円程度 | 実質1,000円~2,000円程度 |
「全戸一括型インターネット」とは|「全戸」が指すもの
同じ仕組みが「全戸一括型インターネット」「マンション一括インターネット」「インターネット無料物件」と複数の呼び方で流通しているため、まず言葉を揃えます。
「全戸」とは、その建物にあるすべての住戸のことです。空室を含めた全住戸が対象になる点が、この方式の性質をほぼ決めています。オーナーまたは管理組合が建物単位で1本の契約を結び、全住戸へ一律に提供するため、入居者が住戸ごとに「うちは要らない」と外すことができません。裏返すと、入居者が申し込む手間も、退去のときに解約する手間もありません。
| 比較軸 | 全戸一括型(マンション一括) | 個別契約 |
|---|---|---|
| 契約する人 | 建物のオーナーまたは管理組合 | 入居者それぞれ |
| 対象になる住戸 | 空室を含む全住戸 | 申し込んだ住戸のみ |
| 費用を負担する人 | オーナー(家賃・共益費に織り込む) | 入居者(回線事業者・プロバイダへ支払う) |
| 入居者による事業者の選択 | できない(別回線を自費で追加契約できる場合はある) | 事業者もプランも自由に選べる |
| 空室中の費用 | 発生する | 発生しない |
| 入居時の開通 | 入居初日から使える | 申し込みから開通まで待つ |
募集広告の「インターネット無料」は、入居者が追加で払わないという意味であって、誰も払っていないという意味ではありません。費用はオーナーが負担し、家賃・共益費の水準に反映されています。したがって導入の検討は「無料にできるか」ではなく「その負担を家賃と稼働率で回収できるか」という問いになります。
もう一点、全戸一括型は空室でも費用が発生する固定費です。稼働率が下がる局面ほど1戸あたりの実質負担が重くなります。稼働率の高い物件ほど導入判断が楽になるのはこのためで、判断の順序としては、まず空室率と平均入居期間を見てから月額の総支出を置くことになります。
不動産オーナーにとってのメリット
物件の付加価値向上と差別化
入居率・稼働率の向上
家賃設定への影響
長期的な収益性への貢献
導入費用と回収シミュレーション
| 項目 | 小規模物件(10戸) | 中規模物件(30戸) | 大規模物件(100戸) |
| 初期導入費用 | 50万円~80万円 | 100万円~150万円 | 200万円~300万円 |
| 月額運営費用 | 3万円~5万円 | 8万円~12万円 | 20万円~30万円 |
| 1戸あたり月額コスト | 3,000円~5,000円 | 2,700円~4,000円 | 2,000円~3,000円 |
| 家賃上乗せ可能額(目安) | 2,000円~3,000円 | 2,000円~3,000円 | 2,000円~3,000円 |
| 投資回収期間 | 約2~3年 | 約1.5~2年 | 約1~1.5年 |
入居者にとってのメリット
月々の通信費削減効果
入居時の手続き簡略化
即日利用可能な利便性
引っ越し時の解約手続き不要
個別契約と一括契約の月額コスト比較
| 費用項目 | 個別契約の場合 | 一括契約の場合 |
| インターネット月額料金 | 4,000円~6,000円 | 0円(管理費に含まれる) |
| 管理費・共益費上乗せ分 | 0円 | 1,000円~2,000円程度 |
| 初期費用(事務手数料等) | 3,000円~10,000円 | 0円 |
| 開通工事費 | 0円~15,000円 | 0円 |
| 解約時の違約金リスク | あり | なし |
| 月額実質負担(合計) | 4,000円~6,000円 | 1,000円~2,000円程度 |
| 年間節約額 | - | 24,000円~48,000円程度 |
全戸一括型が「遅い」と言われる理由|速度は配線方式でほぼ決まる
全戸一括型への不満で最も多いのが速度です。ただし「一括だから遅い」わけではありません。集合住宅の速度を左右するのは、建物の外から各住戸までを何でつないでいるか(配線方式)です。
NTT西日本のフレッツ光では、集合住宅向けの配線方式と通信速度が次のように公表されています。
| 配線方式 | 各住戸までの配線 | 通信速度(技術規格上の最大値) |
|---|---|---|
| ひかり配線方式(光配線方式) | 収容局ビルから集合住宅内の各住居までを光ファイバーで接続 | マンションタイプは最大100Mbps。マンション・スーパーハイスピードタイプ 隼は最大概ね1Gbps |
| VDSL方式 | 集合住宅までは光ファイバー、建物内の各住居までは電話回線用ケーブル | 最大100Mbps |
| LAN方式(LAN配線方式) | 集合住宅までは光ファイバー、建物内の各住居まではLANケーブル | 最大100Mbps |
出典:NTT西日本「フレッツ 光ネクスト|ファミリー・マンション・ビジネスタイプ」
ここに、この記事でいちばん実務に効く一文があります。「マンション・スーパーハイスピードタイプ 隼/ハイスピードタイプ」はひかり配線方式のみの提供で、VDSL方式およびLAN方式では提供されていません。つまり建物内が電話配線やLANケーブルのままである限り、どの事業者の一括サービスを入れても1Gbpsのプランは契約できません。「一括にしたのに遅い」の相当部分は、事業者の問題ではなく建物の配線の問題です。
数字の読み方も押さえておきます。NTT西日本は通信速度について「技術規格上の最大値であり実効速度ではありません」と明記しています。いわゆるベストエフォートで、実際に出る速度を保証するものではありません。加えて一括型は建物へ引き込んだ回線を全住戸で分け合うため、夜間など同時利用が集中する時間帯には1戸あたりの実効速度がさらに落ちます。募集広告の「最大1Gbps」は共用部までの規格値であることが普通です。
オーナー側の実務としては、提案を受ける前に自分の建物の配線方式を確認しておくことです。築年数の古い建物ほど既存の電話配線を流用したVDSL方式である可能性が高く、その状態で一括サービスだけを載せても入居者の不満は解消しません。見積りが棟内配線の光化まで含んでいるのか、既存配線への重畳で済ませているのかで、費用も効果も別物になります。比べるべきは月額ではなく、配線方式まで含めた条件です。
一括インターネット導入のデメリット
不動産オーナー側のデメリット
初期投資の負担
長期契約による縛り
運営・保守の手間
入居者側のデメリット
回線速度や品質の制限
プロバイダや回線の選択肢がない
実質的なコスト負担
デメリットと対策方法
| デメリット | 対策方法 |
| 初期投資の負担 | 複数業者から見積もりを取り比較する 補助金や助成金の活用を検討する |
| 長期契約による縛り | 契約内容を詳細に確認し、途中解約条件を明確にする 技術革新に対応できる更新条項を盛り込む |
| 運営・保守の手間 | サポート体制が充実した業者を選定する 管理会社との役割分担を明確にする |
| 回線速度の制限 | 入居者数に対して十分な帯域を確保する 定期的な速度測定と必要に応じた増強を行う |
| 選択肢の制限 | 主要サービスとの互換性が高い回線を選定する オプションで個別契約も可能な体制を整える |
| 実質的なコスト | 管理費への上乗せ額を明確に説明する 実際の市場価格との比較資料を提示する |
ケーブルテレビ会社の一括契約と光回線の一括契約は何が違うか
集合住宅の一括契約には、光回線事業者が提供するものと、ケーブルテレビ(CATV)事業者が提供するものがあります。検討段階で両方から提案が来ることが多いので、違いを整理します。
総務省「ケーブルテレビの現状」によれば、令和5年度末時点でブロードバンドサービスを提供しているケーブルテレビ事業者は295者、契約数は合計1,084万契約です。そのうち下り30Mbps以上の超高速ブロードバンドサービスを提供している事業者は286者、1,017万契約となっています。ケーブルテレビは放送事業者であると同時に、相当規模の通信事業者でもあります。
伝送路については、登録に係る自主放送を行うための有線電気通信設備の引込端子数のうち、FTTH方式(他の方式との併存を含む)が65.0%、HFC方式(同軸方式との併存を含む)が34.8%、同軸方式のみが0.2%です(令和5年度末現在)。同資料はFTTHを各家庭まで光ファイバーケーブルを敷設する方式、HFCをCATV局から光ファイバで配線し途中から同軸ケーブルで各家庭まで線を引き込む方式と定義しています。
| 比較軸 | ケーブルテレビ事業者の一括契約 | 光回線事業者の一括契約 |
|---|---|---|
| 伝送路 | FTTHとHFC(光と同軸の併用)が混在。設備によって上限が変わる | 光ファイバー |
| 放送とのまとめ方 | 地上デジタル放送の再送信・多チャンネル放送とインターネットを同一事業者でまとめられる | 放送は別契約になることが多い |
| 共聴設備との関係 | 建物の共聴設備の更新とインターネット導入を一度の工事で扱える場合がある | 共聴設備は別途 |
| 事業者の広がり | 地域ごとに事業者が分かれる | 全国規模の事業者が多い |
ケーブルテレビ一括のメリットは、テレビとインターネットを1つの契約と1回の工事に束ねられる点にあります。地上デジタル放送のみの再放送サービスを提供している事業者は328者(72.1%)で、テレビの受信環境そのものをケーブルに寄せている建物であれば、インターネットも同じ設備に載せるほうが工事も窓口も1つで済みます。老朽化した共聴設備の更新時期が来ている物件では、この点が効きます。
一方で確認が要るのは伝送路です。同じ「ケーブルテレビの一括契約」でも、その設備がFTTHかHFCかで速度の上限が変わります。提案書に「最大○Gbps」とあっても、自分の建物への引込みがどちらなのかは別の話です。前の見出しで触れた光回線の配線方式と同じ論点で、比べるべきは月額とチャンネル数ではなく、建物までと建物内の両方の配線です。
一括インターネット導入の流れ
導入前の検討事項
業者選定のポイント
導入工事の流れと期間
入居者への案内方法
導入までのステップと期間目安
| ステップ | 内容 | 期間目安 |
| 情報収集・検討 | 各社サービスの比較検討 | 1~2ヶ月 |
| 業者選定 | 見積もり取得、比較検討、業者決定 | 2週間~1ヶ月 |
| 契約締結 | 契約内容確認、契約書締結 | 1~2週間 |
| 現地調査 | 建物調査、設計プラン作成 | 2週間~1ヶ月 |
| 入居者告知 | 工事日程の告知、説明会実施 | 2週間~1ヶ月前 |
| 導入工事 | MDF室工事、共用部工事、各戸工事 | 1週間~1ヶ月 |
| 動作確認・調整 | 接続テスト、速度確認 | 1~2週間 |
| サービス開始 | 入居者向け説明会、利用開始 | - |
オーナーが自ら提供主体になると電気通信事業の届出が必要になる
導入形態には大きく2つあります。事業者が入居者へサービスを提供し、オーナーは設備の契約者にとどまる形と、オーナーや管理会社が自ら料金を設定して提供主体になる形です。この2つは電気通信事業法上の扱いが変わります。
総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」は、この場面を事例として明記しています。オフィスやマンションの管理会社・賃貸事業者等が、入居者に対して電気通信役務の料金設定を行うなど自らが提供主体となってインターネットサービスを提供する場合は、電気通信役務の提供が独立した事業として把握できるため、登録又は届出が必要な電気通信事業に当たると整理されています。
一方、マンションの入居者で構成される自治会や管理組合等が入居者のみが利用するインターネットサービスを提供する場合は、自己の需要に応ずるものであって他人の需要に応ずるものではないため、電気通信事業には該当しないと整理されています。
登録と届出のどちらになるかは、電気通信回線設備を設置するかどうかと、その規模で分かれます。判断基準の一つは端末系伝送路設備の設置の区域が一の市町村(特別区を含む)の区域を超えているかで、1棟の建物に閉じた設備であればこれを超えないため、該当する場合でも登録ではなく届出の側になります。
出典:総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」(令和5年1月30日改定)
実務上の分かれ目は、入居者から通信の対価としていくら取るかを誰が決めているかです。家賃・共益費に含めて別建ての料金を取らない一般的な全戸一括型では、提供主体は事業者であり、オーナーは設備の契約者にとどまります。これに対し、入居者へ「インターネット利用料 月額◯◯円」を独立して請求する運用にすると、位置づけが変わり得ます。
したがって、提案を受けた段階で見るべきは次の2点です。契約書上で誰が入居者へのサービス提供主体になっているか。そして募集条件でインターネット利用料を家賃・共益費に含めるのか、別建てで請求するのか。「入居者から実費を回収したい」という発想で別建てにすると、意図せず提供主体の側に立つことがあります。判断に迷う場合は、所管の総合通信局に事前相談ができます。
