玄関ドアが「バタン」と勢いよく閉まるようになったとき、最初に知りたいのは修理にいくらかかるかだと思います。メーカー公式の目安では、ドアクローザーの交換は32,000円〜121,000円、速度の調整だけで済む場合は19,000円〜33,000円です(LIXIL「修理費用の目安」2025年6月時点、出張料・技術料・部品代・消費税込)。本体から油がにじんでいる場合は修理ができず、交換の一択になります。
この記事は、賃貸物件のオーナー様、分譲マンションの区分所有者様、そして自宅の玄関ドアに不具合が出たご家庭に向けて、費用・寿命・依頼先・費用の負担者という4つの判断を一次情報で整理したものです。ドアクローザーは自分で交換できると書かれた情報が多く出回っていますが、メーカーはそれを認めていません。その理由も含めて、公式資料の該当箇所を示しながら説明します。
この記事のポイント
- 交換費用のメーカー公式目安は32,000円〜121,000円、調整のみなら19,000円〜33,000円で、最低料金は14,300円です。
- 油がにじんでいる、垂れている場合は修理ができません。調整では直らず交換のみになります。
- 耐久性の基準は開閉20万回。1日8回なら約68年、1日50回なら約11年と、使用頻度で6倍以上の差が出ます。
- メーカーは「お客さまご自身での交換はできません」と明記しています。所有者の仕事は症状の記録と型番の確認までです。
- 分譲マンションでは玄関扉の専有部分は錠と内部塗装だけで、ドアクローザーは共用部分です。区分所有者の一存では交換できません。
ドアクローザーの交換費用はいくらか|メーカー公式の料金目安
費用の全体像は、症状によって「調整で済む2万円前後」と「交換になる3万円以上」に分かれます。インターネット上には1万5,000円程度という相場情報も見られますが、建材メーカーが公表している正規の修理料金は、その水準では収まりません。見積書を受け取ってから驚くことのないよう、まず公式の数字を確認しておきます。
症状別の費用早見表(LIXIL「修理費用の目安」2025年6月時点)
| 症状・部位 | 想定される作業 | 費用の目安(税込) |
|---|---|---|
| 玄関ドア:開閉速度が早い・遅い | ドアクローザー/ヒンジクローザーの交換 | 32,000円〜121,000円 |
| 玄関ドア:開閉速度が早い・遅い | ドアクローザー/ヒンジクローザーの調整 | 19,000円〜33,000円 |
| 玄関ドア:閉まり切らない・開閉が重い | 建付け調整 | 19,000円〜33,000円 |
| 玄関ドア:開閉時に異音がする | 丁番・ヒンジの交換 | 32,000円〜127,000円 |
| 玄関ドア:開閉時に異音がする | 清掃・調整 | 19,000円〜33,000円 |
| 玄関引戸:開閉速度が早い・遅い | オートクローザーの交換 | 36,000円〜101,000円 |
| 玄関引戸:開閉時に異音がする | オートクローザーの交換 | 36,000円〜94,000円 |
| (参考)玄関ドア:鍵のかかりが悪い | ラッチ・箱錠の交換 | 24,000円〜113,000円 |
いずれも出張料・技術料・部品代・消費税を含んだ金額です(出典:LIXIL「修理費用の目安」)。幅があるのは、ドアの種類、クローザーの型式、部品の在庫状況によって作業内容が変わるためです。同じ「交換」でも、汎用品が使える一般的な開き戸と、防火戸や電気錠付きの玄関では条件がまったく違います。
費用の内訳は「出張料+技術料+部品代」の3つに分かれます
見積書を読むときは、総額ではなく内訳を見てください。LIXILの場合、修理の最低料金は14,300円(税込)で、その内訳は出張料4,400円と修理料9,900円です。部品代はこれとは別に加算されます。また、現場を調査したうえで修理を取りやめた場合には、現場調査費7,920円がかかります(出典:LIXIL 修理費用の概算)。
つまり、どれほど軽微な症状でも「見に来てもらう」だけで1万4,000円台が発生します。逆にいえば、同じ日に複数箇所をまとめて見てもらえば、出張料の重複を避けられます。ドアクローザーだけでなく、ドア本体や錠前の状態も気になっている場合は、賃貸物件のドア交換費用と耐用年数の考え方もあわせて確認し、一度の訪問で判断できる材料を揃えておくと無駄がありません。
計算例:全10戸のアパートで一斉交換したときの総額
10戸すべてのドアクローザーを交換する場合、最安ケースの32,000円で計算すると32,000円×10戸=320,000円になります。上限側の121,000円が並ぶことは通常ありませんが、防火戸仕様や特注品が混じると1戸あたりの単価は上がります。
ここで効いてくるのが出張料です。1戸ずつ10回に分けて依頼すると、単純計算で4,400円×10回=44,000円が訪問回数分だけ積み上がります。空室のタイミングを待って1戸ずつ直したくなりますが、同じ棟で複数戸に症状が出ているなら、一斉交換のほうが合理的です。設備を1つずつ場当たりで直すか、周期でまとめて更新するかという判断は、賃貸設備の交換時期と経費計上の考え方で整理している通り、長期の収支に効いてきます。
調整で直るのか、交換が必要なのか|症状別の判断早見表
結論から言えば、油が漏れていれば交換、漏れていなければ調整で直る可能性があります。この一点を最初に確認するだけで、依頼の仕方も予算の立て方も変わります。
症状 × 原因 × 費用 × 依頼先の判断表
| 症状 | 考えられる原因 | 所有者が確認できること | 調整で直るか | 費用の目安 | 依頼先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 勢いよく閉まる(バタンと鳴る) | 速度調整弁の緩み、内部の油の劣化 | 90度から閉まり切るまでの秒数を計測 | 油漏れがなければ調整で直る場合がある | 調整19,000円〜33,000円/交換32,000円〜121,000円 | 取付業者またはメーカー修理窓口 |
| 閉まり切らない・半開きで止まる | ドアの建付けのずれ、ラッチング機能の低下 | ドア枠との隙間、ラッチのかかり具合 | 建付け調整で直る場合がある | 19,000円〜33,000円 | 取付業者またはメーカー修理窓口 |
| 開いたまま止まらない | ストップ機能の摩耗 | 取扱説明書上の停止角度と実際の挙動 | 機構が摩耗していれば交換 | 32,000円〜121,000円 | 取付業者またはメーカー修理窓口 |
| 「ギー」「バキバキ」と異音がする | 丁番・ヒンジの摩耗、本体内部の損傷 | 音の出ている位置が本体かヒンジか | 清掃・調整で収まる場合がある | 清掃調整19,000円〜33,000円/丁番・ヒンジ交換32,000円〜127,000円 | 取付業者またはメーカー修理窓口 |
| 本体から油がにじむ・垂れる | 内部シールの破損 | 本体下部やドア表面の油汚れ | 直りません(交換のみ) | 32,000円〜121,000円 | 取付業者またはメーカー修理窓口 |
油漏れが出たら修理はできません
ドアクローザーは、内部に封入した油の粘性でドアの動きを減速させています。その油が外に出てしまえば、減速する仕組みそのものが失われます。リョービは公式の技術情報で、「ドアがバタンと閉まる」「ドアクローザから油が漏れている」を、早めに取り替えるべき症状として挙げています(出典:リョービ「ドアクローザの寿命」)。
油漏れの多くは、速度調整弁を回しすぎたことがきっかけです。調整弁は本体から抜けると再装着ができない構造になっており、抜けた時点で交換が確定します。安く済ませようとした結果、3万円以上の交換になるという逆転が起きやすい部分です。
「勢いよく閉まる」ときにまず測るのは秒数です
感覚で「速すぎる」と伝えても、業者側は判断できません。基準になる数字があります。一般財団法人ベターリビングの優良住宅部品認定基準「ドア・クローザ」BLS DC:2023では、作動速度を通常開扉状態(開き角度90度)から閉扉完了まで5秒以上8秒以下(気温20℃・無風時)と定めています(出典:ベターリビング BLS DC:2023)。メーカー側も、90度から閉じるまでの時間は5〜8秒が適正としています(出典:リョービ「速度調整機能」)。
計測は次の手順で行います。
- ドアを90度まで開けます。目安は、ドアが壁と直角になる位置です。
- 手を離すと同時にストップウォッチを押し、ラッチがかかる音がした時点で止めます。
- 同じ計測を3回行い、平均値を出します。
平均が4秒台まで短くなっていれば、要調整の状態です。逆に10秒を超える場合は、閉まり切らずに半開きのまま止まるリスクが高まります。オートロックの共用エントランスや、防火区画を構成する扉では、閉まり切らないことがそのまま安全上の問題になります。計測した秒数と、油漏れの有無をメモして業者に伝えれば、初回訪問での判断精度が上がります。
ドアクローザーの仕組みと種類|どこを見れば型式が分かるか
見積もりを比べるにも、症状を伝えるにも、自分の家に付いているものがどの型式かを知っている必要があります。ここは所有者が自分でできる範囲です。
ドアクローザーは、ドア上部の箱型の本体と、そこから伸びるアームおよびリンク、枠側のブラケットで構成されます。ドアを開けると本体内部のバネが縮み、手を離すとバネが戻る力でドアが閉まります。その戻る力を、粘性の高い油が受け止めて減速させる。これがドアクローザーの基本的な仕組みです。「ドアチェック」という呼び方も同じものを指します。
主な4つの機能
- 速度調節機能:閉じ始めから途中までの第1速度区間と、閉じ際の第2速度区間を、それぞれ別のネジで調整します。
- ストップ機能:一定の角度でドアを開けたまま保持します。停止する角度は製品ごとに異なるため、取扱説明書で確認してください。
- バックチェック機能:強風などでドアが急激に開くのを抑えます。BLS DC:2023では、この機能が働き始める有効開始角度を70度以上85度以下と定めています。
- ラッチング機能:閉まる直前だけ速度を上げ、ラッチを確実にかけます。
スタンダード型とパラレル型
| 種類 | 設置場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| スタンダード型 | ドアが開く側(外開きなら屋外側) | 構造が単純。屋外に露出するため、雨掛かりの位置では劣化が早まりやすい |
| パラレル型 | ドアの室内側 | 近年の主流。アームをドアと平行に折りたたむ形状で、室内側に付くため環境劣化を受けにくい |
本体の側面や上面には、メーカー名と型式が刻印されています。脚立に上がって写真を撮っておけば、それだけで相見積もりの精度が上がります。
ドアクローザーの寿命は何年か|開閉回数と修繕周期の2軸で見る
「10年から20年」といった年数だけの目安は、実務ではほとんど役に立ちません。ドアクローザーの寿命を決めるのは年数ではなく開閉回数だからです。ここでは、耐久性の基準と、建物の修繕計画上の周期という2つの軸を並べます。
耐久回数・修繕周期・保証期間の一次ソース早見表
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 玄関ドア開き戸用の連続開閉回数 | 20万回 | BLS DC:2023 表-3 |
| 強制連続開閉 | 7万回 | BLS DC:2023 表-3 |
| ストップ機能の繰り返し | 1万回 | BLS DC:2023 表-3 |
| バックチェック機能の繰り返し | 7,000回 | BLS DC:2023 表-3 |
| 内装ドア用(Ⅲ-S型)の連続開閉回数 | 10万回 | BLS DC:2023 表-3 |
| 建具関係(住戸玄関ドア等)の点検・調整周期 | 12〜15年 | 国交省 長期修繕計画作成ガイドライン 様式第3-2号 |
| 建具関係の取替周期 | 34〜38年 | 国交省 長期修繕計画作成ガイドライン 様式第3-2号 |
| 鋼製住戸玄関ドアの塗替周期(非雨掛かり部分) | 5〜7年 | 国交省 長期修繕計画作成ガイドライン 様式第3-2号 |
| メーカー商品保証(リョービ) | 引渡し日から2年間(電装部品は1年間) | リョービ 商品保証 |
| BL認定部品の無償修理保証 | 開き戸用3年以上/引き戸用2年以上 | BLS DC:2023 2.2.1 |
| 生産中止後の取替えパーツ供給 | 10年以上 | BLS DC:2023 2.2.3.2 d) |
出典は、ベターリビング 優良住宅部品認定基準「ドア・クローザ」BLS DC:2023、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント/長期修繕計画標準様式」(令和6年6月改定)、リョービ「ドアクローザ等 商品保証について」です。なお、20万回という数字をJIS規格として紹介している情報を見かけますが、これはベターリビングの優良住宅部品認定基準に定められた数値です。
計算例:開閉20万回を1日あたりの回数で割ると、寿命は約11年から約68年まで変わります
玄関ドア用の連続開閉20万回を基準に、使用頻度別に割り戻してみます。
- 単身者向けアパートの住戸玄関(1日8回):200,000÷8÷365=約68年
- ファミリー住戸の玄関(1日20回):200,000÷20÷365=約27年
- 共用エントランスや店舗併用の扉(1日50回):200,000÷50÷365=約11年
同じ製品でも、使われ方によって寿命は6倍以上変わります。ここに、屋外設置による紫外線・温度差の影響、砂ぼこり、風による強制的な開閉が加われば、さらに短くなります。「築何年だからそろそろ」ではなく、「どの扉が1日何回開くか」で優先順位をつけるほうが、修繕予算の配分としては正確です。
長期修繕計画上は点検・調整12〜15年、取替34〜38年
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)の標準様式では、建具関係(住戸玄関ドア、共用部分ドア、自動ドア)について、点検・調整を12〜15年、取替を34〜38年で設定しています。ドアクローザーはドア本体の一部として扱われるため、単体で交換する場合はこの取替周期とは別の判断になります。
マンションの管理組合であれば、長期修繕計画上のドア取替時期が近いかどうかで、クローザーだけを直すか、扉ごとの更新に合わせるかが変わります。取替まであと5年という段階でクローザーだけを新品にするのは、必ずしも合理的とは言えません。
保証は2〜3年、部品供給は生産中止から10年
リョービの商品保証は、建築会社からの引渡し日を起算日として2年間(電装部品は1年間)です。BL認定基準では、無償修理保証を開き戸用3年以上、引き戸用2年以上と定めています。そして重要なのが部品供給で、認定基準は生産中止後も取替えパーツを10年以上供給することを求めています。
裏を返せば、生産中止から10年を超えた製品は、同型での交換ができない可能性があります。この場合は互換品への置き換えになり、ブラケットの位置やビス穴の加工が必要になることもあります。「同じものに替えるだけ」という前提が崩れるため、築年数の古い建物ほど、早めに現物を見てもらう価値があります。
自分でどこまで触ってよいのか|メーカーが示している線引き
結論を先に申し上げます。ドアクローザー本体の交換を所有者や入居者が行うことを、メーカーは認めていません。ここは費用の問題ではなく、安全と保証の問題です。
所有者ができること/専門業者に依頼すること
| 作業 | 所有者・入居者 | 専門業者 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 本体の交換 | 行えません | 実施 | LIXIL Q&A「作業が危険を伴うためお客さまご自身での交換はできません」 |
| 開閉速度の調整 | 製品によっては可能。特殊工具を前提とする製品は不可 | 実施 | BLS DC:2023 1.2.2 e)、3.2 a) 6) |
| ストップ位置の調整 | 製品によっては可能 | 実施 | LIXIL Q&A |
| 分解、部品の取り外し、改造 | 行いません | 実施 | リョービ 商品保証の免責事項 |
| 症状の記録(動画・閉扉秒数・油漏れの有無) | 実施 | ― | ― |
| 本体の型番・刻印の確認 | 実施 | ― | ― |
メーカー公式は「ご自身での交換はできません」と明記しています
LIXILのQ&Aには、「ドアクローザの交換は、作業が危険を伴うためお客さまご自身での交換はできません」と記載されています(出典:LIXIL「玄関ドアのドアクローザを交換したい」)。依頼先として案内されているのは、取付を行った施工店またはメーカーの修理受付窓口です。
危険というのは大げさな表現ではありません。ドアクローザーの取り外し作業では、内部のバネの力が残った状態でアームを外すと、アームが勢いよく動きます。脚立の上で、頭上の重量物を、片手で支えながら行う作業です。BL認定基準が適用範囲としているドア質量は50kg以下ですから、その重さの扉が不安定な状態になる場面もあります。
速度調整も「専門知識を有する者が行う」が認定基準の前提です
調整であればすべて自由にできる、というわけでもありません。BLS DC:2023は、標準的なドア・クローザについて「開閉速度を、特殊工具によらなければ調整できない構造であること」を求めており(1.2.2 e)、さらに取扱説明書に「開閉速度の調整は、特殊工具により、専門知識を有する者が行う必要がある旨」を記載することを義務づけています(3.2 a 6)。
つまり、認定基準に適合した製品は、そもそも一般のドライバーで気軽に回せる構造にはなっていません。10円玉で代用するといった方法が紹介されることがありますが、これは調整弁の溝を傷めたり、回しすぎて弁を抜いてしまったりする典型的な原因です。
自分で触ると保証の免責事由に当たります
リョービの商品保証には、免責事項として「引き渡し後の操作誤り、調整不備または適切な維持管理を行わなかったことによる不具合」「お客様自身の取付、修理、改造(必要部品の取り外しを含む)に起因する不具合」が明記されています。保証期間内であっても、自分で触った跡があれば無償修理の対象から外れます。
数千円を惜しんだ結果、3万円以上の交換費用と保証の喪失が同時に発生する。これは私たちが管理の現場で実際に何度も見てきた失敗です。デメリットも含めて正直に申し上げるなら、ドアクローザーは「触らないこと」が最も安く済みます。
それでも所有者ができる3つのこと
- 症状の記録:閉まる様子を10秒ほど動画で撮ります。音、速度、止まる位置が一度に伝わります。
- 閉扉時間の計測:90度から閉まり切るまでの秒数を3回測り、平均を出します。基準は5〜8秒です。
- 型番の確認:本体の刻印を撮影します。メーカー名と型式が分かれば、部品の在庫確認が電話1本で進みます。
費用は誰が負担するのか|賃貸・分譲・持ち家で判断が変わります
ドアクローザーの相談で最ももつれるのが、この論点です。同じ症状でも、建物の種別によって「決める人」と「払う人」が変わります。
建物種別ごとの判断表
| 建物種別 | 決める人 | 費用を負担する人 | 根拠 | 勝手に交換したときのリスク |
|---|---|---|---|---|
| 賃貸物件(入居者が居住中) | 貸主または管理会社 | 原則は貸主。入居者の故意・過失による破損は入居者 | 民法606条1項、原状回復をめぐるトラブルとガイドライン | 費用が自己負担になる。退去時に原状回復を求められる。指定外の部材で防火性能を損なう可能性がある |
| 分譲マンション | 管理組合 | 管理組合(共用部分の管理費・修繕積立金) | マンション標準管理規約 第7条 | 共用部分の無断変更として原状回復を求められる。管理組合の保険・保証の対象外になる |
| 持ち家(戸建) | 所有者 | 所有者 | ― | メーカー保証の免責事由に当たる。防火設備としての性能に影響する場合がある |
賃貸物件:民法606条1項と原状回復ガイドライン
民法第606条第1項は、賃貸人が賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています(賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除きます)。ドアクローザーの経年劣化はこの修繕義務の範囲に入るのが原則です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も、経年変化・通常損耗の復旧費用は賃貸人負担という整理を示しています。10年以上使われたドアクローザーが摩耗して閉まらなくなったとき、その費用を退去時に入居者へ請求するのは、この考え方に反します。判断の線引きは経年劣化と原状回復費用の負担区分で詳しく整理していますので、退去精算の直前に慌てないためにも、あらかじめ目を通しておくことをおすすめします。
逆に、入居者が扉を強く引いてアームを曲げた、ストップ位置を無理に動かした、といった事情があれば負担の判断は変わります。オーナー側の修繕義務の範囲については、賃貸物件の不具合と貸主の修繕責任もあわせてご確認ください。
入居者が自分で直せる場合と、その前に連絡すべき理由
民法第607条の2は、賃借人が修繕の必要を通知したのに賃貸人が相当の期間内に修繕をしないとき、または急迫の事情があるときには、賃借人が自ら修繕できると定めています。ただし、これは「連絡したのに動いてもらえなかった」ことが前提の規定です。
先に管理会社へ連絡すべき理由は3つあります。第一に、メーカーが自己交換を認めていないため、費用の償還を巡って争いになりやすいこと。第二に、玄関扉が防火設備である場合、指定外の部品に替えると建物全体の法適合性に影響すること。第三に、建物全体で同型のクローザーを使っていることが多く、まとめて手配したほうが結果的に早く安く直ることです。
分譲マンション:玄関扉の専有部分は「錠及び内部塗装部分」だけです
ここは誤解が特に多い部分です。令和7年改正のマンション標準管理規約(単棟型)第7条第2項第2号は、玄関扉について「錠及び内部塗装部分」のみを専有部分と定めています(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」)。ドアクローザーはこれに含まれないため、共用部分の扱いになります。
したがって、区分所有者が自分の判断で業者を呼んで交換することは、原則としてできません。まず管理組合または管理会社に連絡し、共用部分の修繕として処理してもらう流れになります。専有部分だと思い込んで自費で交換した結果、管理組合から原状回復を求められるという事態は避けたいところです。お住まいのマンションの管理規約が標準管理規約と同じ定めになっているかは、規約の「専有部分の範囲」の条文で確認できます。
防火扉のドアクローザーは、2025年7月から検査の区分が変わりました
賃貸マンションやビルのオーナー様、管理会社の担当者様に関わる制度改正です。常時閉鎖式の防火扉に関する検査項目の一部が、特定建築物定期調査から防火設備定期検査へ移りました。
移行した検査項目と施行日
令和6年国土交通省告示第974号(令和6年6月28日公布)および令和7年国土交通省告示第53号(令和7年1月29日公布)により、いずれも令和7年7月1日から、各階の主要な常時閉鎖式防火扉について、運動エネルギー等、本体と枠の劣化及び損傷の状況、作動の状況、物品の放置の状況、固定の状況の確認が、防火設備定期検査の対象となりました(出典:国土交通省住宅局建築指導課「定期報告告示の見直しについて」関連参考資料、告示番号は東京都都市整備局「定期調査・検査制度改正の内容」による)。
ここでいう運動エネルギーは、扉が閉まるときの勢いのことです。つまり、ドアクローザーの閉扉速度が適切かどうかが、法定検査の項目として見られるようになったということです。「バタンと閉まる」を放置することは、安全上の問題であると同時に、報告事項の指摘につながります。
対象は「各階の主要なもの」、周期は概ね1年から3年に1回
検査の対象は建物内のすべての防火扉ではなく、各階の主要なものに限定されています。具体的には、避難経路にあるもの、吹抜けに面するもの、日常の通行が多く開閉作動の頻度が高いものなどが該当します。報告の周期は従前どおり概ね1年から3年に1回です。共同住宅における防火設備の点検実務は、共同住宅の防火扉と点検義務の基礎で全体像を整理しています。
自治体によって運用が異なります
この改正には自治体ごとの上乗せ・読み替えがあります。東京都は独自の措置として、常時閉鎖式防火扉については従来どおり特定建築物定期調査の対象とし、防火設備定期検査では報告を求めないこととしています。あわせて、特定建築物定期調査に「扉の取付けの状況」を目視または触診で確認する項目が追加されています(出典:東京都都市整備局「定期調査・検査制度改正の内容」)。所在地の特定行政庁の案内を確認したうえで、調査資格者と進め方を決めてください。
交換費用は修繕費か、資本的支出か|賃貸オーナーの税務判断
ドアクローザーの交換は、元の機能に戻すための支出ですから、通常は修繕費として処理できます。ただし、複数戸をまとめて交換した場合や、性能の高い製品に入れ替えた場合には、資本的支出との区分を確認しておく必要があります。
国税庁の4つの形式基準
国税庁のタックスアンサーNo.5402(令和7年4月1日現在法令等)は、修繕費と資本的支出の区分について、次の形式基準を示しています(出典:国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定」)。
- 一の修理・改良等の金額が20万円未満であれば修繕費として処理できます。
- おおむね3年以内の周期で行われることが明らかであれば修繕費として処理できます。
- 資本的支出か修繕費かが明らかでない金額のうち、60万円未満であれば修繕費として処理できます。
- 同じく明らかでない金額のうち、その固定資産の前事業年度終了時の取得価額のおおむね10%相当額以下であれば修繕費として処理できます。
計算例:1戸32,000円を10戸まとめて交換した場合
判定の順序をたどってみます。
- 1戸だけ交換した場合:32,000円で20万円未満のため、修繕費として処理できます。
- 10戸を一度にまとめて交換した場合:32,000円×10戸=320,000円となり、20万円の基準は超えます。
- 次に、この支出が資本的支出か修繕費か明らかでない金額に当たるかを検討します。当たる場合、320,000円は60万円未満ですので、修繕費として処理できます。
- 60万円以上になる規模であれば、建物の前事業年度終了時の取得価額のおおむね10%相当額以下かどうかを確認します。
なお、同じ性能の製品に戻す交換であれば、そもそも原状回復として修繕費に当たるという整理が先に立ちます。形式基準は、判断に迷う場合の受け皿という位置づけです。実際の申告にあたっては、工事内容の記載された見積書と請求書を残したうえで、顧問税理士にご確認ください。設備更新全体の経費計上の考え方は賃貸設備の交換時期と経費計上の考え方で扱っています。
業者に依頼するときの見積チェックと地域差の見方
相見積もりを取ると、同じ工事でも金額が倍近く違うことがあります。総額だけを比べても判断できません。内訳を分けてもらい、作業費の水準が妥当かを確認します。
見積書で分けて書いてもらう4項目
- 出張料:訪問1回あたりの費用です。複数戸をまとめる場合、何回分が計上されているかを確認します。
- 技術料(作業費):職人の人数と作業時間で決まります。1台あたり何時間の想定かを聞きます。
- 部品代:クローザー本体の型式と単価です。同型か互換品かで金額が変わります。
- 処分費:取り外した旧品の廃棄費用です。金額が小さくても項目として残してもらいます。
計算例:労務単価から作業費の妥当性を検算する
作業費が妥当かどうかは、公表されている労務単価を物差しにできます。令和8年3月から適用される公共工事設計労務単価は、全国全職種の加重平均で25,834円となり、平成25年度から14年連続の引き上げで初めて25,000円を超えました(単純平均での対前年度比は+4.5%、有効標本数85,670人。出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。
地域別・職種別では、広島県はサッシ工28,400円、内装工27,700円、ガラス工27,300円、屋根ふき工28,600円(いずれも所定労働時間内8時間あたり。出典:同 都道府県別・職種別単価表)。参考までに、岡山県のサッシ工は28,800円、山口県は28,700円で、中国地方の水準に大きな差はありません。
この単価を使うと、職人1人が半日で1台を交換する場合の作業費は、28,400円÷2=14,200円がひとつの目安になります。ここに部品代と出張料が加わるため、総額が3万円台になるのは自然な計算です。逆に、1台の交換で作業費だけが5万円を超えている見積もりであれば、作業時間の想定か特殊な条件を確認する余地があります。
ただし、この労務単価には法定福利費の事業主負担分などの諸経費が含まれていません。実際の見積金額は単価の単純な掛け算より高くなるのが通常です。あくまで桁の妥当性を確かめる物差しとしてお使いください。なお、建物管理側の点検・調整コストの水準としては、令和8年4月から適用される建築保全業務労務単価が全国・全職種平均19,540円(対前年度比+8.5%)という数字も参考になります(出典:国土交通省「令和8年4月から適用する建築保全業務労務単価について」)。
相見積もりの前に揃えておく情報
次の4点を伝えられれば、現地を見る前でも概算が出せます。特にドアの寸法と質量は、汎用品が使えるかどうかを分ける条件です。BLS DC:2023の表-1は、型式ごとの適用範囲を次のように定めています。
| 型式 | 適用するドアの寸法 | 適用するドアの質量 |
|---|---|---|
| Ⅰ型・Ⅰ-S型(玄関ドア開き戸用) | 幅900mm以下×高さ2000mm以下 | 50kg以下 |
| Ⅱ型(玄関ドア開き戸用) | 幅850mm以下 | 50kg以下 |
| Ⅱ-D型(高齢者・障害者等配慮) | 幅850mm以下 | 55kg以下 |
| Ⅲ-S型(内装ドア用) | 幅800mm以下 | 30kg以下 |
| 引き戸用(鋼製ドア) | ― | 80kg以下 |
これに加えて、本体の刻印型番、パラレル型かスタンダード型か、防火戸かどうかの3点を伝えます。防火戸の場合、BLS DC:2023は油圧シリンダーを有するものについて1時間の加熱試験中に爆裂しないことを求めており、使える製品が限られます。この確認を飛ばすと、当日に「この扉には付けられません」となって出直しになります。
交換当日までの流れと、事前に準備しておくこと
私たちが管理物件で手配する場合、初回の連絡から交換完了までは、部品の在庫があれば1週間から2週間程度で収まることが多くあります。1台あたりの作業中は扉を開放したままの状態が続きます。
型番の確認方法と、同型が廃番のときの選択肢
型番は本体の側面、上面、またはアームの付け根付近に刻印されています。塗装が重なって読み取れない場合は、本体の外形寸法とビス穴の位置を写真に撮っておくと代替になります。
同型が廃番の場合の選択肢は3つです。第一に、メーカーが指定する後継品への置き換え。ビス穴の位置が引き継がれていることが多く、最も無理がありません。第二に、他社の互換品。ブラケットの加工が必要になる場合があります。第三に、扉ごとの交換。長期修繕計画上の取替時期が近いなら、この選択が結果的に安く収まることもあります。
入居者・管理組合への事前告知と、当日の養生
作業中は玄関ドアを開けたままにするため、住戸の在宅状況と防犯上の配慮が必要です。次の準備をしておくと当日が滞りません。
- 作業日時と所要時間を、遅くとも1週間前までに書面で告知します。
- 在宅が必要かどうかを明記します。共用廊下側から作業できる場合でも、扉の開閉を伴うため在宅が望ましい住戸があります。
- 玄関周りの荷物、傘立て、三和土の靴を移動しておいてもらいます。
- 脚立を置く床面と、扉の吊り元側の壁面に養生を入れます。
- 分譲マンションでは、管理組合の理事会承認と、掲示板での事前告知の手順を確認します。
よくある質問(FAQ)
Q. ドアクローザーが勢いよく閉まります。すぐに交換が必要ですか
まず油漏れの有無を確認してください。油がにじんでいなければ、調整で直る可能性があり、費用は19,000円〜33,000円が目安です。油が出ている場合は修理ができないため、32,000円〜121,000円の交換になります。判断材料として、90度から閉まり切るまでの秒数を3回計測しておくと話が早く進みます。基準は5秒から8秒です。
Q. 交換の流れはどうなりますか。作業時間はどれくらいですか
私たちの管理現場では、部品の在庫があれば連絡から完了まで1週間から2週間程度で収まることが多くあります。流れは、症状の連絡と型番の伝達、現地調査と見積、部品手配、交換作業、動作確認の順になります。現地調査後に修理を取りやめると、LIXILの場合は現場調査費7,920円がかかります。
Q. 交換のときに注意すべき点はありますか
3点あります。第一に、防火戸かどうかの確認です。防火戸には使える製品が限られ、指定外の部品を付けると建物の法適合性に影響します。第二に、ドアの寸法と質量です。幅900mmを超える扉や50kgを超える扉には、一般的なⅠ型が適合しません。第三に、分譲マンションでの手続きです。ドアクローザーは共用部分にあたるため、管理組合を通す必要があります。
Q. 古いドアクローザーでも調整だけで直りますか
油漏れがなく、ストップ機能とバックチェック機能が生きていれば、調整で改善することがあります。ただし、玄関ドア用の耐久基準は開閉20万回で、共用エントランスのように1日50回開く扉なら約11年で到達します。生産中止から10年を超えた製品は交換用パーツの供給が終わっている場合があり、調整で延命しても次の不具合時に同型交換ができません。築年数が古い建物では、調整と交換の費用差を確認したうえで判断されることをおすすめします。
Q. 賃貸物件で入居者が自分で交換してもよいですか
おすすめできません。メーカーが自己交換を認めておらず、自分で触ったことに起因する不具合は保証の免責事由に当たります。民法第607条の2により、修繕の必要を通知しても貸主が相当の期間内に対応しない場合などには賃借人が自ら修繕できますが、まずは管理会社への連絡が先です。経年劣化による不具合であれば、民法第606条第1項の修繕義務により貸主負担となるのが原則です。
引用・参考資料
- LIXIL「修理費用の目安」(2025年6月時点)
- LIXIL Q&A「玄関ドアのドアクローザを交換したい」
- LIXIL Q&A「建材商品の修理にかかる費用の概算」
- 一般財団法人ベターリビング 優良住宅部品認定基準「ドア・クローザ」BLS DC:2023
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント/長期修繕計画標準様式」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)・同コメント」(令和7年改正)
- 国土交通省住宅局建築指導課「定期報告告示の見直しについて」関連参考資料(令和7年1月29日)
- 東京都都市整備局「定期調査・検査制度改正の内容」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日)
- 同 別紙 都道府県別・職種別 公共工事設計労務単価
- 国土交通省「令和8年4月から適用する建築保全業務労務単価について」(令和8年2月17日)
- 国税庁 タックスアンサー No.5402「修繕費とならないものの判定」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- e-Gov法令検索「民法」(第606条、第607条の2)
- リョービ「ドアクローザのタイプ」(基本構成)
- リョービ「ドアクローザの寿命」
- リョービ「速度調整機能」
- リョービ「速度の調整方法」
- リョービ「ドアクローザ/コンシールドドアクローザ/引戸クローザ/点検口用機器 商品保証について」
